『鋼』の錬金術師ことエドワード・エルリックにとって、シルヴィオ・グランという青年は、
凄く良いヤツなんだが、少々モヤモヤする相手、という扱いだ。――主にウィンリィの関連で。
町中で偶々ボロボロになっていたエドワードを見つけて、生真面目な表情で話しかけてきては、
勝手に手合せの錬成で治療を始めた、少々身勝手で、お節介で、善意溢れる医者だった。
そして、エドの身体がオートメイルだと知ると、
骨や血肉だけでなく神経まで用意した生体義手を錬金術で構築して、
「貴方がもし望むなら、金属の身体では無く生身の身体はどうでしょうか?」
そう、提案してきたのだ。
エドワードは鋼鉄の義手の使い勝手や製作者の事もあり断ったが、代わりに自分の弟の義体を構築して欲しいと提案した。
まことにずうずうしい願いではあるが、と。
シルヴィオは快くそれを引き受けた。
…だが、結論からすると成功はしなかった。
マネキンのような簡易的な義体であれば、上手くいっていた。
だが、本人の身体に最大限適応する義体だけはどうしても上手く構築できなかった。
完成品を接続しても、違和感があるだけで上手く反応しなかった。結局欠陥品だったのだ。
「何故でしょう、何時もなら上手くいくというのに。
ただ血が通った構成物の構築です。魂の錬成でも何でも無い。極普通の錬成の範疇でしかないというのに…。
お力になれずすみません」
「いや、先生は凄いよ。紛い物とはいえ、ここまで人間の構造を理解した人は見た事が無い。
恐らく僕達の肉体は向こうに持って行かれたから、僕達にぴったりの肉体は普通の手段じゃ構築が出来ないんだと思う。
僕の肉体が完全にないから失敗していて良かった。
きっと少し参考資料になる肉体があって、それを元に構築していたらリバウンドの可能性もあったかも知れない」
自分の肉体の再生が叶わなかったエドの弟のアルフォンスは、少々残念さを滲ませながらも、
善良な医師が
その様な事から彼らの友諠は始まり、顔見知りとなったエドワードたちが、シルヴィオにウィンリィの両親の話をした時だった。
「リゼンブールの幼馴染の両親が、イシュヴァールの戦争の時に傷ついた人々を、できるだけ皆救いたいと言って出て行って、
それっきり帰ってこなかった」
そうエドワードが言った時、シルヴィオは聞いた。
「その『皆』にはイシュヴァール人も含まれていたのでしょうか?」
「ああ、あの人たちが分け隔てする訳が無い。あんたみたいな底抜けのお人よしだ」
「私など到底及びませんよ。本当に素晴らしい方たちだったのでしょうね。
その結果、亡くなって、確かリゼンブールも奴等の標的になってしまった。
本当に、悲しい事です」
この時、エドワードは初めてシルヴィオに違和感の様な何かを感じた。
だが、その何かの正体に気が付く事は出来なかった。
医師の目を見ても、何処までも澄んだ蒼穹の様な瞳があるだけだった。
「…、ああ、ところで娘さんも医療の道を進んでおられるのでしょうか?
でしたら是非お会いしたいものです。
未来の美人女医に逢えるというのは、心が踊りますね」
極めて真面目な顔で言うシルヴィオに、アルフォンスは意外なキャラクターに驚いた後苦笑して、
エドワードはちょっとしたイライラを滲ませて言った。
「…ウィンリィは美人女医なんかにはならねえぞ」
「医師の卵の美少女では無いという事ですか、少々残念です」
シルヴィオは真剣そうな真顔のままそう言った。
「いや、なんだ…、その、世間一般的な評価として可愛いってのは否定しないが、
医者は目指してないんだ。祖母が機械技師でそっちを目指してる」
「…成程、美少女なのは否定していないのですか。それは良い事です」
エドワードは、この素直クール系スケコマシに、ウィンリィを近づかせたくないと強く思った。
男の素直クールって誰得…