「はー……、久しぶりに扱うのか、これ」
「久しぶりって言ってもいつも手入れしてたじゃん」
「戦闘でってことだよ。しばらく穏便だったしさ」
対ヴァリアーとの特訓を始めて数日、オレは目の前にズラリと並んだ得物を見て、ため息を一つついた。
基本的にオレは長期戦を嫌う。疲れるし、その影響で判断力が鈍るからだ。だからか、一手で決めてしまおうという魂胆がバレバレな小さいナイフを使用することがある。つまり影からこっそりと、ってやつだ。
まあ本当の得物は別だけど。ナイフを一本一本確認し、丁寧に磨いでいく様はこの日本じゃ異様な光景だろう。包丁だったらまだマシだったか? ……普通は何十本も持ってないか。
「それにしてもいつもより量が多いような気がするんだけどー?」
「いつもこんだけ持ってるぞ? ただあんまり使う機会がないだけで」
「ふーん。まあ大体そっち使うもんねー」
「まあな」
メイちゃんが見た先にはオレの得物が置いてある。
その設計の割りに丈夫な造りである理由は……、オレはよく知らない。なんでもメイちゃん曰く、冥界の特別な資材と技術を使ったものなので壊れる心配は無用なんだとか。冥界には規格外しかいないみたいだ。
そういえばバトラーさんはすっごい厚みのある大剣を持っているらしい。オレは未だに見せてもらったことはないけど、普段から持ち歩いていることは確かなんだよな……。ドラ〇もん的不思議なポケットがあるのか、服の内からスッと取り出すそうな。
「――で、……綱重君? 聞いてる?」
「聞いてない」
「ストレートだなー。折角対戦相手の情報教えてあげようと思ったのに」
「え? 教えてくれるの?」
まさか教えてくれるなんて思っていなかったので少し面食らった。てっきり情報なしで戦場に飛び込めというのかと。今まで何回か遭遇した事態だから今回も同じパターンなのかと思っていた。
「まさか! 向こうは綱重君の情報を入手済みなんだからこっちもフェアでいかないと!」
「へー、オレの情報なんて裏に出回ってんだ」
「そりゃそうだよ、いつ現れるか分からない宇宙の守護者だもの」
「そういやそうだっけ……。ツナに言い忘れてたな」
「ツナ君に教え忘れたとこはまた今度でいいんじゃない?」
「それもそうだな」
なんだ、ヴァリアー側はとっくに情報入手済みなのか。オレが武器を使う場面なんて滅多にないけど、どうやって入手したんだろうな。監視……はないか。仕事のときは必ずメイちゃんも一緒だ、いるなら教えてくれているはず。
とにかくここで聞かないと意地を張っても仕方ないので、胡坐を掻いていた足を正座に直してメイちゃんに向き直る。話を聞くときはまず誠意を見せないとね。
オレの態度が伝わったのかメイちゃんもいつもの雰囲気とは打って変わって凛とした雰囲気になる。不思議と空気もピリピリとしている気がする。この時々出るオーラはやはり冥王なのだと密かに尊敬しているオレである。
「今回、相手はヴァリアーじゃない」
「それは前に聞いたけどさ、ツナに喧嘩吹っかけてきたのヴァリアーじゃないか」
「合ってるけど間違ってるよ。綱重君が今回戦うのはこの子」
オレの眼前に突如メイちゃんの黒球が出現した。あ、黒球って言うのは人の頭くらいの大きさの黒い水晶玉のこと。対象を映し出すと同時にその情報を読み取ることができるというなんとも規格外染みたものだ。ちなみに色が黒の割りに対象の色もきちんと映し出してくれる。テレビの液晶みたいなものかとオレは勝手に納得しているんだけど。
その黒球に映ったのは鮮やかな黄色の胸ぐらいまである髪と、眠そうな丸い目をしている女の子だった。見た感じ……年齢はツナと一緒ってところか? 綺麗な目だとは思うが……どこか濁っているような気がしてならない。
「誰だよ、この女の子?」
「綱重君は知らないはずがないんだけどなー。この子は
「
その異名の通り、殺害方法は罠によるものだ。と、言ってみたものの、初期の段階ではほとんど足がつかないように検出されない毒で対象を殺害していたらしくなかなか情報が上がってこなかった。
異名が付けられたのはつい最近の話ですべて自作の罠での、今までとは違う演出染みた殺害方法から。まるで殺しをショーのように楽しんでいることからその前に滑稽な、という文字が付いたそうな。
なんだよ、このキチガイみたいなやつ……。嫌だよ、純粋に殺しを楽しむ奴と戦うことになる何て。モチベーションが違い過ぎるし、それってオレが負けたら部下どころの話じゃないじゃん。恭弥とはまた違うから怖いわ。
「つまり綱重君は勝たないと死亡しちゃいます!」
「うわ、やっぱりか……。んで、名前は何て言うの?」
「リモーネって言うみたい」
「ふーん……。
果物の名前を持つ割には物騒なやつだ。というか女子でも普通に裏の世界に入ってくるから怖いんだよなあ……。どうしよ、これは本気にならないといけないやつだな。
またため息をついてナイフのチェックに戻る。いつの間にか日が暮れていたらしく、少し室内が暗い。オレはエコなのだ、暗くならないと電気をつけない地球にやさしいエコマンなのだ。……ごめん、今日はつけるの面倒くさがっただけです。
さすがに暗くなってくると作業しづらいし、面倒くさいとか言ってる場合じゃないな。ナイフを置いて立ち上がり、電気をつけるためにスイッチのある壁際に向かう。と、オレの部屋の扉がノックされた。
「ん? はーい、いますよっと」
「オレだ、綱重」
「ああ、なんだ父さんか。何か用?」
「客が随分早く来ちまったみたいでな。出迎えてくる」
「……そりゃまた厄介なことで」
客かあ……、大分濁しているけどヴァリアーなんだろうな。
父さんはそれだけをオレに伝えると下に降りて行ってしまった。もしかしたらその件に関して何か心配事があるのかもしれない。心配事……守護者絡みか? ツナの守護者が皆殺しにされる事でも恐れているんだろうか。
オレは少しの間、扉の前で立ち尽くしてからメイちゃんに目配らせする。
「行ったほうが良いかも。きっとリモーネちゃんもいるよ」
「そうだな。よっし、出発しますか!」
「得物も忘れないでね」
「え? 乱闘前提?」
「馬鹿だな、綱重君。私が教えるわけないでしょ?」
つまり武器はいつだって携帯しておけって事ですね! いつものことだけどたまにはいいじゃない! ……分かったから睨まないでよ。いつだって危険だってことだろ。
手っ取り早くオレの仕事着であるスーツに着替え、スーツの内側と腰に着けたポーチにナイフをそれぞれ二十五本ずつ仕舞い、更にポーチには蒜頭骨朶を入れる。これがオレのデフォルト装備だ。
ふむ、久しぶりだけどこれは万全って言うのかね。なんだかちょっと不安になったオレの肩にひょいとメイちゃんが飛び乗った。こうしてもらうだけで安心感が出るのは不思議だ。
「で、どこに向かうんだよ?」
「バトラー!」
「えっ」
「……お呼びでしょうか、メイ様」
スッとかなり自然な流れでオレの部屋に表れたバトラーさんの上半身。何故だかバトラーさんは上半身だけ現れる事が多い。やっぱりバトラーさんも面倒くさいのかな、とか思っていたらメイちゃんに引きずり出された。お前……!!
「っ、」
「なんか迫力欲しいから同行頼める?」
「りょ、うかいです……!」
思い切り床とごっつんこしたバトラーさんは痛そうに額を押さえている。大丈夫かな……。
どうやらオレはこの二人と行かなくてはならないらしい。別に人が増えようが減ろうが構わないんだけどね。どうせオレにとっては変わらないことだし。
「じゃあ行こっか!」
いつもと変わらない明るいメイちゃんの声がどことなく場違いに見えた。
――――――――――
現在……並盛のどこか。どこかって? オレは知らない。
「やべえ、ガチで迷った」
「綱重君のばーかっ!!」
「煩い!」
「……えっと、綱重さんの地元、ですよね?」
「ごめん、バトラーさんのが一番傷付いたわ」
笑顔で罵倒するメイちゃんよりも遠慮がちにオレに聞いてくるバトラーさんが純粋すぎてオレに大ダメージどころか更に傷を抉ってきたわ。何この人恐ろしすぎる。
というかメイちゃんがナビの役割をしてくれたら話は早いと思うんだ。提案してみたら「それじゃ綱重君のためにならないでしょ!」とご尤もな意見を返されてぐうの音も出ないよ!
そこらへんをぶらぶら歩いてみるものの、やっぱり大した発見と言うか誰にも遭遇しな……。遭遇しない? 夜とはいえさすがに誰かは歩いているだろうに、誰にも遭遇しないってどういうことだよ。
いつもとは違う異常に見えるそれに首を傾げて、耳を澄ましてみる。もしかしたら誰かの声が聞こえてくるかもしれないということだったが……当たりだったな。
「見つけた。あっちだ」
「綱重君動物みたいだねー」
「とにかく向かいましょう」
緊急事態、と勝手に自分の中で警告を発して、内心でごめんなさいと謝りながらオレは電柱を介して誰かの家の屋根に飛び乗った。だってこっちの方が移動とか早いんだもん! ちなみに他二人は不思議な力みたいなもので僅かに浮いている。オレもそれ使いたい。
足元に十分注意しながら声の聞こえる方に進むと、そこにはヴァリアーとツナたちが対面していた。おーおー、XANXUSったらなんだかいきなり変なことやらかそうとしやがって……。オレのツナに何しようとしてやがんだよコラ。
懐から一本ナイフを取り出し、感情を乗せるようにしてXANXUSに向けて投擲する。不意打ちするのには無用な感情が入っていたせいかXANXUSがオレと、オレのナイフに気付き迎撃しようとするのが目に入る。が、その前に“誰か”のツルハシがオレのナイフを弾いて、XANXUSの目の前を少し通過した地面に突き刺さった。
「XANXUS、綱重、双方そこまでだ。ここから先はオレが預かる」
「……ッチ、やっぱ父さんか」
まさかここで父さんが割って入ってくるとはね。考えてみたらオレより先に家を出たんだから当然のことかもしれない。それにしたっていいタイミングで出てきたな、もしかしてタイミング探ってた?
くだらないことを頭で考えて熱を覚ます。ふー……、と大きく息を吐くと大分鎮めることはできたみたいだ。メイちゃんが珍しく心配そうにオレの頬をペチペチと叩いてきた。心配しないで、という意味を込めてメイちゃんの頭を軽く撫でてやる。
「ねえねえ、私帰っていいよね!? 部外者だもん! てか帰るわ! 今すぐ帰るわ!」
ひょこっとスクアーロの後ろから黄色の髪をポニーテールにまとめた女の子が現れた。すぐにその子がリモーネと呼ばれる女の子だと気付けたのはその髪と、ヴァリアーたちとは違う、まるで忍びのような白い服装をしていたからだった。何故、忍び……? というか白って絶対その服装意味ないわ。
それにしても、あの女の子、思っていた以上に小さいな。150、いってるか? オレは見ただけで身長をズバッと言い当てられるわけじゃないから分からないけど。マーモンの次に小さいんじゃないか?
「う゛お゛ぉい! てめーはまだ帰らせるわけにはいかねーんだよぉ!」
「うおわっ!? ちょ、首根っこ掴まないでよロン毛! 地面に足つかないから!」
「んまぁー、リモーネちゃんったらお転婆さん! もうすぐ戦えるから静かにしてて頂戴!」
「煩いこの黒づくめ共! だっさい服装してんじゃないわよ! というか拉致る必要なかったわよね!」
「決まってるだろ。君の勧誘だよ」
「迷惑極まりないわねこの馬鹿共! 揃いに揃って頭パーな訳!?」
「ししし、ちょっと天才のオレには聞き捨てならないね……。殺しちゃっていい?」
「許す」
「てめーに聞いたんじゃねえよ、レヴィ」
ふむ、ヴァリアー勢は幹部組が全員揃ってるな。しかし奥に見える機械のやつは初めて見たような……? ヴァリアーのほうはあまり情報を取ってなかったしな。メイちゃんにあとで聞いておこう。
しかしそれにしたって相変わらずまとまりのない団体だな。リモーネが入ったせいで更にまとまりがなくなったな。いや、リモーネはまだ入っていないのか。勧誘を受けたけど断ったから拉致られて、それで今回の戦闘がある意味で腕試し……みたいな感じか。
拉致られるくらいには実力があるって事だよな……。うおおお、とても面倒な予感がする。できればオレは平和的解決を目指したいところなんだけど、無理だよなー……。
「んで、私の相手は結局のところ誰なのよー。さっさと殺して帰るから」
「オレだ」
「……え? お兄さん? 嘘ぉ、そっちのガキがよかったなー。絶対すぐ終わりそうだし」
こいつぶっ飛ばしてもいいだろうか。いや、今すぐぶっ飛ばすわ。
オレがキレ気味なのが分かったのか、リモーネが「ヘイカモン!」とスクアーロに持ち上げられたまま挑発してきた。うっざ! 受けて立ちたいところだけど……っ、平静になれオレ!! 「何だ来ないの? 腰抜けかー……」ねえ殴っていいよね!?
「落ち着いて下さい、綱重さん!」
「離してくれ、バトラーさん! 今すぐ決着をつけたいんだ!」
「黙ってよ、綱重君。煩いったらありゃしないなー」
「メイちゃん待って、有幻覚だよねそれ。オレの首がどんどん絞まってくぶぶぶぶ……」
オレの首にゴツい首輪が出現し、段々と絞まっていく。あっ、これ逝っちゃうんじゃないかな、オレ。
容赦なくギリギリと首輪を絞められ、オレの意識は段々と遠のいていった。絶対ここから先が大事なところだと思うんだけど……。
ヴァリアー組の口調が迷子。いざ書くとなるとってやつなんでしょうか……。
口調に関しておかしいことがあったらご指摘ください!
蒜頭骨朶の画像がネット上にないと情報をもらったので簡単な説明。
本では「先端の錘が大蒜(ニンニク)に似た形状で鋭く尖らせた石突を持っている」そうです。
二メートルほどの棒の先端に大蒜のような丸いもの、その反対側に尖らせたナイフのようなものがくっついていると思っていただければ。
ちなみに伸縮設定は私が勝手に着けたものです。だって、二メートルなんて持ち歩いたら不自然……。
参考とさせてもらった本『幻想世界 武器事典』