流血の錬金術師   作:蕎麦饂飩
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汝、決意の溝の深さを識れ

親に会って。という意中の女性の誘いに、気分が高揚して喜んで着いていくシルヴィオ。
言った事の内容に、今更気が付いて彼の顔を見ずに余裕がある女アピールに事欠かないホムンクルスの長女。
そして、その様子にニマニマする末の弟は、アメストリス中央の地下にある『お父様』の居城に向かっていた。

一方、スカーを襲って返り討ちにあったグラトニーは、途中で遭遇したアルに丸め込まれて同じく『お父様』の所に向かっていた。
そして誰の真似をしたのか、血痕を辿ったりしながらその後を追跡したスカーとメイもその後を追っていた。
メイは、スカーのなりふり構わないやり方に異議を唱える事もあったが、その時はいつも無言で流されていた。
だが、自分自身だって目的の為ならなりふり構っていられない事への自覚もあり、次第に苦言の数も減っていった。


そしてその後を更に、中央に帰ってきていたエドとリンはつけていた。

アル達を尾行するスカー達を尾行するエド達という、訳の分からない構図の一行が地下にある『お父様』の所に向かっていた。


「お父様、彼が『流血』の錬金術師、シルヴィオ・グランよ」

ラストによって紹介された、エドワード・エルリックに非常に似た印象を受ける、ホムンクルスたちの父に対して、
シルヴィオは深々と頭を垂れた。

「始めまして義父様。本日は良い天気ですね。
お嬢さんを私に下さい」

もうツッコミどころしかない。あえてツッコむとすれば、此処は日の光の届かない地下深くである。
敢えて言うのも野暮であるからして、誰も口には出さないが。

「なんだ、おまえは」

驚愕する様な、突き放つような表情でそう告げる『お父様』。
まあ、その気持ちは解らなくも無いとラースは頷いた。


「私はグラン家の当主シルヴィオと申しまして、
現在お嬢さんに交際を心より願うも成功していない、片想い中の男性です」



エンヴィーにも、ラースにも、ラストにも『お父様』の次の発言が理解できた。


「なんだ、おまえは」


まあ、そうなる。

「因みに、彼も『扉』の先を知る人柱です」

仕方ないのでラストはそうフォローした。
それにより、割と現金な『お父様』の態度が軟化した。

「貴重な人材だな」

シルヴィオは、(娘の婚約者的な男性として)物好き(貴重)な人材という発言として認識した。
なので、自分の娘だからと謙遜する父親に、娘の事は謙遜する必要はないと伝えようと思った。

「ラストさんなら引く手数多でしょうが、それでもその中の一番で唯一になりたいと思う程に、お嬢さんは美しい。
その容姿のみならず、その仕草。気品と優美が入り混じった魅惑の虜となってしまいました」



『お父様』はもう一度同じ言葉を述べようとしてやめた。
エンヴィーとラースはニヤニヤした。
ラストは明後日の方向を向いた。
アルとグラトニーは空気を読まずに入って来た。
別経路からスカーとメイが入って来た。
その後ろからエドとリンも飛び込んできた。


場がカオスになった。


アルとエドは『お父様』の顔を見て驚いた。

「ホーエンハイム……?」


シルヴィオはその様子を見て、やはり似ていると思った。
もしや、ラストと結婚する事があればエルリック兄弟とも遠縁になるのかと言う思考が浮かびかけたが、
ここにはそれと並列して、それ以上に大きな事象がある。




目の前に、『抹殺するべき種族』が立っている

人柱に恥じない一瞬の錬成で、大地から百本を超えるナイフを錬成してスカーに投擲するべく、その一本を摘まんで差し向けた。
スカーも隻腕に刻まれた『破壊』の錬丹術を見せつける様に、肩口を破り、構えを取った。


本来エドたちにとっては敵の親玉がいる処で、関係の無い戦いが此処で起きようとしている。
これだけの戦力があって、それを無駄にする選択はエドには無かった。

「スカーッ!! イシュヴァール内乱の真実を教えてやる!!
内乱のきっかけになった子供の射殺事件は――――」

そう暴露するエドに思わず、バラした事がよりにもよって、『お父様』や兄弟の前でバレると焦ったエンヴィーが制止するが、
遅すぎた。


「このエンヴィーってホムンクルスが軍将校に化けてワザと子供を撃ち殺したんだ!!
内乱はこいつらの差し金だ!!」

医師とテロリストは互いを視界に収めたまま制止した。


この時のエドの気持ちを敢えて厭らしい言い方で言うとすれば、
悪いのはエンヴィー。真の敵であるホムンクルスを相手に共闘意識が芽生えるかもしれない。
イシュヴァールの内戦と、それによる憎しみを引き起こした真の敵にこそ怒りを向けるべきだ。
被害者同士のいざこざは一件落着とまではいかなくても、何とかならないか?

彼はそう考えていた。


だが、世界は少年が考えているほど単純なものでは無い。
――――少年が考えている以上に単純なのだ。

二人は口を開く。




「それがどうしたというのだ」「それがどうしたというのですか?」


「国家錬金術師は()れの――――」「イシュヴァール人は私の――――」


「「――――家族を殺したっ!!」」





エドの言葉に何の意味も無かった。
復讐者が他者に言われて復讐者を辞めるのなら、それは真の復讐者では無い。



残された唯一の腕に再度『破壊』の錬丹術を刻んだ復讐者。
残された唯一の感情に、元来の人間らしさを融合した復讐者。

彼等は心の底から復讐を愛して、復讐を称賛している。
復讐の海に溺れて血を流す事を苦痛だとも思っていない。
否、彼らは復讐の概念そのものなのだ。






他人に止められる事など――――絶対に在り得ない。







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