読心能力持ってるけどボクの無口無表情系幼馴染の心の中が不可思議すぎる件 作:水代
ウィィィーン、と駆動音を鳴らしながら車体を傾ければ、コーナーを火花を散らしながら四駆が曲がっていく。
綺麗に曲がれた、ここで手間取ればその分後方との距離も詰まる。そのため一つ一つのカーブをどれだけ上手く曲がれるかは重要なポイントだ。
一瞬で猛烈な加速ができるなら砂地を直線に突っ切ることも可能かもしれないが……。
直後、背後で聞こえるブゥーン、という風と切る音に振り返り、後ろからついてくる『亀』と『恐竜』と『茸』を確認しながら舌打ちする。
思ったよりも差が無い。何か一つミスがあれば追い抜かれてもおかしくはない。
そうして視線を後方から前方へと戻し。
「っしま」
狂暴な犬を彷彿とさせる牙の生えた鉄球が前方から迫ってきていて。
咄嗟にトリガーを引く、と同時に。
テッテッテー♪
音楽が鳴り響く。
直後。
ピカッ……ズシャアアアア
「あっぶな?!」
一瞬早く光に包まれた車体は降り注ぐ雷を物ともせずに加速していくが、後方の二台は雷に打たれ、車体をスピンさせたところをさらに後続に踏みつぶされていた。
後続との差が開く……あれはもう復帰は絶望的ではないだろうか。
「……っち」
「…………」
無言の圧力を背後から感じる。
というか舌打ちしたの誰だ。
いや、それよりも二台はすでに大きく差はつけているが、代わりに一台、こちらへと猛スピードで接近してくる。
どうやら
甲羅も相手にぶつければ強いのは強いが、光で守られた自身にはそれは通用しない。
さらに無敵と化すこの状態は通常より少しだけ速度も上がるため光が途切れる頃にはその甲羅の射程からはとっくに逃げているだろうことは明白だった。
だが
確かに光に包まれたこの状態は速度も上がるが、加速装置はそれを優に超える猛スピードを実現する。
その結果がすぐ背後にまで迫ったこの状況。
どうする?
一瞬の思考。
無敵状態ということは、このまま
だが相手のほうが速度が出ているのも事実。相手が無理矢理に押し出してこないのは今こちらと衝突すれば押し負けることを知っているからだ。
こちらからぶつかりに行く、ということはつまり
万一避けられれば相手の加速からして一気に抜き去られ距離を離される。
それは今後の展開次第では逆転不可能なレベルではないだろうが……だが折角の有利をむざむざ捨てに行くのは果たして正しいのだろうか。
どうする?
二度目の問いかけ。
車体を包む光はもう長くは持たない。
どちらにするにしても決断は急ぐべきだ。
簡単に言えば、リスクを承知で攻めるか、それともリスクを冒さず守るか、その二択。
一瞬の迷い。
答えは。
「あっ」
答えを出そうとした直前、進路上にアイテムボックスが浮かび上がる。
咄嗟の判断。
彼女もまたそれを躱そうと車体を横に動かし、さらにそれを塞ぐようにこちらも、とイタチごっこになる。
とは言え、こちらの光が消えていく、それは彼女の遠慮を失くすことである……が。
「っ……」
進路を塞ごうとするこちらの動きのせいで上手く前に出れない彼女が僅かに焦り。
直後にその加速が終了する。
加速装置は爆発的な速度を生み出す反面、その効果は長続きしないのが特徴なのだ。
これでこちらとの位置関係は変わらない、自身が先行し、すぐその後を彼女が追う形。
問題は次のアイテムボックスだ。
そこで互いが何を獲得できるかでこの小さな有利もあっさりと覆る。
「「っ!」」
アイテムボックスを通過する。
ランダムで生成されるアイテムが右下に表示され。
そこに浮かんだのは……。
―――加速装置。
一瞬だけ背後の彼女を見やる。
そこにあったのは。
―――棘のついた青甲羅。
ゾッとした。
それは先頭を走る車体だけを的確に狙う恐るべきスナイパーだ。
一瞬の逡巡も無く、加速装置を動かす。
直後、彼女もまた
この甲羅は弾丸だ。つまり車体の速度を軽々と超えてくる。
緑は直線にしか飛ばない故にまだ避けられる。赤は距離を離せば当たらない。
だが青は……青は先頭の一台しか狙わない代わりにその追尾性能は極めて高い。
つまり、放たれればほぼ必中の魔弾となる。
これを回避する方法は二つ。
一つは先ほどの光を纏って無敵と化すこと。
もう一つはこちらも
だが今の自分にはどちらも無い。
じゃあどうするか、簡単だ。
―――逃げる、それしかないのだ。
ぐんぐんと加速する車体。それに伴って大きな揺れが視界をがくがくと震わせる。
先ほども言ったが、
故に、普通にやったのではどうやったって逃げ切れるものではない。
加速装置が無ければ、だが。
これも先ほど言ったが、この加速装置は短時間しか効果が無い代わりに驚異的な速度で走行することが可能になる。
その速度は甲羅とほぼ同速。
つまり、加速状態の間だけはあの
とは言え、加速状態が切れた時が逆転の時。
だが。
「見えた」
震動の余りにブレる視界の先に大きな
目的地、ゴール、つまりあれを潜れば自身の勝利。
加速時間はまだある、追い迫る
だが最早この直線で追いつかれることはない。
最後の直線、つまりこれで自身の勝ちである。
「……っ」
追いつけない、それを察したのか彼女も息を飲み。
そうして。
門のすぐ目の前まで走りぬき。
そうして。
そうして。
そうして。
ピカッ……ズシャアアアア
「はっ?」
雷に打たれスピンする車体。
不味いと思って立て直しを計った、直後。
ズドオォォォン
「ああああああああああああああああああああ!!?」
横転した車体を持ち直そうとがむしゃらに操作をするが、簡単には戻らず。
ピューン
という音が聞こえた。
視線の先で、
「な……に……?」
一瞬、理解ができずに止まる思考。
その直後。
どぉん、と音がして。
光に包まれた後続の車体に自身の車体が跳ね飛ばされた。
「ぎゃああああああああああああああああ!??」
後続が次々と門を潜りぬける電子音と共に絶叫し、コントローラーを投げ捨てた。
* * *
「……ぶい」
無表情ながらもどこか自慢げにピースサインを決めるまどかに、その横で楽し気にそれを見つめるマナ。
そしてソファで力無く項垂れたボクである。
土曜日の朝。
学校も休みだし、前日からマナが泊っているため、朝からマナも一緒になってまどかと三人でレースゲームでもやるか、と遊んでいたわけだが。
「酷い……あれは酷い……」
「ぶい」
「ふっ……勝てば良かろうなのだ、ですよ」
まさかあと一息のところで雷で返されるなど予想外も良いところだ。
いや、あの雷は予測がつかないからこそ、強いのだが。
青甲羅から逃げ切れると踏んだ時、まどか以外の相手のことを忘れていたのが完全なる誤算だった。
―――さすがにNPCの心など読めるはずも無い。
いや、アイテム欄自体は画面に四分割で表示されているのだから注意していれば分かったはずなのに、まどかのほうしか見ていなかった自分の不注意か。
というか一つ疑問がある。
「なんでまどか、星なんて持ってたの?」
自身の後ろにいたはずの彼女である。
青甲羅を撃っていた、ということは彼女の獲得アイテムはそれだったはずなのだ。
だと言うのに、最後に見た彼女は光に包まれていた。
あの雷を唯一無効化できるアイテム星、つまり無敵化アイテムである。
アイテムは一つしか持てないし、アイテムボックスは一つにつき一個のアイテムしか獲得できないはずなのに、どうして彼女は二つ目を持っていたのか。
「……戻った」
「……はぁ?」
つまり、それが答えだった。
「雷、出てたから」
「あー」
つまり自分が見逃したものを、彼女はしっかり見ていた、ということだ。
しかしまあ、それで一発で目当ての物を引き当てるのだから、豪運にも程がある。
まあでも、そういうことなら。
「完敗だあ」
多少の運はあれど、完敗だった。
いや、まあ負けたと言っても所詮ゲームなのだが。
そうやってソファでぐでーと伸びていると。
「ん……」
「ん? まどか、疲れた?」
まどかが横になってボクの膝の上に頭を乗せてくる。
と言っても小柄……というか小柄過ぎるというか、未だに小学生の時とほとんど体型の変わっていないまどかが頭の乗せたくらいではほとんど重さも感じないので、気にせず好きなようにさせておく。
「あー! ゆーくんいいな、まどかちゃん、私のほうにも、かもーん、です」
「……ん」
ぽんぽん、と膝を叩いてアピールするマナをまどかが一瞬だけ見やり、すぐに体を丸めて目を瞑る。
「まどかちゃーん」
「……マナ、うるさい」
「……はーい」
一瞬だけ向いたまどかの視線に、マナが項垂れる。
そんな幼馴染たちのやり取りに苦笑しながらまどかの頭にぽん、と手を置いて。
「眠いの?」
「……ん」
「そっか、おやすみ」
どうも昨日は眠りが浅かったのか、朝から少し眠そうにしているし、このまま寝かせておくかとまどかの頭を撫でるように髪を梳く。
すぐに寝息を立て始めるまどかに苦笑しながら、ちらちらとこちらを見やるマナを見て。
「マナも来る?」
「え……い、いや、それは、その」
―――行きたい、でもさすがに恥ずかしすぎです。ていうかまどかちゃんやっぱパナすぎですよ?!
湯だったように頬を赤く染めながらぶんぶんと首を振るマナに笑みが零れる。
何だかんだと小心者というか純情というか……想像力だけは逞しいのだが、それを実行する勇気も無いのがこの幼馴染の可愛いところだと思う。
「……ほわ……なんかまどか見てたらボクも眠くなってきた」
すやすやと気持ちよさそうに眠るまどかの頭を撫でてやればくすぐったそうにまどかが身じろぎする。
一つ欠伸を噛み殺しながら、そのままソファに身を預けると、段々と眠気が襲ってきて。
* * *
「寝ちゃった……」
目の前で仲良く眠る幼馴染たちの姿に、呆然と呟く。
「……えっと……えーっと」
少年の膝を枕にすやすやと気持ちよさそうに眠る幼馴染の少女の姿を見て、少しだけ羨ましく思う。
―――いいなあ、まどかちゃん。
なんて、口にはしないけど。
何だかんだとお似合いなのだ、この二人は。
正直、自分がここにいて良いのか、迷うくらいには。
「邪魔、なんて……二人が絶対に言うはずないですけど」
分かってはいる、のだが。どうしても考えてしまうこともある。
いや、そもそも同じ家に住む半ば家族同然の二人なのだから、仲が良いのは当然のはずで。
「同じ幼馴染……なのに、なあ」
それはどっちに向けて言った言葉なのか。
どっちに向けての思いなのか。
自分でも良く分からない。
間愛は二人のことが大好きだから。
大々々々々……。
大をいくつつけても足りないくらいに心の底から好きだから。
だから、二人には知られたくないのだ、こんな思い。
「寂しい……なあ」
時々、疎外感を感じる。
でもきっとそれは的外れな思いだって、分かっている。
だって先ほどだってゆーくんは自分を誘ってくれた。
輪に入ろうと、いつも彼は誘ってくれるのだから。
輪から外れた自分を、気づけば彼女は手を引いてくれるのだから。
だから、この思いは自分が勝手に感じている、見当違いな感情だと分かってはいるのだ。
「……はぁ」
嘆息する。
どうしようもなくやるせない思いを感じて。
「……ん……マナ……」
すやすやと眠る彼女の口から自分の名前が聞こえたことにどきり、とする。
「うーん……マナは……ご飯山盛りで……良い……よね」
直後に彼の口から呟かれた寝言に。
「……ぷっ」
笑いが込み上げてきて。
「私も一緒させてもらいますねー」
二人を起こさないように小声で囁き、彼の隣に座る。
「おやすみなさい、ゆーくん、まどかちゃん」
呟き、そっと目を閉じた。
面倒くさいやり取りはほぼ無いよ。だって面倒くさいしね、書いてても、読んでても。
日常、ほのぼの、ちょっぴり恋愛、くらいで構成されているのがこの小説だから。