内容自体は個人的に気に入っている艦娘をひたすら喋らせている感じです。
自分のプレイ環境にはいない艦娘がいる為、そういったキャラを中心に読む方によっては台詞回し等に違和感を覚える場合があるかもしれません。
そういった拙い作品ではありますが楽しんで頂ければ幸いです。
「提督LOVE勢」という言葉がある。文字通り提督の事が大好きな艦娘を指した言葉だ。大好きと言っても当然その愛情表現の仕方は様々であって、純粋にほのぼのとさせられるものから、危険な香りを感じさせるものまで、外側から見たその印象も幅広い。
今回紹介するのはそういった「提督LOVE勢」が力を合わせた場合、こんな事を成し遂げてしまうこともあるのだという、そんなちょっとしたお話である。
「無事に年末を迎えられた事を祝って、かんぱ〜い!」
鎮守府内のとある広間で、こう榛名が音頭をとったのに合わせ、一同が酒の入ったコップを掲げる。勿論、一部の酒が飲めない者の飲み物はジュースやウーロン茶である。
本来ならまだ酒を飲み始めるにはほんの少し早い時間帯なのだが、年末であり、今年中は新たな作戦行動の予定は無いとあって、特別にこの時間帯で忘年会の開催が許可されたのである。
酒を飲みながら、今年遭遇した苦労話などに花を咲かせる艦娘達。
実はこの忘年会、鎮守府に所属している艦娘の中の一部しか参加しておらず、しかも参加したメンバーにはある共通点がある。それは提督と恋人同士の関係にある、という点である。一体提督は何股をかけているんだという話はとりあえず置いておいて、酒が進むにつれ、話題は提督に新しく二人の恋人が出来たという方向に向かった。
それがローマとガングート。珍しく海外の出身だ。
「ビックリしたでしょ? テイトクにこんなに恋人がいるなんて」
と、金剛が聞くと。
「まあな、モテるんだろうとは思ってたが、まさかこれ程とはな」
と、ガングートが言えば、ローマもそれに続いて、
「意外と節操無しなのね、あの人」
と、毒づく。それに対して千歳がこうフォローする。
「まあまあ、そう言わないであげてくれる? 本当はむしろ節操のある人なのよ」
嘘を言え、とでも言いたげな二人に対して、榛名が補足する
「節操があるのは本当なんです。あの人は元々恋人を作る気も無かった人なんですから」
この榛名の発言に対して驚くローマとガングート。
「恋人を作る気無かったって……本当?」
と、ローマが聞けば、ガングートも呆れつつ、
「にわかには信じがたいな。だったらこの状況は何だ?」
と言う。これに関しては青葉が説明する。
「結局の所、みんな司令官の事が好き過ぎたって事なんです。それが前は司令官の重荷になってたみたいで……」
「本当なら公私の区別はきちんとつけたいってタイプなのよね。もしかしたら私たちのそういう気持ちが迷惑だったのかもー……」
と、憂い顔でいう龍田の言葉を引き継いで、
「ああ見えて責任感強いでしょう? だから辞めるって話、出てきちゃったのよ」
と、五十鈴が言う。その途端、ローマが立ち上がって、
「提督が辞めるって何それ!? そんな話全然聞いてないんだけど!」
と言うのに同調して、
「そうだぞ! あいつに居なくなられたら私はどうすれば……!」
と、ガングートが続く。どれだけ提督に惚れ込んでいるかが分かる反応だ。
「安心しなよ。前にそういう話があったってだけで、今はそんな事ないんだからさ」
と、隼鷹がなだめるように言う。
「だが、何があったのかくらいは話してくれてもいいだろう?」
不機嫌そうに言うガングート。ローマもそこは同意見だ。
「そうだな。お前達にも無関係な話じゃないし、まずそこは知っておいてもらう必要があるな」
今度は那智が続ける。
元々提督が着任した当初はそんな話は全くなかった。円滑かつ確実なマネージメントと極力無理が発生しないスケジューリングにこまめな艦娘へのケア、そして確かな戦略眼と作戦立案及び遂行能力で着実に艦娘達の提督に対する信頼は増していった。だがそれよりも何よりも本人そのものの人柄が良かった。それは提督を見ていれば今でも普通に分かる話だし、そんな人間が上司だったらそれに惹かれる艦娘が出てくるのも不思議ではない。
「怪しくなってくるのはここからでな。どういう訳か鎮守府全体の雰囲気が悪くなっていったんだ」
と、那智が言う。ガングートとローマは無言のまま聞いているが、内心では、今の鎮守府の雰囲気が険悪さとは程遠いので何故、と言う疑問を抱えている。
「不思議でしょう? でもあの頃は今とは全然違ってたのよ」
と、千歳が苦笑しながら言う。
「もうみんな提督の一番になりたくてしょうがなかったんだよな。だからお互い牽制ばっかしててさあ」
と、呆れ気味に続けるのは天龍だ。つまり、誰が提督を独占するか、その争奪戦が起こっていたのだ。
「やっぱ自分の事を恋人にしてもらって大切にして欲しいやん? だから提督がいないところでちょっとした小競り合いとかも起こってたんよ」
と、当時の状況を説明する龍驤。
「でも、あの時の提督は『部下との間に特別な関係は持ち込まず、あくまで平等に扱う』ってポリシーを持ってたの。だから誰かを選ぶとかそんな事は全く無かったわ」
と、当時の提督の姿勢を扶桑が代弁する。普通の職場ならそれが正しいだろう。しかし、ここは戦争の前線基地でもある鎮守府だ。民間企業や他の国家機関と違って所属するメンバー全員の生死がかかっている以上は上司と部下の距離はどうしても近くならざるを得ず、いくら一線を引こうにもそこには限度がある。提督が守ろうにも、艦娘側はそれを乗り越えようとしていたのだ。
「いっそ提督がブサイクなクソ野郎なら良かったのよねー……」
と大井が言う。悪態をついてはいるが、こんな事を言うのも提督への気持ちで苦しんだ経験があるからこそだろう。なにしろ実際にはここの提督はブサイクなクソ野郎とは程遠い存在なのだから。それは後から着任したガングートやローマの現在の状況からでも分かる事である。二人は提督の魅力の前にあっさりと陥落したのだ。
「司令官って観察力すごいですから、私たちがそんな状況なのも分かっちゃったみたいなんですよ。それで『これは自分のせいだ』って思っちゃったみたいで……」
そう言うのは吹雪。
「なんか様子がおかしくなったんだよね。一応、ちゃんと執務はこなしてるんだけど……」
と、飛龍が応じる。艦娘同士のいがみ合いはあるものの、あくまで彼女達の視線の先に常に存在していたのは提督だ。普段と様子が違うのであればそれを見逃すはずはない。
「それで、なんか隠れてゴソゴソやってるし、ちょっと悪いけど、一旦お互い休戦して司令官の身の回りを探ったほうがいいんじゃないかって話になったんですよね」
と言うのは青葉だ。そのとき提督が密かに取っていた行動は自分達に対して悪影響を及ぼすものだと女の勘で察したのだろう。
「で、結局私が提督の書いた異動願いを見つけたんだ。提督の執務室に忍び込んでね」
川内がそう言った。その内容は鎮守府の司令官を辞し、艦娘とは無縁の後方支援の部署へと自らの所属を変更する旨を希望するもので、その後に聞いた話だと、一旦海軍省との事前調整は済んでいて、後は提督自らの判を押して提出をすれば、即座に受理がされる段階にまで行っていたらしい。
「本当、危ないところでした。姉さんがあの時見つけていなかったら……」
と、神通が怖い物でも見たかのように言った。そう、ここの司令官は今とは全くの別人になっていた事になるのだ。
そんな事があったのか。この一連の話をローマとガングートはそう思いつつ、心が凍りつくような気持ちで聞いていた。自分を愛してくれているあの人がいなかったら、ここでの生活は空虚そのものに違いない。二人はそこまで考えてゾッとしたのである。
「で、結局これはみんなで問い詰めるしかないってなったのよね。もう喧嘩なんかしてる場合じゃないんだからさ」
と、足柄が言えば、
「そうそう、提督はみんなのアイドルなんだから、勝手に引退なんかしちゃダメなんだよってね」
と、那珂が続ける。
「テイトクが居てこそのワタシ達なんだし、後は突撃するしかなかったネー」
最後にそう金剛が結論づけた。
この飲み会に参加しているメンバーのうち、当時はまだ着任していなかった艦娘を除いた全員で提督の元へ押しかけ、事前に持ち出しておいた異動願いを見せて一体これはどういうつもりかと問い詰めたのだと言う。
「本当に頭に来ちゃってたのよねー。まさか実際にこれで提督を脅す事になるとは思わなかったわ」
そう言って自らが普段から持ち歩いている薙刀を見る龍田。何かと天龍の事を気にする彼女だが、提督のこともすごく大切に思っているのはこのメンツならば良く知っている。
後は、交渉とは名ばかりの怒号すら飛び交うこともある口喧嘩だ。全てを精算しようとする相手に対してすがりつく女という意地の悪い見方も一応は可能で、そう言った意味ではただの痴話喧嘩でもあったりはするのだが。
とにかく、上司としては誰か一人と付き合えばその一人を特別扱いすることになるし、そういった事をしたくないからこそ艦娘には一切手を出すつもりは無く、そんな考え方が原因で部下の雰囲気が悪くなるというなら自分が身を引くしかないと言う提督と、あなたに指揮をとってもらっているからこそ働けるんだしそうでなければ私達もここにいる意味は無いと言う艦娘達。
当初は完全に話は平行線であったが、提督とは別の意味で思い詰めていた艦娘達の一部は提督がこの鎮守府から離脱するのであれば自分達も退職するという事を示唆。あくまで今回のトラブルは自分自身の個人的な資質に由来する問題であると考えている提督にしてみれば艦娘を巻き込むなど到底容認出来ず、自分とは分けて考えるようにと言い出した辺りから風向きが変わり始めた。
私達の方から手を出したという事にして良いし、特定の誰かと付き合うのが問題ならば全員と付き合うのに私達が合意出来ていれば良いのかと艦娘側が申し出をし、最終的には艦娘達が、お願いだ、私達を捨てないでくれと泣き落としにかかった事でついに提督側が折れ、結局異動は撤回となった。ただしこれには条件があって、今喧嘩している艦娘同士はちゃんと仲良くする事、仮に艦娘と付き合うのであればそれは平等な扱いを心がけるようにするからそこに不満は言わない事、と言う2点が提督から提示された。とにかく、S勝利かE敗北のいずれかの結末しか用意されていなかったと言っても大げさではなかった艦娘側にとってはこんな条件はなんて事の無いものであって、提督が残ってくれるという事実に大喜びしながら二つ返事で受け入れた。
後の顛末は円満そのもの。却って鎮守府の結束力は増し、今この広間にいる連中は鎮守府の他のメンバーから「提督LOVE勢」と呼ばれつつ提督にベタベタとしているのである。ただし、単に甘えるのではなく提督に負担がかからないよう、執務のうち、自分達で出来るようなものは極力引き受けるようにしている。
これは提督とイチャつく時間を確保するというのも目的の一つなのであるが、別の目的もあった。
「あんなこと二度とあっちゃダメだから、提督一人じゃ業務どころか生活も回らないようにしないとね。私達が提督に依存するだけじゃダメなのよ。提督が私達に依存するように誘導していかないと……」
と、大井が物騒な事を言うが、それを否定するどころか、
「それは当然! テイトクにはワタシ達がいないとダメって事をキチンと分からせないとネ!」
と、金剛が言って、それに全員が頷く。皆が笑顔なのだが、そこからは何やらどす黒いオーラが漂っている。これまでの経緯があったせいだろう、普段の見た目や振る舞いにそれほど変わった所は無いのだが、実際には彼女達の中において、心のどこかのタガがすっかり外れてしまっていたようなのだ。
「聞くまでもねえとは思うが、ローマもガングートも協力してくれるんだろ?」
と天龍が聞くと、ローマが、
「当然でしょう? あの人に勝手に居なくなられたら困るし、私を夢中にさせた責任はちゃんと取ってもらわなきゃ」
と言い、ガングートも、
「私が提督のものになるだけでなく提督を私達のものにするのか……ふふふ、何とも素晴らしいアイディアだ」
と、言って同意する。もはやこの二人の笑顔もどす黒かった。
この忘年会、実は酒の席である事をカモフラージュに、今後提督をどうやって囲っていくかを協議する密謀の場でもあったのである。
忘年会が開催されていた広間でそんな会話が交わされていた頃、執務室では提督と大淀が雑談に興じていた。年内に仕上げる必要があった仕事をつい先程全て片付けたばかりで、みんなが協力してくれるおかげで仕事がだいぶ楽になったと感謝する提督に対して、
「いえいえ、私たちが提督のお仕事をお手伝いするのは当然の事ですから」
と、大淀が謙遜する。ところが大淀は笑顔の裏側でこんな事を考えていた。
(でもね、提督。この鎮守府で処理しなければならない書類の量は今後増えるはずなんです。再びあなた一人で対応する事なんて出来なくなる程にね。それに、もしまた私達を見捨てるような真似をすればその時に問われる責任の大きさは今の比ではありませんよ? そうなれば前回みたいに自主的に異動しようとするなんて夢のまた夢でしょうねえ……)
実績が認められてこの鎮守府は地域の中核的な基地へと扱いが格上げされ、他の鎮守府が本来ならば大本営海軍部や海軍省・軍令部等に直接決済を依頼しなければならない書類に関しても、その一部についてはここで決済が可能と言う権限が与えられる予定なのだ。実はこの辺りに関しては提督はまだ把握していない。艦娘達が提督に悟られないよう、慎重に策を弄しつつ密かに中央のお偉方と接触して交渉し、任務遂行の円滑化などを名目にその権限の一部を自らの鎮守府へ移行させるよう水面下で行動を起こしていたのである。その過程では提督の代理という立場になりすました事さえある。先ほど天龍がローマとガングートに依頼した協力の内容はこういった経緯も踏まえてのものだ。
こうして業務が増える事でますます提督は部下の協力を求めなければならなくなり、その増えた業務は海軍統帥機関の職務の一部を提督が代行するという形態を取る事になる以上、その立場を投げ出す事など到底許されまい。結局この鎮守府の主は事態が進んでいる事に気づかないままここに居続けざるを得ない状況になっているのである。これを見抜けなかった事を提督側の失策と見なすのはいささか酷だ。何としても想い人を手放してはならないと考える艦娘達の執念とエネルギーの凄まじさを考慮すべきである。複数人が一つの目標に向かって緊密に連携し、粘り強く進めて来たからこそ達成出来た事でもある。
これまでは散発的に行うだけだった提督の身の回りの世話も、今後はその多忙を理由に本格的に行っていく事も艦娘の間では決定事項となっていた。今まで以上に重要な立場に身を置く事になる分、それ以外の負担が少しでも軽くなるようにしなければならないし、相手を引き留める以上、そこに苦痛を感じさせてはならないという配慮でもあるが、根底にある狙いは提督の私生活における自分達の存在の既成事実化だ。ただし、今この時点ではそんな事はおくびにも出さない。
「ああ、私はもう一つ片付けなければならない業務がありますので一旦失礼しますね」
そう言って大淀は執務室を出ると、そこからかなり離れた、普段ほとんど使われていない小さな会議室に向かった。
ドアをノックし、「どうぞ」と言う声が聞こえたので入室するとそこにいたのはあきつ丸である。大淀は着席すると、
「首尾はどうでした?」
と、聞く。あきつ丸はニヤリと笑って、
「上々でありますよ。元々は我が陸軍としても今後は海軍との連携を密にしなければならないというのが重要な検討事項でありましたからな。海軍との各種の交渉も無事に終わりましたから、今後はこの方面に展開している陸海軍各部隊の調整役は提督殿に担って頂く事になります。ああ、自分や皆さんの私情が挟まっている事は一切陸軍にも伝えておりませんよ。提督殿が適任だというのは事実ですし、あくまでそこだけを伝えておりますのでご安心を」
と、言った。それを聞いた大淀はホッとした表情だ。
「それは良かった。これであの人も安易に辞めるなんて言い出せなくなりますね」
それに対してあきつ丸もしみじみとした表情でこう応じる。
「その通りでありますな。自分とて提督殿に心を奪われてしまった身。我々を捨てて立ち去ろうとするなどという愚行に二度目があるのは断じて許されませんから……もちろん、陸軍としても提督殿に対しては最大限の協力をさせて頂きますよ」
もはや、提督の進退は海軍内部で処理する事が出来る話ですらなくなってしまったのである。
「心強い限りですね。ようやく外堀が完全に埋まりました」
そう言う大淀に対してあきつ丸は悪戯っぽい表情を浮かべてこう言った。
「『外堀が埋まった』? 『城壁で囲んだ』の間違いでは?」
二人はフフフ、と笑う。これで提督は自覚が無いままに二重にも三重にもこの鎮守府に縛り付けられてしまった事になる。
愛する人を決して逃してはならないという強い思いが艦娘達をとんでもなく大胆な行動へと導き、しかもその行動が実を結んでしまった。彼女達の執着心が呼んだ勝利と言っても良いであろう。その際に徹底して情報は隠蔽していたから、提督に対して別段恋愛感情を抱いていない艦娘を除けば、結局この鎮守府でこのあたりの事情について何も知らないのは提督一人だけである。別に提督に限らず、どんな有能な人間でも、情報が一切入って来ないのであれば誰が何をやっているかなど推測すらおぼつかないし、今回の艦娘達が取った行動はまさにそのレベルの内容なのである。そこまでありとあらゆる事を徹底させた上でようやく完遂させた計画なのだ。提督とてこれだけの状況となれば流石に今後はより一層自分達に頼らざるを得ない。それはもちろん私生活も含めて、である。そんな将来を確信して彼女達の心は踊った。
本気で恋をしてしまった艦娘というものは、ここまでしたたかで、ここまで狡猾で、そしてここまで恐ろしい存在になる事も出来るという、これはそんな一例を示したお話でもあるのである。