ええ、少しね
自宅に帰り、会社から貰った資料に目を通す。貰った資料は美城プロダクションについての概要と新部門のアイドル部門についての資料である。
ソファに腰掛けながらページ捲る。資料自体も綺麗にまとめてあるので非常に目が通しやすい。そんな事を思いながら美城プロダクションの概要に目を通す。
美城プロダクションそのものは、国内の芸能事務所としては老舗といっても差し支えないだろう。特に設立当初から力を入れている俳優や歌手といった部門では数多くの有名人が在籍していることが分かる。
また、施設に関しては国内ではトップクラスといえる位の設備投資をしている事が窺える。広い敷地を所有し、自前のスタジオを幾つも備えているようだ。
芸能事務所の環境という事に関して言えば文句なしのレベルだろう。
広報部長が目を付けていた新部門についての資料をファイルから出す。少し厚みのある資料を見て苦笑する。新部門という事で外部での活動はまだこれからだというのにここまで資料を集める父の会社の能力の高さが分かる。あの温和そうな広報部長はかなりのやり手なのだろう。下調べの段取りが良すぎる。
そんな事を思いながら資料を開く。まず、アイドル部門の経営陣については美城プロダクションの会長の娘が統括しているようだ。今は常務取締役をしつつ、アイドル部門事業の統括役も兼ねているようだ。
さて、これが七光りによる役職なのかどうかは、彼女の経歴を見ればある程度分かるだろう。続いて資料を捲ると常務の大まかな経歴が載せられている。以前はアメリカのニューヨーク州にある美城プロダクションの関連企業勤務していたようだ。そこには常務の活動についても書かれている。
「なるほど。ただの七光りじゃないってことか」
次にアイドル部門の部長ついての資料に目を通す。
部長職についているのは今西という人物のようだ。詳細を見ていくと、どうも以前は美城プロダクションの会長に近い立場の存在であったようだ。このアイドル部門の役職が左遷なのか会社として新部門のこれからに向けての期待なのかはまだ分からない。経歴その物もこれといって目立つような業績を上げている人間ではない。しかし、会長に近い人物とするならば業績が彼の長所ではなく、社内の調整役といった役割を担っている可能性もあるだろう。
資料にはあと数人の社員について記載されていたがこれといって目に留まるようなものはなかった。やはり、資料から推測するだけではなく、実際に会って総合的な判断を下す方がいいだろう。
一通り読み終えた資料をファイルに仕舞い片付ける。ソファに背を預けて肩をほぐす。ふとハンガーにかけた制服が目に付く。高校の制服は、やはりどこか自分に似合っていないと思ってしまう。
今日の帰りに速水から言われた言葉を思い出す。
「制服よりもスーツが似合っている…か」
まぁ、自分でもそう思う。それに学校にいるよりもこうして仕事の事を考えている方が何だか気が楽だ。とはいえ、「江夏悟」は高校生なのだ。表向きはもう少し高校生として演じなくてはならない。
朝はいつも通り早めに起きて駅に向かう。改札を越えてプラットフォーム着くと見慣れた背中がいつものベンチに座っているのが見える。今日は俺よりも速水の方が早かったようだ。
「よぉ、おはよう」
「おはよう江夏君。今日は私の方が早かったみたいね」
そう言いながら速水は、欠伸をかみ殺す。そんな彼女の隣に腰を下ろして問いかける。
「珍しいな。寝不足か?」
「ええ、今週から少しレッスンの時間が延びたのよ。何でも再来週にクライアントになるかもしれない企業の方が来られるからクライアントに見せられるようにしっかりレッスンをするそうよ」
「そりゃ、ご苦労な事で……いや、なんかすまん」
そういえばうちの会社の各芸能事務所の営業は再来週だったな。速水の事務所にもうちの人員が向かうようだ。
「ふふっ、どうしてあなたが謝るのよ」
「あーいや。まぁ、うん」
とはいえ、速水にうちの会社の事についてあれこれ言うつもりはない。
学校の人間には誰一人として俺が大手の複合商社の社長の息子という事は話していない。というのも前世で散々だった記憶があるのだ。前世では、社長の息子ではなかったが、30台にして部長という前代未聞の出世をした。その結果俺の周りには、俺の肩書のみに目を付けて集まる人間が殺到した。別に営業相手とならば問題ない。こちらも相手を利用する利用もされる。しかし、それがプライベートにまで及ぶとなると別である。
少なくとも俺は速水とは一学生として話をしたいと思う。
「ああ、それと一つ言い忘れていたことがあるの」
そう言うと速水は、不敵に笑う。
「なんだ?」
「私のデビューが決まったの」
「おお、おめでとう」
「こういう時くらいは表情作ってくれてもいいのに」
そういって相変わらず表情に乏しい俺の顔を見つめる。それから両手の人差し指で俺のほほを突く。
「いふぁい、いふぁい」
「ふふっ、変な顔」
「やめんかい。んでいつデビューなんだ?」
速水の手を振り払って問いかける。
「来月よ。都内のモールをプロデューサーが確保してくれたからそこでデビューね」
「そうか。まぁ時間が合えば見に行くよ」
そう言うと速水は驚いた表情をして目を見開く。
「驚いた。まさか江夏君からそんな言葉が出るとは思ってなかったわ」
「なんでそこで驚く。まぁ、俺も速水がアイドルになるきっかけを作った訳だし。俺は速水の事は友達と思ってるからまぁ見に行ってもいいかと思ってな。お前が嫌なら行かねぇけど」
「ううん、嫌じゃないわ。ぜひ来てね。アイドルとしての速水奏をあなたに見せてあげるから」
そういって速水は眩しいくらいの笑顔を俺に向けた。
気が付けば二週間という日は過ぎるのは早い。最近はデビューも決まってより溌剌としてきた速水を見るようになって彼女を眩しいと思うように感じることが多くなった。
今日もレッスンだという速水と駅で別れて、一度家に帰る。制服からスーツに着替えるのも慣れたもので手早く着替えて時計を付けて鞄を持つ。ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴り外を確認すると迎えの車が来ているのが分かった。今回は本社に出向ではなく、視察予定の美城プロダクションに直接向かう。
「今日はよろしくお願いします」
迎えに来ていたうちの社員に挨拶をする。運転手は斎木さんという社員である。
「江夏様、お待たせいたしました。斎木と申します。本日はよろしくお願い致します。」
斎木さんの運転する車に乗りこみ、簡単な打ち合わせと雑談を挟みつつ出発する。役員や部長からは、君付けで呼ばれることは多いが、他の社員からはなぜか様付で呼ばれる。去年頃から父の会社で働くようになったが初めの頃は能力に関してたかが高校生と懐疑的な目を向けられていたが、前世の経験をいかして総務部に配属されて色々としていたらいつしか様付で呼ばれるようになっていた。
父の会社は「NISIKI」という名前の会社である。現在は、複合商社として有名になっているが最初に取り扱った商品が錦だだったからであるという何ともシンプルな命名である。
それから斎木さんと打ち合わせを交えつつ美城プロダクションに向かう。
「では、私は近くで待機しておりますので終わりましたらご連絡ください」
「え?…ああ、分かりました。よろしくお願いします」
おい、広報部長の木梨さんよ。社員も付けるってのは運転手だけなのか。まぁ、間違ってはいないがなぁ。
温和そうな表情をした広報部長の顔が脳裏に浮かぶ。どうやら今回の話し合いは俺一人で行うようだ。
駐車場から出て、受付に向かう。予めアポイントは取ってあるので受付嬢に俺は社員証を出す。それから案内に従ってエレベータに乗り上の階に向かう。
今回は、アイドル事業統括役の美城常務と今西部長に会う予定となっている。それから可能であれば施設見学を行いたいと思っている。
大体の行動について確認を行っていると緊張に身を固くしている斎木さんの姿が目に入る。自分も初めての営業の時はこんな感じだったのだろうと思うと少し笑えて来る。
そうこうしているうちにエレベータが止まる。
「お待ちしておりました。アイドル部門の事務をしております千川ちひろと申します。奥で常務の美城と今西が待っておりますのでご案内致します」
エレベータが到着し扉が開くとが開くと同時に、連絡が来てから迎えの為に待機していたのか事務の方が出迎えてくれる。
さて、久しぶりの仕事だ。
「私、NISIKIの広報の江夏悟です。本日はよろしくお願い致します」
そういえば、今デレステ10連ガチャが一回無料で出来ますよね。
作者は、SSRの奏と楓さん出たので満足です。
あと、もし今後出してほしいアイドルいたら感想がてら一言どうぞ