「まぶしっ!?」
「ちょっと、目が痛いんだけど!」
各々の不満を並べ立てるオレとリモーネ。それも当然だろう。戦闘が終わったと思ったらオレの持っている宇宙のリングが輝きだしたんだから。前触れのないそれにオレとリモーネは油断していたため、目潰し的効果を食らい悶絶している……というのが今の状況だ。
どうにか目を開けてみるものの、まだ目の前がチカチカしていて周囲の状況をよく把握できない。どうにか暗い場所、とは判断できるんだが……。ただなんとなく雰囲気が変わった気がするから、きっとここは並中じゃないんだろうとだけは思ってみる。
ぼんやりとする視界を落ち着けるために目を細めると、目の前にメイちゃんとバトラーさんの姿を見つけることができた。ということは、ここは冥界なのかもしれない。ホッとしてその場に腰を下ろせば隣でむくれているリモーネも見えた。
「二人とも、ご苦労様ー!」
「お疲れ様でした。いきなりお連れする形になってしまい、申し訳ありません」
なんでもないようにいつも通りケラケラと笑ってみせるメイちゃん、恭しくオレたちに一礼するバトラーさん。やっぱりいつも通りの光景を見てると安心する。
オレは二人の言葉に頷きながら立ち上がろうとして、身体に激痛が走りそのまま尻餅をついてしまった。ぬぅ……、予想以上にリモーネとの戦闘でダメージを負ったらしい。これじゃあ特訓の成果が活かせてないってもんだ。
おまけにリモーネはほとんどダメージ受けてないわけだし。……考えてみたら何だこの結果。勝利条件が“相手を認めさせる”っていうのだったからこそオレは生き残れているようなものじゃないか。勝ったっていう実感が沸かないな。
「だ、大丈夫ですか? 少々お待ちください、手当てをしますので……」
「リモーネちゃんは……問題なさそうだね。それじゃ、治療と説明、同時進行で行くね!」
パチリとウインクしたメイちゃんは機嫌がよさそうにくるりとその場で一回転して喋り出した。
オレたちをここに連れてきた理由は敗者であるリモーネをヴァリアーに殺させないためだということ。リモーネを補佐として受け入れるために必要な儀式があるので連れてきたということ……とほとんどオレはついでに連れてこられたようなものらしい。
どうせオレはついでだよ、と少し凹みながらもバトラーさんの治療を受ける。ぼうっとバトラーさんの手元が明るい黄色の光で包まれ、それがオレの傷口を癒していく。とても心地よくて、思わず眠くなってしまいそうだ。
「リモーネちゃんにはこれから宇宙の守護者の……」
「そこのお兄さんの補佐でしょ? 約束くらいは覚えてるよー」
「ん、口約束だからって無視されたらどうしようかと思った! ありがとね!」
「逃げてもいいんだけど、地の果てまで追っかけられそうだからやめただけだよ……」
げんなりとした表情でリモーネは呟いた。
よく分かってるじゃないか。オレの予想だと、逃げようとしたら強制的に冥界に送られて「うん」と言うまで監禁されると思うね。笑顔は優しいんだけど何仕出かすか分からないよ。
気持ちが分かるよ、と言う意味でリモーネの肩をポンポンと叩いてやったらウゼエと言うような表情で見られた。あれー、オレってば嫌われてるの? これからもこの調子だったらやっていける自信ないよ。
「というわけで、リモーネちゃんにはこれをあげます」
「……え? リング? お兄さんの持ってるその一個だけじゃないの?」
メイちゃんがリモーネの前に差し出したのは、オレの嵌めているリングに酷似した――見た感じ、一回りばかり小さいように見える――リングだった。これにはさすがのオレもぎょっとする。
「ううん、補佐用のリングがあるんだよ」
「補佐……用? ちょっと待って、オレそんなの聞いてない」
「言ってないからね!」
「清々しいまでにイラつく笑顔だ」
最近それ多くないか、おい。なーんか隠されてることが多いよな。それが二年越しに知らされるってのもおかしい。なんで今になってこんなに色々と新しい情報が出てくるんだろう。
ふーん、と呟いてからリモーネは戸惑いなくそのリングを右手の中指に着けた。こ、この子説明もなしに……。なかなか度胸が据わっているようだ。
というか、なんで人差し指につけないのかと思ったら既にリングがひとつはまってるじゃないか。装飾は控えめだけど台座に嵌まった小粒の紫色に輝く宝石が実に綺麗だ。オレの視線に気付いたリモーネは優しい微笑みをその口元に浮かべた。
「これ、私に残った唯一の家族がいた証明なの」
「……お前、孤児か」
「うん。これは小さい時からずっと身に着けてたものだから」
大事そうにリングの上にそっと左手を乗せるリモーネにまだ子供らしい感情が残っていることが分かり安堵する。これならやっていけそうな気がする、と信じる。
「綱重君と同じく死ぬまで取れないからね!」とムードをぶち壊してきたメイちゃんに対し、「これくらいなら支障はないよ」と返すリモーネは冷静だ。
なんだか一気に頼もしくなったな。味方だと案外、ってやつか?
「それでさ、質問があるんだけどいいかな、メイちゃん?」
「はいなんでしょうか、リモーネちゃん」
右手を挙げてプラプラと左右に振るリモーネに対してメイちゃんはビシッと指を指した。なんか出来の悪い生徒とそれを教えてる教師の様で笑えてくる。
「ツナマヨ君ってさ、綱重の弟なんだよね?」
「あってるけど……呼び方」
「気にしないで。でさ、それってつまり、長男を無視して次男が次期ボンゴレボス候補ってことだよね」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「普通だったら綱重が候補にならない? それか今、同じように争ってるか。なんで候補にあがらないのかなーってずっと思ってたの。断ったりしたわけ?」
「断ってないし、そもそもそんな話自体聞いてないけど」
確かに、世襲制だとすればそれは考えられることかもしれないな。
オレも何回か考えたことがある。でもそれはオレが宇宙の守護者になったからなくなった話だろうと思って、あまり深く考えたこと自体はない。周りもそのことについてオレに話しかけたことがなかったし、これは当然のことなんだろうと思った。
それがリモーネから見れば異常に見えるのだろうか。オレとしては、二つも両立できないだろうから例え今その話が来たとしても全力で断るんだけど。
「そうだね、それじゃあ世界のお話からしようか!」
「世界? また随分大きな枠組みが絡んでいるんだな」
「そりゃそうだよー。綱重君だって、私の本当のお仕事の内容、覚えてるでしょ?」
「えっと……、この世界の魂の管理、だったっけ?」
「そうだよ。もっと正確に言えば、死んじゃった生物の魂だね」
オレがこんなことに巻き込まれる羽目になったあの日教えてもらった、少しの情報の一つ。それがメイちゃんの本来の仕事の内容。
メイちゃんはこの世界の魂を管理する仕事をしていて、それは人であったり動物であったり……と命あるものなら尽きたときに冥界にやって来るらしい。それを整理して次の生に送り出す、それがメイちゃんの冥王としての仕事。ちなみにこの前オレとメイちゃんで覗き見していた六道骸であるが、冥界での知り合いらしい。
六道骸は例外だが、簡単に言えば魂としての形でならメイちゃんはこの世の生物全てを知っていて会っているということになる。勿論オレたちにその記憶はない。
「我々はこの世界で生きる人間を三種類に分けて考えています」
「三種? 私にはみんな同じに見えるけど」
「ええ、外見等に特別違いがあるわけではありません。魂が違うのです」
「私たちはそれを一般人、転生者、イレギュラーって定義してるんだー」
転生者って、そんなの物語での話だろ。まさかそんな単語を聞けるとは思わなかったな。なんとも非常識な言葉だけど、よく考えたらそもそも
「一般人は勿論数が多いよ。元々この世界の人たちだからね」
「転生者は他の世界から何らかの事故により記憶保持のままきたものを指します。万が一、この世界を乱してあまつさえ崩壊するような事象を起こすなら、我々はこれらを排除する任務も持っています」
「転生者もそんな滅多に来ないけどね。そして綱重君やリモーネちゃんを指す言葉がイレギュラー」
「それさ、転生者とどう違うんだよ? 転生者だって十分イレギュラーだろ?」
「先程も申した通り、魂が違うのです」
今まで開示されなかった情報はこれまでのどれより衝撃がでかい。
オレ自身ではなく世界の話だ。そのスケールはとても大きい。もう一つの衝撃は、それをオレが教えてもらえるという事実。冥界の生き物ではないオレに何故これらのことを教えてもらえるのか、メイちゃんの腹が読めない。
「イレギュラーはこの世界の枠組みの人間ではありません。しかし、他の世界からきた転生者でもありません」
「突発的に生まれた不思議な魂。原因は分からないけど、ちょっとした世界の歪みが原因だと考えてるよ」
「そして彼らは不思議な力……“宇宙の波動”を有しています。リングは彼らの保護と監視、そして力の制御も兼ねているのです」
「つまり私たちはイレギュラーで、宇宙の波動はさっき綱重が出してたあれ?」
「そう! いいねー、飲み込み早くて助かっちゃうなー」
「え? オレが出してたあれって何?」
「覚えてないならそれでいいわ」
なんだよもう、気になるなあ。メイちゃんは意味ありげに笑うだけだし、バトラーさんも苦笑いだし。また変なところで秘密ごと作りやがって。なんだかオレだけ蚊帳の外みたいで悲しいぞ?
ちょうど手当ても終わり、バトラーさんはオレから離れてメイちゃんの側に戻って行く。バトラーさんってメイちゃんと同じくなんでもできるイメージがあるな。さっきの変な手当ての仕方もそうだし。
再び立ち上がろうと試みてみるとさっきより簡単に立ち上がることに成功した。地面を踏みしめることが出来るって素晴らしい。バトラーさんに感謝しなきゃな。
「なんとなく分かった。オレのリングは世界に存在しなかったはずのものって訳か」
「その通り! メイドイン冥界、なのですっ! ……あ、私ってば上手い!」
「メイ様は放っておいて……」
「酷いよバトっち!?」
「それより話を戻してください。“何故綱重さんが次期ボンゴレボスになれないか”に」
「うぐぐ……。一言で言っちゃうと、生まれることが決まったときから権利はないの!!」
「結構ショッキングな内容だった」
「イレギュラーの魂を持った以上、どうしようないことです。ご理解ください」
関係がないことであるはずなのに苦しそうに眉を寄せて頭を下げるばとらーさんに思わず恐縮してしまう。や、やめてー! なんか居た堪れないからやめてー!
あわあわと両手をぶんぶん振っていると「……ドンマイ、ボス」とリモーネが呟いた。お前のは態とだろ!? なあ分かってんだぞ! 態となんだろ!
「正史、という物があります。それはどの世界にも存在する世界の行く末です」
「正史? 何それ、この世界の運命が決まっているとでも言うの?」
「ええ。しかしそれも永遠ではありません」
「正史は一部でしかないんだよ。今は正史の途中。私たちはそれをなるべく壊さないように見守らなきゃならないのー」
「正史はふとした時期に始まりふとした時期に終わる……。これが無事に終わらなければ、世界は壊れて存在を消します」
「でもね、イレギュラーは正史にいなくても巻き込まれちゃうの。不思議だよね」
「尤も我々がそれを知りえたのはアギト様の存在故でしたが……それ以来こういったことをしています」
アギト。確か初代宇宙の守護者だな。オレの先祖に当たる初代ボンゴレボスジョットの、双子の弟にあたる人物だったと記憶している。この話の流れだと、彼もオレやリモーネと同じイレギュラーだったということか。それだけじゃなく、二代目や三代目、彼らに一人ずつついた補佐も同様に。
……こう思っちゃ失礼だけど、オレだけじゃないって考えたら元気出てきた。
「そう、独りじゃないの。それがちょっといいとこだよね」
「変にポジティブになられて……。いえ、元々でしたか」
「今更だねー、私のこの性格は変わらないよー」
「ゴホンッ。ともかく、お三方は一度お帰り下さい。まだ舞台の幕は引いておりませんので」
佇まいを正したバトラーさんが右手で指を鳴らすと、ぽっかりと目の前に大きな穴が開いた。そこから見えるのは見慣れた、沢田家にあるオレの自室だ。音は聞こえずなんとも静かだ。
オレとツナの部屋は隣だし、もしかしたらツナはまだ帰ってないのか? そういえば突然消えちまったし、迷惑と心配をかけているかもしれない。オレってば、なんてことを……!!
「悲観するのはあとで! 今は戻ろうか!」
「そうね。私もちょっと疲れちゃったし、今日はもう寝たいな」
「……泊まる気か、リモーネ」
「いやだあ、私ヴァリアーのとこ帰れないじゃん。イタイケな女の子に野宿しろって?」
「はいはい……」
一足先に穴の向こうへ行ったメイちゃんとリモーネ。なんで女ってこんなに面倒なんだ。オレには女運はないのか……。って、この言葉はちょっと違うか。
バトラーさん意挨拶をして、後でツナに謝ろうと心に決めながらオレは穴を潜った。
さり気なく初代の名前オープン
〇リモーネ (12)
滑稽な罠使いの他称を持つ少女。実際には罠以外も使う。
宇宙の守護者であさ沢田綱重の補佐を任された。
好奇心と探求心が旺盛であり、彼女の作った蟻もその成果である。
宇宙のリング(補佐用)以外にもリングをひとつ所持している。