宇宙は大空を包む   作:キョロ

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リング争奪戦、最後のお話です。


13、世界はオレをいつも置いていく

 リモーネが仲間になってリングを受け取ってから、ちょっと気になっていることがある。というのも、リモーネは本当にオレと同じなのか、という点だ。オレたちの魂は何処の世界にも属さない。それはついこの間説明してもらったから分かる。それならば、リモーネもオレと同じような症状が出ていたのだろうか。

 

「…………で、何これ」

 

「は? だいじょーぶかよ、綱重?」

 

「てか制服も着ねーで……。天下のヒバリ様に見つかったら大変だぞ?」

 

 気付いたら教室で着席してました。まる。

 そしてどうやらここは中学校らしい。最近の試合場所としてしばらくぶりに母校を訪れたから感傷に浸ったのかもしれない。目の前にいる二人の男子生徒はオレの友人だ。尤も、オレは今現在彼らとは連絡を取っていない。向こうも忙しいだろうし今のオレの職業を説明するのは少々面倒だし勘ぐられたくはない。

 だって父さんの口実を真似して「父さんの後を継いで世界中の石油掘りに行ってます」とか急に言われても信じないだろ。オレだったらその後に「でも今お金がなくて困ってて」って続くのを予想するくらいには胡散臭いと思う。

 一応高校卒業後、メールで簡潔に「外国でサラリーマンをやっている」とだけは説明しておいた。実際外国に行っているのは事実だしな。「外国のサラリーマンって想像つかないけどなんかすごいな」程度で済みました。

 

「スーツなんか着ちゃってさ。スーツに着られてるじゃねーか!」

 

「うっせ! 似合ってないのはオレだって分かってるっつーの」

 

「綱重きゅんは大人しく制服着てまちょうねー」

 

「やめろ、マジでやめろ」

 

 お前らのオレに対する認識はなんなんだ。……いや、これは夢に違いないから、もしかしてこれってオレが喋らせていることになるの? 嘘だろ、ということはオレって中学時代にこんな馬鹿みたいな会話やってたのか。あの時は楽しかったけどさ、楽しかったけど……会話の内容みんなこんななの?

 はあ、とため息をついて机の上に置かれた手に視線をやり、背筋が凍った。

 

「え」

 

 どうして今まで気付かなかったんだろう。オレの右手に、リングがない。

 途端に忘れかけていた気持ち悪い感覚がオレの全身に襲いかかった。ゾッとするほど周囲の違いを見せつけられ、目の前に友人がいるにも関わらず天涯孤独であるように錯覚する。ここにはいられない、こんなところにいたら精神が壊れちまう。

 夢中になって教室から飛び出す。後ろから友人の声が聞こえたような気がしたが、構わない。構ってなどいられない。学校も飛び出してただ走り続ける。逃げる場所があるとは思っていない。とうの昔にそんな事には気付いた。だけど恐怖が迫っていたら逃げずにはいられないじゃないか。

 

「っは……。つ、疲れた……」

 

 そうしてどれくらいの間走っていたのかは分からなかった。気付いたら周囲に人はいなかったし、オレも知らない住宅街のどこかにいた。走り疲れ、足が棒になってしまったかのようだ。

 辺りに生き物はいないが、無機物もオレを嘲笑っているかのように違いを見せつけてくる。焦りと苛立ちが重なって誰かの家のブロック塀を蹴りつけたくなるが、やめた。代わりにブロック塀に背中を預けて座り込む。体力回復は目的じゃない。降参の合図だ。

 

「あー、家に行けば机の上にあったりして……」

 

 あくまでも可能性の話だが、闇雲に走って道に迷うくらいなら知っている場所をしらみつぶしに探すほうがずっと効率的だ。どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。この症状は頭の回転まで遅くするのか、と思わず苦笑いしてしまう。

 あれだけ嫌なお勤めも、結局はオレが精神の安定を得るための引き替え条件なのだな、と思う。オレはリングなしじゃもう生きていけない。冥界側にとってリングはオレを監視するための道具であるが、オレにとってリングは精神安定剤も同然だ。

 オレは存在感が周囲とは違う。それと同時に存在感が違うこともオレは感じることが出来た。感じることが出来るようになったのは本当に小さい頃、物心が着いた時だ。それでもオレは友達がいなかったわけじゃないし、家族関係でうまくいっていないわけではなかった。友人はさっきみたいに明るくオレに接してくれていたたし、家族もオレに優しかった。だがいつでもオレは近くにいるのに遠いような感覚だった。

 

 それを解決してくれたのが、宇宙のリングだった。

 ここからはオレの仮定の話だが宇宙の守護者はオレと同じ症状を全員が経験している。イレギュラーとして魂が世界から歓迎されていないのだ。どこか存在感が浮いていて、いつ世界から見向きもされなくなるか分からない。非常に不安定な存在だ。

 宇宙のリングはそんなオレたちをこの世界に定着させるための道具でもあるのだと思う。オレはこのリングを身につけることによって存在感の問題には悩まされなくなった。きっとオレの魂が定着した、のだと思う。過程の話だしオレも半分は馬鹿げていると思っている。オレとしてはリングを身につけていることで救われた、という事実さえあれば良いのだ。

 

「あーあ、情けないなあ、綱重君! 私がいないと何もできないのかな?」

 

 いつからそこにいたのか、なんて野暮なことは聞かない。

 現実だってそうだ。こいつはいつもオレのことを見ている。オレにプライベートなんてあってないようなものなのだ。もう慣れた。最初からオレはこいつに会う運命だったし、オレも恐らく満更じゃない。

 

「オレだって、少しはできることがあるんだよ」

 

 差し出された小さな手。握った手の温もりをオレはきっと忘れない。

 

 

――――――――――

 

 

 痛い。

 

「綱重君が起きないのが悪いんだよ! 私悪くないよ!」

 

「鈍器で殴るやつがいるか。永眠するとこだったぞコラ」

 

 何か夢を見ていたはずだったんだけど……あんまりにも痛かったから忘れてしまった。良い夢だったような悪い夢だったような。ああもう、そこから曖昧じゃないか。なんてこった。

 後頭部腫れてないかな……オレの頭大丈夫かな……他にも記憶飛んでないかな……。

 

「だって私も寝過ごしちゃったんだよ! 早く行かないとまずいんだよ!」

 

「それをオレのせいにするなよ」

 

「私たちも活躍しないと! 折角いるんだもん! 名声アップだよ!」

 

「出世欲かよ。それ以上何になる気だ」

 

 メイちゃんの頭いかれてるんじゃないかな。非常に嘆かわしい、こんな頭のネジが抜けた赤ん坊がオレの上司とか。いや、赤ん坊って部分は別に気にしちゃいないんだけどね。

 黒い穴がぽっかりと開く。メイちゃんは「遅刻遅刻ー」と慣れた様子でその中に飛び込んだ。なんで夜なんだろう。夜に寝たはずなのに、なんて今の時間帯が夜なんだろう。薬でも盛られたのかな。考えながらオレもその後に続くと、中学校近くの空き地に出た。そしてその空地には人の山ができあがっていた。死屍累々ってのはまさにこのことだな……。恐ろしい。

 

「ねえねえ、そのハンマーどこで作ったのよ。面白いわねえ」

 

「秘密事項だ。お前に教える気はない」

 

「何よ、堅物。いいじゃない、減るもんじゃあるまいし」

 

「リモーネさん、その辺になさってはいかがでしょう……?」

 

 その人の山を見ながら座る一人の男性とリモーネ。そしてそのリモーネの側に立っているバトラーさん。おかしいな、段々人の山がキャンプファイヤーに見えてきた……どうしてだろう……。

 と、そこでバトラーさんがこちらに気付き、優雅に一礼した。オレも会釈を返したところでリモーネと男性がオレたちに気付く。あいつは……確か骸の事件の時のやつだ。ラウンチ、って言ったかな。

 

「綱重! 遅かったからもう終わっちゃったわよ?」

 

「あーあ、綱重君が起きるのが遅いせいでー」

 

「なんでオレのせいにするんだって」

 

 女性陣からの扱いが酷い。バトラーさんの気持ちが分かった気がする。でもバトラーさんっていつもこれ以上の精神攻撃されてるんだろうなあ。

 

「そうだ、メイちゃん。この人すごく強いの! 仲間にしましょうよ!」

 

「生憎、オレにはやることがある。今回はたまたま利害が一致しただけだ」

 

「ラウンチ君は仲間になれないよー、条件が一致してないものー」

 

「そっか……残念ね……」

 

「では、乗り込みますよ」

 

「は?」

 

 オレたちの話の流れを一切無視して、バトラーさんが全員の足元に黒い穴が出現させた。一瞬の浮遊感の後、着地。着地したのは地面だったみたいで、足に大きなダメージはなかった。

 さてどこだろうと辺りを見回してみて、「え」と間抜けな声が出た。

 

「に、兄さん!? というかどこから来たのー!?」

 

 オレたちがきたのは、校庭だった。

 何があったのかはよく分からないけど、これってもしや今日の分の戦い終わってないんじゃ……フィールド勝手に入っていいの? ぐるりとツナを囲むように立っているオレたちはまるでバリケードのようだ。

 ヴァリアー勢はボロボロ、ツナたちもボロボロ。どっちのほうが勝ってるんだろう。

 

「よーし、私頑張っちゃうぞー!」

 

 俺たちの周りに黒球が出現した。ちょうどこの校庭にいる人数分くらいだろうか。

 いつも使っているものとは別の用途で使う気だ。前に一回だけ見たことがある。攻撃目的で黒球を使う時、メイちゃんは無敵も同然だ。

 

「ししっ、何そのオモチャ」

 

 ベルが黒球の一つに向かってナイフを投擲した、のだと思う。ベルの手から離れたナイフはいくつもの黒球から放たれたレーザー光線に焼かれて蒸発した。今の時間帯は夜なのに、朝なのではないかと思ってしまうくらいの明るさだった。

 冥王が持ってる道具は物騒です。

 

「……ダメだこりゃ」

 

 音を立ててナイフが地面に落とされる。降伏ってことだろうか。

 あと、オレたちって本当にここにいていいの。そこのところがまったく分かってないんだけど、大丈夫だよ。これでツナ側が負けにならない、よね? いや、ベルが降伏の意思を示してるってことは大丈夫なのかもしれない……?

 

 

 とにかく、リング争奪戦はオレが事情をよく呑み込んでいないうちに終了した。

 ツナ側の勝利と言う、マフィアの世界を知る者としては喜んでいいのかよく分からない複雑な状況で。

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