二重奏   作:haze

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書きたくなったんだから仕方ない


#プロローグ
「ねぇキスしてもいいかしら?」


 新しいクラスになり初めての登校日である今日はどのクラスも賑やかで至る所から生徒達の楽しそうな声が聞こえてくる。

 二年になり新しい教室へと向かう。自分の教室まで向かう道中では、同じ学年の生徒達が俺に挨拶をしてくる。気軽に挨拶してくる彼らに俺は一つ一つ返しながら歩く。

 

 まさか再び学生をすることになるとは思ってもいなかった。

 

 

 俺こと江夏悟には前世の記憶がある。俺はSFチックな話やスピリチュアルな話を全く信じなかったがこうして自分で体験してしまうと一概に否定できなくなってしまった。とはいえ、この前世が自分の妄想ということも考えられるがそんな事を考えていても答えは出ないし、今さらなんの意味もない。

 

 前世の自分は、一流の大学へ入り有名な企業へ就職するために必死に勉強した。その結果無事に大学へ進学し大手企業への就職を果たした。

就職してからは前代未聞の出世を果たした。そこではまぁ色々とあったが今となっては関係ない。

ただ、今は前世では出来なかった、してこなかったことをしたい。それだけだ。

 

 

 今の俺は、『江夏悟』である。

 

 

 

 さて、クラス替えになり一年の頃一緒だったクラスメイト達とは二年になり数名ほどしか一緒にならなかったようで新しい顔が増えている。

 教室に到着し名簿順に指定されている席へと座る。俺がクラスに来たのを確認した新しいクラスメイトが俺の元に集まってくる。初めての会う生徒も多いが殆どの生徒は俺の事を知っている。というのも入学式の新入生代表で挨拶をしたりしているので何かと他のクラスの生徒にも知られている。

 

 今年はよろしくや同じクラスになって嬉しいと言った他愛のない会話なんかをしているとざわついていた教室が不意に静かになる。クラスメイト達の視線が教室の入り口へ集まっている。俺もその視線を辿りその終着点をみる。そこには一人の女子生徒がいる。あぁ、彼女か。ならみんなが見とれるのも頷ける。

彼女というのは俺達と同じ学年で入学当初から注目を集めていた速水奏である。

 

 速水奏は学内において男女共に人気がある。彼女について述べるとするならまず第一にその見た目と雰囲気が挙げられる。

 高校生にはとても見えないプロポーションで尚且つ美人である。ショートヘアーの真っ直ぐな髪に白魚のような手足でまるでモデルのようだ。というより雑誌などで目にするモデルより綺麗だと思う。学生服ではなく私服で町中で会えば何処かのOLと言われても違和感を抱かないだろう。

そして、彼女の纏う雰囲気も変わっている。落ち着いた感じを醸し出しつつ容易く人を寄せ付けない神秘的な雰囲気を持っている。

 

 

 さて、そんな彼女は静かになった教室の様子には目もくれずに黒板に書かれた席順を眺めた後席へと向かう。迷いのない足取りで優雅に進み自分の席に向かう。

 何処かの冷めた目をしている彼女は机に鞄を引っかけて着席する。そこでようやく隣の席に座る俺に気がつく。

そこで少し驚いたかのように目を見開いて

 

 「あら?誰かと思えば江夏君じゃない。学校の有名人と同じクラスになったのね。よろしくね」

 

 「学校の有名人はむしろ速水の方だと思うのだが。今年からよろしく」

 

 丁度その時にチャイムがなり新しい担任が教室に入ってくる。速水は再び冷めたような目に戻り前を向く。俺も横を向いていた顔を前に向ける。

 この時になってようやく静まり返った教室は止めていた呼吸を思い出したかのように再び騒がしくなった。担任はそれをどうにか静めようと声をあげる。

 速水は何時も周りに対してすこし冷めた目で見ることが多い。まだ若いのだからもう少し気楽に過ごしても良いと思う。

 

 

 

 

 この日は、新しい担任とクラスメイトの自己紹介と教材の配布だけで終わった。時折隣から視線を感じることがあったが話しかけてくるような感じではなかったので受け流す。どちらかというと観察しているように感じた。

 

 

 初日ということもあり、その日の授業は午前中に終わった。俺は配布されたプリントや教科書を鞄に入れて教室を後にする。途中でクラスメイト達に遊びに誘われたがこの後に用事があるので断った。

 家と学校は電車で二駅ほど離れている。下駄箱で靴を履き替えて校門を出る。学校から駅は五分ほど歩けば到着する。午前で授業が終わって皆嬉しいのか楽しそうな声が聞こえてきたり、午後から遊ぶ約束をした生徒達が楽しそうに予定を話し合っている。

 前世ではこういった些細な会話にすら耳を傾けていなかった。今をこうして楽しんでいる彼らの姿が眩しい。

 

 ICカードを改札にかざしてホームに入る。昼間のホームは朝の通勤や通学の人の多さと打って変わって閑散としている。今日は学生達の声が広く感じるホームに響くのみだ。

 

 「あら?江夏君も電車通学なのね」

 

 「速水か。速水も電車のようだな」

 

 「そうよ。でも今まで一度も会ったことないわね」

 

 「そうだな。俺は朝は二本早い電車に乗っているからそれで会わなかったんだろう。二本早いだけでも全然人数が違うからな」

 

 「そうなの?私も毎朝の人混みにはうんざりしていたから私もそうしようかしら?」

 

 「早起きできるのなら」

 

 「そうね。考えておくわ」

 

 ホームで待つ俺に速水が声を掛けてきた。彼女も電車通学だったらしい。俺はいつも二本早い電車で通学していたから一度も顔を会わせたことがないので気が付かなかった。

 

 会話はそれきりで二人並んで電車が来るのを待つ。ホームにある電工掲示板で次の電車が来るまでの時間を確認する。次の電車はあと五分ほどで到着するようだ。俺は荷物が増えて重くなった鞄を肩に掛け直す。

その時、ふと隣を見ると速水がこちらを見ていた。

 

 「どうかしたか?」

 

 「いえ、大したことではないわ。やっぱりあなたって高校生って雰囲気じゃないわね。他のクラスメイトを見る目は何だか親が子供を見る目のそれよ。まるでお父さんみたいよ」

 

 「……それを言うなら速水の方が高校生らしくないと思うが」

 

 親が子供を見る目のそれか。確かに前世の年齢を合わせればもう40を越えている。体は高校生だが心まではそこまで若く慣れてはいない。無意識の内に速水の言うような目になっていたのだろう。よく見ている。

 

 「ふふっよく言われるわ」

 

 そう言うと彼女は耳にかかった髪を手でかきあげる。ちらり白い首筋が覗く。それから彼女はこちらを見て微笑する。

 本当に高校生には見えないな。

 

 

 そう思っていると気がつけばアナウンスがなりホームに電車が滑り込んでくる。何時よりと広く感じる車内は少し新鮮だ。中吊りの広告が何時もよりもその存在感を主張している。

 車内に入り空いている二列シートを見つけたのでそこに座ろうとする。すると後ろから乗ってきた速水が猫のようにするりと脇を抜けて俺の座ろうとしていた座席の窓際に座る。呆気に取られる俺を尻目に彼女はこちらに微笑を浮かべて隣のシートをポンポンと手で叩く。どうやらここへ座れということらしい。俺は苦笑しつつも鞄を肩から外し座席の足元へ置き腰を下ろす。窓際に座りたかったが仕方ない。レディファーストというやつだ。

 

 独特の機械音を鳴らして扉が閉まり電車が出発する。車窓から見える景色が徐々に流れるスピード早めていく。

毎日同じ風景だが、少しずつ移り変わっていくのが分かる桜はいたるところで初々しい春の訪れを教えてくれる。新緑の芽は初夏の訪れを、紫陽花は梅雨、セミの声は夏を、紅く色付く紅葉や彼岸花は秋を、散った葉は冬の訪れを、新雪は冬を知らせる。毎日の車窓からの景色がだけでも眺めていると面白い。前世では仕事に夢中でこうして眺めている余裕もなかった。

 

 「桜が綺麗に咲いてるわね」

 

 「そうだな。去年は、寒くて余り咲かなかったが今年は綺麗だ」

 

 速水がぽつりと呟いた言葉に答える。

 

 「よく見ているのね」

 

 「そうか?まぁ毎日見てたからな」

 

 

 

 

 降りる駅に着いたので鞄を再び肩に掛けて立ち上がる。速水を見ると彼女も同じように立ち上がっていた。

 

 「あら?降りる駅も同じようね」

 

 「二年目で初めて知ったよ」

 

 「私もよ」

 

 二人揃って改札を出る。

 

 「それじゃあ俺はこっちだから」

 

 「あら、流石にここまでのようね。それじゃあ、明日からはお隣さん同士よろしく頼むわね」

 

 「ああ、こちらこそ」

 

 そう言って俺たちは互いの帰路につき歩き出す。

 

 

 

 「待って」

 

 不意に声が掛けられて足を止めて振り向く。そこには一度帰ろうとしてから何かを伝えるべく戻っって来た。駆け寄ってきた速水は一度息を整える。それからミステリアスな笑みを浮かべて俺を見上げる。

 

 「ねぇキスしてもいいかしら?」

 

 「………」

 

 「……ねぇ、何か答えてくれないかしら?…っあう」

 

 あほな事を抜かす速水の頭に軽くチョップをする。

 

 「もっと自分を大事にしろまだまだ若いんだから。そういうのは軽々しく言うんじゃない。それじゃあまた明日」

 

 

 

 頭を押さえる速水をよそに俺は鞄の肩掛けの位置を直して歩き始めた。




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