少女異世界旅行   作:破壊神クルル

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ちーちゃんの日記

~チトSide~

 

私達が、世界が終わった世界からこの異世界、日本に来て幾日が経った

料理屋のねこやの店主さんからの好意で私達は食べ物にも寒さにも困らない生活を送っている。

この世界は沢山のモノに溢れている。

私達がこの世界に住むと決めた次の日、店主さんと一緒にショッピングモールと呼ばれる大きな施設に買い物へ出かけた。

あの世界にあった訳の分からないモノ、使い方が分からなかったモノもあり、この世界に来て初めて使い方が分かったり、何の為に存在していたのか分かったモノも沢山あった。

人も‥‥食べ物も‥‥物も溢れているこの世界は私達にとっては楽園の様な世界だった。

楽園の様な新しい世界‥‥私は、この世界に来てから再び日記を書くようにした。

前の世界では背後にまで迫っていた死の足音から逃れるために、生きてきた証を火の中にくべてでも生き残ることを優先したがこの世界ではもうそれをやる必要もないので、改めて私は自分がこうして生きている証を残すことにしたのだ。

でも、この世界に来た当初、私は眠ることが怖かった。

人や物が溢れ、食べ物にも寒さにも困らないこの世界に住んでいる事が実は夢なのではないか?

目が覚めた時、自分の目の前に広がるのは死を迎えようとしている世界‥‥

食べ物もなく、誰も居ない、雪だけのあの寂しい世界‥‥

ユーも同じことを考えているのか、一緒に寝る時、手を繋いで眠る事が多かった。

それでも朝、ちゃんと目が覚めて、ねこやでお世話になっている部屋の天井を見て、安堵する自分が居た。

私達がお世話になっているこのねこやはどういうわけか七日に一度、このお店がある地球とは異なる世界に扉が現れ、その世界の人間がお客として料理を食べにやって来る。

店主さんは、私達にこの異世界へ繋がる正面口は、決して使わず、お店の外へ出る場合は裏の勝手口から出るようにと言った。

確かに店主さんの言う通り、異世界人である私とユーが誤って正面の入り口の扉を開けてしまうと、あの世界へ続いてしまう可能性が高い。

私もユーもあの終わった世界へ戻るつもりなどサラサラなく、物覚えが悪いユーでさえ、あの正面口には決して近づかなかった。

そして、私達はただ何もせずにお世話になっているのも悪いので、平日、そして平日よりも混む、土曜の日にはお店のお手伝いをしている。

この世界に来た当初は、まずこの世界の文字を覚えようとしてかなり苦労した。

私達の暮らすねこやがある日本という国の言葉‥日本語には漢字、ひらがな、カタカナの三種類の文字があった。

中にはあの世界にあった文字に似ている言葉や文字もあったが、どれもこれも私達には未知の言語だったので、覚えるのには苦労した。

私よりも物覚えが悪いユーなんて覚えられるのかと思ったのだが、ユーは食べ物と自分が興味を抱いたモノに関しては覚えるのが早く、お店のメニューに載っている文字‥そしてこの世界にあふれている音楽の歌詞でこの国の言葉を覚えていった。

ユーが食べ物以外に‥音楽に物凄く興味を持ったのは私としては意外に感じた。

ラジオ、そしてテレビと言う機械から流れてくる音楽にユーは目を輝かせながらその音楽を聴き、お店にあるピアノと言う楽器を弾きながら歌を歌ったりしている。

今ではお客さんに頼まれて歌を歌ったり、ピアノを演奏している。

射撃と食べること以外にユーにこんな特技があるなんて知らなかった。

そして、食べ物‥‥この世界では本当に食べ物に困らず、沢山の食べ物に溢れていた。

季節と呼ばれる気温が異なる時期によって食べ頃になる沢山の食べ物‥‥

そして、季節ごとに行われる様々な行事‥‥

私達の世界でも大昔は行われていた行事なのかもしれないが、もしそうであるなら、人が減っていく中でその行事を継承することも出来なくなり、資料ともども消失してしまったのだろうか‥‥

クリスマスと呼ばれる行事の際は店主さんやユー、土曜の日に一緒に働くアレッタやクロと共にケーキと呼ばれるお菓子を食べた。

パンのようにふっくらとした生地の上にたっぷりと乗せる、チョコレートパフェに使用される白くて甘いモノ‥生クリームと呼ばれる乳を原料とする甘味が合わさり、口の中で溶け、広がる甘みはまさに、極上の味‥‥究極のお菓子である。

ケーキを前にアレッタとユーが先を争うように食べていた‥‥

あの時、ユーの手元に銃が無くて本当に良かったと思う。

かつて私からチョコ味のレーションを奪ったときのように私達に銃を突き付ける様が容易く想像できたからだ。

それにこの国では銃を不当に持っていると罰せられるらしい。

そして、骨付きのチキン‥‥

鶏肉‥これはまさに私にとって奇跡の出会いだった。

魚でもレーションでもない食材、肉‥‥私達『人』とは異なる生物を糧とする食材‥‥

肉を食するということは、食事が他の生命の魂を食べるという行為であることを何より強く実感させるものなのだと、私は思う。

そんな数ある肉の中で鶏肉は一番の好物だ‥‥

現に鶏肉を使用した料理は数多くのレパートリーが存在する。

私が食べたチーズチキンカツの他に焼き鳥、唐揚げ、チキン南蛮、照り焼きチキン‥‥ホクホクに炊いた白いライスと呼ばれる食べ物と一緒に食べると、ライスが何杯でも食べられる気がする。

特に油で揚げるカツや唐揚げの揚げ物料理は口の中に入れて噛んだとき、ジュワっと広がる肉汁と油であげたサクサクの衣の奏でるハーモニーが最高だ。

それに鶏肉はライスだけでなく、パンにも合う。

チキンカツサンドにテリヤキサンド‥‥まさに鶏肉は肉の万能食材であると私は思う。

クロだって鶏肉を使ったチキンカレーが好物だし、ねこやの常連の一人‥照り焼きことタツゴロウも毎週、ねこやに来るとテリヤキ定食を頼んでいる。

でも、それより凄いのがこうした数多くの食材を活かして料理という名の作品に仕上げることが出来る店主さんであると思う。

絶望と死を受け入れつつあった私達に生きることを思い出させてくれたのは紛れもなく店主さんの料理だ。

そして、このお店に来るお客さんも皆、店主さんの料理を食べて生きる希望を見出しているように見える。

そんな異世界の住人の中で、エルフと呼ばれる種族達はまさに究極の菜食主義者達だ。

彼らは肉、魚、卵、乳(同族の母乳は除く)を一切取らない種族でその上、鼻も味覚も人間より鋭い。

ユーは店主さんからその話を聞いたとき、

 

「魚を食べられないなんて可哀想な人達だ」

 

と言っていた。

私自身も鶏肉を食べることの出来ない彼らが可哀想に思えた。

そんなエルフ達でさえも満足させてしまう店主さんの料理は凄いと思う。

ちなみに、外見はエルフそっくりのハーフエルフは食べ物に関して制約はない。

長い血筋の中に純血のエルフ、ハーフエルフが居ると、身体からエルフの特徴が完全に消えるほど遠い子孫‥つまり人と人との間の子であっても、隔世遺伝を起こしてハーフエルフとして生まれることがあるらしい。

ねこやの常連の一人、ヴィクトリアもそんな隔世遺伝をしたハーフエルフだけど、現に彼女は卵や乳をふんだんに使用して作られたプリンアラモードが大好物だ。

プリン‥これはケーキよりも手軽に食べられるデザートだ。

黄色いプルンっと甘くとろけるような触感‥‥底にある黒いカラメルソースと一緒に食べると甘苦く香ばしい味がする。

私もユーもこのプリンは共に大好きなデザートの一つだ。

ハーフエルフと言えば、一緒に働いているクロだ。あの耳の形からしてエルフであるのはまず間違いなく、そのうえでチキンカレーを好物としていることから恐らくクロもハーフエルフなのだろうけど、本当にハーフエルフなのかと疑問に思うことがある。

なんとなく。雰囲気が常連客の一人の『赤』となんとなくだが、似ているような気がするのだ。

 

沢山の美味しい料理を食べ、店主さんの作る料理を食べている人を見てきて、最近では、どうやったらそんな料理が出来るのか気になって店主さんの動きをジッと見てしまう自分が居る。

ユーが音楽に興味を示したように私は料理に興味を持ったのかもしれない。

だからこそ、私は店主さんから料理を習っている。

朝ご飯とお昼の賄い料理‥そして晩御飯‥‥

そりゃ、最初の内は焦がしてしまったり、逆に火の通しが甘くて半生になったり、調味料の量を間違えたりするミスを犯したけど、最近ではうまく作れている。

店主さんほどの腕前ではないけれど、店主さんやアレッタ、クロやユーからも「おいしい」と言われるぐらいの腕には成長した。

 

そんなある日、近所のスーパーへ出かけた時だった。

その日はお店が定休日だったので、料理の研究の為、食材を調達しに来ていたのだ。

お店の食材はお客さんに提供するモノだし、そんなに多くの食材を使う訳ではなかったからだ。

店主さんとユーは休日を利用して、店主さんの友達と一緒に魚釣りへ出かけていた。

取りたての魚を新鮮な状態で食べることが出来るということでユーは喜んでついていった。

私は鶏肉が大好きであるが、ユーは肉よりも魚の方が好きなのだ。

そんな中、野菜売り場でなにか揉めている様子の四人組の女の子達が居た。

年頃や身長は私と同じぐらいみたいだ。

彼女らの会話の中で「カレー」と言う単語が出ている。

カレー‥‥クロ、そして異世界食堂の常連の一人、アルフォンスの大好物な料理だ。

私も食べられるけれど、あまり辛いのは苦手だ。

でも、カレーか‥‥

一口にカレーと言っても何種類もある。

実際にねこやでも普通のビーフカレーの他にクロの大好きなチキンカレーも提供している。

今日の料理研究のテーマにしてみても良いかな?

カレーなら、それなりの量になるから今日の晩御飯にもなるし‥‥

そう思いながら私はあの子らがいる野菜コーナへと向かった。

四人組の女の子らが揉めているのを尻目に、私は黙々と野菜を選ぶ。

店主さんから聞いた食材を選ぶときの注意点とかを念頭に食材を選んでいると、まだ揉めている。

カレーを作るのに食材選びで揉めているようだ。

カレーを作るのにそんなに揉めるモノなのか?

カレーの食材なんて割とシンプルだと思うのだが‥‥

私はチラッとその揉めている女の子らを見る。

同い年の子か‥‥

私の身近に居る同い年の子はユーとアレッタぐらいだ。

でも、アレッタとは七日に一度しか会えない。

普段、私達ぐらいの子は高校という所に行っているらしいが、今の私達の学力でいけるのかちょっと微妙な所だ。

でも、友達‥‥か‥‥

私は勇気を出して声をかけてみた。

 

「あ、あの‥‥」

 

私が声をかけると、揉めていた子らはピタッとおさまり、一斉に私を見てきた。

 

うっ‥‥ちょっと気まずい‥‥

 

「ほら、暁が騒ぐから他のお客さんが迷惑していたじゃない」

 

「あ、暁のせいだっていうの!?」

 

「最初から私に任せていれば良かったのよ」

 

「何ですって!?カレー大会に出るって決めたのは暁よ」

 

「ふ、二人とも落ち着くのです」

 

「大体雷は何時も出しゃばりなのよ!!暁の方がお姉さんなのに!!」

 

「そのお姉ちゃんが頼りないから私が頑張っているんじゃない」

 

「むぅ~」

 

「むぅ~」

 

「‥‥ぷんすか」

 

私を見て静かになったと思ったらまた揉めだした。

青黒い髪の子と茶髪の子が睨み合い、栗毛色の子は涙目になりながら止めようとしているが、効果がない。

場がなんか更に滅茶苦茶になり始めていると、

 

「ていっ」

 

「あぅ」

 

「はぅ」

 

「へにゃ」

 

銀髪の子が三人の頭を叩く。

私もよく悪戯をしたユーの頭を叩いたっけな‥‥

 

「少し落ち着こうか?」

 

「「「響」」」

 

「姉や妹が失礼した。それで、何かな?」

 

銀髪の子が改めて私に声をかけてきた。

私は声をかけた理由を話す。

 

「あっ、うん‥‥その‥‥カレーについて揉めていたみたいだけど、何かあったの?」

 

私が尋ねると響と言われた銀髪の子が言うには、今度カレー大会に参加するので、カレーの練習の為、食材を買いに来たのだが、そこで自分らがカレーの作り方を知らなかったことに気づいて、揉めだしたとのこと。

 

(何だ?其れは!?)

 

正直ちょっと呆れたが、気を取り直して、

 

「そ、それなら私が皆にカレーの作り方を教えようか?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「その‥‥私が今住んでいる所が料理屋で‥‥私もよく料理をするから‥‥」

 

「えっ?いいの?」

 

「う、うん‥‥貴女達の話を聞いてカレーを作ろうかと思っていたし‥‥」

 

「では、お願いしますなのです」

 

「あっ、うん‥‥えっと‥‥」

 

私はこの子らの名前を聞こうとした。

暁、雷、響と名前らしきモノは呟いていたのは聞こえたけど、それが名前だとは限らないから念の為、聞いておくに越したことはない。

 

「あっ、私は暁よ」

 

「響‥‥」

 

「雷(いかづち)よ。決してカミナリじゃないからね」

 

「電なのです」

 

彼女らは四つ子の姉妹で、上から暁、響、雷、電の四姉妹なのだと言う。

 

「私はチト」

 

私達は自己紹介をすませ、カレーの食材選びをした。

店主さんから食材選びの知識を得ていてよかった‥‥

食材を買い、暁達と共にねこやに戻る。

初めて料理屋の厨房に入った暁達は物珍しそうに辺りを見ていた。

 

「えっと‥‥エプロンは‥‥」

 

私はウェイトレス服の入ったタンスから人数分のエプロンを取り出し、暁達に手渡す。

私自身もエプロンを身に着け、手を洗い調理台の上にカレーの食材を並べる。

私は調理台の上に置かれたカレーの食材を見て、店主さんが言っていたことを思い出す。

 

えっと‥‥カレーのレシピの基本は粉とスープと素材‥‥カレー粉は微妙にブレンドをしたモノを使って‥‥ブイヨンスープは作り置きのモノをちょっと使おう‥‥

香りは確か‥‥

私は普段、ねこやで出しているカレーを思い浮かべる。

お店のカレーは食欲をそそる香りが立っていた‥‥作り置きのカレー粉にガラムマサラをいれて香りを立たせていた筈だ。

肉に関しては‥‥確かねこやのカレーは‥‥

私は店主さんが言っていたカレーの作り方‥肉について思い出す。

 

いいか、チト。

ビーフカレーにはビーフそのものを味合わせる為に肉汁をビーフの中に閉じ込めるものがある。

でも、ウチ(ねこや)のカレーは芳醇な味にする為、敢えて肉汁を閉じ込めずにカレースープの中に溶かし込むタイプだ。

 

確かそう言っていた筈‥‥ならば、肉の下拵えも重要だ。

さあ、始めよう‥‥

 

カレーの作り方を頭の中で回想し、いよいよ調理を始める。

暁、雷、電に野菜の皮むきとそれらを一口大に切るように頼み、響には肉を頼む。

私は完成後の試食の為、ライスの準備だ。

暁と雷は包丁で丁寧に皮を剥けたのだが、電はジャガイモの皮を身ごとごっそりとけずり、皮がむけたときにはもはや一口大の身しか残っていなかった。

確かにあとでスライスして一口大の大きさにするけど、それだとちょっと野菜の量が少なくなる。

 

「い、電‥包丁で剥きにくいなら、ピーラーを使って」

 

「は、はいなのです」

 

電にピーラーを渡し、皮を剥いて貰う。

響が肉をスライスしていると、

 

「いっつ‥‥」

 

響が包丁で指を切った。

 

「ちょっと響、血が!!」

 

「響、大丈夫なの!?」

 

「響ちゃん、死んじゃいやなのです!!」

 

指を切った本人よりも他の姉妹達の慌て様が凄かった。

私も料理を習いたての頃はよく包丁で自分の指を切った。

 

「響は切った指を水で洗って‥‥確か救急箱は‥‥」

 

私は手早く響に応急処置をする。

そして、肉を一口大にスライスしたあと、その肉をまな板からトレイに移す。

 

「それで、肉を炒めるのかい?」

 

響の質問に私は、

 

「いや、まだ‥‥料理は慌てて作るモノじゃない‥‥料理は下拵えでその味が決まる‥‥一手間かける‥‥それが基本だよ。肉の下拵えをするからよく見ていて」

 

「ああ」

 

私はトレイの肉に胡椒をふりかけ、すりおろしたニンニク、ショウガ、粉末状のターメリック、ヨーグルトを入れて、肉にしみわたるように揉む。

 

「あっ、チト、お湯が沸いてきたみたいよ」

 

雷がコンロに欠けていた鍋のお湯が沸騰してきた事を告げる。

 

「じゃあ、火を弱くして、トマトの上に切込みを入れたら、鍋の中にいれて。皮が剥きやすくなるから」

 

「OK」

 

雷は私の指示通り、トマトの上に切込みを入れ、皮を剥きやすい状態にして鍋の中にトマトを入れる。

暁と電はその間に皮を剥いた野菜をスライスしていたのだが、玉ねぎを切っている暁が泣きながら玉ねぎを刻んでいた。

切込みを入れ、皮を剥きやすくしたトマトをお湯からだし、皮を剥き、種をとり、スライスする。

下拵えした野菜をボールへと入れていく。

その間に私は肉のマリネを作る。

油を引いたフライパンの上に肉を乗せ、赤ワインでフランベをする。

フランベをした瞬間、暁達がびっくりしていた。

肉をフライパンから取り出し休める。

 

「刻んだニンジンとジャガイモをその大鍋で茹でて‥‥その大鍋に素材を一つにするから」

 

「はいなのです」

 

次に刻んだ玉ねぎを炒める。

 

「玉ねぎを炒める際は火加減に注意してね」

 

私はコンロの火を強める。

 

「いい?玉ねぎはまず、強火で炒める。焦がさないように休まず、炒める‥‥」

 

木のヘラでフライパンの上の玉ねぎを炒めている私の隣から暁達がそれを見学する。

 

「玉ねぎがしんなりとしてきたら、弱火にする‥‥飴色になるまでじっくり丁寧に‥‥弱火でトロトロと‥‥」

 

玉ねぎを炒め、次はカレー粉を作る。

フライパンに背油を梳かして、小麦粉を入れ、焦がさないように伸ばす感じで炒め、ほんのりと焦げ目がついてきたら粉末状のカレー粉を入れ、香りを引き立てるガラムマサラを入れる。

 

「さて、次は各素材を一つにする‥‥」

 

ニンジンとジャガイモが泳いでいる大鍋にカレー粉を入れ、ひと煮立ちさせ、鶏肉と野菜を長時間煮込んで作ったブイヨンスープを入れる。

トマトを入れて、一度鍋をかき混ぜる。

次に玉ねぎを入れて、再び鍋をかき混ぜる。

そして最後に肉のマリネを入れてかき混ぜ、ある程度煮込む。

鍋からはグツグツと言う音とカレーの良い匂いが漂う。

この匂いだけでもお腹が空いてくる。

 

「出来たのかしら?」

 

暁が尋ねてきたので、私は小皿にカレーを分けて、暁達に手渡す。

 

「味見をしてみて」

 

「「「「‥‥」」」」

 

手渡された小皿に乗ったカレーを暁達は味見する。

 

「美味しい」

 

「ハラショー」

 

「うん」

 

「美味しいのです」

 

暁達は美味しいと言うが、

 

「実はこのカレー‥まだ、完成していないんだ」

 

私はこのカレーがまだ完成していないことを伝える。

 

「「「「えっ?」」」」

 

私の言葉に暁達は驚く。

 

「このカレー‥‥コクがないんだ」

 

「それじゃあ、どうやってそのコクを出すの?」

 

暁がコクを出す方法を尋ねる。

 

「コクを出す方法はコレ‥‥」

 

私はそう言って冷蔵庫からリンゴを取り出す。

 

「「「「リンゴ?」」」」

 

私はリンゴを擦り下ろし、鍋の中に入れ、かき混ぜる。

 

「このリンゴがコクを出す隠し味なんだ」

 

リンゴの甘みがカレーの辛さをより引き立てる。

隠し味であるリンゴを加えた後、暁達に改めて味見をして貰う。

 

「どう?」

 

「そう言われると‥‥」

 

「なんか、さっきよりも‥‥」

 

「味が深くなった気がするわ」

 

「なのです」

 

そして、カレーが出来上がったので、早速皆で試食することにした。

白いカレー皿の上に炊き立てのホカホカの白いライス

その上に出来たてのカレーをかける。

 

「さっ、完成だ‥‥それじゃあ‥‥」

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

スプーンにカレーを掬い、口へと運ぶ。

アルフォンスが言う通り、カレーはやはり、ライスがあると美味しさがより引き立つ。

 

「うん、美味しいわ」

 

「ほどよいコクとスパイスの味は口の中に広がるわね」

 

「お肉がとっても柔らかいわ」

 

「しかもルーにもほのかにお肉の味がするのです」

 

暁達にもこのカレーは好評で皆はおかわりをした。

暁達と後片付けをした後、いよいよ暁達とお別れの時間が来た。

 

「これが今日作ったカレーのレシピと使用したブイヨンスープのレシピ」

 

私はカレーとブイヨンスープのレシピを暁達に渡す。

 

「ありがとう、チト」

 

「カレー大会頑張ってね」

 

「ありがとう、チト」

 

「頑張るのです」

 

「Удачи тебе, до свидания. (ウダチ チービア、ダスビダーニャ。)」

 

「すまねぇ、ロシア語はさっぱりなんだ 」

 

普段は店主さんから料理を教えてもらう側だけど、こうして教えるのもなかなか楽しかった。

それに同い年の子とこうして一緒に何かをすると言う事が私にとってとても新鮮に思えた。

 

「それじゃあ、チト」

 

「今日はありがとう」

 

「また、一緒にカレーを作りましょうね」

 

「バイバイなのです」

 

「‥‥うん‥またね」

 

暁達はそう言って帰って行った。

 

またね‥‥か‥‥

 

あの世界では考えられない言葉だな。

 

夕方になり、ユーと店主さんが帰ってきた。

 

「おかえり」

 

「ただいま!!」

 

「戻ったぞ」

 

「それで、成果はどうだった?」

 

「いや~もう、大量大量」

 

「そう‥‥あっ、今日の夕食はカレーでいいかな?昼間に作ったんだ」

 

「うんいいよ」

 

夕食の席、私と暁達が作ったカレーを食べながらユーは今日行った釣りについて嬉しそうに語る。

海がどんなところだったのか、釣った魚について、そして、お昼に食べた釣りたての魚を使った『カイセン丼』と言う料理について‥‥

元々明るくムードメーカーの様な奴だったが、あの世界にいた頃と違い、今のユーは本当に嬉しそうだ。

あの世界にいた頃のユーは絶望と恐怖‥そして『死』に飲み込まれないように無理して明るくお気楽な態度をとっていたのだと今になって分かった。

 

寝る前、私は今日あった事を日記に記す。

暁達と出会った事、

その暁達と一緒にカレーを作った事、

そして、それについて私自身が思ったこと、

 

「ふぅ~」

 

私はペンを置き、日記帳を閉じる。

ふと、ユーを見ると、ユーは既に眠っていた。

 

「私も寝るか‥‥」

 

机の上の電気を消し、私も布団の中に入り、目を閉じる。

この世界は本当に毎日が面白い‥‥

日々変わる何もかもがあの世界とは大違いだ。

さて、明日は一体どんなことが待っているのだろうか?

私は明日、どんなことがあるのか?

どんな出会いがあるのか?

それに胸をときめかせ、眠りについた。

 

それから一週間後、暁達から一通の手紙が届いた。

早速封筒を開けてみると、中にはお礼の手紙の他に写真が入っていた。

同封されていたその写真にはカレー大会で優勝し、優勝トロフィーとよばれる金色の置物を掲げ、優勝メダルを首にさげて嬉しそうに笑みを浮かべた暁達の姿があった。

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