読心能力持ってるけどボクの無口無表情系幼馴染の心の中が不可思議すぎる件   作:水代

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エープリルフール特別企画ぅ。
嘘つきシリーズ。
本編の中に一つだけ嘘を混ぜたらどうなるか。

Q.つまり?

A.もしもシリーズだよ。


【IF】

 

 

 夢を見た。

 

 ずっとずっと昔の夢。

 

 ―――好き。

 

 そう言われた。

 

 ―――僕も。

 

 そう返した。

 夢だ。ずっとずっと昔の夢だった。

 遠い昔の夢、まだ幼い子供の頃の夢。

 

 約束した。

 

 ずっと一緒にいようね、って。

 

 約束した。

 

 ずっとずっと一緒だよ、って。

 

 誓った。遠い日の誓いは。

 

 ―――今もまだ、続いている。

 

 

 * * *

 

 

 朝目が覚めると目覚ましの代わりにオーケストラの音楽が鳴り響いていた。

 

 ヴィヴァルディの『春』か、なんて彼女と過ごすうちに自然と覚えた音楽の知識から聞こえてくる曲の名前が出てくる。

 多分名前でピンとこない人も、実際に聞けば分かる、という場合も多いだろう。学校の入学式や卒業式、後はまあ結婚式なんかの場でも使われる場合もあるらしい。某カップ麺のCMなどでもアレンジが使われていたり、日本人なら聞くことも多い曲だ。

 

 それにしてもオーケストラの音楽が目覚ましなんて、なんて優雅な生活だろうか。

 

 問題はボクは特にそんな目覚ましセットした覚えも無い上に、そもそもオーケストラのCDや音楽データなんてうちには無いことだが。

 

 目を開くと、視界の中にドアップで彼女が映っていた。

 

「……おはよう、まどか」

「おはよ……ゆーくん」

 

 鳴り響く心の音楽オーケストラは最高潮に達しようとしていたが、別に鼓膜で聴いているわけでも無いので、彼女の小さな声でも普通に聞こえては来る。

 他愛のない挨拶。お隣同士の幼馴染。まあそう考えれば朝起きたら目の前に彼女がいることも不思議でも……でも?

 

「いや、無いか」

「ん?」

 

 一人呟いた言葉に首を傾げる彼女に何でもないよ、そう告げて苦笑する。

 そう、別に不思議でも無い話だ。

 お隣同士の幼馴染。でも何年か前からはずっと一緒の家に住んでいて。

 

 ―――ずっと昔から恋人同士なんだから。

 

「まどか」

「ん?」

 

 朝一番に見る彼女の表情に、笑みを浮かべ。

 

「好きだよ」

「……ん、私も」

 

 短く呟き、彼女もまた()()()()()()()

 

 

 * * *

 

 

 彼に髪を梳かれる時間はとても好きだった。

 

 優しく優しく……まるで宝物でも扱うかのような繊細な手つきで、ゆっくりと櫛を通してくれる。

 

 少女……戸辺円花だけの特権で、朝一番の至福の時間だ。

 

「いつものでいい?」

「ん」

 

 梳かし終われば次は髪を結び始める。頭が重いのを嫌う円花のために両側でおさげを作って前に垂らす。

 彼が好きだと言ってくれたいつもの自分の髪に触れる。

 長い髪はやや面倒ではあるが、まどかの母親が絶対に短く切らしてはくれないし、何よりこうして彼に梳いてもらえる時間が少しでも長くなるのならば手入れの面倒も受け入れる意味は十分にあった。

 少しだけ力を抜き、まどかの背後で髪を編んでいる彼にもたれかかる。

 

「どうしたの?」

 

 なんて、耳元で聞こえる優しい声になんだか無性にドキドキしてしまって。

 

「んーん」

 

 何でも無いよ、と頭を揺らしながら完全に彼に体を預ける。

 少しだけ困ったような表情をした彼だったが、やがて微笑し手早く髪を編み終えると。

 

「まどかはあったかいね」

 

 呟きながら背中から伸びてきた手に抱きとめられる。

 

「ゆーくんのほうがあったかいよ」

 

 回された腕に手を添えながら、目を閉じる。

 とくん、とくん、と聞こえる心臓の音は、自分の物か、それとも彼の物か。

 

 いつまでもいつまでもこうしていたいな、なんて思った。

 直後。

 

 PiPiPiPiPiPi

 

 電子音。二人して視線を向ければアラーム鳴り響く目覚まし時計。

 時刻を見て、二人して口を開き。

 

「「あ、学校」」

 

 すでに家を出ていなければならない時刻に、慌て始める。

 

「やばい、今日も遅刻寸前だ」

「毎日のこと」

 

 まあ毎日同じことやっているから仕方ない。

 昔はアラームかけていなかったので、そのまま遅刻したこともある。

 さすがに不味いのでこうしてアラームもかけるようにしたのだが。

 

「……無粋」

「て言っても、父さんか母さん、おじさんおばさんにも迷惑かけちゃうからね」

「……むう」

 

 それでもやっぱり、もう少しだけ、なんてそんなまどかの心中を察したかのように。

 仕方ないなあ、なんて呟きながら彼の顔がすぐ傍に迫ってきて―――。

 

 ちゅ、と唇に柔らかい感触。

 

「学校終わるまで、これで頑張って」

 

 なんて言われたら、もう諦めて動き出すしかなくて。

 

「……はぁ」

 

 思わず嘆息。

 

「なんか……」

 

 何と言うか。

 

「ゆーくんが好き過ぎて辛い」

 

 それ以外に言いようが無かった。

 

 

 

 ==================================

 

 

 ―――じゃあ、その時は。

 

 頬を染める朱は、夕暮れの物なのか、それとも。

 

 ―――私を……お嫁さんにしてくれますか?

 

 俯きがちに、おずおずと、それでもはっきりと。

 そう告げる彼女に、少しだけ考えて。

 

 ―――うん。

 

 そう告げ、頷く。

 瞬間、彼女の顔がぱぁ、と明るくなって。

 

 ―――えへへ……ゆーくん。

 

 両手を広げ、跳びつきながら。

 

 ―――だーいすき!

 

 

 * * *

 

 

 学校の通学路で待ち合わせ、と言うのは恋人としては定番なんじゃないだろうか。

 なんてことを考えながら。

 

「遅いね」

「ん」

 

 まあ横に幼馴染の少女がいるので、ロマンもへったくれも無いわけだが、それはそれとしていつもならもう来ているはずの時間なのだが、未だに待ち人はやって来ない。

 

「どうしよっか……まどか、先に行く?」

「……ん」

 

 逡巡したが、けれどこくり、と頷き幼馴染が先に歩き出す。

 一緒に生活して数年になるが、最近ようやく自立という言葉を覚えてくれたのか一人で寝起きするようになったし、お風呂も一人で入るようになったし、服を着替えるのも髪を結ぶのも自分でやるようになってきた。

 ……単純に恋人であるもう一人の幼馴染に遠慮してのことだとするなら、有難いことだとは思う。

 理解のあり過ぎる恋人ではあるが、同じ幼馴染とは言え他の少女と一緒に住んでいる上に世話まで焼いているというのは不義理だと言われても仕方ないことだと思っているから。

 

 とことこと小さな歩幅で歩いく幼馴染の背を見送りながら、まだかな、と視線を移し。

 

「ゆーくん!」

 

 彼女……マナがやってきたのはそれからさらに五分ほど経ってからだった。

 少し焦ったように小走りでやってきたマナと共に学校へと向かいつつ、マナの持っていた小さな紙袋に視線を移す。

 

「どしたの、それ」

「え……ああ、これですか。ほら」

 

 紙袋から出したそこには、一組の手袋……のようなものがあった。

 いや、決して不細工だとかそういうことではなく。

 

「少し大きい?」

「ミトンですから」

 

 ああ、なるほど。と一つ頷きながら、どうしたの? と尋ねれば。

 

「まどかちゃんにプレゼントです」

「まどかに? ああ、そう言えば最近になって一人で夕食作るようになったし」

「ですです……それに、色々気を使ってもらってますし」

 

 そんなマナの言葉に思わず首を傾げ。

 そしてそんな自分の反応にマナがくすり、と笑う。

 

「ダメですよ、ゆーくん。まどかちゃん、私たちのためにたくさん遠慮してくれてるんですから」

「まあ最近色々してくれるようにはなったけど……」

「それだけじゃなくて」

 

 ちらり、とマナが前をへと……まるで遠く、先に向かったまどかを見つめているかのように……視線を向け。

 

「今日だって、二人にしてくましたし」

「そりゃマナが遅れてくるからじゃ?」

「もう……違いますよ、ゆーくんのにぶちん」

 

 そう言われても、と思わず頭を掻く。

 人の心を読めるため、にぶちん、なんてほとんど言われたことない、というかマナ以外に言われたことなんて無いのだが。

 まどかの心は非常に読み辛い。というか聞こえてくる声が全部音楽で表現されているため機嫌などは凡そに分かっても具体的に何を考えているのかなどというのがさっぱり分からない。

 人の心を読むことに慣れ切ったせいで、逆にまどかのことだけはさっぱり分からないのだ。

 人の心を読むことは自身にとって常態であり、故に何年経ってもまどかの思考だけはさっぱりだった。

 

 逆にマナはまどかの思考にとても詳しい。詳しいというか鋭い。

 それは女の子同士の物なのか、同じ幼馴染なのにまどかという少女に対する理解がまるで違っていた。

 そしてそんなまどかをマナはとても好いていて、だからこそまどかに関することにだけはしょっちゅう鈍感だのにぶちん、だの言われ続けていた。

 

「正直何考えてるかとか良く分かんないんだよ」

「もっとちゃんと感じてあげてくださいよ……まどかちゃん無口でも、無表情でも、それでも無感情じゃないんですから」

「……うーん、まあ確かに、同じ家に住んでるんだしもっと気を付けるべき何だろうなあ」

 

 ずっと昔のお喋りな頃の彼女ならともかく、今のまどかでは正直難易度の高い話ではあるが。

 

「うんうん……そんな素直なゆーくんに彼女さんからのプレゼントですよ」

 

 肩を落としながら歩く自身に向かって、そう告げながらマナが白い包みを差し出し。

 

「……なにこれ?」

 

 開けてみていい? と尋ねれば、良いですよ、と頷いたマナに包みを剥がしていき。

 

「…………」

 

 中に包まれていたのは白い手袋だった。

 雪のように真っ白で、けれど毛糸で編まれたそれはとても暖かくて。

 

「まだちょっと早いですけど……良かったら、もらってください」

 

 えへへ、と照れたようにはにかむマナに、何とも言えない気持ちが溢れてきて。

 

「うん。ありがとう、大切にするね」

 

 そっと手袋を撫でて、笑顔を返す。

 そうしたらまたマナも照れたように笑ってくれて。

 

「ねえ、マナ」

「あ、はい、何ですか、ゆーくん」

 

 一歩、マナへと近づく。

 元からそう距離があったわけでも無い、一歩で互いの肩が触れ合い。

 

「大好きだよ」

 

 耳元でそっと呟く。

 

「……あ」

 

 囁かれたほうの耳をばっと、手で押さえながら顔を赤くしたマナがこちらを見つめ。

 

「えっと……うん」

 

 少しだけ言葉を選ぶように溜めながら。

 

「私も……ゆーくんが大好きだよ」

 

 いつもとは違う、砕けた口調で告げて、微笑んだ。

 

 

 

 




前半の嘘:まどかがゆーくんと恋人だったら。
後半の嘘:マナちゃんがゆーくんと恋人だったら。

マナちゃんのことをクレイジーサイコレズっぽいバイセクシャルの変態だと思っている読者はこれを見て浄化されなさい。

というわけで恋人らしいイチャラブは見たな? 見たよな? 満足したか?

なら本編はしばらく恋人にならなくていいな(外道感

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