非科学的な世界で(略)追い詰められるが良い!   作:たたっきり測

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〇9.ラストワード

 最初、ハグリッドは、彼が言った通り、なかなか四階の廊下について話そうとしなかった。

 しかし、『私たち、誰がこんな強固な守りを固めたか知りたいだけなの』『あなたならきっと知ってるんでしょう?だって、このホグワーツで起きていることで、あなたが知らないことなんてないんだもの』『ダンブルドアに廊下の守りを依頼された、彼からの信頼を勝ち取っている人は誰なのかしら……あなた以外の』というハーマイオニーの話術に見事にかかり、術をかけた先生の名前をポツポツと言いはじめた。

 

「ええと、俺がフラッフィーを貸して、術は……たしか、スプラウト先生と、フリットウィック先生と、マクゴナガル先生と……それから、ダンブルドア先生もちっくと仕掛けを施されたはずだ。あとは、クィレル先生……あ、それと、スネイプ先生」

「スネイプだって?」

「ああ、そうだ。まだお前さんらはそれを気にしておったんか。スネイプ先生は守りの術に参加した先生だ。石を盗むはずがないだろう」

 

 しかし、ハリーは心配そうに尋ねた。

 

「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくできる方法を知っているんだよね?誰にも、話してないよね?」

「当たり前だ。俺とダンブルドア以外は方法を知らん」

「なら、いいんだけど…」

 

 なるほど。スネイプが守りに参加したのならば、他の先生の守りの仕掛けも見抜ける機会があったかもしれん。しかし、フラッフィーとクィレルの守りを突破する方法はわからないからクィレルを脅している、ということか?

 

 にしてもだ。暑い。なんだ、この部屋は。

 見ると、暖炉がごうごうと燃え盛っている。なぜこんな季節に……と考えた瞬間、中の大きくて黒い卵が目に入った。

 

「……ハグリッド?あれはなんだ」

「え……あぁ、いや、それは……」

 

 わたしが暖炉を指差して指摘すると、ハグリッドはぎくりとして、髭をもにょもにょと触った。

 

まさかドラゴンの卵―――なんて言わないよな?」

「はは、まあな。賭けに勝って貰ったんだ。昨日の晩、村に行って、酒を飲んでな。そいつは厄介払いができたと喜んどったが」

「孵ったらどうするの?」

 

 ハーマイオニーが訊くと、ハグリッドは本を取り出した。『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』だ。

 

「この本がすごくてな、ちょっと古いが、なんでも書いてある。母竜が息を吹きかけるように炎で暖める。孵ったら、ブランデーと鶏の血を混ぜたやつをバケツ一杯、三十分ごとに飲ませる。それと、ほら、ここ――卵の見分け方。俺のはノルウェー・リッジバッグという種類で、こいつが珍しくてなぁ」

「まさか、飼うつもりとか」

 

 ハグリッドが満足そうに頷くので、わたしは頭が痛くなってきた。

 

「法律違反だぞ。そんな卵、いますぐ目玉焼きにでもして食べてしまえ」

バッ……何を言うとるんだお前さんは!ダメに決まっとるだろう」

「駄目、駄目だと?おいおい」

 

 わたしは思わず笑ってしまった。

 ああ、どうしてこう、誰も彼も、面倒事が好きな奴ばかりなのだろうか。

 

「ハグリッド、貴方はバ……いやその、なんだ。周りにバレたらどうするとか、考えたことはないのか?今は楽しく後先考えずにこうしているがな、結局困るのは貴方なんだぞ」

 

 ハグリッドはわたしを無視して、暖炉に火をくべ始めた。こいつ、忠告を聞き入れる姿勢も見せないとは。

 わたしは、いよいよこの小屋の暑さにうんざりしてきたので外に出た。こんな部屋にいるより、図書室の日陰で勉強した方が有意義だからだ。

 

 

 それから何日か経ったある朝、ハリー宛に短い手紙が届いた――『いよいよ孵るぞ』

 ロンは薬草学の授業をサボってすぐに小屋に行こうとしたが、ハーマイオニーが止めた。

 

「さぼるなんて駄目よ。また、面倒なことになるわよ。……ああでも、ハグリッドがしていることがばれたら、私たちとはくらべものにならないくらい面倒なことになるわね…」

「静かに!」

 

 ハリーが小声で制した。数メートル先に、マルフォイが立ち止まって、じっと聞き耳をたてていたのだ。マルフォイは、彼らが黙ると、すぐに去っていった。

 薬草学の教室に行く途中ずっと言い争っていたが、とうとうハーマイオニーが折れて、休憩時間に急いで行こうということになったようだった。授業が終わると、ハリーがわたしの方に駆け寄ってきた。

 

「ターニャ、はやく行こう。孵っちゃうよ」

「いや、わたしはいい。あの部屋は暑すぎる」

「え?」

 

 ハリーに有無を言わさぬよう、わたしは足早に教室を去った。

 

 

 それからというものの、ハリーたちは結構な頻度でハグリッドのもとを訪れているようだった。

 ハーマイオニー曰く、ノーバード――ハグリッドはドラゴンにそう名付けた――が孵るところをマルフォイに盗み見され、奴がいつ言いふらすかわからないので、なんとか手放すように説得しているらしい。

 

「ハグリッドってば頑固なのよ。ねえ、今度はあなたも一緒に来て手伝ってくれない?」

「いや、爬虫類は苦手でな。遠慮しておく」

 

 わたしはとっさに適当な嘘をついた。ハリーやロンにも似たようなことを言われたが、全て断っていた。

 これ以上の面倒は本当にごめんだ。それに、説得の効かない馬鹿に付き合っている暇もない。

 テストが近いというのに、そんなことにかまけている余裕があるのがむしろ羨ましいくらいだ。

 

 結局、ハグリッドは、ルーマニアでドラゴンの研究をしているロンの兄のチャーリーを頼り、ノーバードを手放すことにしたらしい。ハリーたちは何度かの手紙のやり取りを経て、土曜日の真夜中、一番高い塔にノーバードを連れてチャーリーと落ち合うことになった。透明マントがあるから不可能ではない。その頃には、ノーバードは死んだネズミを木箱に何倍も食べるようになっていた。

 餌やりを手伝っていたロンが帰って来て、血がところどころ染みているハンカチでくるんだ手を掲げて見せた。

 

「噛まれちゃったよ。こりゃあ一週間は羽ペンを持てないぜ」

 

 しかし、一週間どころの問題ではなくなった。ロンの手は翌日には痛々しく腫れ上がっていた。彼はドラゴンに噛まれたことがばれるからとマダム・ポンフリーのところへ行くのを躊躇していたが、午後には傷口が緑色になって、そうは言っていられなくなった。

 

 そろそろ夜も更けてきて、生徒がまばらになった談話室に、ハリーとハーマイオニーが見舞いから帰ってきた。

 なぜかわたしが勉強している席のそばにやって来て、彼らはひそひそと作戦会議を始めた。なんでも、マルフォイにチャーリーからの手紙を取られてしまったらしい。

 

「今さら計画は変えられないわ。もう、チャーリーに手紙を送っている暇はないし……」

「その通りだ。それに、僕たちには透明マントがある。マルフォイはそれを知らないし。で、だ。誰が行く?」

 

 わたしは顔をあげた。まさかハリーのやつ、わたしを頭数にいれてないだろうな?しかしバッチリ目があった。

 

「わかってると思うが、わたしはパスだぞ」

「え、なんで?」

 

 なんでってお前、なんでだよ。

 わたしが唖然とするなか、ハーマイオニーがフォローには言った。

 

「爬虫類が苦手なのよね?でも、木箱にいれて運ぶから、大丈夫だと思うけど…」

「は?爬虫類が苦手?」

 

 ハリーは嘘だろという風にわたしを見た。

 

「そんなわけないだろ、君、前に授業で蛙の解剖をやってたじゃないか」

「そうだったか?忘れてしまったな。あと、蛙は爬虫類ではなく両生類だ」

 

 わたしの言葉に、ハリーはムッとした。

 

「そんなことどうでもいいってば。君、ハグリッドを助けたいと思わないの?」

「別に。説得ならもうしただろう。だがあいつは聞かなかった」

「でも、あんな説得の仕方があるかい?よりにもよって、ハグリッドに、目玉焼きにして食べちゃえなんてさ」

「じゃあ、『いますぐ卵を叩き割って裏庭に埋めろ』と言った方がよかったか?」

「ちょっと待ってよ。さっきから、君、ハグリッドがどうなってもいいってこと?」

「まあ、そうだな」

 

 ハリーは僅かに身を乗り出した。

 

「君、自分が何を言っているのか、理解してるの?」

「それはこっちの台詞だ。貴方は何でそう面倒事に首を突っ込むんだ?」

「友達を助けるのは普通だろ。何が悪いんだよ」

「ああそうだな。何にも悪くはないさ。だが、それで自分の身を滅ぼすのは馬鹿がやることだ」

何だって?

 

 ハリーがついに語気を荒げて立ち上がったので、ハーマイオニーは慌てたように止めた。

 

「ちょっと、落ち着いてよ、二人とも!」

 

 ハリーはブルブル震える声で言った。

 

「まさか、君がそんなに薄情な奴だなんて思わなかったよ」

「そうか。まあ、わたしはいつでも、最低限の自衛をしているだけだ」

 

 わたしは参考書を閉じて立ち上がると、寝室に上がった。

 

 しばらくして、ハーマイオニーも上がってきた。彼女は寝室に入ってくるなり、他のみんなを起こさないように小声で言った。

 

「ねえ、ターニャ。さっきのこと、ハリーもだけど、あなたもちょっと言い過ぎよ」

「そうか」

 

 沈黙。

 

「え、ね、ねえ。それだけなの?」

「それ以上ない」

「で、でも。あなたたちは友達でしょう?今のあなたみたいに、ハリーも怒ってたわよ。二人とも、お互いに、謝った方がいいと思うの」

「ああ、そうだな。だが、今は忙しい。そんな面倒事に構ってられん」

「め、面倒事って……」

「貴方も、あんな下らんことに付き合いすぎて、テスト勉強を疎かにしないように気を付けろよ。では、おやすみ」

 

 わたしはそう言い残して、ベッドの天蓋カーテンを閉じた。幸い、ハーマイオニーがそれ以上わたしに声をかけることはなかった。

 

 それからというものの、わたしはハリーと話さなくなるどころか、顔を合わせることもほとんどなくなった。

 いや、いい。もういい。都合がいい。彼がフラメルに入れ込みはじめた頃から薄々思ってはいた。彼に付き合ったばかりに、やれ賢者の石だの、わたしにはどうにもできないことにも関わらず、余計なことを知りすぎた。これ以上の面倒事はごめんだと思っていたのだ。コネだなんだと言っていたが、正直、彼は予想以上に向こう見ずな奴(トラブルメーカー)だ。最年少シーカーとか、額の傷だとか、生き残った男の子だとか、ちやほやされて調子にのっているのだろう。しかしそんな浅はかな奴が将来有用な奴になるだろうか?――それどころか、すぐににホグワーツを退学になってしまってもおかしくない有り様ではないか。

 別にいい。今までだって、ひとりでやって、わたしは成功してきた。今までと変わらず、ひとりでやるのが一番だ。

 

 日曜日、わたしが起床した頃、寝室はもぬけの殻だった。皆朝から出払っている。

 ハーマイオニーもいない。てっきり、昨日の夜たたき起こされて、うまくやったと言う事後報告をされるこくらいは覚悟していたのだが。

 わたしはハリーの顔を思い浮かべた。うまくいったぞ、ターニャは心配しすぎなんだよ…と彼に言われるイメージが浮かび、わたしは顔を歪めた。

 

 しかし、談話室に降りてみても、人は全然いなかった。いたのは、無事退院したロンと、ハリーとハーマイオニーだけで、彼らはソファに身を寄せ合うようにして座っていた。

 

「…やあ、ターニャ。おはよう」

「ああ、おはよう、ロン。もう具合は良いのか?」

「あー、バッチリ」

 

 ロンは噛まれた右手の親指を立てて見せた。傷ひとつない、元通りの肌だ。しかし、笑顔はひきつっていた。

 他の二人はというと、顔色が悪かった。ハリーが震える声で、言った。

 

「ターニャ……」

「…何だ」

 

 ハリーの、しばらく迷ったように視線をさ迷わせる様子を見て、わたしはなんだか嫌な予感が腹の奥から昇ってくるのを感じていた。

 彼は俯いて、小さく、しかし確かにこう言った。

 

……失敗した

……何だって?

 

 わたしは耳を疑った。失敗した? 何に。

 

「帰りに、透明マントを被り忘れて……それで、フィルチに……」

 

 ハリーが言い終わらないうちに、ハーマイオニーが顔を覆ってわっと泣き出した。

 

 結局、昨日の土曜日の真夜中に、四人の生徒がベッドを抜け出した。マルフォイ、ハリーとハーマイオニー、そして、二人を止めようとしたネビル。

 スリザリンからは二十点の減点がされたが、グリフィンドールのはけた違いだ。一人五十点。

 

 つまり――減点、一五〇点。グリフィンドールは最下位に墜ちた

 

 わたしはハリーの話を聞いて、頭がくらくらしてきた。落ち着いてソファに座ったつもりが、ぼすんと勢いよく体重を預けてしまった。

 しかし、悲痛にすすり泣くハーマイオニーはもちろん、わたしはハリーに対しても、この間のように怒る気にも、ましてや自業自得だざまあみろと言う気にもなれなかった。この間とはうって変わって、彼は沈みきっていた。今までで、いちばん。あのダーズリーがいるときよりもだ。複雑な思いもあるはあるが、彼に追い討ちをかける必要はないと思った。

 いや、逆に追い討ちをかけられたのはわたしの方だ。

 

「君の言うとおりだった。僕が間違ってたよ……無責任に、余計なことに首を突っ込んで、事態をめちゃくちゃにしてしまった。本当に、僕は…」

 

 ハリー・ポッターは完全に反省している。こんなことを言われたうえで突き放してみろ!ハリーの言った通り、わたしが薄情な人間になってしまうだろうが!

 

「い、いや。わたしの方こそ、悪かった。あのときは、言い過ぎた。すまなかった」

「……」

「なあ、その……元気出せよ。貴方たちは友達を助けたかっただけだろう、な?」

「それで自分の身を滅ぼした」

 

 ハリーは蒼白になって言った。

 

「僕は、馬鹿だ。君の言うとおり…」

 

 ……あのときの発言が回りまわって役に立たないものになってしまった。励ますどころか、これじゃ逆効果だ。

 

「そ、そんなことないって、なあ、ロン?」

 

 唐突に話を振られたロンは、それまで、泣くハーマイオニーの背中をさすってやっていたのだが、一瞬手が止まり、言葉に詰まってから、口を開いた。

 

「え、ああ。そうだよ。だって、ホラ、フレッドとジョージを見てみろよ。あの二人ってば、入学してからずっと点を引かれてる、得点なんかたぶん一点も貰ったことない減点王だけど、みんなに嫌われてないだろ?みんな、数週間もすれば忘れるって」

「でも、あの二人だって、一度に一五〇点引かれたことなんかないだろ…」

「ウ、ウン。まあ、それはそうだけど…」

 

 ロンもまた認めざるを得なくなり、黙りこんだ。

 

 しかしまあ、良い傾向だ。これでハリーはもう余計な詮索をしたり秘密を嗅ぎまわったりしないだろう。おかえり魔法界のコネ。ただいま安定した日々。

 …はたしてグリフィンドールから一五〇点奪ってもヒーローと言えるかはわからないが。ロンのように数週間とは言わなくても、ちょっとすればみんな忘れるだろう。ハリーにはクィディッチがある。今年の試合もまだ残ってはいる。いや、これから全勝しても一位には返り咲けないだろうが……。しかし、今年が駄目なら、来年挽回させれば良いのだ。

 そうだ。ハリーが名誉を取り戻すなら、自分への投資と思って、できることはしてやろう。

 

 

 それからは、ハリーにとっては辛い日々が続いた。

 もとより注目を集めていた少年だったが、今度は悪い意味で注目を集めていた。グリフィンドール生はハリーをいないもののように扱って、彼の方を見ようともしなかった。スリザリンから寮杯が奪われることを楽しみにしていたレイブンクロー生やハッフルパフ生も敵に回った。ハリーが通れば、皆彼を指差し、特に声を小さくすることもなく悪口を言った。スリザリン生は、ハリーを見かける度に拍手をし、口笛を吹き、『ポッターありがとうよ、お前のお陰だぜ!』と囃し立てた。

 ハーマイオニーとネビルの二人も、ハリーほどではないにせよ辛い目に遭った。ハーマイオニーは授業で注目を引くことをやめ、黙々と俯いて勉強したし、ネビルはいつも以上に肩身が狭そうにしていた。

 わたしはハリーたちが気の毒になって、なるべく彼らと一緒にいるようにした。それはロンも同じようで、いつも以上に彼らに親切にしてやっていた。

 ハリーは口数が減って、以前と同じ状態まで、いやそれよりもひどくなった。テストがあるお陰で、ひたすらに勉強に精を出せることが彼にとっての救いのようだった。

 

 いよいよ試験一週間前というある日、わたしとハリーは図書室からの帰りで、教室から誰かのメソメソ声が聞こえてきた。二人で顔を見合わせて近づくと、声はクィレルのものだった。

 

「ダメです……どうか、どうかお許しを……」

 

 誰かに脅されているのか?わたしは壁に素早く寄り、耳を澄ませた。

 

「わかりました……わかりましたよ……」

 

 中からは、高い、囁き声のようなものが聞こえたような気がしたが、クィレルのすすり泣くようなで掻き消されたように感じた。

 次の瞬間、クィレルが曲がったターバンを直しながら、教室から蒼白で出てきたので、わたしとハリーは息を飲んで、壁にぴったりとくっついて、柱というには心もとない出っ張りに身を隠した。

 幸い、彼はわたしたちには気がつかずに、足早に行ってしまった。それを確認してから、教室の中を覗いた。反対側のドアが空いていた。

 

「聞いたか?」

 

 ハリーはうなずいた。

 

「クィレルは降参したのかな、スネイプに」

「さあ、スネイプの声はよく聞こえなかったが。なにやら、高い囁き声が聞こえただけで」

「とにかく、石があいつの手に渡るのはまずい」

「そうだな」

 

 以前考えたこと――つまり、スネイプがヴォルデモートにかわって世界を混乱におとしめ、戦争が勃発するという考えが頭をよぎった。突飛な話だが、この世界では通用するかもしれない。

 

 わたしたちは、談話室に駆け込み、すぐにロンとハーマイオニーにこの事を告げた。

 ハーマイオニーは眉を潜め、ロンの瞳には冒険心がきらめいた。

 

「それじゃ、『闇の魔術の防衛術』を破る方法は……」

「でもまだフラッフィーがいる」

「いえ、だめよ。自分達だけで何とかしようとしたのが間違いだったのよ。ダンブルドアに言えば…」

「ダメだ。証拠がない」

 

 ハリーがハーマイオニーを遮った。ハーマイオニーはちょっと驚いたようすで口を閉じた。

 

「クィレルは僕たちを助けてはくれないだろう。スネイプはハロウィーンのとき四階になんていなかったと言えばいい。ダンブルドアも、僕たちがスネイプをクビにするために、作り話をしていると思うに違いないよ。フィルチなんか論外だ、スネイプとベッタリの関係だもの」

「それに、わたしたちは石のこともフラッフィーのことも知らないことになっている」

 

 ハリーはわたしの言葉にうなずいた。ハーマイオニーは納得したようだが、ロンは粘った。

 

「少し探りをいれてみるってのは…」

「いや、僕たちはもう探りを入れすぎてるよ」

 

 ハリーはきっぱりとそう言って、星図を引き寄せて眺め、あとは黙りこくった。

 

 

 翌日の夜十一時、ハリーとハーマイオニーとネビルは、処罰のために談話室から出た。ロンとわたしは、寝ずに彼らを待つことになった。最初は試験勉強をしようと思ったのだが、ロンの猛抗議にあい、チェス(ロンが完勝)やトランプで時間を潰した。

 そうするうち、ロンは眠り込んでしまった。仕方ないので、わたしは毛布をロンに掛け、一人テスト勉強をした。

 かなり時間がたって、そろそろあくびが多くなってきた頃、ハリーたちが転がり込むように談話室に戻ってきた。

 

「おかえり」

「――大変だ、ターニャ。スネイプは永遠の命やお金目当てで賢者の石を盗ろうとしてるんじゃない――僕たちはずっと勘違いしてた――自分のためじゃなかったんだ――」

 

 ハリーは蒼白でそう言った。わたしの肩を掴むその手から、彼の震えが伝わってきた。

 

「おい、ちょっと待て。落ち着けよ……冷たっ」

 

 ハリーの手は冷たかった。わたしは、先程までつまんでいたチョコレートを、彼とハーマイオニーに差し出した。それから、ロンを叩き起こした。

 チョコレートを飲み込み、しばらくして、落ち着きを取り戻したハリーはポツポツと語りだした。彼の話はこうだ。

 

 処罰の内容は、禁じられた森に入り、何かに殺された一角獣(ユニコーン)を探し出すことだった。

 いろいろといざこざがあったようだが、最終的には、ハグリッドとハーマイオニーとネビル、そして、ハリウッドの犬ファングとマルフォイ、ハリーの二手に別れ、捜索を始めた。

 一角獣(ユニコーン)の死体を見つけたのはハリーたちだった。しかし、ズルズルと滑るようなもの音とともに、マントを着た影が一角獣(ユニコーン)に近づくと、その血を飲みはじめた。マルフォイは絶叫して逃げ出し、ファングも駆け出した。ただ、ハリーだけは動けなかった。その者が彼にスルスルと近寄ってきたとき、彼の額の傷が燃えるように痛みだした。ついに痛みに耐えれず膝をつき、少し経って顔をあげると、影は消え、代わりにケンタウロスのフィレンツェが立っていた。フィレンツェは予言に逆らい、仲間の反感を買ってまでハリーを自分の背中に乗せ、ハリーを助けてくれた。

 ハリーを背に乗せ、森を進みながら、フィレンツェはこう語った――――『ユニコーンの血は、たとえ死の淵に立つ者の命だろうと長らえさせてくれます。しかし代償を支払わなくてはならない。その血に唇をつけた瞬間から、そのものは呪われた命を生きることになる。生きながらも死んでいる、不完全な命を。

 しかし、他の何かを飲むまでの間、少しだけの間、生きながらえればよいとしたら?完全な力と強さを与えてくれる何か―――死の克服を可能とする何か。

 ポッター君、君には、それが何なのかわかるはずです。そして、力を取り戻すために、命にしがみついて、チャンスを伺ってきたのは誰なのかも。』

 

 ハリーからフィレンツェの言葉を聞いた瞬間、わたしは自身の心臓に、ヒタリと刃物を当てられたような感覚を覚えた。

 

「ヴォルデモート……」

「そうだ。スネイプは自分のためじゃない。ヴォルデモートのために石を欲しがってたんだ。ヴォルデモートは森の中で待ってるんだ―――」

「その名前を言うのはやめてくれ!」

「フィレンツェは僕を助けてくれた。でもそれは予言に反する、いけないことだった。惑星は予言してるんだ……ヴォルデモートが復活することも、僕が殺されることも」

「だから、その名前を言わないでよ!」

 

 ロンは半ば叫ぶように懇願したが、ハリーには聞こえていないようだった。ハーマイオニーは彼の腕をつかみ、励ますように言った。

 

「でも、ハリー。ここにはダンブルドアがいるわ。ダンブルドアがいる限り、『あの人(・・・)』はあなたに手出しできない。それに、ケンタウロスの占いが正しい確証もないわ――マクゴナガル先生が仰っていたでしょう?占いはとても不正確な分野だって…」

 

 話し込むうちに、地平線の向こうが明るくなってきた。みんなぐったりしている。誰からもなく、各々寝室に引っ込んでいった。

 

 わたしは寝室に戻らず、しばらく呆然と立ち尽くしていたが、ようやく重い足で寮の階段を上がった。

 まさかまさかの、最低最悪、二番目に聞きたくない名前が出てきた。

 奴に手に石が渡る、それだけは、絶対にあってはならない――――何があってもだ。

 




もうこれわかんねえな…

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