ただでさえ読んでくれる方が少ないのに!!
なんつー広さだ。いや、広さもまたすごいが、驚くべきはそこにある本の量だ。
どうやらオレが書いた書類も含め、今までの守護者が書いてきたらしい情報全てがここに保管してあるらしい。それを聞けばここが広い理由も頷けるが、ここまで広い図書館は見たことがない。この広さの図書館が現実世界にあったらさすがに邪魔になるだろうけどな。
全体的に薄暗いその部屋は、まだまだ奥があるようで暗闇がオレたちをその先へと誘っているようにも思える。これはいい足の運動になりそうな予感がするぞ。
「ねえねえ、何語で書かれてるの?」
「冥界産のインクを使ってるからノープロブレム! 自分の望んだ言語で読めるよ」
「じゃあ、イタリア語か日本語……。勉強のために日本語で読んでくるわ」
「あ、バトっちも連れて行きなよ。探し物すぐに見つけてくれるよー」
「私はパシリではないのですが」
「うわ、ビックリした!?」
いつの間にかオレの横にバトラーさんが佇んでいた。いつからそこにいたんですか。さっきからいた……なんてことはないよな。そんなことがあったらオレの気配察知能力が低いのか、バトラーさんの存在感が薄いのか分からなくなって困るから。理由がどっちだったとしても微妙な雰囲気になるよ。
「あ、それと、言い忘れてたけどバトっちがリモーネちゃんの
「何それ聞いてないわよ!?」
「私も聞いていませんが!?」
「今言ったからねー。私が綱重君につくのと似たような感じ? つまり、パートナー?」
「何故疑問形」
さすがにメイちゃんが二人の面倒を見る、というのはしないらしい。オレは能力的な意味じゃなくてただ単に面倒くさいからバトラーさんに投げたと見た。バトラーさんの顔に面倒くさいとはっきり書いてあるしな。そろそろこの上司は部下を労わるべきだと思うんだ。
リモーネは口を尖らせていたけど、渋々と言った感じで奥の方へと歩いていってしまった。バトラーさんもため息をつきつつ、それに追従していく。バトラーさんは抗議することも覚えていいと思う。
ちらりとメイちゃんに視線を向けると、
「私はここで待ってるから、戻りたかったらいつでも声をかけてね!」
と、素晴らしい笑顔でオレに告げた。お前はRPGゲームのモブキャラか。
オレの考えたことが分かったらしいメイちゃんはケラケラと楽しそうに笑う。まったく、こんなときだっていうのに妙に元気づけられるというか……。本当に場違いなやつ。
「ここは、どう整理されてるんだ?」
「とりあえず手前の方が初代だね。奥に行くにつれて時代が新しくなっていくよ」
「ふうん。じゃあこの本が一番最初だったりして」
何気なく本棚の一番上の段、一番右の端にあった本を手に取ってみる。大分昔のものであるだろうそれは、しかし劣化することなくきちんと本としての原形を留めていた。これもここの管理がいいっていう証拠だろうか。
気になるのは、この本がオレの使っている本とは違うということだ。さっきメイちゃんが言った通り、書類に使うインクは冥界産だ。更に極力劣化を防ぐ為に紙も冥界産のものを使っているんだが……、どうもこれは手触りが違う。どうやら、これはこの世の紙を使っているらしい。
パラ、と一枚捲ってみて気付く。これは、日記だ。オレの作っている資料みたいなもんじゃない。それにこれはボンゴレ内部のことしか書いていない……、というよりは何の情報価値もないであろう他愛もないことしか書いていない。正しく日記、と言うべきものがそこにあった。
……って、ん? おかしいな、イタリア語だぞ、これ。オレは面倒だから日本語で読もうと思ったんだけど。もしかして、インクもこの世のものなのか?
「ありゃ、まさかいきなりそれ引いちゃう?」
「これなんだよ。オレのやってることとまるで違うぞ? それにインクも紙も……」
「当然だよ。それがこの宇宙の守護者の使命の原点なんだから。まだ冥界が介入してない頃のお話だから」
「……冥界が介入してない頃の話? そんな時期、あったのか」
「うん。純粋にあのころは楽しかったなあ」
冥界って最初から介入していたわけじゃないんだ。そう言う割には、一番最初の日記もあるのはなんでだ? 首を捻っていると「後から冥界側が回収したんだよ」とメイちゃんが補足してくれた。なるほど、だから紙とインクは冥界産じゃないってことか。
パラパラと日記を捲っていると、初代守護者アギトがどんな人物だったか見えてきた。ともかく、ボンゴレⅠ世の情報が多い、多い。今日はどこに出かけただとか、どんな良いことをしただとか。アギトはボンゴレⅠ世が大好きだったようだ。
どうやらこの日記はボンゴレという組織ができてから書き始めたらしい。できた経緯とか、後から箇条書きで書いてあった。この経緯は、確か他の資料で見たことがあるな。あれはオレが宇宙の守護者になってすぐだったから……そうそうシモンファミリーのやつだ。あいつは口外無用の資料の一つだったから良く覚えてる。
「……お? 知らない名前が出てきた」
更に日記を捲ると、“今日はイルがまた遊びに来た”という文面を発見。え、イルなんて、どっかに書いてあった? 慌てて数ページ戻すと、初コンタクトの日らしいところにフルネームが書いてあった。
「ん? どれどれ……。ああ、イルシオン・メランコリア。術士だね」
「術士だったのか。……ちなみに性別は?」
「女。結構腕の立つ術士だったらしいよー」
「骸と戦ったらどっちが勝つんだろう」
「彼女かなあ? 彼女は当時のアルコバレーノだから」
「へえ。……えぇっ!?」
「ああでも、マーモンもアルコバレーノだったからどうだか分からないね。当時の彼女も今の私から見れば未熟だし」
あっけらかんにメイちゃんは言うけど、そういう話じゃない。なんかアルコバレーノと深い縁があるのかね、ボンゴレは。……いや、この文面からは分からないけど、もしこのアルコバレーノがイレギュラーだとしたらどうだ? つまり、このアルコバレーノがアギトの補佐役をしていたとしたら……。考え過ぎか。だって宇宙属性のアルコバレーノはいないわけだし、彼女は正史上の人物ということも視野に入れて考えておこう。
イルシオン・メランコリア。容姿や性格はたった一言、「おかしな赤ん坊」で済まされているのでどんな人物だったのかは分からないけど。気になったので心の片隅にその名前を保存しておくことにする。
「いいねえ、久しぶりに思い出を思い出すと心がほっこりするよね!」
「それは確かに。……オレは思い出したくないやつの方が多いけど」
「ふふー、さすがボッチ! 私が会うまでボッチだったもんね! ボッチ!」
「なんでそんなに連呼するの、そんなに虐めたいの」
普通に友達作れてたし。ある意味においてボッチだったけど、表面上はちゃんとボッチじゃなかったし! ……あ、別にいじめとかに遭っていたわけじゃないぞ。そこらへんは上手く立ち回ってたし。
何故か「仲間だねー!」と笑顔でオレに言っているメイちゃんに苦笑いしつつ、日記をもとの場所に戻す。少し気になるけど、これはまた時間のある時に見ても構わないだろう。
そういえば向こうの時間はどうなっているんだろう。携帯電話も時計も置いてきてしまった。オレとしたことが随分うっかりしてしまった。……時間はメイちゃんが教えてくれるだろう、信じよう。
「綱重。XANXUSについての紙束見つけたわよ」
「お、リモーネ。お疲れさん」
「見つけてくれたのはバトラーさんよ。私は中を確認しただけ」
「バトラーさんもありがとうございます」
「いえ、これくらいの仕事はメイ様から任されるものより簡単ですので」
「わあい、さり気なく私貶されてるね!」
リモーネから受け取った書類には“ゆりかご事件”と名前が振られているクーデターについての事件が詳細に記載されていた。……オレが書いた覚えがないってことは、宇宙の守護者がいないときはメイちゃんたち冥界側がこの仕事を引き受けているのか? そう考えてみたら、宇宙の守護者の存在意義自体が怪しくなってくる。
結局、宇宙の守護者っていうのは使命は二の次(というか後付け)で監視・保護が本来の目的って感じみたいだな……。初代の日記にちなんで使命を作ってあるけど、世界のマフィア情勢を知っていれば宇宙の守護者だけ上手く立ち回って危険を回避することが出来る、と考えられる。むしろ主要な物事に干渉させないようにしている……? こんがらがってきたな。
それはともかく、XANXUSについてだったな。大分話が逸れてしまった。
「……XANXUSって、凍ってたのか」
「そうなるねー。あ、綱重君にはできないからね!」
「えぇー……、オレって本当何にもできないな」
「綱重さんは資料にあるアギトさんとよく似ていますよ」
「え? あっちは弟じゃないのか? それも双子の」
「そういう意味じゃないよー、頭悪ーい!」
メイちゃん辛辣。
ええと、それで、XANXUSはボンゴレリングの力を以てその氷を溶かして、今ここにいると。ボンゴレリングってすごいんだなー。さすがって感じだけど。是非ともリングの製作者に会ってみたいもんだ。
なんとなく事情は分かったはいいけど、これからどう動くべきか。大空戦には誠に遺憾ながら参戦することはできないみたいだし、だからと言って観戦しているのは癪だ。俺の理性が持つかどうかも分からない。
「それじゃあ今日はお泊り会しよう!」
「どうしてそうなった」
「どちらにせよ、今日が最後です。今はゆっくり休んでください」
「そうそう! 考えるのも寝てからにしよう!」
「なんてテキトーな……。いや、それがここなのね……」
「リモーネちゃんが順応力高くてなによりです!」
疲れたようにこめかみをぐりぐりとしているリモーネは、実際のところ大分疲れているのだろう。新入り、この世界はすごく厳しいんだぜ……。
言われて思い出したけど、そういえばまだ夜中だった。バトラーさんの口ぶりから見るに、どうやら日にちは跨いでいるらしいけど。オレはまたここで寝泊まりするのか……。
リモーネが疲れていることに気付いたらしいバトラーさんは、リモーネをひょいとお姫様抱っこしてさっさとどこかへ運んで行ってしまった。なんて紳士なんだ。「何するの!?」と焦った様子のリモーネの声が聞こえて少し笑えた。どうやらお姫様抱っこされたことがないらしい。
「ほらほら、綱重君も早く寝るよ!」
「おう。……最終日は疲れそうだ……」
「大丈夫! 綱重君はほとんど無関係だからそんなに動かないと思うよ!」
「そっちのほうが悲しいかな」
重いため息を吐きながら、なんでオレはツナの守護者じゃないんだと恨めしく思った。