某県冬木市にある衛宮家は、普段は女性の声が絶えないのだが、この日は静まり返っていた。
衛宮家にはこの家の住人である衛宮士郎、そしてある訳で士郎の下に厄介になっているセイバーこと、アルトリア・ペンドラゴン。
衛宮家と古くからの縁がある藤村家の女性で、士郎が通う穂群原学園の教師、藤村大河。
士郎の後輩でよく衛宮家の家事を手伝ってくれている間桐桜。
そして、セイバー同様、ある訳で桜の下で厄介になっているライダー。
同じ学校の同級生である遠坂凛。
士郎の事を『お兄ちゃん』と呼ぶイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
彼女らは半ば下宿する様な形で衛宮家に居る事が多く、朝夕の食事も共にしていた。
しかしこの日、大河は職場の人達と一緒に飲み会へと行き、凛と桜は女子会に参加していた。
事の発端は、凛の友人であり、桜の部活の先輩である美綴綾子が突如、女子だけの食事会をやろうと言って凛に声をかけ、凛が桜に声をかけた。
桜は『自分が行くなら』と、ライダーを誘った。
そして、綾子と凛の話を聞いた蒔寺楓が友人である氷室鐘と三枝由紀香を誘い、女子会へと参加して行った。
凛はセイバーにも当然声をかけたのだが、そのセイバーが『私まで参加すると士郎が一人になってしまうので、今回は見送ります』と参加を断ったのだ。
もし、その場に士郎が居たら、『俺の事は気にしないで行ってこいよ、セイバー』と言っていただろう。
イリヤは、理由は不明だが、今日は何故か衛宮家に姿を見せなかった。
恐らくアインツベルン家のメイドにでも捕まったのだろう。
アインツベルン家にはイリヤの世話係として二人のメイドが居る。
その中の一人、リーゼリットこと、リズはイリヤを喜ばせるものを好み、逆にイリヤを悲しませるものを嫌うイリヤ至上主義者でイリヤとは主人とメイドというよりも、友達か姉妹のような関係なので、イリヤの行動をそこまで制限したり注意したりはしない。
反対にもう一人のメイドのセラはイリヤに強い忠誠を誓っているが、教育係としてやや口うるさく神経質な所があるので、イリヤに『下々の家に度々玉体を運ぶのはいかがなものかと』などと言ってイリヤの衛宮家への外出を控えさせたのだろう。
セラは士郎に対して敵意があるので、自分の大切な主人がその毛嫌いしている家に度々出かける事に対してあまり好意を抱けないのだろう。
よって、今日の衛宮家にいるのは士郎とセイバーの二人だけだった。
「なんか、セイバーと二人だけって言うのも随分と久しぶりな気がするな」
「そうですね」
台所で夕食の支度をしながら士郎はセイバーに声をかける。
声をかけられたセイバーは茶の間に座り、お茶の入った湯飲みを見ながらしみじみと呟く。
皆でワイワイと楽しくするのもいいが、たまにはこうして静かに過ごすのも悪くない。
衛宮家の台所からはグツグツと鍋の煮える事がして、トントンとリズムよくまな板で食材を切る音がする。
そんな中、
「あっ、そう言えば‥‥」
「ん?どうかしましたか?士郎」
と、士郎は何かを思い出したかの様に声を上げる。
「いや、今日の朝の事なんだが‥‥」
士郎はセイバーに今朝の事を話し始めた。
朝、士郎がいつもの様に自らの母校である穂群原学園へ登校している時、
「衛宮」
「あっ、一成か、おはよう」
「おはよう」
士郎に声をかけたのは士郎の同級生であり、穂群原学園の生徒会長を務める柳洞 一成だった。
二人は世間話をしながら登校していると、
「時に衛宮」
「ん?なんだ?」
「衛宮はなかなかの食通だと思うのだが‥‥」
「食通かどうかは分からないが、まぁ、料理を作るのは好きな方だし、美味い料理は自分の料理の良い参考になるからな、それでよく料理本や料理番組は見るけど‥‥それがどうかしたのか?」
「い、いや‥‥それで、衛宮は外食とかはするか?」
「外食?うーん‥‥商店街にあるたい焼き屋とかにはよく行くけど、あまりレストランとかには行かないなぁ‥‥」
「そうか‥‥」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、先日の休みにちと、遠出をしてな、そこで食べたある店の料理がなかなかの美味であったのだ。店主の料理の腕も勿論だが、あれは食材もかなりいいモノを使用していた。特に肉や乳製品はまさに一級品とも言える味だったぞ」
一成は先日の旗日の休日に出かけ先で食べた店の料理が美味しかった事を士郎に話し始めた。
「へぇ~でも、そんなに良い食材を使っている店なら、値段もかなり高いんじゃないか?」
「いやいや、それがなかなかの食材であったにもかかわらず、値段は良心的な値段であった」
「それで、どんな店の料理なんだ?」
「洋食屋の『ねこや』と言う料理屋の料理だ」
「『ねこや』?」
「うむ、洋食屋なのだが、メニューの中には洋食以外のモノも数多くあった一風変わった店でな」
「へぇ~そんな店があるんだ~」
士郎は食事に関してややうるさい一成が褒めるその洋食屋に少し興味が湧いた。
「うむ、コレを見てくれ」
そう言って一成は士郎にスマホを差し出す。
一成のスマホの画面にはねこやで撮影したと思われる写真が表示されていた。
その写真には数々の料理の写真や店内の写真があったが、料理の写真に関しては確かに洋食以外の料理もあった。
「確かに、いろんな料理があるな‥‥それにどれも美味そうだ」
「だろう?衛宮も是非一度行って見てくれ、きっと気にいる筈だ」
「ああ、そうだな」
「‥‥って、事が有ってな、洋食屋だけど、洋食以外のモノを出す店があるらしいんだが‥‥「士郎!!」」
士郎が一成の言っていたねこやについてセイバーに伝えると、さっきまで茶の間に居た筈のセイバーが一瞬の内で台所に居る士郎の下へ物凄い形相で迫って来た。
「せ、セイバー?」
「そのねこやと言う洋食屋に行きましょう!!」
「はい?」
「洋食屋なのに様々な料理を提供する洋食屋‥極上の肉‥‥行きましょう!!ぜひ、行きましょう!!直ぐに行きましょう!!」
先程まで物凄い形相だったセイバーは一転し、目を輝かせて士郎に迫る。
「で、でも、こうしてもう夕食の準備が出来ちまったし、今からそのねこやがある街までいくのは時間がかかるから流石に今日は無理だ」
「そ、そんな‥‥」
セイバーの背後に『ガーン』と文字が浮かび上がり、目を見開き、顔色が悪くその場にorzの姿勢で項垂れる。
「せ、セイバー‥その今日は無理だけど、次の土曜は学校が休みだから、その日に行こう?なっ?」
「は、はい‥‥」
セイバーは今日、ねこやに行けなかった事にショックを受けながらも今日の夕食に舌鼓をうち、機嫌はなおった。
そして、やって来た土曜日‥‥
士郎はセイバーを連れて、ねこやのある街へと向かった。
セイバーと二人で行く約束?をしていたので、士郎はセイバーと二人っきりで出かけた。
凛達は二人っきりで出かける士郎とセイバーを不審がっていたが、セイバーが凛達に釘を刺して、士郎とセイバーは二人っきりで出かける事が出来た。
ねこやの場所は事前に一成から聞いていたので、士郎とセイバーは迷うことなくねこやに行く事が出来た。
行きの電車の中でセイバーはねこやの料理が待てないのかソワソワと落ち着きがなく、その姿は王様や騎士には見えず、ごくごく普通の女性らしく見えた。
士郎はその姿を見て思わず苦笑した。
しかし、セイバーはその期待を崩されることとなった。
「なっ!?」
セイバーはねこやの扉の前で絶句した後、フラフラとした足取りでその場にorzの姿勢で倒れる。
「あら~」
士郎は『やっちまったなぁ~』と言う顔をした。
ねこやの正面口の扉には『本日休業』と言う看板が立てられていた。
ねこやは月火水木金の旗日でも開いているが、土日は休みだったのだ。
流石の士郎もまさかねこやが今日は休業日だったとはリサーチ不足だった。
話を聞いた一成は旗日の休日とは言え、本来の日付は平日である日に来ていたからねこやが開店していたのだ。
「し、士郎‥‥」
セイバーは俯きながら底冷えする様な声を出す。
「せ、セイバー‥‥?」
「士郎‥‥これはあまりにも無情です!!」
「あ、ああ‥‥」
「お腹を空かせた私にこの仕打ちはあまりにも残酷です!!」
「あ、ああ‥そうだな‥‥」
「こうなれば、エクスカリバーを打ち込んで、ねこやの店主を叩き起こしてやりましょう!!そして、私に料理を!!」
「せ、セイバー、流石にそれはやり過ぎだ!!」
士郎は慌ててセイバーを羽交い絞めにして、セイバーを止める。
セイバーがエクスカリバーを叩き込んだら、ねこやの入っている建物自体が崩壊してしまう。
「休みなのはどうしようもないだろう!?」
「し、しかし!!」
「お店は此処だけじゃないから、代わりの店で食事をしよう?なっ?」
「うぅ~‥‥わ、わかりました」
士郎に言われ、セイバーは悔しさを滲ませながらねこやを後にし、別の料理屋を探しに行った。
その最中、路地裏から何やら揉める様な声が聞こえてきた。
ねこやは平日は開いているが、土日は休みであるが、土曜に限っては表向きの休日であり、土曜のねこやには異世界の住人たちがねこやの料理を食べにやって来る。
その日は平日よりも大変だ。
何せ、ねこやを訪れる異世界の住人達は、この世界の住人達と違って週に一度しかねこやの料理を食べる事が出来ないのだから‥‥
その為、異世界の住人達はねこやに来るとねこやの料理を沢山食べていく。
通常は前日に沢山の食材と料理を仕込んでいるのだが、イレギュラーと言うのは突然にして起きる。
今日は何時にも増して思いの他、異世界の住人達の食が多く食材が尽きそうだったのだ。
そこで急遽、チトとユーリが買い出しに出掛ける事になった。
アレッタはやはり、頭の角があるし、クロは会話をするのにテレパシーを使用するので、異世界ではないこの世界の住人にとってはクロの会話方法は不味い。
そこで、異世界人ながらもこの世界に移り住んだチトとユーリが選ばれるのもごく自然なチョイスであった。
「えっと‥‥これで、買い出しは終わりかな?」
「ああ、急いで戻ろう。店主さんも待っているだろうからね」
「そうだね~」
チトとユーリは買い出しのリストを確認しながら買い忘れが無いかをチェックしながらねこやへと戻って行く。
ねこやでは店主が今、自分達が持っている食材を待っているので、チトとユーリの二人はねこやまでの道のりをショートカットする為に普段は通らない路地裏を通った。
いや、通ってしまった。
チトとユーリの二人が路地裏を通って行く姿をニヤついた男達が見ていた事を気づかずに‥‥
それからすぐにチトとユーリは怪しい男達に囲まれてしまった。
「お嬢ちゃん達、お兄さん達と一緒に遊ばない?」
「ゆ、ユー‥‥」
チトとユーリはこれまでこの様な経験をした事がなかった。
元々、自分とユーリの人間以外、殆ど人が存在しない世界を旅して来て、ねこやの店主の好意でこの世界で住んでからも二人の周りの人々は暖かく優しい人ばかりだったのだが、大勢の人が存在していれば、優しい人も居れば、当然、悪い人も居る。
チトとユーリは今回初めて、悪い人とこうして出会ってしまったのだ。
二人には初めての経験であるが、チトは本能的に恐怖を感じて、小刻みに震えている。
チトとユーリがまだおじいさんの所で世話になっていた頃、争いはあり、怖い人は居た。
二人の居た街は物資の奪いで滅んだ。
この物も食べ物も溢れている世界‥正確にはこの日本では物資の取り合いで戦争になったりはしていない。
それに男達の言葉から、この男達の目的は自分達の手の中にある食材ではなく、自分達の様だ。
ユーリは手に持っていた食材をチトに託し、彼女を守る様にチトの前に立ち、男達を睨んでいる。
しかし、ユーリだって内心は怖い。
だが、自分まで怖がってしまっては、チトの恐怖心が大きくなってしまう。
チトを守るのは自分の役目だとユーリは自分を奮い立たせながら、男達と対峙する。
「ひゅ~子兎みたい怯えちゃって可愛い~」
「そんな格好しちゃってお兄さん達を誘っていたのかな~?」
買い出しに行く際、私服に着替えて買い出しをして店に戻ってまたウェイトレス服に着替えるのでは時間がかかり過ぎるので、チトとユーリはねこやのウェイトレス服のままで買い出しに出ていた。
ねこやのウェイトレス服はメイド服風な制服だったので、そんな服で外へ出たので、見方によってはチトとユーリの二人はただのコスプレイヤーにしか見えなかった。
そんな格好の女の子達が人気にない裏路地に入り込んだのだ‥‥社会不適合者にとって今のチトとユーリは只の獲物にしか見えなかった。
「いいねぇ~いいねぇ~その衣装‥そんなに俺達と一緒にコスプレプレイをやりたかったの~?」
「よく見ると、そっちの黒髪の子、小っちゃいけど、なかなか可愛いじゃん」
「おい、お前ロリコンかよ。変態だなぁお前。じゃあ、俺はこの金髪ちゃんを貰おうかな?目は死んだ魚みてぇな目だが、胸や身体つきはなかなかのもんじゃねぇか」
ユーリは決して普段から死んだような魚の様な目をしている訳ではない。
これはユーリなりに相手を威嚇している目なのだ。
飛行機でチョコレート味のレーションをチトから奪った時もユーリは今回の様な目をして銃でチトを牽制し、チョコレート味のレーションを奪って食べた。
下世話な笑みを浮かべてじりじりとチトとユーリに近づいてくる男達。
反対に後退るチトとユーリの二人。
そして、次第に逃げ場は無くなっていく。
「ゆ、ユー‥‥ど、どうしようぉ~」
チトは怖いのか涙目になっている。
「ちーちゃん‥‥此処は私が囮になるから、ちーちゃんは逃げて」
「そ、そんな‥‥」
「その食材‥急いでテンチョーの下に持って行かないといけないでしょう」
「で、でもユー‥‥」
ユーリは自らが囮となるからチトには急いでねこやに戻れと言う。
でも、チトにユーリを見捨てるなんてマネは出来ない。
しかし、このままだとチトもユーリもこの男達の餌食になってしまう‥‥
二人の絶体絶命のピンチ‥‥
その時、
「待てーい!!」
裏路地に気高い女性の声がした。
此処で場面は変わり、少し時間を巻き戻す。
ねこやが休みだったので、目的の料理が食べる事が出来ず、代わりの料理屋を探している士郎とセイバー。
士郎がセイバーの様子をチラッと見ると、セイバーは目的の料理が食べる事が出来なかった落胆さと空腹でかなりいらついている様子。
(まずいなぁ~セイバーの奴、かなりイラついている‥‥このままだと、腹ペコでセイバーがオルタ化しちまうかもしれな‥‥)
早い所、別の料理屋を探さないと極度の空腹の影響でセイバーの性格が変わってしまう。
オルタ化したセイバーは食べ物に関しては雑になるので、そこら辺のファーストフード店でも満足するのだが、気難しい性格になるので士郎としてはオルタ化したセイバーの相手は極力したくはない。
しかし、通常のセイバーはそれなりの食通なので、下手な料理は食べさせられない。
早く料理屋を見つけなければならない反面、セイバーが満足できる美味い料理屋を探さなければならない。
そんな焦りの中、路地裏から人の声が聞こえた。
こんな路地裏から人の声が聞こえるなんて何か妙に感じた士郎。
「セイバー、ちょっと待ってくれ」
「なんですか?士郎。私は早く、何かを食べたいのですが?」
何か威圧感があるセイバー。
「うっ‥‥なんか、この路地裏から声が聞こえたんだ」
「えっ?」
セイバーが耳を澄ますと確かに士郎の言う通り、路地裏から人の声が聞こえてきた。
しかも常人よりも耳の良いセイバーの耳には下世話な会話の内容が入って来た。
それを聞いたセイバーは裏路地へと走っていく。
「セイバー!?」
突然走って行ったセイバーに士郎が慌てて声をかけるが、セイバーは振り向きもせずに路地裏へと走っていく。
「待てーい!!」
裏路地に気高い女性の声がすると、チトとユーリ、そして男達もビクッと体を震わせつつ、声がした方を見ると、そこにはユーリと同じ金髪の女性が立っていた。
「なんでぇ、ねぇちゃん」
「ひょっとして、俺達の仲間に入れて欲しいの?」
「顔は上玉だが、ちょっと胸がちぃせぇなぁ」
「あら~ほんとだ~折角の金髪美人なのに、ちょっと残念だぁ~」
「だったら、俺達がおねぇちゃんのその残念なおっぱい、少しはマシにしてやるよ」
男達がヘラヘラと笑みを浮かべながらセイバーに近づくと、
「今の私はひじょ~に機嫌が悪いから力加減が上手くできない‥‥恨むのであれば、この場で私に見つかった己の不幸を恨むがいい!!」
セイバーは男達を物凄い形相で睨みつけ、物凄い勢いで男達へと迫っていく。
「はぁぁぁー!!」
セイバーは手に何も持っていない筈なのに、まるで剣を持っているかのような仕草で男達を伸していく。
男達の不幸はセイバーに見つかっただけではない。
そのセイバーが今現在、絶賛空腹中である事、
男達がセイバーの胸が無い事を指摘した事が男達の不幸だった。
腹ペコ王となったセイバー相手に素人が勝てる筈もなく、男達はものの数秒でノックアウトされた。
いや、腹ペコでなくともセイバー相手に素人が勝てる筈が無かった。
「セイバー!!」
セイバーが男達をノックアウトしたすぐ後、士郎がセイバーに追いついた。
「‥‥えっと‥‥セイバー、一体何があってこうなった?」
士郎がノックアウトされている男達を見てセイバーに訳を尋ねる。
「あ、あの‥‥」
其処にチトが士郎に声をかける。
「実は‥‥」
チトが士郎に理由を話した。
倒れている男達がチトとユーリに何をしようとしたのか自分達には分からないが、それでもきっと、痛く、辛い事をしようとしていた事は何となくだが、本能的に分かった。
「そうだったのか‥‥」
チトから理由を聞いて納得した士郎。
「あれ?君達は‥‥」
士郎にはチトとユーリの着ている服に見覚えがあった。
あれは、一成が士郎にねこやの写真を見せた時、彼のスマホの画像の中にチトとユーリの姿が映っていたのを思い出したのだ。
「もしかして、君達、ねこやのウェイトレスさん?」
「えっ?そうですけど‥‥」
「お兄さん、よく分かったね」
士郎に尋ねられ、チトとユーリはあっさりと自分達がねこやのウェイトレスである事を認める。
「ねこや!?」
ねこやと言う単語に一番反応したのは他ならぬセイバーだった。
「それで、どうしてねこやの店員さんがこんな所に?確か今日、ねこやは休みの筈だけど‥‥?」
士郎がチトとユーリに何故路地裏に居たのか疑問に思いチトとユーリに尋ねる。
「えっと‥‥」
「それは‥‥」
チトとユーリは互いに目を泳がせながら口ごもる。
ねこやは確かに土曜、日曜は休業だが、土曜は異世界からの住人が来ているなんて言ったところで信じる筈が無い。
「もしかして‥‥」
「「‥‥」」
「店員さんが料理の研究でもしているの?」
「そ、そうです。ねぇ、ちーちゃん」
「えっ?う、うん」
ユーリは士郎の質問に咄嗟に嘘であるが、それを肯定し、チトにもそれを促し、チトもそれに同意する。
「それは妙ですね」
しかし、セイバーは不審がる。
「「えっ?」」
「休みならば、何故、貴女達は制服姿なのですか?」
「そ、それは‥‥」
「ぬー‥‥」
「それに貴女達は本当に人間なのですか?」
「「っ!?」」
セイバーの質問にチトとユーリはビクッと体を震わせる。
「えっ?セイバー、それはどういう事だ?」
「この二人には少し妙な違和感の様なモノがあるのですが‥‥」
「「‥‥」」
セイバーが目を細めてチトとユーリを睨む。
(セイバー、違和感ってどんな?まさか、この子達は人間じゃなくて俺や遠坂みたいに魔術師なのか?それとも吸血鬼のような魔物とかなのか?)
(いえ、彼女達からは魔力の類はほとんど感じませんし、気配そのものは普通の人間です。ですが、この二人からは言葉には言い表せない妙な違和感があるのです)
セイバーと士郎は、セイバーがチトとユーリに感じたと言う妙な違和感について小声で話していると、
(ち、ちーちゃん、どうしようぉ~)
(どうしようって言っても‥‥)
(それにこの人、私達がこの世界の人じゃないって事知っているみたいだし‥‥)
(もしかして、この人も私達と同じ、他の世界から来た人なのかも‥‥)
チトとユーリも小声でひそひそ話をしながら、セイバーが自分らと同じ異世界人なのではないかと言う仮説を立てる。
(どうする?ちーちゃん)
(うーん‥‥どうしよう‥‥)
チトとしては助けてくれた人にお礼はしたいが‥‥
「あの、実は今日、ねこやへ来たのですが、お店が休みでした」
「は、はい」
「まぁ、そうだね」
「ですが、私はねこやの料理がどうしても食べたいのです!!」
セイバーはズイッとチトとユーリに迫る。
その姿はちょっと大人げないし、騎士にも王様にも見えない。
「で、でも‥‥」
「今日は休みですし‥‥また、日を改めて‥‥」
「セイバー、あまり無理は言うな。ウェイトレスさん達も困っているだろう?」
チトとユーリ、士郎は、『今日は諦めろ』と言うが、セイバーの腹具合はイエローゾーンを突破しつつあった。
社会不適合者をのして、余計な体力を使ったことが影響していた様だ。
「ですが、私はもう‥‥空腹で‥‥ああ‥‥なにか‥‥なにかが‥‥目覚めそうな‥‥気がして‥‥」
セイバーはフラフラして倒れそうになるところを士郎が支える。
「ヤバッ!!」
セイバーの言葉から士郎は彼女が極度の空腹でオルタ化しかけている事に気づく。
(この人、お腹が減っているのか‥‥)
セイバーの様子を見て、ユーリは、
(ねぇ、ちーちゃん)
(なんだ?ユー)
(この人、お腹が物凄く減っているみたいだよ)
(ああ、そうみたいだな‥‥)
(‥‥ねぇ、この人をねこやに連れて行ってあげようよ)
ユーリは何と、セイバーを今日、異世界食堂となっているねこやに連れて行ってあげようと言う。
(なっ!?ユー、お前、本気で言っているのか!?今日、ねこやは‥‥)
(知っているよ。でも、お腹が減る辛さはちーちゃんだって知っているでしょう?)
(‥‥)
チトだってユーリの言っている事は理解できる。
あの何もない世界を自分達は上層部を目指すと同時に食糧を求めながら旅をしていた。
当然、その旅は常に空腹との闘いの日々だった。
だからこそ、チトは空腹の辛さは嫌と言う程知っている。
それに今自分の目の前に居る人は、自分達を助けてくれた上に、もしかしたら、自分達と同じ異世界の人なのかもしれない。
それなら、この人も異世界食堂で食事をする権利はあるだろう。
(それにこの人は私達を助けてくれたんだよ。お腹が減っているにも関わらず‥‥)
(ぬー‥‥)
助けてもらったことを指摘されると痛い。
やむを得ず、チトは「ふぅ~」と一息ついて、
「分かりました‥‥最終的には店主さんの許可がいりますが、私が店主さんと話してみます」
「「えっ?」」
チトはねこやに店主に事情を説明してセイバーを今日、異世界食堂となっているねこやで食事できるようにしてあげると言う。
「ほ、本当ですか!?」
チトの言葉にセイバーはバッと顔を上げ、機体に満ちた目で見てくる。
「ぬー‥‥で、でも決めるのは私ではなく、ねこやの店主さんなので‥‥絶対に入れるとは限りませんからね」
チトは念の為、セイバーに今日のねこやに100%入れる保証は無いと注意を入れる。
「ああ、構わないよ‥‥もし、セイバーがオルタ化したら、その時は俺がこの身をもって何とかするから‥‥」
もし、セイバーがオルタ化してしまったら、士郎は玉砕覚悟で彼女の面倒を見るつもりで、チトに託した。
「これは責任重大だね、ちーちゃん」
ユーリが口元を緩めながらチトを茶化す。
「う、うるさい!」
チトはぶっきらぼうに言いながら、手の中にある食材の半分をユーリに持たせる。
士郎の言うオルタ化がどんな事なのか分からないが、士郎とセイバーの期待を背負わされたチトは気が重くなりながらも士郎とセイバーの二人をねこやに連れていく事になった。