宇宙は大空を包む   作:キョロ

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や、死にませんけど。


09、掴めぬ霧はオレを殺す

「メイちゃん……帰らせて……」

 

「駄目ー! 私が許すと思う?」

 

「だよねー……」

 

「……大丈夫、綱重?」

 

 全く大丈夫じゃないからね……?

 霧の守護者対決の見学に体育館へときたオレたちですが……正直に言おう、帰りたい。

 霧、それはつまり実態のつかめない存在。言うまでもなく術士同士の対決だ。メイちゃんに「試合も終わったし、残りは見学する?」なんて言葉信じるんじゃなかった……!! うわああああ、幻術に慣れていないオレにこの試合は辛すぎる!

 知っての通り、オレは幻覚にめっぽう弱い。……え、あんまり知らない? まあ確かに並盛に戻ってから術士との戦闘はしてないしな……。いや、そもそも術士との交戦経験なんてそんなないけども。どうにも苦手なのだから仕方がない。

 

「うぅ……寒い」

 

 勿論、今体育館が氷に包まれて非常に非常に涼しくなっているのは幻覚であると理解はできる。理解はできるんだが……脳はちゃっかり現実だと捉えているようでオレの身体の震えが止まらない。

 ちらりと横目で見た感じ大体のメンバーは幻覚を現実として見ているようだがオレほど寒そうには見えない。つまりオレだけが悲しいくらい幻覚にかかっているようだ。

 しっかしマーモンがアルコバレーノとはなあ。今回の試合、ツナ側の霧の守護者、クローム髑髏には悪いけど勝機はなさそうだな。ツナ側は後がないって言うのに、これは辛いかもな。

 

「うーん? おかしいなあ」

 

「おい、メイ。お前ちゃんと家庭教師やったのか?」

 

「やったんだけどねー?」

 

 どうやら前にメイちゃんが消えていたのはクロームに特訓をつけに行っていたようだ。たぶん、オレが冥界に籠っている間もやってたんだろうなと思う。今もマーモンによって凍らされていた足を炎を以てどうにかし、なんとか応戦をしているくらいにはすごい。少なくともオレならノックダウンです。

 ところで……術士同士の試合、早く終わってくれませんか……!? そろそろオレが風邪引いちゃうよ。まさかこんなことになると思ってなかったから何も対策がない。

 いや、普段行動しているメイちゃんの幻術はなんとなく分かるんだよ? メイちゃんが本気出したり新作のを考えてきたら無理だけど、少しは癖を理解しているから他の術士の扱う幻覚と違ってかかりづらいんだ。でも今の試合みたいな状況なら別。ほんのちょっとの幻覚でもすぐに酔ってしまう。

 まあ幻術に関してはとことん弱いんだよね、要するに。弟のツナは超直感とかで骸との初戦闘の時も余裕やってたけど、あの時黒球を通して観戦していたのにオレは酔ったくらいだからな……。

 

「綱重、幻覚を見やすいの?」

 

「おう、なんかすっごい苦手でさ……。かかりやすいんだ」

 

「でもホラ、ボンゴレの血を引いてるなら超直感で、とか」

 

「この前の試合で分かったけど、綱重君の超直感は欠けているから、どう鍛えても完璧なものにはならないよー。致命的だねー超直感には頼らないほうが良いよ?」

 

「……らしいぞ」

 

「弟に劣る兄ほど格好悪いものってないわよね」

 

「オレ泣いていい?」

 

 なんで観戦してるだけでこんなにダメージを受けなきゃいけないの。オレ関係ない。皆ほら、オレなんかに集中しないで試合に集中しよう? ね?

 と、試合に新しい展開があったらしい。どうやらマーモンがクロームの持っていた三叉槍を壊して、それによりクロームの内臓が消えうせたようだ……。え、それなんて怪奇現象? 慌てて意識をフィールドに戻して目を凝らしてみると、なるほど腹が凹んでいる。あれはやばいな。

 幻覚でできているなら幻覚で補うのしかないだろうが、どうやらクローム自身は補うほどの力を有していないらしい。今までは三叉槍を通して骸が補っていたようだ。今この場で内臓を作り出せることが出来るものがいるとするならば、マーモンかメイちゃんだろう。だがマーモンは敵であるし、メイちゃんは手出しができない。このままでは、彼女の命はない。

 ……と、そこで彼女の身体が霧に包まれ始めた。

 

「お……? なんだなんだ、何が始まるんだ」

 

「最後の力を振り絞って自らの死体を隠そうとする……。女術士にはよくあるパターンさ。歴史上、ある人物を除いてだけど」

 

「……ふふっ。彼、自分のお気に入りを傷付けられて怒っちゃったみたい!」

 

 皆の疑問にはマーモンが答えてくれた。解説ありがとうございます!

 やけに楽しそうにニマニマとメイちゃんは笑っている。いったい何がおかしいって言うんだよ!? このままじゃあの女の子死んで……死ん……ん? ふと場の雰囲気が変わったのを感じ取る。隣にいたリモーネもそれを感じたのか顔を顰めている。

 ツナもそれは同じみたいだな。だって、思い切り叫んでるし。

 

「お久しぶりです……。舞い戻りましたよ、輪廻の果てより」

 

「嫌だなあ、骸君!! こっちに来てないくせにそんなこと言わないでよー」

 

「これはこれは。貴女も観戦ですか?」

 

「うんー。早く骸君を浄化したいなあって思いながら観戦してるよ!」

 

「それは怖いですね」

 

 二人とも笑顔で何考えてるのか分からないんだけど。

 「二人って知り合いなのー!?」と事情を知らなかったらしいツナが叫んだ。あれ、メイちゃんの職業(というよりは役職)なら前に教えたからてっきり気付いていると思ったんだけど、違ったのか? それなら先に教えてやったほうが良かったかもしれないな。

 

「骸の言ってる地獄道とかは冥界にあるんだよ」

 

「だからメイと骸は知り合いなんだぞ。気付かなかったのか、ツナ」

 

「いやそんな少ない情報じゃ分からないよ!?」

 

 ツナの言うこともある意味尤もかもしれないな。

 っと、なんだ、こっちを置いてまた戦闘が開始してるじゃないか。……ぎゃああああ!? 床が! なんかぐにゃって歪んでエライことになってるんですけどー!? お前ら周りに他の人がいることも考え……てっ……。

 

「う。やば、戻しそう……」

 

「ぎゃー!? やめなさいよ、綱重!?」

 

「眠っとくー?」

 

「それは遠慮します」

 

 おおおお、頭の中がぐっちゃぐっちゃの大混乱を起こしてるよ。上手く情報処理が出来なくなってる。完全に幻覚にかかっちまったなこりゃ。人より幻覚にかかりやすいオレは幻覚汚染の症状も人より激しい。ダウン寸前で、座っているだけでも辛い。下を向いたら多分本当に戻すからしっかり前を見る。……ところで今のこのぐにゃっと空間(オレ命名)はどこが下なんだ?

 あ、駄目だこれ。なんとなく向こう(その向こうも曖昧なのだが)で骸とマーモンが戦闘をしているのは分かる。すごく幻術を多用しているのは分かる。あいつらが使うたびにこっちも頭痛が酷くなるからな。エリア技の幻覚はオレが死ぬので勘弁してくれ。

 何が駄目かって言うと目の前が涙のせいで良く見えない。今どういう風に試合が流れているのかも分かったもんじゃないのだ。……え、声なら聞こえるだろ? 視覚情報をうまく処理できていない今のオレが音を処理できていると思うか? 今のオレの世界はカオスです。

 

「うおっ……」

 

 するとそこで世界が暗転。オレは真っ暗な部屋に一人ぽつりと座っていた。……ここ、冥界か。メイちゃんが気を遣ってくれたのかもしれない。

 たぶんメイちゃんはオレがあまりにも幻覚に対する耐性が少ないから、それの強化をしたくて今回の強行をしたんだろうなと思う。結果、オレはあまりにもハードな試合展開についていけず仕方なしに離脱させてもらった……ってところだろうか。

 オレが一生のうちに術士と戦うことはない、とは言い切れない。勿論それに対する対策も立てておかないといけないことは分かっている。だがどうにも苦手なものは苦手なのだ。そういったものはすぐには治るものではない……とても言い訳にしか聞こえないけれど。

 

「大丈夫ですか? お水をお持ちしましたが……」

 

「あー……、ありがとう。貰います」

 

 バトラーさんが心配そうにオレに水の入ったコップを差し出した。気分直しにはちょうどいい。ありがたくそのコップを受け取り一気に飲み干す。おお、水が美味い……。

 

「明日メイちゃんに謝らないとなあ。あ、試合結果……」

 

「そろそろですね。……決しました、六道骸の勝利です」

 

「さすが骸ってとこか。しっかしアルコバレーノに勝つなんてな」

 

 一度メイちゃんと戦ったらそうなるのかを見てみたいところだ。あ、でもその時はオレは見ていたら本当に死にそうだからリモーネやバトラーさん辺りに見てもらうしかないのか。それはそれで残念だな。幻術ってのは現実ではできなさそうなことも再現してくるから、案外すごくきれいな風景とかも再現できるんだよな。

 えーっと、骸が勝ったって事はどっちも三勝ってことで明日の試合で決着がつくって事だな。まだやっていないのは……雲か。メイちゃんに聞いた情報だと、雲は恭弥だったか。うん、あいつなら何の問題もないな。向こうはゴーラ・モスカ……。まあ嬉々として壊しに行くだろうな!

 それにしても恭弥の戦いを見るのは久しぶりだな。え、黒曜での戦闘? あれは恭弥のハンデもあったからノーカンで。フェアな戦闘であいつが自由にトンファー振り回しているところをオレは見たいんだよ。

 

「明日が楽しみだなー」

 

「いえ、綱重さんはここにいてもらいます」

 

「……は?」

 

「メイ様からここに監禁しておけと仰せつかっておりますので」

 

「その言い方はよくないと思う」

 

 なんだ、監禁って。そういうのは犯罪だと思います。

 また特訓、っていう明確な理由があるわけでもないのに。メイちゃんがやることには必ず意味がある。だけどそれが分からないことが多いから困るんだ。メイちゃんは先が見えている分オレには理解不能な行動をすることが多々あるからな。それでオレがどれだけ苦労したことか。

 

「どちらにせよここから出るには私かメイ様、どちらかでないと無理です」

 

「ほ、他の冥界の人に……!」

 

「人語を操れるのはこの冥界でも極少数ですので諦めたほうが良いですよ」

 

「そうなんだ……」

 

 せめて理由を一つでも言ってくれたらオレだって納得するのに。嫌なやつだ。

 期間は今日から明日の終了まで。……要するに、オレは雲の守護者戦を見れないというわけだ。なんだよ、オレだってツナたちの喜びを分かち合いたいのに……。っと、試合開始前から勝利前提ってのは甘すぎる考えだな。ゴーラ・モスカはオレが前にヴァリアーを調べたときはいなかったわけだし、未知数だ。

 でもこの間、暇すぎるだろ……。やっぱり特訓するしかないのか?

 

「この一室は綱重さんのご自由にお使いください」

 

「え、いいんです?」

 

「どうせ空き部屋です。ベッドなど設備は揃っていますので」

 

「……まあ納得できないとこはあるけど、使わせてもらいます」

 

「何かありましたらお呼び下さい。すぐに参上しますので」

 

 そう言ってから一礼して、バトラーさんは部屋から姿を消した。

 まったく、オレから楽しみを奪うなんてメイちゃんも酷いもんだ。あいつはオレを虐めたいのか? そういうことなのか? ……うん、ありえそうだ。

 周りを見渡すものの、特にやることも見つからない。寝る事しか。……睡眠大事だしな! 考えればたぶんそろそろ日付を跨ぐ頃だろうし、うん、寝るか。

 こんなことなら寝間着でも持ってくれば……。いや、こんなこと予想できっこないよな。今日一日くらいは仕方ないか。スーツが汗臭くはなるけど、まあ大して動いてないし問題ないと判断しよう。

 オレはネクタイを解いて近くの机の上に上着と一緒に置き、ベッドに潜り込んだ。うぅ、ふかふかなのがちょっと恨めしい。明日がいい日でありますように……はあ。

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