少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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少女異世界旅行、のんのんびよりこれにて終了です。


わたしたちののんのんな夏休み5

れんげの家にある蔵の中で、チトとユーリは少し前の自分たちの仲間と言えたケッテンクラートと再び出会った。

懐かしいケッテンクラートのエンジン音とその振動は、二人で何もなかった廃墟の街を旅した思い出を思い出すきっかけとなった。

その日、小鞠は蛍に夜、星を見に行かないかと言うと、小鞠ラブな蛍が彼女からの誘いを断る理由もなく、小鞠と共に夜の天体観測へ行くこととなった。

夜になり出かける際、小鞠はチトとユーリも誘うが、ちょうどその時、二人はお風呂に入るところだったので、夜の天体観測は断った。

 

「寄り道せずにまっすぐ帰って来なさいよ」

 

小鞠の母である雪子は夜なので、なるべく早く帰ってくるようにと小鞠たちへと言う。

 

「はーい、星見るだけだからすぐに帰ってくるって」

 

小鞠はほんのちょっと星を見るだけなので、そこまで遅くはならないと言う。

 

「蛍ちゃん小鞠が寄り道しないように見張っておいてね」

 

雪子は同行者である蛍に小鞠の見張り役を頼んだ。

 

「あっ、はい‥‥」

 

「もう、私の方が年上なのにー!!」

 

小鞠は年下の蛍が自分の監視役であることに不満をぶちまける。

 

「はいはい、気を付けていってきなよ」

 

雪子に見送られ、小鞠と蛍は星を見に行った。

 

夜の田んぼ道では沢山の虫たちが鳴いていた。

蛍と小鞠は懐中電灯の明かりを頼りに夜の田んぼ道を歩いていく。

 

「夜に大人の付き添いなしで外出なんてはじめてー蛍はある?」

 

小鞠は夜間、こうして大人の付き添いなしで子供だけで出歩くことは今日が初めての経験でなんか新鮮さを感じている。

ただ、この時は蛍が一緒にいるから恐怖は一切感じておらず、もし、一人で夜、買い物などを頼まれたらきっと、怖くて家から出ることは出来ないだろう。

 

「私も初めてです。天体観測もしたことないですし」

 

(センパイと天体観測‥‥わーい!!)

 

小鞠の問いに対して、蛍もこうして夜の大人の付き添いなしでの外出は今日がはじめだと言う。

体つきは大きくてもやはり、小学生なのだろう。

そして、夜とはいえ、こうして小鞠と二人っきりの時間に関しても感激している蛍だった。

 

「あっ、蛍。お金持ってきた?」

 

「はい。センパイが言っていたので、持ってきました」

 

「じゃあ、ジュース買おう」

 

二人は星を眺めながら、飲むためのジュースを自動販売機で買うことにした。

ちょうど、歩いている道の前方に自動販売機を見つけた。

 

「あそこの自販機で買おっか。夜に物を買うのってなんか大人っぽいよねー」

 

「ですねー」

 

二人がジュースを買うため、自動販売機に近寄ると‥‥

 

ブーン

 

ブーン

 

都会と違い、夜の田舎には光源は少なく、外灯やこうした電気の明かりがついている自動販売機には沢山の虫が寄ってくる。

案の定、二人がジュースを買おうとした自動販売機にも大小さまざまな大きさの虫が自動販売機にへばりついていた。

 

「「‥‥」」

 

虫だらけの自動販売機を見て、しばし沈黙し固まる小鞠と蛍。

 

「まぁ‥‥そうだよね‥‥普通夜の自販機なんてムシムシパラダイスだよね‥‥」

 

「ふ‥普通‥‥なんですか‥‥?」

 

虫を払いのけ、お金を入れる小鞠。

 

「さ、さすがに中の商品にまでは虫はいないと思いますけど‥‥」

 

「う‥うん‥‥」

 

表面上に虫がいてもジュースの中にまで虫がいるわけがないと蛍は言う。

小鞠が欲しいジュースのボタンを押すと取り出し口に選んだジュースが落ちてくる。

 

「ん‥‥」

 

しかし、小鞠はなかなか取り出し口へ手を入れてジュースを取り出そうとはしない。

 

「?どうかしましたか?」

 

なかなかジュースを取り出さない小鞠の態度に蛍は頭の上に?マークを浮かべ、何故、ジュースを取り出さないのかを訊ねる。

 

「えっ?あっ、いや‥‥別に‥‥なんか中に虫とかカエルとかいそうじゃない?」

 

小鞠がジュースを取り出さない理由は取り出し口の中に虫やカエルがいるかもしれないと言う理由からだった。

しかし、いつまでもこのままの状態でいるわけにはいかない。

小鞠は恐る恐る取り出し口の中に手を入れる。

取り出し口の中は真っ暗でそこにジュース以外にも何かいそうだった。

すると、小鞠の手になにやら冷たいモノが触れる。

 

「うわわわわっ!!?何かいた!!濡れていて冷たいの!!」

 

小鞠は少しパニック状態となるが、

 

「それ、ジュースなんじゃないですか?」

 

蛍は冷静に小鞠が触れたモノは、彼女自身が買ったジュースなのではないかと言う。

案の定、小鞠が触れた冷たいモノはジュースだった。

 

「‥‥」

 

「ジュースでしたね」

 

その後、蛍も無事にジュースを買い、天体観測する場所へと向かう。

 

緊張してのどが渇いたのか?

それともこの日本特有のジメジメした夏の夜の熱気のためか、小鞠は買ったばかりのペットボトルジュースの蓋を開けて、中身を飲み始める。

 

「はージュースおいしー」

 

「虫がついてなくて、よかったですね」

 

自動販売機の取り出し口の中に虫は居なかったので、小鞠が買ったジュースのペットボトルには虫はついていなかった。

 

「あっ、ジュース買ったのお母さんに言っちゃだめだよ。夜に買い食いしたのがバレると怒られちゃう。夏海にも内緒だよ」

 

「はーい、二人だけの秘密にします」

 

小鞠と自分だけ‥‥二人だけの秘密‥‥その言葉と事実が蛍に幸福感を抱かせる。

 

「それにしても外灯が全然ないところまできましたけど、どこまで行くんですか?」

 

蛍が小鞠に天体観測の場所を訊ねる。

周囲は外灯もなくなり、夜の闇が支配し始める暗闇の空間‥‥

星明かりはあるが、それでも暗くて不気味だ。

 

「ちょっと怖‥‥くないけど、光がないほうが星はきれいって言うし、もうちょっと向こうまで行こうか」

 

言葉を濁す小鞠。

そして、折角星を見るのだから、外灯の明かりに邪魔されずに見たいということから小鞠と蛍は更に暗闇の奥深くへと入っていく。

やがて、二人は小高い開けた場所へと到着するとその場で星を見ることにした。

 

「こことかどう?あっ、懐中電灯をもって逃げたらだめだよ‥‥別に懐中電灯なくても大丈夫だけど、逃げている蛍がこけるかもしれないし」

 

「えーと‥‥お気遣いありがとうございます」

 

蛍はそう言うが小鞠の本音としては、懐中電灯を持っている蛍が逃げると自分はこの暗闇の中で一人ぼっちで取り残されることが嫌だったのだ。

幸い蛍は小鞠の本心に気づいている様子はなかった。

二人は草むらに座り、満天の星空を見上げる。

都会と違い、夜をライトアップする邪魔な光は一切なく、星の明かりのみが輝く夏の夜空。

 

「ねぇねぇ、星座分かる?」

 

「わかんないです」

 

夜空の星を見上げながら小鞠は蛍に『星座が分かるかと』と言う。

しかし、蛍も星座には詳しくない様子。

二人はしばし、先程買ったジュースを飲みながら夜の星空を見上げるが、

 

「あれってオリオン座?」

 

小鞠が夜空の星を指さしながらオリオン座なのかと問うと、

 

「オリオン座って冬の星座じゃなかったですっけ?」

 

星座を詳しく知らない蛍もオリオン座が冬の星座であることは知っていた。

 

「じゃあ、アンドロメダってどれ?」

 

「‥‥わかんないです」

 

二人はもう、知られている星座ではなく、オリジナル‥自分たちで星と星をつないで星座を作り始めた。

 

「あの星と星をつなげてラーメンの麺座」

 

「じゃあ、むこうの星をつないで、そうめん座ですね」

 

二人はしばしの間、そうしたオリジナルの星座を作って天体観測をしたが、

 

「‥‥っと、いけない。そろそろ帰らないとお母さんに怒られちゃう」

 

雪子から早く帰ってくるようにと言われていたので、そろそろお開きにして戻ることにした。

 

「名残惜しいですけどまた来ましょう」

 

蛍としては小鞠と二人っきりの時間‥‥至福の時間であったが、小鞠の言う通り、いつまでも夜の時間を子供二人でいるわけにはいかない。

 

「おっけ~じゃあ、戻ろうか」

 

「あっ、足元照らしますね」

 

蛍が懐中電灯を点けるのだが、何故か懐中電灯の明かりは点いたと思ったらフッと消えた。

 

「うわわわわわわわ!?蛍なんで明かりを消すの!?」

 

「えっ?えっ?消してないでよ!!勝手に消えて‥‥」

 

「貸して、貸して!!早くスイッチを!!明かりを!!」

 

「だ、ダメです!!点きません!!電池がなくなっちゃったみたいです!!」

 

「ええぇぇぇぇー!!」

 

突然明かりが点かなくなり、しかも電池が原因となると、今の自分たちでは完全にお手上げだ。

代わりの電池なんて持っていないし‥‥

頼りとなる明かりを失いパニックとなる小鞠と蛍。

 

「どどど、どうするのっ周り暗くてなにも見えないんだけど!!?」

 

「えっと、えっと、‥‥ど、どうしましょう」

 

「ほ、ほたる、泣いているの!?こ、こ、これくらいで泣いちゃだめだよ!!」

 

「うぅ~す、すみません‥‥」

 

体つきは大きくても蛍はなんだかんだ言っても小学五年生の女の子。

自分たちが遭難したかもしれないと言う事実に不安となり泣き出してしまうのも無理はない。

 

「で、でも暗すぎて帰り道わかんないですよ‥‥」

 

「そ、そんなの周りを見渡せば‥‥」

 

小鞠は周囲を見渡し、帰り道を探すが、蛍の言う通り暗すぎて自分たちがどこから来たのかさえも分からなかった。

暗くて周りの木々が同じように見えてしまい、より一層、自分たちがどの道からきたのか分からなかった。

 

 

その頃、越谷家ではまだ戻らない小鞠の事を心配していた。

 

「もう、八時になるのにまだ帰ってこないねぇ小鞠」

 

ユーリが時計を見ながら、まだ小鞠が戻らないことをつぶやく。

今の柱時計は八時の時報を知らせるベルが鳴っている。

 

「確かにいくらなんでも遅いな‥‥」

 

チトもユーリ同様、小鞠の帰りが遅いことを心配する。

小鞠と蛍が出かける所を見送ったのを目撃したからこそ、心配になる。

小鞠も蛍も携帯を持っていないので、今どこにいるのか、何をしているのか、連絡が取れない。

もっともこの村では携帯が使える場所が限られているので、例え携帯を持っていてもあまり意味がない。

 

「小鞠もしかして迷子になっているかもしれないね」

 

「あぁ~それあり得るかも、姉ちゃん、海でも迷子になっていたし」

 

夏海も小鞠が迷子になっているかもしれないことを肯定する。

 

「ねぇ、ちーちゃん。小鞠を探しに行こうよ。ケッテンクラートに乗って」

 

ユーリがチトに小鞠を探しに行こうと提案する。

 

「‥‥しょうがない」

 

チトはユーリの提案に乗り、小鞠を探しに行くことにした。

彼女自身、ケッテンクラートを乗り回せる機会なので、行くことにしたのだ。

 

「それじゃあ、行ってきますね」

 

「すまないね、チトちゃん。小鞠たちの事、よろしくね」

 

「はい」

 

雪子が見送り、チトはユーリを後ろの荷台に乗せ、小鞠と蛍を探しに行くことにした。

当初は夏海も行こうとしたのだが、夏休みの宿題をまだやっていないので、雪子からその点を突かれて、夏海は今頃、テキストとにらめっこをしているだろう。

 

ドッ、ドッ、ドッ 

 

ドドドドドドドドド‥‥

 

ドドドドドドドドド‥‥

 

トトトトトトトトト‥‥

 

トトトトトトトト‥‥

 

 

夜の田舎道にケッテンクラートのエンジン音が鳴り響き、ケッテンクラートのヘッドライトがあたりを照らす。

 

「なんか、こうしてちーちゃんと二人で、ケッテンクラートに乗って暗い道を走っていると、あの頃を思い出すね」

 

ユーリが周囲を見渡し、小鞠と蛍を探しながら、チトに話しかける。

 

「そうだな‥‥」

 

チトもユーリの言う通り、こうしてユーリと二人っきりで、ケッテンクラートに乗っていると自然とあの頃を‥‥この世界に来る前の雪と廃墟の世界を上層部目指していた頃を思い出す。

しかし、あの頃と今の状況は似ているようで似ていない。

あの頃は、自然らしい自然などなく、コンクリートと雪のさびしい風景ばかりだった。

しかし、今は、周りは田んぼに草木が生い茂る田舎で沢山の虫たちの鳴き声が聞こえる。

そして道端に点々とある明かりの点いている外灯‥‥

似ている状況でも前の世界と比べるもなく、今の状況の方が断然良い。

チトとユーリがケッテンクラートに乗って小鞠と蛍を探している頃、

その捜し人である小鞠と蛍は更に山奥まで迷い込んでいた。

 

「うぅ~ぐすっ‥‥」

 

蛍は声を上げて泣いてはいないが、涙をポロポロと流している。

小鞠も蛍と同じく泣き出したいが、今、自分が泣けば、事態はより一層、悪化するし、蛍をますます不安にさせてしまう。

 

(わ、私はお姉さんなんだから、何とかしないと‥‥)

 

「蛍、大丈夫だからね。わ、私はお姉さんだもの。絶対に蛍を家まで送るからね。離れちゃダメだよ」

 

「せ、センパイ、道、わかるんですか?」

 

「わからないけど、ここで座っていてもどうにもならないし」

 

小鞠は蛍の手をギュッと握り、彼女を先導する。

 

「蛍、足元に気を付けて、こけないようにね」

 

「は、はい‥‥」

 

「えっと‥‥たしかこっちから来たよね?」

 

「わ、私はこっちから来たような気が‥‥」

 

「周りが木ばっかりで、どっちを向いても同じに見える」

 

「も、もし、反対に行ってたら、余計に迷いますよ」

 

蛍の意見の通り、今自分たちが進んでいる道が来た道と反対側だったら、自分たちは今よりも更に山奥へと進むことになる。

 

「だ、大丈夫だって、段々目も慣れてきたし‥‥深呼吸して落ち着けば絶対道わかるから」

 

小鞠は蛍を安心させようとするが、

 

リーン!!

 

「ぽゃー!!」

 

小鞠の足元で鈴虫が突然鳴きだし、その声を聞いて思わず小鞠は変な声を上げてしまう。

 

「せ、センパイ‥‥!?」

 

「な、なに‥‥さっきの‥‥」

 

「鈴虫みたいです」

 

蛍が謎の鳴き声をだした正体を小鞠に伝える。

 

「私たちどうなるんでしょう?」

 

「‥‥」

 

「い、家に帰れますよね?」

 

「も、もちろんだよ」

 

涙目の蛍が小鞠に家に帰れるのかと訊ねると、小鞠は帰れると言うが、彼女自身既に涙目になっており、説得力がない。

自分たちは家に帰ることもできずにこのまま夜の山で一夜を明かすことになるのだろうか?

そう思っていると、

 

トトトトトトトトト‥‥

 

夜の森の奥から変な音が聞こえてきた。

 

「センパイなにか変な音がします」

 

「ちょっ、蛍、変なことを言わないでよ!!」

 

「で、でも確かに音が‥‥」

 

蛍にそう言われて小鞠も耳を澄ませてみると、

 

トトトトトトトトト‥‥

 

確かに蛍の言う通り、森の奥から変な音がして、それはこちらに近づいてくる。

 

「な、何の音‥‥?」

 

「わ、わかりません‥‥でも、人の声でもありませんし、生き物の鳴き声でもなさそうですし‥‥」

 

昼間、二人はチトの運転するケッテンクラートに乗ったにもかかわらず、そのエンジン音をすっかり忘れているみたいだった。

まぁ、この状況ではパニックを起こしているので、昼間、わずかな時間乗っただけのケッテンクラートのエンジン音なんて覚えている筈もなかった。

その間にも謎の音(ケッテンクラートのエンジン音)は自分たちに近づいてくる。

小鞠も蛍もお互いに体を抱き合っている。

すると、森の奥から明かりが見えると、

 

「こまりー!!」

 

「ほたるー!!」

 

自分たちの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「あっ、ちーちゃん。小鞠と蛍が居たよ!!」

 

音の正体、明かりの正体は自分たちを探しに来たチトとユーリが乗ったケッテンクラートだった。

 

「チト‥ユーリ‥‥」

 

知り合いがこうして迎えに来てくれたことに小鞠も蛍も安心感からか、腰を抜かしてしまう。

 

「大丈夫?」

 

「その‥‥安心したら腰が抜けちゃって‥‥」

 

「わ、私も‥‥」

 

チトとユーリは小鞠と蛍をケッテンクラートの荷台に乗せて、家路へと戻ることにした。

まず最初に同行者である蛍の家に行き、彼女をそこで降ろしたのち、三人は越谷家へと戻った。

 

「チト‥ユーリ‥‥」

 

「ん?」

 

「なに?」

 

越谷家に戻る中、小鞠はチトとユーリに、

 

「その‥‥私が腰を抜かしたこと、夏海には内緒にして」

 

小鞠は先程、腰を抜かしたことに関して、チトとユーリに妹の夏海には黙っていてくれと頼む。

 

「あっ、うん‥‥」

 

「わかった」

 

「それと、れんげにも言っちゃダメだからね」

 

小鞠はついでに夏海の他にれんげにも黙っていてくれと頼む。

年上としてのプライドがあるのだろう。

こうして、ケッテンクラートと再会した日のドタバタな出来事は幕を閉じた。

 

 

翌日、チトとユーリは庭でケッテンクラートの整備をしている中、夏海は雪子から一学期の成績についてお説教を受けていた。

 

「ちーちゃん」

 

「ん?」

 

「夏海はどうして怒られているの?」

 

ユーリはチトになぜ、夏海が怒られているのかを聞いてきた。

彼女にしてみれば、夏海が怒られている理由が分からないのだ。

 

「どうやら、成績が悪かったみたいだ」

 

「せいせき?」

 

「休みの前の勉強の結果が悪かったみたいだ」

 

「へぇ~夏海は勉強が苦手なのか‥‥分かるなぁ~‥‥私だってこの世界の文字を覚えるのに結構苦労したからねぇ~」

 

ユーリはこの世界で暮らし始めたばかりのころを思い出すかのように真夏の空を遠い目で見ている。

 

「うわぁぁー!!」

 

「「っ!?」」

 

突然、夏海の悲鳴みたいな大声が聞こえてきたので、チトとユーリがビクッと体を震わせて見てみると、そこには雪子に羽交い締めされながらも足を柱に絡ませて必死に抵抗している夏海の姿があった。

 

「なに、逃げているの?話はまだ終わってないよ!!」

 

雪子のいない隙をついて逃げ出そうとしたのだが、失敗して見つかったようだ。

 

「あぁぁぁー蝉が呼んでいるぅ~体が勝手にぃ~‥‥」

 

「往生際悪いよ夏海!!」

 

「いやだぁー!!」

 

しかし、雪子の力には勝てず、そのまま居間へと引きずられていった。

 

「「‥‥」」

 

チトとユーリは唖然としてその様子を見ていた。

 

夏海のお説教が終わり、今日は蛍の家に行くことにした。

ケッテンクラートでれんげの家に行き、彼女を迎えに行った後、昨日行った蛍の家に行く。

蛍の家はれんげの家や越谷家とは違い、建築されたばかりの家で構造も越谷家やれんげの家のような和風の建築ではなく都内にあるフローリングタイプの家だった。

突然の訪問は蛍には寝耳に水だったようで、何故か彼女は当初、自分の部屋に皆を招き入れることに対して拒絶しているようだった。

そして蛍は『掃除するので待っていて』と言い残して部屋の中に消えていく。

部屋の中ではドッタン、バッタン と言う音や蛍の悲鳴みたいな声がした。

しばらくしてから蛍が部屋を開けると今どきの女子と言った部屋があった。

本当に部屋が散らかっていたのかは疑問だったが、招き入れられたので、みんなは蛍の部屋に入る。

小鞠がアルバムを見つけ、見せてもらうと、そこには今よりも背が小さな蛍の姿が移された写真があった。

小鞠が小学校一年生の時の写真かと訊ねると、

 

「それは去年の写真です」

 

「「去年?」」

 

背が小さな小鞠とチトはたった一年で人はここまで身長が伸びるのかと顔をひきつらせた。

一方、夏海は最新機種のゲーム機をみつけ、ユーリを誘ってゲーム機で遊んでいる。

れんげはゲーム機にもアルバムにも興味を示さずおもちゃを探していた。

そして部屋の中にあるクローゼットの中におもちゃがあると思い込んでいた。

おそらく彼女の家ではおもちゃを押し入れにでも閉まっているから、おもちゃはこういったところにしまってあるものだと思っているのだろう。

蛍はなぜか必死にれんげを止めていた。

なにか変なモノでも入っているのだろうか?

しかし、結局、クローゼットの扉は混乱した蛍自身の手によって開けられてしまった。

その中からたくさんの小鞠を模した人形が出てきた。

しかもすべて蛍のお手製‥‥

 

(ねぇ、ちーちゃん‥‥)

 

(なんだ?)

 

(蛍って意外とやばい子なのかな?)

 

(‥‥ノーコメントで‥‥)

 

チトとユーリは蛍の将来が少し心配になったが、れんげたちはこの沢山の小鞠の人形は夏休みの工作だと思い、みんなで人形を作ることになった。

夏海はれんげの人形を作り、小鞠は猫の人形、れんげは庭によく来る狸の人形をつくった。

 

「ちーちゃんは何を作ったの?」

 

「‥‥ヌコ‥ユー、お前は?」

 

「私はねぇ‥‥」

 

ユーリは自分の作った人形を見る。

 

「これがおじいさん、カナザワ、イシイ、てんちょー、わたし、そしてちーちゃん」

 

いつぞやイシイから聞いた食糧製造プラントでパンを作ったようなユーリがこれまで知り合った人の顔の人形をチトに見せた。

 

「‥‥」

 

チトはユーリが作った自分の顔を見て、複雑そうな顔をする。

その日の夜、夏海の提案で肝試しをする事になった。

村の神社には越谷兄妹の三人、チトとユーリ、れんげ、蛍、一穂の姿があった。

 

「夜に呼ばれたので花火をするのかと思って花火を持って来たんですけど‥‥」

 

蛍とれんげの手には紙袋いっぱいに入った花火があった。

先日、蛍は皆を花火に誘ったのだが、肝心の花火が手に入らなかったことがあり、そのリベンジをするためにこうして花火を持参してきたのだ。

肝試しのルールは神社の賽銭箱に五円玉を置いてくるのだが、小鞠はなぜか反対の姿勢‥‥

本人は怖くないと言うが、顔色はなんだか悪い。

昨日、蛍と一緒に山で遭難しかけたことをまだ引きずっているのかもしれない。

 

「チトやユーリもこんなのつまらないよね?暗いし危ないし‥‥」

 

小鞠はチトとユーリに賛同を求めるが、

 

「うーん‥‥別に私は暗いところは慣れているし‥‥」

 

「私も暗いところは苦手だけど、皆や明かりがあるから平気だよ。それに肝試しなんて初めてだからやってみたい」

 

あの世界では暗いことなんて日常茶飯事だし、肝試しというイベントはチトとユーリは今回初体験なので、二人はむしろやってみたいと推進している。

結局肝試しをやることになり、小鞠が脅かし役となった。

そして順番は卓が一番となり、夏海が二番となった。

卓はルール通り、賽銭箱に五円玉を置いてきたのだが、奇跡のようなすれ違いで小鞠は卓の姿を見ることなく、本物のお化けが参加しているモノと錯覚し、パニックをおこした。

夏海が境内へといくと、シーツをかぶり、神社の鐘を鳴らしている小鞠の姿があり、もうグダグダだった。

肝試しの後は、境内で蛍とれんげが持ってきた花火をした。

 

楽しかった日々はあっという間に終わり、いよいよチトとユーリが東京に帰る日が来た。

二人の見送りには夏海、れんげ、小鞠、卓、蛍らが見送りに来てくれた。

 

「お世話になりました」

 

「それじゃあ、皆、元気でね」

 

「また、来てくださいね」

 

「来るときはまた、お土産よろしく」

 

「‥‥」

 

「バイバイなん」

 

「あのケッテンクラート?は一姉ぇが、手入れしておくからまた来たときはいつでも乗れるようにしておくってさ」

 

「ありがとう」

 

やがて、電車が来て、チトとユーリは電車へと乗り込む。

そして発車時刻となり、扉が閉まり、電車が動き出す。

皆はホームで電車が見えなくなるまで見送ってくれた。

 

「ちーちゃん」

 

「ん?」

 

「山‥楽しかったね‥‥」

 

ユーリは満面の笑みを浮かべてチトに山での出来事が楽しかった感想を述べる。

 

「‥‥そうだな」

 

チトもフッと笑みをこぼし、あの田舎の村での一夏の出来事が楽しかったことを振り返る。

 

チトもユーリもきっとあの夏に起こった出来事、そして日々をいつまでも決して忘れないだろう‥‥‥‥

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