『まもなく、一番線に電車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください』
木組みの家と石畳の街にある駅のホームに警笛と共に電車が到着し、乗客達が乗り降りをする。
その中で、一人の金髪の少女が木組みの家と石畳の街の駅のホームに降り立った。
「ぬーん、此処がちーちゃんが居る木組みの家と石畳の街か‥‥」
金髪の少女、ユーリはチトの様子が気になり、ねこやの店主の許可をもらって木組みの家と石畳の街へとやって来たのだ。
それに今日の朝、ねこやで朝食を食べた後、アレッタが向こうの世界に帰ってしまったのだ。
今日の夜の事もあり、チトの所へ行くには丁度良い理由だった。
「さて、ちーちゃんが居るラビットハウスとやらに行きますか~」
ユーリはとチトの居るラビットハウスを目指した。
「えっと‥‥ラビットハウスは‥‥」
ねこやの店主から貰った地図を見ながらチトがヘルプで居るラビットハウスを目指すユーリ。
するとその途中で街中にあふれる野良ウサギを見つける。
「おっ、ウサギだ‥‥」
ユーリは野良ウサギをジッと見つめる。
ウサギの可愛さに心を奪われたのかと思いきや、
(丸々太って美味そう‥‥これだけ沢山いるんだし、アイツだけでも食べられないかな‥‥ウサギってまだ食べた事ないんだよねぇ~)
と、初日にチトが野良ウサギを見た時とほぼ同じ様な事を考えていたユーリ。
ユーリのそんな考えを読み取ったのか、野良ウサギは身体をビクッと震わせてその場から逃げていく。
「あっ、待て!!」
ユーリは野良ウサギを追いかけていく。
街中を駆け回りそして、遂に野良ウサギをゲットしたユーリ。
「おお、中々の手触り‥‥柔らけぇ~」
ゲットした野良ウサギに頬ずりするユーリ。
「ウサギ‥好きなんですか?」
「ん?」
ユーリは突如、後ろから声をかけられる。
突然背後から声をかけられた事によりビックリして、その隙にウサギはユーリの腕の中から見事脱出に成功した。
彼女が声をした方を向くと、そこには一人の女性が立っていた。
年齢は二十代前半と思われる女性で、ねこやの常連客の一人、チョコレートパフェこと、アーデルハイドに雰囲気が似ている女性だった。
「うーん‥‥好きと言うか、食べてみたい」
「えっ?た、食べ‥‥」
ユーリの回答があまりにも意外な回答だった為、女性は驚いた顔をする。
「な、何故、その様な感覚に‥‥?」
女性はユーリに何故、ウサギを食べてみたいのかを尋ねる。
「うーん‥‥潜在的に食べ物には貪欲な部分がまだ私には残されていたみたいだ」
ドヤ顔でユーリはその女性にウサギを食べてみたい理由を答える。
しかし、もしこの場にチトが居たら、「お前は何時でも食べ物に関しては貪欲だろう?」と突っ込んでいたに違いない。
(面白い子‥‥)
女性はユーリに興味を抱いた。
「あ、あの‥‥」
「ん?」
「ちょっと、お話‥いいですか?」
「えっ?」
その後、女性とユーリの姿は、街中にあるベンチにあった。
ユーリの手には女性が奢ったクレープが握られていた。
彼女としてはねこやからこの街までの移動でお腹が減っていたので、まさに渡りに船だった。
「それじゃあ、ユーリさんはこの世界の人ではないのですか?」
「うん。私とちーちゃんは世界が終わった世界を一緒に旅していたんだ」
ユーリはこの世界に来る前の出来事を覚えている分だけ、隣に座っている女性‥小説家の青山ブルーマウンテンに話す。
「それで、ヌコってヤツが、白くてモチモチしている手触りで美味しそうだったんだ‥‥ちーちゃんは火薬とオイルの味しかしないって言っていたけど、この世界でお餅を食べて、もしかしてヌコもお餅みたいな味なのかもって思っていたんだけどね‥‥まぁ、少しの間とは言え、私の方が大きなヌコに食べられたんだけど」
「そのヌコ‥さんはどんな姿だったんですか?」
青山はユーリにメモ帳とペンを渡し、ヌコがどんな姿だったのかを尋ねる。
ユーリは青山から受け取ったメモ帳にヌコの姿を描いた。
幸い、ヌコの姿は結構簡単な身体つきだったので、ユーリでも描くことが出来た。
「えっとね‥‥こんな感じ‥‥」
「まぁ~‥‥」
青山はユーリが描いたヌコの絵を見て思わず声を上げる。
(なんとなく、ラビットハウスのあのウサギさんみたいですね‥‥)
その後もユーリの話は続き、最後は車両も銃もなく、食料もなく、火を起こす燃料もなくなり、絶望の中、このまま『死』を迎えるかもしれないと言う中で、異世界食堂の扉を見つけ、その異世界食堂で食事をし、店主の好意からこの世界に居る事を青山に教えた。
そして、異世界人相手をしているねこやでのウェイトレス生活も青山に教えた。
「まぁ、私の話を信じるか信じないかは青山次第だけど」
普通ならば、ユーリの話はただの妄想としか思えない内容だが、青山は、
「いえいえ、貴重かつ、面白い話でしたわ」
と、満足した様子だった。
「そう言えば、ユーリさんは何故この街に?やはり、お祭りを見に来たのですか?」
「実は、ラビットハウスってお店にそのちーちゃんがヘルプに来ていて、その様子を見に来たのだ」
「まぁ、そうなんですか。では、そのちーちゃんさんも今日、貴女が来る事を知っているのですか?」
「いや、知らない筈だよ」
「それならサプライズで変装してこっそり訪れたら面白そうですね」
「おおおぉ、それいいかも!!」
青山のサプライズにユーリも乗る気になり、手に持っていたクレープを一口で片づけ、
「それじゃあ、私は行くから」
ユーリは青山に手を振り、チトの居るラビットハウスを目指した。
そして、ユーリが青山と別れた後、その場に残った青山は、
「世界が終わった世界を旅する女の子達‥‥異世界へ続く食堂‥‥面白そうな内容になるかもしれませんね‥‥タイトルは‥‥『少女終末旅行』 『異世界食堂』ってところでしょうか?」
青山はユーリの話を聞いて今度の新作の小説の内容にしようと考えたのだった。
ユーリと青山が分かれ、ユーリがラビットハウスを目指している道中で、ウサギを模したカチューシャにメイド服っぽい制服をきた髪にウェーブがかった金髪の少女がチラシ配りをしていた。
「折角のお祭りなのにバイトだなんて‥‥でも、そんな日だからこそ、今日のバイト代はいつもよりも多いのよね」
愚痴りつつもチラシを配り続ける金髪の少女‥桐間紗路。
「はぁ~先輩と一緒にお祭り回りたかったなぁ‥‥あっ、でもラビットハウスの方もきっと混んでいるからやっぱり無理かぁ~」
シャロは誰かと一緒に今日のお祭りを回りたかったみたいだ。
「さて、追加のチラシを‥‥」
シャロは追加のチラシを取りに戻ろうとしたら、彼女の傍に野良ウサギが集まって来た。
彼女は昔、ウサギとの間にとある事があり、ウサギがトラウマになっていたことからウサギは彼女にとって恐怖の象徴になっていた。
しかし、何故か彼女はそのウサギに懐かれる体質だった。
「ひっ!?」
「‥‥」
シャロが一歩後退ると野良ウサギ達は一歩前に近寄る。
「い、いやぁぁー!!」
野良ウサギ達に恐れをなして思わずシャロはダッシュで逃げる。
しかし、ウサギも動物‥目の前で突如、逃げ出した獲物を追いかけるかのようにシャロの後を追ってきた。
「ひぃ~!!」
滅茶苦茶に逃げている内に行き止まりに来てしまった。
逃げ場所はもう無い。
野良ウサギ達はシャロに迫って来る。
「ひぃ~こないでぇ~!!」
シャロが幾ら野良ウサギ達に頼んでも野良ウサギ達は歩みを止めず、近付いてくる。
(も、もうダメ~!!私、きっとこのままウサギにかじられてボロボロにされるんだわ~!!)
シャロが目を閉じて半ばあきらめかけた時、野良ウサギ達の進撃がピタっと止まる。
恐る恐るシャロが目を開けてみると、其処には自分と同じ金髪の少女が一人立っていた。
野良ウサギ達はその金髪の少女をガン見している。
金髪の少女も野良ウサギ達を見ている。
しかし、金髪の少女の目は虚無感があるような目で野良ウサギ達を見ている。
野良ウサギ達は本能的に察した。
この金髪の少女はこの街に居る人間とは異なる事を‥‥
何よりも彼女の目‥‥
あれは、自分達を愛でる目ではなく、狩る目だ!!
あれが狩人と呼ばれる人間の目なのだろう。
あの人間は自分達のことを愛でる存在ではなく、食べる存在としてしか見ていない。
金髪の少女が一歩近づくたびに自分達の死が近づいている様な感覚に襲われる。
そして金髪の少女が一歩近づくたびに野良ウサギ達は一歩後退る。
やがて、金髪の少女が手を伸ばそうとした瞬間、事態は動き出す。
野良ウサギ達は文字通り、脱兎の如く、逃げていく。
他の仲間がもうどうなろうと知った事ではない。
今は自分の身の安全が優先される。
路地から野良ウサギ達が消え、その場に残ったのは二人の金髪の少女達‥‥
ウサギが消えた事でやって来た方の金髪の少女は興味が失せたのか踵を返す。
「あ、あの‥‥」
シャロは恐る恐る助けてくれた金髪の少女に声をかける。
「ん?」
「あ、あの‥た、助けてくれてありがとうございました。その‥‥お名前を伺ってもよろしいですか?」
「いえいえ、名乗る程のモノではありませんよぉ~」
金髪の少女はそう言い残し、去って行こうとする。
シャロは去って行く金髪の少女を呆然と見ていた。
しかし、金髪の少女は何かを思い出したかのように突如、踵を返して、シャロに近づき、
「な、なんでしょうか?」
やや怯えながらシャロはまだ何か用があるのかと問う。
「あの~‥‥此処からラビットハウスって言う喫茶店にはどう行けばいいのかな?」
「はい?」
「いや、駅からラビットハウスまでの地図を書いて貰っていたんだけど、ウサギを追いかけるのに夢中になって地図の範囲外に出ちゃったみたいで‥‥」
金髪の少女はシャロに現在絶賛迷子中である事を告白する。
「ラビットハウスでしたら、此処から‥‥」
シャロは金髪の少女に現在位置からラビットハウスまでの道のりを教える。
「どうも~‥‥あっ!!」
金髪の少女はシャロにお礼を言って行こうとするが、再び踵を返して、
「ねぇ‥‥」
「は、はい」
「この近くで変装に使えそうな道具が売っているお店は知らない?」
「はい?」
今度は変装道具が売っているお店を知らないかと尋ねてきた。
流石にスパイや怪盗が使う様な本格的な変装道具を売っているお店はないので、変装に使えそうな小道具が売っているお店をシャロは目の前の金髪の少女に教えた。
「どうも~それじゃあねぇ~」
ラビットハウスまでの道のりと小道具が売っているお店の場所を聞いて今度こそ、金髪の少女は去って行った。
その後ろ姿を見てシャロは、
「‥‥変わった人」
とポツリと呟いた。
シャロが野良ウサギ達に襲われ謎の金髪の少女に助けられてから暫く経った頃、ラビットハウスでは、
とある輸入雑貨の貿易商が帰った後もお客の入りは昼時程ではなく、まったりとした時間が流れていた。
その時店の外では、
「此処が‥ラビットハウス‥‥ウサギの家‥‥ウサギが居るのかな?それともウサギ料理を食べられるのかな?‥‥兎に角、入ってみよう」
一人の人物がラビットハウスの看板を見て呟いた後、ラビットハウスの扉を開けた。
「「「いらっしゃい‥‥ませ」」」
そのお客はサングラスとマスクをして、店内をキョロキョロと見渡している不審な客だった。
(あれ?ウサギが居ない‥‥それにちーちゃんも居ない‥‥)
ラビットハウスと言う名前のわりに店内にはウサギは居なかった。
(やっぱり、ウサギを使った料理を出すのかな?)
「お、お好きな席にどうぞ」
チノに促されてテーブル席に着く不審なお客さん。
そのお客さんはメニューを見るが、
(あれ?ウサギの料理もない‥‥)
メニュー表の中にもウサギを使った料理もなかった。
「お冷とおしぼりです」
不審なお客さんに小柄で青髪の少女‥チノが水とおしぼりを持ってくると、その不審なお客さんはその青髪の少女の頭の上に乗っている白い生き物に興味を示す。
「ん?ヌコ?」
「これですか?これはティッピーです。一応うさぎです」
「ウサギ!?」
(あれ?この人の声、ちーちゃんに似ているな‥‥)
不審なお客は自分の友達と目の前にいる青髪の店員の声が似ている事を心の中で感じる。
「えっと、ご注文は?」
「じゃあそのうさぎ!」
「非売品です」
即座に却下するチノ。
「ええぇ~‥‥じゃあ、せめてちょっと触らせて」
「コーヒー一杯で一回です」
「じゃあ、三杯」
「‥‥」
(なんか、前にもこんな事があった気がします)
この不審なお客さんとのやり取りに関してチノはデジャヴを感じた。
注文を聞いてカウンターへと戻るチノ。
そこで、リゼは、
「あの風貌‥‥もしかして、スパイか?あるいは裏世界の関係者かもしれない」
「他の発想はないんですか?」
リゼの推測にツッコミを入れるチノ。
「でも、あの人ちょっと怪しいよぉ~もしかして強盗さんかもしれないよぉ~」
しかし、ココアもやはりあのお客さんは怪しいと言う。
「やはり、悪人か!?」
リゼは強盗と聞いてモデルガンを構える。
「芸能人とか花粉症とかあるじゃろう?」
そんな中、ティッピーだけはお客さんを擁護する。
不審なお客さんに不審感を感じつつチノはコーヒーサイフォンで同じモノではなく、三種類のコーヒーを淹れる。
「でも、なんか、チノちゃんとあのお客さんのやり取り‥昔を思い出すなぁ~」
「えっ?」
チノと不審なお客さんとのやり取りを見ていたココアが思わずポツリと呟く。
「ほら、私が初めてラビットハウスに来た時もチノちゃんがコーヒー三杯淹れてくれたじゃん」
「ああ‥‥」
デジャヴを感じていたチノであったが、ココアの呟きで思い出す。
「あの時、私はチノちゃんが淹れてくれたコーヒーの銘柄を全部外したっけ?」
「ええ‥しかもウチのオリジナルブレンドをインスタントコーヒーと間違えるぐらいに‥‥」
「あははは‥‥」
自分の家のオリジナルブレンドをインスタントコーヒーと間違えられた事を思い出してちょっとイラッとするチノ。
ココアは気まずそうに乾いた笑みを浮かべて誤魔化す。
「お待たせしました」
コーヒーの入ったカップが三つ、テーブルの上に置かれる。
湯気と共に淹れたてのコーヒーの香りが漂う。
「コーヒー三杯頼んだから、ソイツを三回触る権利を私は手に入れたわけだ」
「いいですけど、冷める前に飲んでください」
「うむ、ではいただきます」
不審なお客さんはマスクを外してコーヒーカップに口をつける。
まずは一杯目‥‥
「ふむ、この芳醇な甘み、やわらかな苦みとコク、豊かなフルーティーさ‥‥酸味も突出せずバランスがよくマイルドなこの味は‥‥コロンビアだね」
コーヒーの銘柄が合っているかを尋ねる不審なお客。
「正解です」
続いて二杯目‥‥
「‥‥酸味と苦味がバランス良く調和し、甘いコクと上品な香り‥‥雑味の無い後味で飲みやすく、自然の恵みを感じるナチュラルテイストなこの味は‥‥これはキリマンジャロだね」
「正解です」
三杯目‥‥
「バランスの取れたまろやかな味わい‥‥そしてなんだかリラックスできるような安心する味‥‥そして、あっさりしていて何杯もいけるようなこの味は‥‥ブルーマウンテン‥いや‥コロンビア‥でもない‥ブラジル‥‥‥うーん‥‥これはブレンドだね」
「‥‥正解です」
不審なお客さんは三杯のコーヒー全ての銘柄を言い当てた。
「がはっ!!」
そのお客さんを見ていたココアは物凄く悔しがっていた。
「凄いな、あのお客‥‥やはり、只モノではないな‥‥」
リゼは平然と三杯のコーヒーの銘柄を当てた不審なお客はやはり只モノではないと感じる。
約束通り、コーヒー三杯を頼み、しかも銘柄までも当てた不審なお客はチノからウサギ(ティッピー)を受け取り、撫でている。
しまいには頬ずりをしている。
「うわぁ~やわらけぇ~‥‥おっと、ヨダレが‥‥」
「ノォォ―――――――!」
突如、不審なお客さんの腕の中に居るティッピーが叫び声をあげる。
「あれ?今このウサギ叫ばなかった?」
「気のせいです」
「いやぁ~それにしても、この感触‥‥ヌコと似ている様で毛皮がある分、フワフワとした弾力があるなぁ~‥‥食べたらどんな味がするのかなぁ~」
再び不審なお客の口からヨダレが垂れる。
獣の本能として身の危険を感じたティッピーは、
「えぇぇい!早く離せ!この小娘がぁ!」
再び不審なお客の腕の中で暴れながら叫ぶティッピー。
そこへ、丁度、
「おやつのマフィン焼けたよ」
チトがココア達の為におやつのマフィンを焼いて持って来た。
すると、チトの目には不審なお客に抱かれているティッピーが、
「えぇぇい!早く離せ!この小娘がぁ!」
と、叫んだのが聞こえた。
「あれ?今、アルトリウスの声が聞こえなかった?」
(今、おじいさんの声が聞こえた様な気が‥‥)
不審なお客とチトはティッピーの声に聞き覚えがあった。
それよりも今、チトが気になったのは、
「ん?お前もしかしてユーか!?」
チトは一目で不審なお客が誰なのかを見破った。
「おぅっ!?流石ちーちゃん」
正体を見破られ、不審なお客‥もとい、ユーリはバッとサングラスを外す。
其処には確かにユーリの姿があった。
「お前、何で此処に!?」
「いやぁ~ちーちゃんの様子が心配になって見に来ちゃった~」
「『ちゃった』って‥‥」
「あっ、勿論テンチョーの許可は貰っているよ」
「そう言う問題じゃ‥‥」
「いやぁ~それにしてもちーちゃんのコック姿良く似合っているよぉ~」
「う、うるさい」
チトがユーリの行動に呆れていると、ココア達はチトとユーリのやり取りを呆然と眺めている。
しかし、いつまでも眺めている訳にはいかないので、
「あ、あの‥チトさん、その人は‥‥?」
チノがチトにその不審なお客の事を知っているのかと尋ねる。
「ああ、コイツが朝、話したユーリだ」
「この人が‥‥」
「チトちゃんの友達‥‥」
(あれがチトの友達‥‥確かにあの据わった目は只モノではない)
チトから射撃が上手いと聞いていたリゼはユーリが例え正体を現してもただならぬ雰囲気を纏う人物だと印象を抱いた。
「おおぉ!!それは、ちーちゃん特製のマフィンではないか!?」
「お前はいつでも食べられるからいいだろう?今回は遠慮しろ」
「えええーっ!!」
ユーリはチトが作ったマフィンが食べられないと言う事でがっかりしている様子。
「いいじゃん、コーヒー三杯飲んで、口の中が苦いんだよぉ~」
「なんでそんな事になった?」
「コイツを触らせてもらえるにはコーヒー一杯飲まなきゃならなかったんだよ」
ユーリは自分の腕の中に居るティッピーをチトに見せる。
「ちーちゃんも触ってみなよ。コイツ、ヌコに似ている手触りだよ」
そして、チトにティッピーを差し出す。
「‥‥」
チトとティッピーの目が合う。
「‥‥」
「‥‥」
そして、自然とチトの手がティッピーへと近づく。
ナデナデ‥‥
(ふむ、声はチノに似ていてもやはり手の感触は違うのう‥‥)
チトに撫で慣れながらティッピーは例え声が似ていても撫でる手の感触はチノとチトは違うものだと認識した。
チトのマフィンについては、ココア達が「ユーリちゃんも一緒に食べよう」と言ったので、ユーリもチトのマフィンにありつくことが出来た。
チトの作ったマフィンは、外はサクサク、中がふわっふわでケーキの様な食感で美味しかった。
尚、チトのマフィンを一番多く食べたのはユーリだった。
おやつの時間時になり、ラビットハウスは再びお客の波が押し寄せてきた。
「なんか、お店‥混んできたね」
マフィンを食べながら店内の様子をポツリと呟くユーリ。
「おやつの時間‥午後のティータイムの時間なんだろう」
「ユー、お店が混んで大変になりそうだ。私は大丈夫だから、もうねこやに戻ったらどうだ?」
チトはユーリに帰れと言うが、
「それなら、私も手伝おう」
と、帰らず、チト達の仕事手伝うと言う。
「いや、別に‥‥」
チトが断ろうとしたら、
「ええ!?いいの!?それじゃあ、一緒にやろう!!」
と、ココアがユーリと一緒に働く気満々であった。
「えっ?ちょ、ココア‥‥」
チトがココアを止めようとしたら、
「そうだな、人手は一人でも多い方がいいし。制服は私の予備のヤツを使ってくれ」
何故かリゼもココアに賛同する。
彼女の場合、朝チトが言っていたユーリの射撃の腕前もこの際、見てみたいと言うの部分があった。
「‥‥チノはいいのか?」
そこで、チトはチノに意見を求めるが、
「ああなってしまったココアさんを止めるのは無理です。それにリゼさんの言う事も尤もでありますし」
と、半ばあきらめるかのように言った。
こうしてイレギュラーながらもユーリもラビットハウスで働く事になった。
ユーリもねこやでウェイトレスをしているだけあって、中々様になっていた。
「ユーリさん‥コーヒーの銘柄を当てたりできるので、もしかしたらココアさんよりも優秀かもしれませんね」
「がはっ!!」
チノの呟きを聞いたココアはまたもやショックを受ける。
夕方になり、ラビットハウスは一時閉店し、次の開店は夜、バーとなってからになる。
皆で食器など片づけ、店内を清掃している時、ココアが、
「ねぇ、これから皆でお祭りに行こうよ」
と皆を祭りに誘う。
この街の祭りは夜も行っており、今から行ってもそれなりに祭りを楽しめる筈だ。
「そうだな、今日はずっと働きっぱなしだったし、最後ぐらい祭りを楽しむのもいいな」
リゼもココアの提案に賛成する。
「チトちゃんもユーリちゃんも折角来たんだから、お祭りに行こうよ」
ココアは続いてチノとユーリも祭りに誘う。
「おお、お祭り‥美味しいモノが沢山食べる事が出来そう」
「お前は食べ物の事しか頭にないのか?」
チトがやや呆れる感じでユーリに言う。
こうして話は決まり、ラビットハウスの皆でお祭りへと行く事になった。
お祭りの会場は洋風のこの街に若干に合わない、屋台が並ぶエリアにチト、ユーリやココア達の姿があった。
チト達が屋台を見て回っていると、
「おっ?チノじゃん!!おーい!!」
「チノちゃん!!」
チノに声をかける八重歯が特徴的な子とおっとりとした雰囲気の子がいた。
「マヤさんにメグさん」
「おっ?アイツらも来ていたのか」
チノやリゼの口調からあの二人はどうやら、チノ達の知り合いの様だ。
「やあやあ、妹達~」
ココアは声をかけた二人を抱きしめる。
自称自分の妹達とのハグを堪能したココアは二人から腕を離す。
すると、二人はココアの行動を唖然として見ていたチトとユーリの存在に気づく。
「あれ?そこの二人は誰?リゼかココアの知り合い?」
八重歯が特徴的な子がリゼに尋ねる。
「ああ、この二人は今日、ラビットハウスの手伝いに来てくれた人達だ」
リゼが、八重歯が特徴的な子とおっとりとした雰囲気の子にチトとユーリを紹介する。
最も正式なヘルプはチトなのだが、結果的にユーリも手伝ってくれたので、チトと一括りにして紹介したのだ。
「へぇ~そうなんだぁ~でも、チノも水臭いな、お店が大変なら私達が手伝ったのに」
「いえ、今回のヘルプは厨房の人なので、マヤさん達には無理です」
チノは二人を手伝いに呼べなかった訳を話す。
「はじめまして、チノの友達のマヤでーす!!」
「メグです。よろしく」
チノの二人の友人はチトとユーリに自己紹介をする。
「私はユーリだよぉ~」
「チト‥です」
チトとユーリもメグとマヤに自己紹介をする。
すると、
「すげぇ!!この人、チノの声と全く一緒じゃん!!」
「ホント、そっくりです」
やはり、チノとチトの声が似ている事に驚く。
「しかも名前が一文字違いだし・・・・はっ、まさかっ!?」
「どうしたの?マヤちゃん」
「チトってチノの生き別れた姉妹なんじゃ‥‥」
「そうなの?」
「「いえ、ちがいます」」
メグとマヤもココア同じく、チノとチトが実は双子の姉妹なのではないかと言う疑問を抱くが、当然のようにチノとチトはそれを否定した。
「でも、チトはチノに声も名前も似ているから、私達『チマメ隊』の補助隊員だね」
メグは、チトは『チマメ隊』の補助隊員だと言いうが、言われたチト本人はメグの言う『チマメ隊』が一体何なのか分からない。
「チマメ隊?なんだ?その痛そうな隊は?」
「私達の名前の頭文字をとった隊だよ」
マヤがチマメ隊の由来をチトに教える。
「そ、そうなんだ‥‥」
その後、メグとマヤを含めたメンバーは屋台街を練り歩く。
「ちーちゃん、見て見て、雲が売っているよ!!」
綿あめを見て、興奮しているユーリ。
「た、確かに雲そっくりだ‥‥食べ物‥みたいだが‥‥」
チトも綿あめを見るのはこれが初めてでコレが一体何なのか分からない。
「‥‥食べてみようか?」
チトとユーリは綿あめを買った。
「「‥‥」」
買った綿あめをジッと見つめる。
「綿あめを食べるのに何故そこまで緊張した面持ちになるんだ?」
リゼが綿あめをジッと見ているチトとユーリに疑問を抱くように呟く。
「じゃ、じゃあ‥‥」
「う、うん‥‥」
「「あむ」」
二人は綿あめにかぶりついた。
「おぉぉー!!甘い!!」
「それに一瞬で溶けた‥‥」
綿あめは口の中に入れると一瞬で消えてしまうが、そんな中でも甘みを残していく。
それはまさしく雲を食べているかのようだった。
その後もユーリは屋台の食べ物は片っ端から食べて歩いた。
彼女の食べっぷりにマヤやココアも競い合うかのように食べた。
そんな中、チョコバナナを買って食べた時、ユーリの食べ方がちょっとエロく見えた。
ユーリの姿を見てリゼ達は顔を赤くするが、チノとチト、そしてユーリ本人は何故、リゼ達が顔を赤らめているのか理解出来なかった。
屋台街を進んで行くとリゼが射的の屋台を見つける。
(((食い意地が張っているって言うのは本当だった‥‥)))
両手いっぱいに屋台の商品を抱えながら食べ物を食べているユーリの姿を見てチトが言っていた事が事実だったと認識したココア達だった。
(そう言えばチトがユーリは射撃が得意だと言っていたな‥‥)
そしてリゼは、ユーリは射撃が得意だと言っていたチトの言葉を思い出し、
「な、なぁ、ユーリ」
「ん?なに?」
「チトから聞いたんだが、ユーリは射撃が得意って聞いたんだが、その腕前を見せてくれないか?」
と、ユーリを射撃に誘った。
コルク銃に弾のコルクを込めると、ユーリは屋台の人に銃口を向ける。
「お、お嬢ちゃん、僕は景品じゃないから」
ユーリはなんか勘違いしていた。
気を取り直してユーリがコルク銃の銃口を景品に向ける。
そして引き金を引く。
すると、次々に景品はユーリの撃ったコルク弾に当たり倒れていく。
「ふむ、こんなモノかな?」
「凄いな‥‥」
リゼもユーリの射撃の腕には脱帽だった。
「ちーちゃんも撃つかい?」
「いや、私はいい‥‥」
「ちーちゃん、下手だもんね」
「うるさい」
続いては型抜き‥‥此処ではチノとチトが物凄い集中力で型抜きを行った。
しかし、普段から落ち着きのないココアやマヤ、ユーリには不向きなモノだった。
更に屋台通りを進んで行くと、イベント用の舞台が設置されていた。
その舞台では、カラオケ大会が開かれていた。
「おおぉスゲェ!!チノ、マヤ、私達も参加しようぜ」
「「えっ?」」
メグはチノとマヤの手を引いて受付へと行き、舞台に上がり歌を披露する。
それを見たユーリも、
「ねぇ、ちーちゃん」
「なんだ?」
「私達も歌おうか?」
「えっ?で、でも‥‥」
チトはあまり乗る気ではない様子。
実はチトはあまり歌が上手くない事をちょっとだけ気にしている。
「大丈夫だって、私がフォローしてあげるから」
「ちょ、ユー!!」
そう言ってユーリはチトの手を引っ張り舞台へと向かう。
「で、でも歌うって何を歌うんだ?」
ユーリは演奏担当の人からオリジナルの歌を歌うのでアコースティックギターを借りて自らが演奏しながら歌うと言う。
「ほら、昔、ちーちゃんと雨宿りしながら一緒に歌をうたったじゃん」
「ああ、あの時か‥‥」
確かにユーリの言う通り、まだ自分達があの世界に居た時、雨宿りしながら歌を歌った事が有る。
「あの歌なら、ちーちゃんが歌がヘタでもそう言う歌なんだってみんなそう思ってくれるって」
「でも、ユー、お前ギターなんて弾けたのか?」
「うん、唯達に少し教わったから」
そう言いながらチューニングしてギターの音を整えるユーリ。
「じゃあ、行こうか?」
ユーリがチトに手を伸ばす。
「‥‥しょうがない奴だな」
チトも覚悟を決めてユーリの手を握る。
そして、舞台へと上がり歌を歌う。
「「今、世界が動き出したぁ~あらゆる音楽と共にぃ~♪」」
歌い終わると、会場からは拍手が飛び交う。
「チトちゃんとユーリちゃん歌が上手いね」
「ほんとびっくりです‥‥私も練習すれば出来るでしょうか‥‥」
舞台から降りるとココア達からも褒められた二人だった。
お祭りを楽しんだチトとユーリ。
「そう言えば、ユーはどうやって帰るんだ?来た時の様に電車で帰るのか?」
「えっ?ちーちゃんと一緒に帰るつもりなのだが‥‥」
チトはユーリに帰りの方法を尋ねる。
すると、ユーリはチトのバイクで帰るつもりでいるらしい。
「マジか‥‥」
「いいじゃん、二人で一緒に旅をするのも久しぶりだし」
「‥‥それもそうだな」
こうしてユーリはチトのバイクで帰る事になった。
予備のヘルメットはシートの下の収納スペースにあるので、問題はない。
お祭りから帰ると、ユーリはその日、チトと同じくラビットハウスに泊まった。
勿論、ココアやチノもチトとユーリも一緒に眠った。
流石にお風呂は四人では入れないので、チノとチト、ココアとユーリが一緒に入った。
そして、翌日‥今日は学校なのでリゼはチトとユーリの見送りには参加できなかった。
「それじゃあ、お世話になりました」
「どうも」
「いや、こちらも助かったよ」
「また来てくださいね」
「私はいつでも待っているからね」
ラビットハウスの皆はチトとユーリを見送ってくれた。
「それじゃあ」
「またね~」
ユーリを後ろに乗せたチトのバイクは木組みの家と石畳の街を後にする。
そして街の外まで来ると、
「さて、どっちから行くかな?」
道の分かれ道まで来ると、どちらへ進むかチトが悩む。
どちらを通ってもねこやへ戻れる。
すると、
「ちょっと待って‥‥」
ユーリは指を口の中に入れ、指を唾液で湿らせた後、風の流れを感じる。
「うーん‥‥こっち」
「風の吹くまま‥‥それも悪くはないな」
回り道をしながらもチトとユーリは店主が待つねこやを目指した。