二重奏   作:haze

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ただいま日本


「ええ。せっかくの舞台だもの」

 毎日のように学校に向かって終われば、会社に向かうという生活を過ごしていればふと日が進んでいる。

 

 最近では駅から学校まで速水と歩くのも俺の日常に溶け込んだようかのように当たり前の事のようになっている。

 そんな日常に溶け込んできた通学中に速水が唐突に聞いてくる。

 

 「そういえば、前に私が話した話覚えてるかしら?」

 

 「もう少し答えやすく話してくれ。主語を付けろ主語」

 

 「あら、忘れたの?女の子との約束を忘れるだなんてひどいわね」

 

 「んなこと言われても速水とは、こうやって毎日話しているからな」

 

 そう答えると今気が付いたかのような表情をして速水が笑う。

 

 「まぁ、それもそうね。ふふっ、そういえば、休み以外は毎日会ってるわね」

 

 「んで、聞きたいことはなんだ?駅前の新しいカフェの話か?レッスンのことか?リップを変えたことか?今週末のデビューのことか?」

 

 「あら私の話をちゃんと覚えてくれてるのね。カフェも気になるけどそれじゃないわ。レッスンも違う。それとリップが変わったのよく分かったわね。あなたのそういうよく気が付く所は好きよ。それと気が付いたのならその時に言ってくれると嬉しいわ」

 

 「そりゃどーも。まぁ似合ってるぞ」

 

 「ありがとう」

 

 「んで、何が聞きたかったんだ?」

 

 「そうだったわ。デビューについてよ。まぁ、それもあなたはちゃんと覚えててくれてたみたいだけど」

 

 並んで歩く速水の横顔が少し嬉しそうに綻んでいる。そんな速水を見つつ

 

 「まぁな、前に行けたら行くって約束したからな」

 

 「そこは絶対行くっていってほしい所よ。それで今週末になったわけだけど来てくれるのかしら?」

 

 「期待されるような返答ができず申し訳ない。まあ、そうだな。今のところ予定は入ってない」

 

 「そう。よかったわ。あなたの期待に答えられるパフォーマンスが出来るように頑張るわ」

 

 「おう。期待してる。アイドルとしての速水奏のデビュー楽しみにしてる」

 

 俺はそう答えながら速水と学校に向かって進む。

 そんな中、不意に隣を歩いている速水がポツリと呟く。

 

 「デビュー…ね」

 

 「どうした?」

 

 「そうね。事務所でデビューの話を聞いてから今までのどこか現実感が無くて。その……緊張することも無かったんけど何だかんだあなたと話したら本当にアイドルとしてデビューなんだって思うと緊張してきたわ」

 

 「なんだそれ?というか速水でも緊張するんだな」

 

 「あら、失礼ね。私でも緊張することくらいあるんだから」

 

 そう答えると速水は少し拗ねたように顔を背ける。

 不意に見せた速水の年相応らしい表情を見て俺は少し頬が緩む。

 

 「ちょっと何笑ってるの?」

 

 俺の表情を見た速水は綺麗な顔の眉間に皺を寄せて詰め寄ってくる。

 

 「いや、すまん。拗ねた顔した速水もいいなと思ってな」

 

 そう素直に答えると珍しく速水は耳を赤く染めてまた顔を背ける。

 

 「もう。あなたってたまに馬鹿みたいに正直に答えるのね」

 

 「正直者ですまんな」

 

 俺が冗談めかしながら答えると、手で顔を扇ぎながら速水は

 

 「普段からずっと馬鹿正直に答えてくれればいいのだけど、あなたの場合は、不意にストレートな感想をするからこっちとしては気が気じゃないのよ」

 

 「そうか。まぁそういう人間だから勘弁してくれよ。んで、どうだ?」

 

 「どうだ?ってさっきのあなたの言葉をそのまま返すわ」

 

 「緊張は取れたか?今から緊張なんかしてたら疲れるだろ」

 

 「え?……ふふっ、言われてみればそうね。ふぅ、大丈夫よ。何時もの速水奏よ。そうね。後は当日に見知った顔が来てくれれば完璧ね」

 

 そう言うと此方に向き直った速水は見惚れてしまいそうな微笑みとウィンクを一つした。

 

 

 

 それから、速水とは何気ない会話をしながら学校生活を過ごす。基本的に俺から何かを話すことはない。どちらかというと速水が話し、俺が聞くというのか基本的なスタンスとして定着してきた。

 

 「癖?」

 

 下校途中で唐突に速水から俺の癖についての話題となった。

 

 「ええ。最近悟君の癖を見つけたわ」

 

 「俺の癖か」

 

 「ほら、今も癖が出てるわよ」

 

 そう言いながら速水はおれの腕を指差す。言われてから自分の格好を見返すと腕を組ながら左手を顎に当てていた。

 

 「あなたって考え事をするときは何時もその格好よ」

 

 自分の癖というのは誰かに指摘されないと自分では分からない。思い返してみれば前世でもやっていたような気がする。

 

 「案外自分じゃ気が付かないな。それにしてもよく分かったな」

 

 「ええ、でも分かったのは最近よ」

 

 そう答えながら速水は丁度ホームに到着した電車に乗り込む。俺も速水に続いて電車に乗り込む。開いたドアの反対側の壁にもたれ掛かるようにして此方を向いた速水の前に俺も立つ。

 

 「今日もお仕事かしら?」

 

 「まぁな。そういう速水はどうなんだ?」

 

 「デビューの為の最終調整よ」

 

 「それもそうか。もうすぐだからな」

 

 「ええ。せっかくの舞台だもの。精一杯の私を見せるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末になり、俺は久しぶりに私服を着てソファーから立ち上がる。時計を付けて壁に掛けてあるキーを取って部屋を出る。速水のデビューする都内のモールまでは俺の家から電車で20分程があるので余裕を持って家を出る。

 基本的に土日は自宅でゆっくりする。久しぶりの休みの日の外は何時もと違い多くの人で賑わっている。

 

 電車に乗って目的地のモールに向かう。時間には余裕を持って出てきたので一度ステージの場所を確認してみるとそこではステージの設営が順調に進み最終チェックをしているようだ。

 それから、折角外出したのだから辺りを見て回るのもいいと思い時間潰しもかねて店舗を見て回る。

 

 

 

 

 

 気が付けば食材は旬の物が代わり、ショーケースに飾られている服もそろそろ夏に向かって衣替えを始めていた。とはいえ、買い物が目的ではなかったので立ち並ぶ店舗を冷やかしながら歩く。

 時計を確認するとそろそろいい時間になってきたのでステージが見渡せる位置を探す。

 周囲を見渡すと丁度吹き抜けの下にあるステージの向かいの二階フロアが丁度いい場所のようなのでそこに移動する。

 二階に移動し手すりにもたれ掛かるようにして始まるのを待つ。

 

 

 そろそろ始まるようだ。

 ステージの脇に司会者が立ちマイクで話し始める。

 司会の話を聞きながら柄にもなく自分の気分が少し高揚していることに気が付いた。

 今まで速水からアイドルとしての活動を聞いてはいたが、直接目にするのはこれが初めてになる。やはり、自分で思っていた以上に俺は楽しみにしていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージの幕があがる。

 

 

 

 

 

 




半月ほど日本からさよならばいばいしてました。
どうもお久しぶりです。
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