朝って言うのはとても爽やかな時間帯でありのびのびとできる。が、月曜日である今日は学生にとっては苦痛になる時間帯なのであろう。それを考えると一番この時間帯を楽しめるのはすごく小さい子限定と考えられる。
だからオレは今、ランボとイーピンとフゥ太がすごく羨ましいです。一応オレ今年で二十歳だけどね、でも仕事……。ああ、後でまた莫大な量の書類仕事をメイちゃんから授かるんだろうな。
とにかく今はまだこの何もない一時を楽しもうじゃないか。と言うわけで縁側で父さんとランボの高い高いを眺めているオレです。高い高いってこんな感じだったっけ……。感覚が麻痺してきている気がする。
あ、父さんランボ見てないじゃん。落下するじゃん。……落ちた。あれは痛いよなー、だからってそこで酒を持ち出す父さんも父さんだけどな。いつまでこんな阿呆な父親を演じる気だろうかこの人。
「ランボに酒飲ますなよ!」
「お、起きたのか、ツナ。おはようさん」
「うおっすツナー」
ようやくツナが起きてきたか。まあ学生にしては早い時間の起床だけど、早起きはいいことだよな。
ツナも起きたことだし、オレもメイちゃんを探しに外をぶらついてこようかな? 昨日は家に帰った後「用事がある」って言って姿を晦ましたんだよな。また冥界での仕事が終わらないって嘆いているのかもな。
冥界にいるならオレが探しても意味ないか。それならオレは散歩しに行こうかな。
「……ん? ツナ、何つけてんの?」
「え? 何もつけてないけど」
「胸元だよ胸元、それ何?」
「おー、色気づいてんな、ツナ。それペンダントだろ?」
「え……?」
んー? あ、なんだ、何つけてるのかと思ったらハーフボンゴレリングか。失くさないようにあえて指じゃなくてチェーンにつけて首にかけてるんだな。いやー、関心関心。
と思っていたらどうやらそういうわけではないらしく、ツナは慌てた様子で二階へと向かって行った。なんだ自分でやったんじゃないのか。だからリボーンがやったっていう結論に辿り着いたわけか。残念、オレでしたー! ……嘘です、オレじゃないよ。
大方父さんがやったんだろうけど……。オレのリングはメイちゃんが持ってきてくれたんだっけか。おかげであの時以来一回も指から外れないけどな。
「なあ父さん、メイちゃん知らない?」
「んあ? 知らねーな。リボーンなら知ってるんじゃないか?」
「リボーンかあ……、知ってる気がするから怖い」
確かリボーンならまだツナの部屋にいたよな。それなら二階に上がって……と、ツナが出てきた。あ、そうだよね、月曜日だから学校行かなきゃいけないもんね。行ってらっしゃい。
それにしても妙に慌てた様子だったな……。そんなにハーフボンゴレリングを持っていることが嫌なんだろうか。ということはディーノのとこに行くのかな? ディーノに返そうとしたって、ディーノはボンゴレじゃないんだから意味ないだろうに。
「で、オレに何か用か? 綱重」
「うおっ!? いつからそこに!?」
「今だ」
いつの間にかリボーンがブロック塀の上に座っていた。瞬間移動でも使えるのかよ?
リボーンの突然の出現に戸惑いながらも、父さんが庭から消えていることに気付いた。もしかして俺の注意力が散漫なだけ? それなら仕方ないのかもしれないな……。
あれだな、今日の特訓は注意力をあげることに専念しよう。どうやってやろうかな……っと、話が逸れた。
「リボーンならメイちゃんの居場所知ってるかなって思ったんだけど、知ってる?」
「知ってるぞ。オレがメイに頼み事をしたからな」
「頼み事? 何それ、オレ聞いてない」
「ツナの霧の守護者の家庭教師だ。あいつは幻術得意だからな」
「へー、ちなみに誰?」
「まだ秘密だ。というより、お前にも知らないことがあるんだな」
「平凡なもんでね。リングとやらに選ばれた程度だよ」
そもそもオレが宇宙の守護者に選ばれた理由が未だに分からない。メイちゃんは「選ばれたものは選ばれたんだよ」となにやら訳の分からない主張を続けているし。きっといずれ分かるって意味で言ってるんだろうけどな。
宇宙の守護者についての資料を見ても選ばれる共通点なんて見つからないし、ますます混乱するばかりだ。辞退しようにもリング外れてくれないしな。本当に外れてくれ……。着けてから二年も経ったからさすがに慣れたけど、ずっと着けっぱなしはやっぱり邪魔なんだ。
「綱重さん」
「……なんか上半身が空中に浮いてるってシュールだからとりあえず出てくれる?」
「あ、はい」
さて出かけようか、と思ったところでバトラーさんが庭に出現した。上半身だけ、空中に浮いて。ご近所さんが見たら卒倒しそうな光景なのでちゃんと出てきてもらうことにする。オレの部屋なら別に構わないんだけどさ、さすがにちょっとそれを外でやられると困る。
よいしょ、と声を出しながら全身を出したバトラーさんは俺を見て少し照れくさそうに微笑んだ。バトラーさんはそれほど冥界からこっちに出てくる必要がないのでメイちゃんと違ってここでの常識と言うものを知らない。メイちゃんも少し常識外れなのは否めないけどな。
「メイ様から言伝を預かって参りました」
「おっ、それはありがたいね。これから探しに行こうと思ってたんだ」
「探さないでくれ、だそうです」
「どこの家出人だよ」
そういうのは手紙として置いて行けよ。
冗談はいいから本題に入ってくれと要求すると「これも言伝の一つなんです」と真顔で返された。バトラーさんは冗談通じないことが多いんだから本当にこういうことをするのは勘弁してほしい。リアクションに困る。
言伝の内容が一つだけではないと分かったところで続きを目線だけで促すと首を傾げられた。ああ、分からなかったのか……。でも二メートルの男の人が首を傾げているって言うのもシュールだ。今も俺が見上げている状態である。
「綱重さんも鍛えておいてほしいそうです」
「え? 俺もヴァリアーと戦わなきゃいけないの?」
「ヴァリアーとではないそうです」
「ますます意味が分からない。詳しくは?」
「webで、だそうです」
「あいつ見つけたらしばく」
肝心なとこだけぼかしやがって! 今の場所も結局はぐらかされちゃってるしさぁ!
それ以上の言伝はなかったらしく「それでは」とだけ言うとバトラーさんは冥界に帰って行った。大事な言伝よりもネタのほうが多いってどういうことなんだよ……。
というか定番なネタ持ってくるんじゃないっての。しかし鍛えろって言われても何すればいいんだろうな。とりあえずさっきのことを踏まえて集中力上げるか?
「あれ? リボーン消えた……」
「綱重! ランボさんと遊ぶんだもんね!」
「あー、悪いなランボ。ちょっと出かけなきゃいけなくて」
「嫌だもんね! 綱重はランボさんの子分なんだぞ! だから遊ぶんだもんね!」
「……はいはい、分かったよ……」
ごめんメイちゃん、早速脱線してるよ。
――――――――――
ランボから解放されたのは昼ご飯の後だった。午前中は全部わんぱくランボ様に時間を取られてしまったわけだ。別に構わないけどもね、緊急の用事があったわけでもないし。
とりあえず鍛えておけと言われても何をすればいいのか分からなかったので、部屋に籠って座禅を組むことにした。なんだか関係ないような気が今更してきたけど精神の集中は大事なことだ。
「――それをやって意味はあるの?」
「っ、」
突然部屋の中に現れた一つの気配。
扉、窓は閉め切ってあり侵入は不可能。扉から入って来たなら音はするし、何より足音もちゃんと耳に入っているはずだ。それらがないということは侵入者は大体限られてくる。
オレの丁度右側から迫ってくる気配を右手で握り潰す。確かにあったはずの感触はふわりと空気に溶けるように消えて行った。少し拍子抜けだけど、当然かとオレはゆっくり目を開けた。
「やっほ、てっきりサンドバックぶら下げてスパーリングしてるかと思ったよ」
「メイちゃん……。オレはボクサーじゃないからね?」
目の前に笑顔を浮かべているメイちゃんが浮いていた。なんで浮いてるの、とかツッコんであげたほうが良いんだろうか……。メイちゃんはツッコむところが多すぎるから困る。
ため息をついてから握り締めたままの右の拳を確認するが、やはり何も掴んではいなかった。メイちゃんの有幻覚でも掴んだのかな、オレ。
「ため息ばっかだと幸せ逃げていっちゃうよ?」
「オレだってそれはよく聞くけど、要するに心の問題だろ?」
「沈んだままの気持ちじゃ幸せなんて掴めないって意味じゃないかな」
「かもな。で、なんでオレ、鍛えなきゃいけないわけ?」
「そりゃー、綱重君にライバルが現れたからだよ!」
「……は?」
何を言い出すのかと思ったら、ライバル? それって一体誰のことを言ってるの?
オレの疑問はきちんとメイちゃんに伝わったらしく「嫌だ、間抜け面しないでよー」と笑われた。煩いな、オレは間抜け面を晒したつもりはないぞ。
メイちゃんは笑顔のまま、そして無言でオレのリングを指差した。昨日と変わらずリングはチカチカと瞬き続けている。これが何か関係があるのか?
「宇宙の守護者については、二年前に少し話したよね」
「歴代守護者はオレを合わせて四人、だったっけ」
「よろしい! そして彼らに補佐として就いていた人、つまりは部下が私以外にもいました」
「え? それは初耳だけど」
「今言ったからねー」
今までは隠してたって事か? ……でも隠す必要なんてどこにもないわけだし、ただ単に今まではオレに全く関係がなかったって事かな。でもオレ、かなり今の仕事きついんだけど。書類仕事多いよ。
ということは今回のリングが光るってこととオレが鍛錬しなくちゃいけないことは関係があるのか。……なんだろう、とても嫌な予感がしてきた。え? いやいや、ないよね?
今回ツナたちは恐らくヴァリアーたちとリングの奪い合いになるだろう。奪い合いの方法についてはまだ分からないが、とにかくリング関連。そしてオレのリングもいつもと違う。
「まさかオレ、リングを手放さなきゃいけないのか?」
「半分正解だね。今回、リングは新たな守護者候補を探し出したことを知らせてるんだよ」
「じゃあオレ終わり? 解放?」
「そんな! 力づくで奪い合いしてもらうよ!」
「わー、やっぱりー」
なんだよ、今回もこっそりツナたちの様子を見守っていようと思ったのに他人事じゃないのかよ。オレのやる気のなさは顔に表れていたらしく、メイちゃんはぷくっと頬を膨らませた。実際には髪に隠れているから見えているわけじゃないが、二年も一緒にいればなんとなく機嫌は雰囲気で分かる。
どうして機嫌が悪いのか分からないけど、とにかく面倒そうなのは確かだ。
「いいの? 敗者は勝者の部下にならなきゃいけないんだけど」
「全力で頑張らせていただきます!」
「お願いねー。私も今のところ綱重君以外に就きたくないし」
思わぬところでオレも人生を賭けなきゃいけないようだ。
バトラーさんはちょいちょい出る。