読心能力持ってるけどボクの無口無表情系幼馴染の心の中が不可思議すぎる件   作:水代

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【6】

 

 

「ほ……あ……ふぁ……」

 

 欠伸を噛み殺しながら、椅子にかけていた料理用のエプロンを手繰り寄せ、首に通す。

 めくれ上がったエプロンの裾を戻しながら、後ろのソファで肩をより合わせている少女たちに向けて口を開く。

 

「まどか、マナ、何食べたい?」

「……ん?」

「何でも良いですよ?」

 

 エプロンの紐を後ろで結びながら尋ねてみれば二人して返ってくる適当な返事に嘆息する。

 作る側としては明確にこれ、と言われたほうが楽なのだが……まあそれならありあわせで本当に適当に作ってしまえばいいだろう。

 昨日の残りの肉じゃがを温め直し、煮汁の煮詰まった鍋に軽量カップに一杯分ほど水を注ぎ足す。

 冷凍庫から冷凍のグリーンピースを出して、(いろどり)程度に適量、鍋の中へと投入する。

 そうして鍋に蓋をしたら冷蔵庫からタマゴをいくつか取り出しボウルに割っていく。

 

「ゆーくん、そう言えばおばさんたちは?」

「父さんと母さん? 昨日から出たままだよ……確か明日まで出張って言ってた」

「りゅーじくんもいないし……てことは私が帰ったら明日までまどかちゃんと二人きり?!」

「……ん?」

「何言ってるのさ……そんな今更」

 

 もう一度嘆息する。

 うちの両親はどちらも割合忙しい。お隣さんほどではないが、それなりに出張も多く、家を空けることが多い。

 兄も数年前、進学を期に家を出て滅多に帰ってくることも無いし、まどかと二人だけになることなど割としょっちゅうと言える。

 

「というか、まどかー」

「ん?」

「今日確かアキラさん帰ってんじゃなかったっけ?」

「あれ? アキラさん帰ってくるんですか?」

「……ん?」

「いや、ん? じゃなくてさ」

「……ん?」

「……あの、まどかちゃん?」

「……んん??」

「……まどか?」

「……誰?」

 

 

「「お前の(まどかちゃんの)兄だろ(お兄さんでしょ)!?」」

「……冗談」

 

 

 全くの無表情でそんな冗談言わないで欲しい。一瞬本気にしかけてしまった。

 思わず叫んでしまったが、アキラさんがいなくて良かったと本気で思う。

 あの人妹溺愛してるから……冗談でもまどかに誰? とか言われたら吐血して倒れるに決まっている。

 マナも同じ想像をしてしまったのか、安堵したように胸を撫でおろしていた。

 

 ことことこと

 

 そんなことをしている間に、鍋が煮え、蓋が揺れ動く。

 ちゃっちゃっちゃ、と菜箸でボウルの中の卵を適度にかき混ぜながら鍋の蓋を開け流し込んでいく。

 すぐにコンロの火を止めて蓋を閉めておく。

 その間に茶碗の用意をしていく。

 

「まどか、マナ、もうすぐできるよ」

「ん」

「はーい」

 

 自分もだが、マナも割と大雑把というか取り合えず食卓に出せばなんでも食べるみたいなタイプなので大皿にご飯を盛っていき、後で端に先ほどの肉じゃがの卵とじをよそえば肉じゃが丼の完成だ。

 まどかは別に繊細というわけではないのだが、ご飯とおかずは別々に食べたい派というか、ご飯の上に何かかけたりすると、食べにくい(口小さいので)という理由で茶碗に小盛にしたご飯と深皿に卵とじを入れてやる。

 それをお盆に載せて居間のテーブルまで運ぶ。

 

「ほら、各自持って行って」

「ん」

「はーい」

 

 茶碗と深皿をまどかが、ボクの分より随分と大きくご飯を盛ってある巨大な丼をマナが持っていく。

 この辺りはいつものやり取りなので、言わずとも自然と自分の分を持っていく。

 台所から薬缶を持ってきて、お盆に載せた三人分のコップにお茶を注いでいく。

 

「ほら、まどかは忘れないようにこれね」

「えぇ……」

 

 忘れないように冷蔵庫から持ってきた野菜ジュースを渡すと、表情には出さないが、げんなりと言った様子の声でまどかが嘆息した。

 ん、ではなく、えぇ、の辺りが本気で嫌がっている感じがある。

 とは言え、ここで甘やかしてもまどかのためにならない、と心を鬼にする。

 

 ……まあ、まどかの分の肉じゃがは人参とグリンピース少な目だが。

 

 これも甘やかし……なのかな?

 とは言え、嫌なものを無理矢理食べさせるのも気が引けるし。

 カレーライスのような味付けが濃いものなら人参も気にならないのか普通に食べるので、調理法次第なのだろうけれど。

 まあ難しい問題である、食事の好み、というのは。

 

 ふと視線をあげれば、ぱくぱくと美味しいそうに丼飯をかきこんでいくマナの姿に苦笑する。

「マナ、そんな焦って食べてると喉詰まらせるよ」

「だっふぇ、おいひいですふぃ」

 その隣ではまどかが表情こそ変わらないが心の中で盛大に運命を響かせながら、震える手で箸に掴んだグリーンピースを口へと運んでいく。

「そんなに嫌い? グリーンピース」

「……ん」

 こくり、と頷き、目をぎゅっと閉じてグリーンピースを飲み込むその姿にため息が漏れる。

 

「世話が焼けるなあ」

 

 なんて呟きながら、それを別に苦とも思っていない自分がいて。

 なんだかなあ、なんて思ってしまうのだ。

 

 

 * * *

 

 

 入った瞬間、溢れ出すそれはまさしく音の洪水だった。

 反響する音と音が交差し、何度となく耳を打つ。

「まどかー大丈夫?」

「……ぐわんぐわん」

「やっぱ来ないほうが良かったんじゃないですか? まどかちゃん」

 

 まどかは耳が良い。音楽一家に生まれた影響なのか、いくつもの旋律の重なりの一つ一つを聞き分けられるほどに耳が良く、だからこそこういう雑音に満ちた場……ゲームセンターはやばいんじゃないかな、という予想があったのだが、案の定だったらしい。

 土曜日午後、昼食も取ったし、後どうしようかなと思案し、久々にゲーセンに行こうかと思ったところまでは良かったのだが、何故かそれにマナがついてくると言い出し、さらにマナが付いていくなら自分もとまどかが言い出し、結果的に三人で来ることに。

 

「まどか、これ貸してあげる」

 

 ここまで着てきたパーカーをまどかに着せてあげる。

 意味が分からず首を傾げるまどかだったが、パーカーについたフードを被せてやると。

「……ん」

 少しマシになったのか顔を上げる。

 普通なら本当に少しマシ、と言った程度だがまどかの耳の良さだとこれでも大分違うらしい。

 まだ少し煩いようだが、少し、で済んでいるなら十分遊べる。

 

「何やる?」

「ゆーくんは何しに来たんですか?」

「ん?」

 

 この町のゲーセンは数は少ないが、どこもけっこう大規模なものが多いので、どこに行ってもそれなりに遊べる……無論金が必要になるが。

 

 この店の場合だと。

 

「ユーフォ―キャッチャーとかどう?」

「あ、私やってみたいです!」

「ん、ん!」

 

 私も、とアピールするまどかに苦笑しながら、賛成多数によりユーフォ―キャッチャーのコーナーへと足を向ける。

 少しだけこれで良かったのかな、と思わなくもない。

 自分から提案してしまっただけにそれを断れなかっただけなんじゃないか、と思ったりもする。

 

 何せゲーセンに入る時はボクの読心能力は切っている。

 

 ボクの能力は人の感情の表層を読み取る。

 それはつまり、喜怒哀楽の感情が剥きだしに聞こえるということであり、ゲームセンターは感情の坩堝と言っていいほどに色々な感情に溢れている。

 簡単に言うと酔うのだ。小さなゲームセンターコーナーくらいならいいのだが、一つの店舗として成立するくらい大規模なものとなるとやってくる人も多く、さらに面倒なことに隣はパチンコ屋だ。

 自分の能力の射程、とでも呼ぶべきものを真面目に計ったことは無いが、集中するとかなり遠くのほうの声まで聞こえるため、隣の建物くらいなら、しかもパチンコ、ギャンブルなどゲーセン以上に感情に溢れている。嫌が応にも聞こえてしまうため、以前やってきた時は眩暈すらした。

 だからこういう場所に来る時は能力を使わないようにスイッチを落としている。

 とは言え、普段から使い慣れた能力を使わない、分かりやすく言えば五感を一つ使わなくなったようなものだ、普段知覚しているものが知覚できないという感覚に慣れず、どうにも惑ってしまう。

 

「慣れないなあ」

「ふえ? 何がですか?」

「……ん?」

 

 一人ごちた呟きをけれどこの騒音の中でまどかとマナの二人は聞き分けたらしく、首を傾げる二人になんでもないよ、と苦笑した。

 

 

 * * *

 

 

 昔の人は言った。

 

 UFOキャッチャーは貯金箱である、と。

 

「…………」

「う……うあ……」

 

 崩れ落ちるマナへとまどかが冷めた視線を送る。

 すでに英世三枚がこの筐体へと消えていったが、未だ中のパンダのぬいぐるみは落ちる気配を見せない。

 最初の千円くらいまではまどかも一緒に横で応援していたが、二千円を超えたあたりで、これダメだ、と悟ったらしく、三千円を費やした今となっては冷めた視線を送るばかりである。

「今月の……お小遣い……パァ……」

 死んだ目でぶつぶつと呟くマナに嘆息し、ちゃりん、とお金を入れる。

 

 とは言っても小さなぬいぐるみ……いや、ストラップ程度ならばともかく、本格的にサイズのあるぬいぐるみというのは基本的にある程度以上の金額を費やさないと取れないようにできている。

 当然ながら少額で簡単に取られるならお店としても商売あがったりなわけで、小銭を溶かしながら少しずつ少しずつ位置をずらしていき、取れるような位置にまで持っていけるのが、まあ通算して。

 

 中型のぬいぐるみなら三千円程度と言ったところか。

 

 こてん、と取り出し口に落ちたぬいぐるみを拾い。

 

「ほら、マナ」

「……え」

「……ん」

 

 マナが視線を上げ、ボクの持つぬいぐるみを見て。

 

「いいの?」

「ほぼほぼマナがあそこまで動かしたんだから、マナのだよ」

 

 手を出したマナにぬいぐるみを渡し。

 

「…………」

 

 マナがじっとぬいぐるみを見つめる。

 やがて。

 

「えへへ……」

 

 はにかむ。

 それからぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ。

 宝物を抱きしめるかのように頬擦りし。

 

「ありがとう、ゆーくん!」

 

 満面の笑みでそう告げた。

 

 

 * * *

 

 

 ゲーセンで一番楽しいゲームは?

 と聞かれればその答えは人それぞれだろう。

 ガンシューティング、アクション、レーシングゲームに先ほどのUFOキャッチャー、リズムゲームだってあればスロット紛いのものだってある。

 

 じゃあボクにとって一番は何か、と言われると。

 

「よし立直(リーチ)だ……こい、こい、こい。来た! 自摸(ツモ)!」

「ゆーくん、趣味渋すぎじゃないですか?」

「……ん」

 

 電子麻雀である。

 残念ながら点数の計算ができないので実卓を囲むことはできないのだが、これが意外と楽しい。

 というか実卓を囲むと思考が読める時点でこういうゲームは楽しめなくなるので、オンラインのほうが楽しく遊べる。

 まあこの麻雀好きという特徴が今後の人生にどれだけ意味があるのかと言われればきっと無いのだろうが。

 というか麻雀が好きというよりは、相手の裏をかき合うようなゲームが好きなのだ。

 ポーカー、大富豪などのトランプ系のゲームも好きだし、某ポケットサイズのモンスターなども割と好きだ。後はオセロや囲碁などのボードゲームも時々やる。

 ただ実際に面を会わせてやると思考が漏れてくるので実際にやる時は能力を切ってやるのだが。

 とは言え普段から人の思考を読んでいるのだ、何を考えているのか、何をしたいのか、などだいたい考えるだけで分かる。

 なので例えオンラインゲームだろうとけっこう良い戦績を残せるのだが、麻雀の場合そこにさらに運が強く絡む。

 某女子高生麻雀漫画のように麻雀に特化した超能力というのはさすがに聞いたことが無いが、世界は広いし、案外あるのかもしれない。

 

「父さんがけっこう好きなんだよね、こういうの」

「あー……オジサン、まどかちゃんのお父さんとかうちのお父さんとかと時々遊んでますしね」

「ボクも時々混ざって四人でやってるけど……まあ基本的に父さんたち家に居ないからねえ」

「……ん」

「まどかちゃんのお父さんも多忙な人ですしね、うちのお父さんも決して暇というわけでも無いですし」

「まあ親は親同士遊んでるけど、子供は子供同士で遊んでるし、良いんじゃないかな?」

「ですです」

「……ん」

「ん? どうしたのまどか」

 

 ぐいぐい、と袖を引くまどかに首を傾げ。

 

「……ん」

「ん? もしかしてやりたいの?」

「ん」

「え、まどかちゃん麻雀なんてできるんですか?」

「……教えて、もらった……お父さんに」

「へー」

 

 珍しく長文を喋った幼馴染に、席を代わり。

 

 そうして。

 

 半荘(はんちゃん)の残り四局で二人飛ばしてまどかが一位だった。

 

 幼馴染は麻雀が鬼のように強かったと知った一日だった。

 

 

 

 




まどかちゃん何気に超能力者じゃないけど、超人だから(
そして心を読まない場合のマナちゃんのヒロイン力は意外と高いのだ。

作者自分で設定してて忘れてたけどゆーくんは兄がいる。
長男なのにりゅーじくん……適当に名前設定するもんじゃないね(

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