アイドル要素殆どなし!
おっさんと主人公が話をするだけさ!
何時も朝に乗る駅で速水と別れる。
改札を出て一度家に向かう。殆ど一人暮らしのような一軒家である我が家のカギを開けて家に入る。通学鞄を部屋において制服から着替える。クローゼットに制服をかけてスーツに着替える。高校生になってからは今まで以上に父の会社を手伝うようになった。その為、週に何度かは研修という名目で出社する。学生をしながらというのは案外制限が多くやりづらくはあるが、四の五の言っていられない。
前世では毎日の様に来ていたスーツは、制服よりも着心地がいい。というのも何だか制服はコスプレをしているようで居づらいのだ。
鏡の前に立ちネクタイの位置を確認する。鏡に映る姿は、自分で言うのもなんだが高校生には見えない。服装を確認した後、時計を付けて玄関に置いてある鞄を持って家を出る。今日は、都内の本社で会議が行われる。複合商社として経営されている父の会社では定期的に様々な分野においてマーケティングが行われている。本来なら自分は呼ばれるような立場ではないが、父を含め、他の理事からの招集を受け去年頃から参加するようになった。経験を積むいい機会であるのと後の為にいい機会だ。
迎えの車に乗り込み本社に向かう。受付に身分証を出して会議室まで進む。数人の役員や各部門の部長は何人か来ている。彼らに会釈をしつつ席に座って資料に目を通す。父を初代として企業しまだ30年はたっていない新進気鋭の会社ではあるが現在の会社の規模は他の大企業に引けを取らない。その理由の一つはこういった会議で配られる資料からも分かる。起業してからそれほど経っていないが蓄積されるデータをビッグデータとして纏め上げ、さらに複合商社として様々な分野の情報を統合して分析されている。
普段はほとんど家に帰ってこない父だが、その仕事ぶりは素晴らしいの一言である。
「どうかな?今回の会議の資料は?」
資料に目を通していると一人の男性が俺に声を掛けてくる。シャープな顔立ちに整えられた顎髭が特徴的なうちの会社の業務執行理事である。彼には俺と同じ年の娘さんが居られるらしく何かと気にかけてくれる。そんな彼に挨拶をしようと立とうとしたがそれを手で制された。
「相変わらず見ていて為になりますね。まず、どの部門においても業績はわるくないですね。まぁそれはいいとして、最近はアパレル産業に力を入れてますか?資料を見る限り売り上げは少ないにしても開発部門への出資が多いようですしそれにマーケティング部門の参与が分かりにくいですが力を入れている様にも見えます」
「おや、よく分かったね。とはいえ、アパレルの部門は去年に理事会で方針を決定してからまだ動き出したところだからね。ビッグデータ化するほどの情報も集まってはいないし、既存の企業はどこも巨大だからね。中々手ごわい」
「でしょうね。今回の議題もこれが入るんですか?」
「ああ。まぁ、議題は他にもあるから次回にアパレル部門については大まかな経営方針が決まればいいと思っている。君にも今回はいい機会だから仕事が割り振られると思うよ」
「なるほど。分かりました」
それから、理事は俺の元を離れて席に戻った。
社会は、コネだけでどうにかできる程甘くはない。俺がいくら社長の息子だとしても何もしないで跡を継げるとも思ってはいない。少なくとも会社のトップになるには理事会内で認められ、株主総会で認められなくてはいけない。まぁ、まだこの場に呼んでもらえているという事は今はまだ彼らの御眼鏡に適っているという事なのだろう。
会議の時間になり、最後に社長が会議室に入ってくる。とはいえ、ここは家ではないので社長である。まぁ、殆ど家にも帰ってこないのであまり父親としてみたことはほとんどないが。
会議では、現在までの各部門での経営方針と広報について、そして、先ほど俺と理事の話していたアパレル部門についての指針についてが議題に挙げられた。
資料に目を通しつつ、会議の話を聞いていると夏季の広報方針の話となった。そこでは、各部門ごとに今年度の夏季のCM作成に話となった。
広報部長がプロジェクターを起動して今年度の方針について話し出す。今年の方針は、若い世代を中心としたマーケティングを行うとの事である。その為、CMに起用する人材についても若い世代を起用したいとのことである。これについては各部門とも承知しており問題なく進む。
広告塔についての人選は、広報部から起用できそうな人材を各プロダクションを見た上で決定し、会議に上申するという事となった。
普段自分たちが何気なく目にするCMなどもその制作過程に多くの人員が動員されていることが分かる。
アパレル部門については、現段階においてはマーケティング収集を第一とするとし、
会議は予定時刻の通りに終わった。とはいえ、会議後には参加した役員や社員内での意見交換が行われているので自分もそこに参加する。
「江夏君」
マーケティング部の部長と話をしていると先ほどプレゼンを行っていた広報部長から声を掛けられる。
「はい。どうかされましたか?」
「さっきの広報部の方針について聞いてた通りなんだけどね。起用する人材を決めるのに芸能プロダクションを見るんだけど、君にもぜひ手伝ってもらいたくてね」
「自分がですか?」
「うん。そうなんだ。ああ、勿論会社の人間も付けるよ」
「はぁ、とはいえ私はまだ高校生ですよ?」
「ああ、そういえばそうだったね。君を見ていると全くそう見えないよ。後これが美城プロダクションの資料。まぁ、今回の仕事は内の部の人間と芸能プロダクション見てきてくれるだけでいいんだ。まぁ、本当の目的は次期社長になる君の顔を売る為なんだけどね。君は自分を高校生だって言って謙遜するけどね、年齢は正直関係ないんだ。必要なのは情報と使える人材だからね」
そういって人の好さそうな顔をした営業部長は笑う。ただ、その目はどこまでも冷静だ。この人…というよりはこの会社は変わっている。本当に能力至上主義という会社は案外少ない。しかし、会議室を見回すと、若い人材も多くいる。
「…ふふ、分かりました。よろしくお願いします」
期待には応えたいと思う。
「うん。よろしく頼むよ。君には美城プロダクションの方に行ってもらおうと思っているんだ。あそこは俳優や歌手も多いからね。それと最近はアイドル部門が設立されたらしいからね。まぁ、君にはそこが
「了解です。ご期待に沿えるような動きが出来るように善処します」
「うんうん。よろしく頼むよ。君の優秀さは理事会でも部長会議でもよく聞くからね。去年の総務部での手腕は社内ではもう有名だよ」
「ああ、あれですか。まぁ、出来ることをしただけですから」
「そうかい?まぁ後は頼むよ。また追って連絡するから」
そう言うと広報部長は会議室から去っていく。その後ろ姿を見送ってから、周囲に気づかれないように息を吐く。
手元の資料に目を落とす。広報部長の言葉を反芻する。
「
温和そうな表情をしつつもその言葉に秘められた意味はどこまでもリスクマネジメントのみを追求している。だからこそ彼は広報部長が務まっているのだろう。
俺には前世の記憶と経験がある。前世で勤めていた企業も上場企業としてかなり大きな会社で俺が死ぬ前の役職は、部長であった。だから、こういった相手を見極める仕事は何度もしている。自分で言うのも変だが社会人としての自分はそれなりに優秀だったと思う。
「美城プロダクションねぇ」
広報部長から渡された資料を流し読みする。新設されたアイドル部門以外は老舗にふさわしい経歴と所属の芸能人が多くいることが分かる。とはいえ、おそらく広報部長が目を付けているのはアイドル部門だろう。会議での若い人材と美城プロダクションに新規部門の人材起用というモノは相手にとって利点となるだろう。後々の美城プロダクションと内の会社との関係を良いものにしていくためにはいいネタになるだろう。
「面白い」
そういえば、速水はどこのプロダクションに所属しているのだろうか。
俺はふとそう思った。
悟君?最近何だか腹黒くなってきてない?
えっ?営業マンや役員で腹黒くないやつはいないって?
というかこの話書いてるの何気に楽しい。