少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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わたしたちののんのんな夏休み 4

生まれて初めて海に行き、海水浴と言うモノを体験したチトは何と小鞠と共に迷子に間違えられた。

チトにとって迷子と言うモノがどんなモノなのかよく分からなかったが、小鞠の様子を見る限り恥ずかしいモノだと分かった。

もっとも前の世界でもユーリは「私達は常に迷っているようなもの」と言っていたが、あの世界では、二人っきりだったので、特に気にした事もなかったが、この大勢の人が居る世界では迷子は恥ずかしいモノなのだとチトは体験をして学んだ。

その帰り、夏海の失敗によって唐辛子うどんとなったうどんを小鞠が食べて一時、立ち食いそば屋は騒然となった。

夏海は責任を感じ、自分の手で唐辛子うどんを食べたが、夏海自身もギブアップ。

その唐辛子うどんはユーリが食べた。

唐辛子で真っ赤になったうどんをユーリは平然とした様子で食べていた。

チトも一口食べたが、とても食べられるようなものではなかった。

うどんを食べた直後に帰りの電車が来て、皆は慌てて飛び乗ったのだが、れんげの姉でその日の海水浴の引率者だった一穂が駅に取り残されると言うアクシデントがあった。

 

そして今日、チト達は山へと来ていた。

山に行く前、お菓子を買う事になり、小鞠達が贔屓と言うか、この村で唯一の店である駄菓子屋へとやって来た。

 

「ここが、ウチらがよく行く駄菓子屋」

 

東京の下町に有るような佇まいの木造建築の駄菓子屋。

その姿はこの田舎の風景にも十分にマッチしている。

ガラガラとガラス戸をあけると、

 

「いらっしゃーい」

 

店の中のレジ台に座っている金髪の若い女の人が声をあげる。

 

(そう言えばれんげが最初にユーリを見た時、『駄菓子屋』って言っていたけど、この人の事だったのか‥‥でも、ユーリとこの人の共通点って、髪の毛の色だけだ‥‥)

 

チトは駄菓子屋の店主を見ながらそう思った。

 

「ああ、お前らか‥‥ん?その二人は見ない顔だな。誰だ?」

 

駄菓子屋の店主、加賀山楓がチトとユーリに視線を向ける。

 

「お母さんの知り合いの人で東京から来た‥‥」

 

「チトです」

 

「ユーリです」

 

小鞠がチトとユーリを紹介し、二人は楓にぺコツと一礼し、自己紹介をする。

 

「ほぉ~東京から~‥‥私はこの駄菓子屋の店主の加賀山楓、よろしく。それで今日は、何を買いに来た?」

 

「これから山の秘密基地に行くから、腹ごしらえのおやつを買いに来たんだよ」

 

夏海が来店目的を楓に伝え、お菓子を買う。

 

「駄菓子屋ってテレビとかで見たけど、こうして実際に来てみると、不思議とワクワクするねぇ、ちーちゃん」

 

駄菓子を選んでいる中、ユーリが駄菓子屋の店内を見渡しながらポツリと呟く。

 

「そうだな‥ねこやの近くにも前の世界にもこういったお店はないからな~」

 

チトもユーリの言う通りだなと納得した様子で店内の様子を見ていた。

 

それから駄菓子を購入し、夏海の言う秘密基地とやらへと向かう一同。

そこへ行くには徒歩では遠い様でバスで向かった。

バスの外には自然豊かな風景が広がっている。

周りは皆、木々の緑一色。

前の世界のコンクリートの廃墟と雪の灰色と白の寂しい色合いとは大違いである。

そして着いた秘密基地はブルーシート、ロープ、木箱、トタンなどで作られたモノで、その造りは‥‥

 

((川原のホームレスの家みたい‥‥))

 

例えは悪いが、東京に住んでいる二人にはそう見えた。

しかし、中は意外にも広い造りとなっていた。

駄菓子屋で買ってきたお菓子を置いて、山の中へと向かう。

れんげが虫取りをしたいと言うので、辺りでやかましく自己主張をしているセミを捕まえることにした。

 

「網が無いのに捕まえられるのん?」

 

秘密基地には虫取り網が無いのだが、夏海は、ちょっと変わった方法で捕まえると言う。

そして木の根元にある小さな穴を見つけると、

水筒の水をその穴の中に入れる。

 

「せ、セミ‥‥」

 

穴の中に水を流し込み水攻めをされたセミに同情するれんげ。

 

「溺れちゃうんじゃ‥‥」

 

「大丈夫だよ」

 

「でも、夏海。セミって木の上で鳴いているあの虫じゃないの?」

 

ユーリは木の上で鳴いているセミを指さしながら夏海に質問する。

 

「まぁ、あれもセミだけど、今から出てくるのは‥‥」

 

夏海がもったいぶった様に言うと、穴の中から一匹の虫が出てきた。

 

「なんか、出てきたの!?‥‥どなたですのん?」

 

れんげは穴から出てきた虫に対して一体何の虫なのかを虫自身に訊ねる。

 

「それ、セミの幼虫だよ」

 

「セミって成長するの?」

 

「するよ、えっと‥‥」

 

夏海は辺りを見回し、何かを取って来る。

それはセミの抜け殻だった。

 

「ほら‥‥コイツが脱皮してセミの成虫になるんだよ」

 

夏海がセミについてチトとユーリに教える。

 

「‥‥ちーちゃんも脱皮したら大きくなるかもね」

 

「ムッ‥‥」

 

ペチペチペチペチペチペチペチペチ‥‥

 

「ドゥゥゥゥゥ~‥‥」

 

チトは前の世界にてイシイから教えてもらった食糧精製プラントにて、ユーリのせいで粉々になりそうになった時の様にユーリの頬を高速でペチペチと叩く。

海水浴場で迷子になったのも自分の身長が小さかった事が原因だったので、ユーリに小さいと言われてムカッと来たのだ。

そんなチトとユーリの尻目にれんげは、

 

「コイツの名前は『そのひぐらし』にするん」

 

「セミにその名前は止めてあげて‥‥」

 

セミの幼虫に名前を付けるのだが、れんげがつけた名前はセミにつけた名前にしてはあまりにも不憫な名前の為、夏海は止めてやれと言う。

 

虫取りをした一同は、今度はこの近くの川へと向かう。

なんでも納涼にもってこいの場所だと言うのだ。

確かに山の中はセミの声、時々吹く風は木々の葉を揺らし、森林浴効果があるが、それでも暑い。

そしてやって来た川にて‥‥

 

「おーし、行くぞ!!」

 

夏海は橋の上から川にダイブした。

 

「ぷはっ!!気持ちいい~」

 

「じゃあ、次は私がいきますね」

 

夏海に続いて蛍も橋の上から川へとダイブした。

 

「次、ユーリとチト、どっちから行く?」

 

川に浮かべてある浮き輪に捕まりながら夏海が次にどちらが飛び込むかを訊ねる。

 

「うぅ~‥‥ちょ、ちょっと高くないか?」

 

「大丈夫だよ。浮き輪もあるし、ちゃんと飛び込める深さになっているから!!姉ちゃんやほたるんでも出来るんだし」

 

「うぅ‥‥」

 

「行こうよ、ちーちゃん」

 

「で、でも‥‥」

 

「‥‥」

 

チトは元々高所恐怖症である。

潜水艦でユーリがヌコの仲間に食べられた時、ユーリを助けなければならないと思う一心で、潜水艦の長い梯子を登り、潜水艦の甲板に立った。

でも、あの時と今は状況が違う。

ユーリは隣にちゃんといる。

だからこそ、本来の高所恐怖症が戻って来たチト。

此処に来る前も飛行機で震えていた。

横で震えているチトの手を取り、ユーリは‥‥

 

「えっ?」

 

「いくよ、ちーちゃん」

 

「ちょっ‥‥」

 

「ぬーん‥‥」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

チト共に川へとダイブした。

 

ドップーン!!

 

「アハハハハ‥‥あぁ~気持ちいい~」

 

「ぬー‥‥」

 

海で夏海とユーリから泳ぎを教わっていたので、溺れる事は無かったが、それでも納得がいかない様子のチトだった。

来ていた服のまま川に飛び込んだが、帰りのバスを待っている間に服は乾いた。

バスに乗っている中、

 

「あっ、そう言えば今日、家のパパとママがデパートに買い物に行ってお土産に花火を買ってきてもらう事になっているんです。今日の夜、皆でやりませんか?」

 

蛍が今日の夜、一緒に花火をやらないかと誘ってきたので、皆は今日の夜、蛍の家に花火をしに出掛ける事になった。

 

夕食を食べ終えて皆で蛍の家に行く事になり、途中でれんげと一穂と合流し、蛍の家に行くと‥‥

 

「ぐす‥‥」

 

皆を出迎えた蛍は何故か涙目だった。

 

「ど、どうしたの?ほたるん」

 

出迎えた蛍がいきなり涙目だった事に驚く一同。

 

「そ、それが‥‥買い物に行ったデパートに花火が売り切れていて‥‥ほとんど買えなくて‥‥」

 

『えっ?』

 

「すみませーん!!皆さん楽しみにしていたのに―!!」

 

お目当ての花火を買えなかった事でその罪悪感から思わず号泣してしまう蛍。

 

「えっ!?全然大丈夫だよ。ほたるん」

 

夏海がすかさず蛍にフォローを入れる。

 

「そ、それにほとんどってことは、何かは買えたんじゃないの?」

 

「この筒状のモノは買えたんですけど‥‥」

 

「おっ?なかなか、豪華なヤツじゃん。それやろうよ」

 

「は、はい‥‥」

 

「じゃあ、火をつけるよ」

 

夏海がチャッカマンで花火に火をつける。

当初、夏海はこの筒状の花火が打ち上げ花火かと思ったのだが‥‥

 

ヒュー‥‥ポン

 

火花は現れず、ポンと音がしたと思ったら、何かが落ちてきた。

それはパラシュートをつけたピンク色の熊の様な人形だった。

 

「‥‥えーと‥‥蛍、他の花火はないの?」

 

小鞠は蛍に他の花火は無いのかと訊ねる。

 

「その一本だけで‥‥」

 

蛍はこのパラシュート花火以外の花火は無いと言う。

 

『‥‥』

 

気まずい空気が流れ、鈴虫の鳴き声だけがこの空間に虚しく響いている。

 

「ユー、余計な事は言うなよ」

 

チトはユーリが何かを言う前に釘をさす。

ユーリは何でもかんでも思った事を口にする事がある。

この白けた空気の中、蛍はかなりの罪悪感を感じている筈だ。

そんな中、ユーリの率直な意見は蛍の心に大きな傷をつけかねない。

 

「わ、分かっているよ‥‥」

 

ユーリは心外だと言わんばかりに言うが、

 

「本当に分かっているのか?」

 

チトにはいまいち信じられなかった。

そんな二人を尻目に、

 

「あっ、いや、でも、思ったよりも楽しかったよ‥‥」

 

小鞠が蛍にフォローを入れ、『次、夏海、お前を何か蛍にフォローを入れろ』とアイコンタクトを取る。

 

「うん、すっごく楽しかった。そ‥‥そうそう、パラシュート花火なんて久しぶりだから超面白かったよ」

 

「わ、私達も初めて見たから、なかなか貴重な体験だったよ‥‥な、なぁ、ユー」

 

「う、うん。花火なんてテレビの中しか見たことがなかったから‥‥そ、その‥‥とっても面白かったよ」

 

夏海に続いてチトとユーリも蛍にフォローを入れる。

 

「う、ウチも!ウチも楽しかったのん!!花火物凄く楽しみにしていたのん!!聞いた時はワクワクだったのん!!だから、今日皆で花火ができて‥‥楽‥‥し‥‥かっ‥‥た‥‥ほたるんは何も悪くないのん‥‥」

 

れんげも何とか蛍をフォローしようとするが、結局最後は本音が出てしまった。

年下のれんげにまでもフォローと同情をされてしまった蛍は等々我慢できずに、

 

「ごめんなさーいっ!!皆さん、ごめんなさーい!!」

 

大号泣してしまう。

泣いている蛍にもはやどんなフォローも無駄であり、皆はどうしたものかと思っていると、

 

「えっと‥‥なんか思ったより早く終わったみたいだね‥‥」

 

一穂が気まずそうに声をかけ、腕時計を見ると、

 

「んーまだ時間あるし、散歩でもするかぁ」

 

そう言って一穂は突然歩き出す。

 

「ん?かず姉、どこいくの?」

 

「ちょっとそこらへん」

 

「まっ、待ってよ、かず姉」

 

このまま此処に居てもすることがないので、一同は一穂についていった。

 

「かず姉、どこ行くのさ?そっちは森だよ」

 

「どこ行くんだろう?」

 

「さあ?」

 

一穂は行先をつけずに森の中を歩いて行くと、

 

「おっ、あった、あった、ここー」

 

やがて一穂は森の中にある小さな川辺で足を止める。

川辺にはいくつもの小さな発光体が飛んでいた。

 

「人魂だ!!ご先祖様だ!!」

 

それを見て小鞠は思わず身体を震わせて声をあげる。

 

「ちーちゃん、アレなに?」

 

「な、なんだろう?」

 

チトもユーリも目の前で光り、飛んでいる発光体には見当もつかなかった。

 

「蛍だ!!」

 

夏海は小さな発光体を見て声をあげる。

 

「えっ?蛍?夏海、蛍に何か用なの?」

 

ユーリが蛍の名前を声に出した夏海に訊ねる。

 

「違うよ、あの光っている虫の事だよ」

 

「虫っ!?あの光っているの、虫なの!?」

 

「虫が光るなんて‥‥」

 

夏海から発光体の正体が蛍と言う虫だと聞いて驚くチトとユーリ。

 

「かず姉、なんでこんな所を知っているの?」

 

「あれ?知っていると思っていたけど‥‥あっ、でも、夜こんな所には来ないか」

 

皆は蛍をもっと近くで見ようと川辺に近づく。

 

「おーい、これとってきた」

 

夏海が歪曲している草木を持って来た。

 

「この葉っぱを川の水に浸して持っていたら、蛍が水を飲みに来るかもよ」

 

夏海から葉っぱを受けとり、川に浸し、葉っぱに水が僅かに残した状態で手に持っていると蛍が葉っぱに寄ってきた。

 

「本当に虫だ‥‥」

 

「キレイ‥‥」

 

月や星の夜景は同じでも生物が悉く絶滅した前の世界では決して見られない幻想的な光景‥‥

 

「ちーちゃん」

 

「なんだ?」

 

「‥‥ここに来てよかったね」

 

「‥‥ああ、そうだな」

 

葉っぱに止まった蛍を見ながら呟くチト。

 

「花火できなかったけど、花火できたんなー」

 

「うん、蛍の花火だね」

 

花火の一件で意気消沈していた蛍も川辺に飛んでいる蛍を見て元気を取り戻した様子だった。

初めての海、初めての蛍、此処の来て初めての体験ばかりのチトとユーリであったが、二人は翌日、ある再会をする事となった。

 

 

翌日の早朝。

この日の天気も雲一つない晴天に恵まれ、その日も朝からラジオ体操があった。

眠そうな目のユーリをチトが手を引いて、夏海を小鞠が連れて、ラジオ体操の会場である神社へと向かい、そこでラジオ体操をする。

相変わらずラジオ体操の監督をする筈だった一穂は寝坊の為、来ていない。

そして、体操が終わった時、

 

「今日、ねぇねぇがなっつん達に家に来て欲しいって言ってたん」

 

れんげが夏海達に今日、宮内家に来て欲しいと言う。

 

「かず姉が?」

 

「一体何の用でしょう?」

 

「また、変な事じゃなければいいけど‥‥」

 

「前に何かあったの?」

 

以前、遠足と言う名の田植えを手伝わされた事があるので、一穂の招集に対して何やら嫌な予感がする夏海達だった。

チトとユーリは当然、そんな事を知らないので、夏海達が何故、不安そうな顔しているのか首を傾げている。

 

「それが‥‥」

 

小鞠がチトとユーリに以前、田植えを手伝わされた話をする。

 

「ぬー‥田植え‥‥」

 

「何か大変そうだね‥‥逃げる?」

 

「そうしたいけど、ウチらは逃げたら学校の成績に影響するからな‥‥」

 

一穂が学校の先生と言う事でその学校の生徒である夏海達には今回の招集に応じなければ成績に影響が出るかもしれないので、夏海達には拒否権がなかった。

 

「大変そうだし、私達も手伝おうか?」

 

「えぇー!?ちーちゃんマジで!?」

 

「お世話になっている夏海達が困っているんだから、協力するのは当たり前だろう」

 

「ぬー‥‥」

 

田植えの話を聞いてユーリも夏海達同様、不安そうな顔をした。

朝食を食べた後、チト、ユーリ、夏海、小鞠、卓はれんげと一穂の家、宮内家へと向かった。

宮内家では蛍も来て、一穂が今日、皆を集めた目的を話す。

それによると、今日、宮内家の敷地内にある蔵の整理をしたいので、人手の確保として皆を呼んだらしい。

田植えとは異なるが、蔵の整理も大変そうだ。

やれやれ、と思いつつ夏海達は手に軍手をつけて宮内家の蔵の整理をする事になった。

ただ、自分の生徒らが蔵の整理をしている中、一穂は縁側で呑気に茶を啜っていた。

夏海達は蔵から出された荷物を一穂に捨てるのか取っておくのかを訊ねる。

それを繰り返して蔵の中の荷物を出していくと、宮内家の庭には蔵の中に放り込まれていた色んなものが溢れかえる。

夏海、小鞠、れんげ、蛍、チト、ユーリの六人で蔵の整理をしたが、まだ中学生に小学生、高校生ぐらいの年代の少女達ばかりなので、作業はまだ終わらない。

それでも最初はブツブツ文句を言っていた夏海達はいつの間にか宝探しをしている気分となり、なんやかんやで楽しくやっていた。

昼近くになり、ようやく蔵の中の物をほぼ出し切った所で、蔵の奥へと入って行ったれんげは慌てた様子で戻って来た。

 

「おっ?れんちょう、そんな慌てた様子でどうしたの?」

 

「なっつん、戦車!!蔵の奥に戦車があったん!!」

 

「戦車?戦車の玩具でもあったの?」

 

「ちがうん!!本物の戦車なん!!」

 

「いやいや、いくらなんでも戦車はこの蔵には入らないだろう」

 

「本当なん!!」

 

「どうしたの?何騒いでいるの?」

 

「何かあったの?」

 

れんげが声をあげていたので、小鞠達が集まって来た。

 

「れんちょんが蔵の中に戦車があったって言っているんだよ」

 

「戦車!?」

 

「いくらなんでも戦車は‥‥」

 

「本当なん!!」

 

そう言ってれんげは蔵の中へと入って行く。

れんげが嘘をつくとは思えないので、夏海達もれんげの後を追って蔵の奥に入って行く。

 

「これなん」

 

れんげは蔵の奥で見つけた戦車を指さす。

 

「なんだ?こりゃ?」

 

「戦車の様にも見えますけど‥‥」

 

「でも、運転席はバイクみたいじゃん」

 

夏海、小鞠、蛍はれんげの言う戦車と言うモノに対して一概に戦車とは言い切れない様子。

 

「「‥‥」」

 

一方、チトとユーリは唖然とした様子で眼前の戦車らしきモノを見ている。

 

「ちーちゃん‥アレって‥‥」

 

「‥‥」

 

ユーリが声をかけてもチトはジッと視線をそらさずに見ている。

 

「ちーちゃん?」

 

ユーリが再び声をかけてもチトはただ黙っているだけ‥‥

そして、ふらふらと眼前の戦車と呼ばれるモノに近づく。

 

「チト?」

 

「これは‥‥」

 

「えっ?チト、コレが何か知っているの?」

 

小鞠の問いにチトは一度頷く。

 

「これは‥‥これは‥‥」

 

チトは恐る恐るソレに近づき、小さく震える手でソレに触る。

 

「間違いない‥‥これは‥‥ケッテンクラートだ‥‥」

 

皆の眼前にあるのはかつて、廃墟の世界でチトとユーリの足でもあり、仲間とも言える車輛、ケッテンクラートだった。

 

「けってん?」

 

「クラート?」

 

「これ、戦車じゃないん?」

 

「キャタピラーがあるけど、これは戦車じゃないよ。でも、このキャタピラーのおかげで悪路でも進む事が出来るんだよ」

 

ユーリが小鞠達にケッテンクラートの大まかな説明をする。

チトはジッとケッテンクラートを見て触っているだけだ。

 

「これ、動かせるの?」

 

「分からない‥‥キィーは‥‥ささっている‥‥でも、燃料がはいっていないし、ずっと此処に放置されていたみたいだから、メンテナンスをしないと‥‥」

 

「メンテナンスすればコレ、動くん?」

 

「多分‥‥」

 

「ケッテンの動くところ見てみたいん」

 

「そう‥だね‥‥見てみたいね‥‥」

 

「後ろにも乗れそうだしね」

 

「ちーちゃん‥‥」

 

ケッテンクラートを動かす為にはひとまず、メンテナンスをして燃料を補給する必要がある。

その為、一先ず一穂を連れて、これが動かせそうか?メンテナンスが出来そうな人に心当たりがないかを訊ねる。

一穂によるとこのケッテンクラートは一穂とれんげの祖父がどこからか仕入れてきたものらしいが、運転が難しいと言う事で蔵の奥に仕舞われていた。

メンテナンスに関しては、お隣の爺さんがよく、農業で使用する重機のメンテナンスを自分でしているので、その人なら出来るかもしれないと言う。

早速、そのお爺さんを連れてきてケッテンクラートをメンテナンスしてもらう。

機械油を差し、エンジンオイル、燃料を入れる。

そしてキィーを回すとケッテンクラートは起動し、そのエンジンを稼働させる。

トトトトトト‥‥と唸るケッテンクラートのエンジン音はチトとユーリにとって懐かしい音でもあった。

 

「直したけど、これ誰か動かせるのか?」

 

メンテナンスをしたお爺さんは、メンテナンスは出来たけど、ケッテンクラートを動かせないみたいだ。

 

「ねぇねぇは出来ないん?」

 

「流石にねーちゃんもこれは動かせないなぁ~」

 

田植え機や自動車の運転は出来てもケッテンクラートの運転は一穂も出来なかった。

 

「私‥出来るよ」

 

「えっ?チトが?」

 

「動かせるん?」

 

「うん」

 

「じゃあ、動かしてほしいん!!」

 

「わかった」

 

チトがケッテンクラートの運転が出来ると言う。

そこで、チトがケッテンクラートを蔵から出す為、運転席に座る。

 

(懐かしいな‥‥)

 

あのケッテンクラートを乗り捨ててから今日までかなりの日数が経っていたが、身体が覚えている。

此処に来る前、ケッテンクラートを失ったあの日の事を夢に見た事、

そして此処に来て、こうしてケッテンクラートと再会できたことに運命的なモノを感じるチト。

チトは慣れた手つきでケッテンクラートを運転し、蔵から出す。

 

「おぉぉー動いたん!!」

 

「スゲェ!!」

 

初めてケッテンクラートが動いている所を見たれんげと夏海は興奮している。

 

「ねぇ、チト。之って後ろに乗れるの?」

 

夏海は後ろの荷台を指さし、乗れるのかと問う。

 

「うん、乗れるよ」

 

「じゃあ、乗ってみて良い!?」

 

「いいよ」

 

「うわーい!!」

 

「ウチも乗るん!!」

 

「わ、私も乗ってみたいです」

 

「えっ?蛍も?じゃ、じゃあ、私も‥‥」

 

れんげ達はケッテンクラートの後ろの荷台へと飛び乗る。

勿論、ユーリも荷台に乗る。

定員オーバーの様な気もするが、れんげと小鞠が小柄なので、ギリギリ乗る事が出来た。

 

「スピードをあげるとエンジンの音が大きくなって五月蝿くなるから、速度はある程度絞らせるね」

 

「OK」

 

チトはあの世界をユーリと共に旅して居た時と同じ、速度でケッテンクラートを運転し、周辺の散歩に出かけた。

ただ宮内家の庭にはまだ蔵から出された荷物がそのままの状態で残されていた。

 

「‥‥あぁ~‥皆行っちゃったよ~‥‥どうしよう‥これ?」

 

一穂が庭に残された荷物を見て途方に暮れていると、お菓子を携えた楓がやって来た。

彼女はれんげの為にお菓子をあげに来たのだ。

一穂は楓に蔵の整理の手伝いを頼むと、手伝っても良いがその際、時給を要求された。

今日中に蔵の整理を終わらせたかった一穂はやむを得ず楓をバイトとして手伝ってもらった。

一穂にとって痛い出費となる羽目になった。

一方、ケッテンクラートで周辺を散歩したチト達はケッテンクラートの乗り心地を堪能した。

普段見慣れている筈の景色もこうしてケッテンクラートに乗ると、違うように見えてくる。

チトとユーリの二人もこうしてトトトトトト‥‥と言うケッテンクラートのエンジン音を聞いているとあの世界の事を思い出す。

まだケッテンクラートが動いている時は様々な経験をしたし、少なからず出会いと別れも経験した。

近所をケッテンクラートでゆっくりと一周し、宮内家に戻った頃には蔵の整理が終わっていた。

そして一穂からは、ケッテンクラートの運転が出来るのであれば、此処に居る間はチトにケッテンクラートを貸してあげると言われ、チトは一穂にお礼を言ってケッテンクラートを借りることにした。

 

午後は宮内家でお昼ご飯のそうめんを食べた皆はケッテンクラートに乗り、山へと出かけた。

そこで、写生をした。

小鞠曰く、れんげは物凄く絵が上手いらしい。

ただし、れんげは気まぐれなので、変なアレンジを加える所があるらしい。

 

「チト、ユーリ、二人をモデルにウチが絵を描いてあげるん!!」

 

「そう?それじゃ‥‥」

 

「お願いしようかな?」

 

れんげはチトとユーリをモデルに絵を描き始めた。

夏海はケッテンクラートを描き、小鞠と蛍は互いにモデルをしながら絵を描く。

 

「ねぇ、蛍」

 

「なんでしょう?」

 

「今日の夜、一緒に星を見に行かない?」

 

小鞠は蛍を天体観測に誘う。

 

「はい!!ぜひ!!行きましょう!!」

 

小鞠loveな所がある蛍にとって、小鞠からの誘いを断ると言う選択肢はなく、即決で今夜の天体観測に行くことにした。

 

「できたーん!!」

 

やがて、れんげが出来上がった絵をチトとユーリの二人に見せる。

 

「どれどれ?」

 

「ぬーん‥‥」

 

二人はれんげが描いたとされる絵を見る。

 

「「っ!?」」

 

れんげの描いた絵を見て二人は固まる。

確かにれんげが描いた絵は小鞠の言う通り、上手かった。

だが、彼女が描いた絵は、チトとユーリの二人が雪と廃墟をバックに描いたもので、絵の中の自分達が来ている服は今着ている私服ではなく、あの世界を旅していた時の衣装だった。

何故、れんげがあの世界の事を知っているのか分からないが、チトとユーリの二人にとってこの絵は見ていてあまりいい気分のモノではない。

 

「また、れんげは変なモノを描いて‥‥」

 

「今は夏だよ。どうして雪なの?しかもバックの町がなんか壊れていて怖いと言うか寂しい感じがするよ」

 

越谷姉妹はれんげの描いた絵にツッコミを入れる。

 

「でも、二人を見ながら絵を描いていると、こんな風景が目に浮かびましたん」

 

絵を描いている時、れんげの目にはこの絵の風景が蘇ってきたみたいで、彼女はその風景をそのまま画用紙に描いたみたいだ。

 

「ご、ごめん‥れんげ‥‥」

 

「この絵はちょっと‥‥」

 

チトとユーリにとってはあまり思い出したくない過去を思い出す様な絵なので、折角描いてもらったのだが、受け取れなかった。

 

「そうなん?じゃあ、描き直しますのん」

 

そう言って最初に描いた絵を破き、また絵を描き始めた。

 

「出来たん!!」

 

次に出来た絵はケッテンクラートと緑の山をバックに描かれており、来ている服も今着ている私服となっている。

チトもユーリもこの絵ならば‥と‥‥れんげの描いた絵を貰った。

その後、ユーリも写生に挑戦したが、お世辞にも上手いとは言えなかった。

チトは写生ではなく、写生しているユーリ達の姿や夏の山々、ケッテンクラートの姿をカメラで撮り続けていた。

そして夕方になり、チトは皆をケッテンクラートに乗せて家へと送る。

最後にケッテンクラートで越谷家に戻って来た時、見慣れない乗り物で帰って来たチト達の姿に雪子は驚いていたが、チトが事情を説明すると、庭先の隅にケッテンクラートを置かせてくれた。

夕食が終わった頃、小鞠は懐中電灯片手に何処かに出かける様子だった。

 

「小鞠、こんな時間に何処かに出掛けるの?」

 

「蛍と一緒に星を見に行くんだけど、チトとユーリも一緒に行く?」

 

「いや、私達はこれからお風呂だから、また次の機会にするよ」

 

「そう?それじゃあ、いってくるね」

 

「うん、気を付けてね」

 

「大丈夫だって、ちょっと星を見るだけだから」

 

そう言って小鞠は出掛けて行った。

しかし、夜の8時を過ぎても小鞠は帰ってこなかった‥‥。

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