だって人間魔力無くたって生きていけるもの。
とある純血一家に産まれたスクイブの子の話。
とある純血一家がある。家名はウィーズリー、彼らは魔法界の中でも普通に有名な一族であった。
生まれる者は殆どが魔力を持ち、そして、11才になると、ホグワーツ魔法魔術学校から手紙が届き、そこへ通うことになるのが当たり前になっている。そして、アーサー・ウィーズリー、モリー・ウィーズリー夫妻の子供達も皆、魔法使いであった。
一人を除いては。
イギリスから遠く離れた、とある極東の島国。そこの、都会から離れた町にある、一つのアパートの一室。部屋の主人である少女が、気持ち良さそうに寝息をたてていた。窓からサンサンと降り注ぐ暖かな日差しにを受け、少女の、赤い髪が柔らかにきらめく。
ゆったりとした時間が、部屋を支配していた。
それを壊すように、けたたましい電子音を鳴り響かせる目覚まし時計。それに呻き声を上げ、一人の少女が布団から起き上がる。
「あと、五分、いや、五時間……」
目を擦りながら、少女は目覚まし時計の電子音に眉間にしわを寄せ、スイッチを押した。
訪れた静けさに、少女は二度寝でもしようかと考えたが、予定を思い出し、渋々立ち上がった。
「今日、実家帰るんだっけ……」
嫌だなあ、と呟きつつも、少女ーーメアリー・ウィーズリーは、苦笑いを浮かべたのだった。
*
今から17年程前。ウィーズリー夫妻に、新たな命が宿った。産まれたのは、初めての女の子。これに二人は大層喜び、まあ男の子でも元気に産まれていれば喜んだのだけれど、とにかく、二人はこの子にもめいいっぱいの愛情を持って育てようと話し合った。
いったいどんな魔法を好きになるのだろう。寮はやはりグリフィンドールだろうか。友達は出来るだろうか。
そんな、不安もあるけれど、それ以上に期待や、希望で満ち溢れていた。
けれど。女の子はいつまで経っても、魔力が開花する様子は無かった。夫婦は焦った。もしかして、うちの子はスクイブなのだろうか。
スクイブとは、魔法使いの家族の中で時々産まれる、産まれながらにして、魔力を持たない子のことである。
もしそうだったら、どう接すればいいのか。夫婦は悩んだ。しかし、うちの子に間違いはないのだから、他の子と分け隔てなく愛情を注ごう。大丈夫、11才になったら、きっとホグワーツから入学の手紙が届く。
そんな夫婦の淡い期待は呆気なく崩れ落ちた。
「おかーさん。おとーさん。もういいよ」
結局手紙は来なかった。12才になっても、13才になっても。手紙が届くことは無かったのである。女の子は両親に、もう無理しなくていいと告げた。聞いているこちらが泣きそうなほど、無感情で、淡々とした声であった。
それに夫婦は、何でそんなことを、諦めたようなことを言うのかと怒った。兄弟達はそれでも良いと思っていた。スクイブだからと言って、血の繋がった家族に他ならないのだから。それでも何処かで、腫れ物を扱うかのように接していたところもあって。
「もう、期待しないで。クイックスペルだとか、そういうのも、全部、諦めてよ」
「な、何を言っているんだ、メアリー!」
「そうよ、ここで諦めてどうするの!」
「マグルになる」
え、と誰かが声をもらした。誰かは分からなかった。全員かもしれないし、一人だけなのかもしれない。
「どうせ魔力は無いんだし、マグルと変わらないでしょ。大丈夫、住むところはもう決まってるから」
どこまでも淡々とした声で告げる少女。その目はどこかぼんやりとしていて。
じゃあ、部屋に戻るから。最後まで少女はぼんやりとした目のまま、階段を上がっていった。
残った誰もが、嘘だろう、という表情を浮かべていた。母親が呟いた。
「それでも、良かったのよ」
魔力が無くとも、元気で居てくれれば。母親は、少女の提案を許可した。最低でも月に一回は戻って来るという約束をして。
それから数年後、少女は家を出ていった。正直なところ、少女はもう戻らないつもりだった。だって一家の恥晒しのような自分が居ては迷惑だろうし、何より腫れ物を扱うかのようにされるのが嫌だったのだ。
しかし母親や、家族の表情は、何かを耐えているかのようで、それでも笑って見送ってくれて。
少女は、困ったなあ、と飛行機の中で苦笑した。その時少しだけ、つん、と鼻の奥が痛くなったような気がした。
*
「元気かなあ……」
メアリーは、家族と待ち合わせした場所で、呟く。大きな駅ということもあり、周りが騒がしい。
すると。遠くから、メアリーの名前を呼ぶ声が聞こえ、メアリーは振り向き、そして笑った。
「久し振り!」
魔力が無くったって、大丈夫。こうして笑っていられるのだから。家族が居るから。
生きていられるのだ。