読心能力持ってるけどボクの無口無表情系幼馴染の心の中が不可思議すぎる件   作:水代

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【7】

 日曜日。

 

 学生は土曜日から続く連休を満喫しているだろう日。

 普段のボクならば家でまどかと遊んでいるか、外に出かけるかしているだろうが。

 

「ストラーイク! バッターアウト!」

 

 ……本日のボクは部活(ヤキュウ)の真っ最中であった。

 

 審判の上げた声に、バッターボックスの打者が悔しそうにバットを地面にこんこんと突きながらバッターボックスを出ていく。

 そうして次のバッターがやってきて。

 

 ―――打つ!

 

 その強い意思を感じると味方のピッチャー……トラに一球外すようにサインを出し。

 ぶん、とバットが空を切って振られ……ボールがその下をすり抜けていくのをキャッチする。

 トラの思考を読み取っておけばだいたいどこに来るのか、その正確なコントロールでほぼ検討はつくのでトラが投げた瞬間にミットを動かし、ぼすん、とボールがミットの中に飛び込んでくる。

 そうしてミットの中のボールをトラに投げ返し、一瞬ちらりと横目でバッターを見やり。

 

 ―――様子を見るか。

 

 消極的意思を読み取って、今度はストライクゾーンに入れるようにサインをする。

 こくり、とトラが一つ頷き。

 

 投げる。

 

 その思考を読み。

 

 ―――っ、来た!

 

 そのボールが入ってくることに気づいた打者が慌てて振ろうとして。

 

 ぶんっ、と振られたバットはけれどとっくに過ぎ去ったボールの軌跡をなぞった。

 

「ストライクツー!」

 

 悔しそうにバットを握る手に力が入る打者の姿を見やりながら、ボールをトラへと戻し。

 

 ―――カウント0-2……外す、か?

 

 という思考が読み取れるのでもう一球入れてこいとサインを出し。

 

「ストライク、バッターアウト!」

「ぐっ……」

 

 審判の宣告に打者がバッターボックスを出ていく。

 これでアウト二つ。

 どうする? とトラに視線を向かわせる。

 これは大会でなくあくまで練習試合なので、打たせて取るというのも守備練習の実践という意味では重要になる。

 正直今日の相手チームならばこのままボクとトラだけで止めることもできなくはないが、それではただの投球練習にしかならない。

 

 トラの目標はあくまで夏の大会で結果を出すこと。

 

 となれば……。

 

 

 * * *

 

 

 4-1と書かれたスコアボードを見て、相手チームが肩を落としながら撤収していく。

 一方こちらは自校の校庭なので、片づけもそこそこに各自休憩を始める。

 時間的にはもう昼過ぎになろうという頃。

 

「それじゃ、トラ。ボクは帰るよ?」

「ああ、今日はご苦労だった。次回からは守備主体に行くからしばらくは大丈夫だが本番前にはまた頼むかもしれん」

「うん、分かった。出来るだけ早めにお願いね。こっちも家のこととかあるし」

 

 ボクの出番は終わったので帰り支度を終えて最後にトラに挨拶する。

 うむ、と頷くトラにそれじゃあ、と手を振りながら背を向ける。

 そうしてユニフォームやら何やらで重くなったスポーツバッグを肩に背負い直しながら校門を抜ける。

 

「それにしても今日は水泳部いて良かったあ……」

 

 お陰でシャワー室借りれたから汗を流して帰れる。

 前に試合に出た時は休みだったため、汗だくで家まで帰って汗臭さにまどかが逃げ出したとかいう笑えないエピソードもあるのだが、まあそれは余談として。

 校門を抜けて、学校の目の前のコンビニの駐車場に見覚えのある二人がいることに気づいた。

 

「おつかれ……ゆーくん」

「お疲れ様ですよ、ゆーくん」

 

 向こうもこちらを見つけたらしく、まどかとマナが声をかけながら駆け寄ってくる。

 

「あれ、まどかとマナ。見に来てたの?」

「ん」

「ですです!」

 

 朝出かける時には特にそう言った素振りも無かったので少しだけ驚きながら二人と並んで歩いて帰る。

 

「相変わらずうちの学校の野球部凄いですよね」

「ん」

「ゆーくんと若竹君で相手のみんなをいっぱい三振にしてましたし」

「トラさんの球凄いからね……今度分裂する魔球の練習するって言ってた」

 

 相変わらず一人だけ出身がギャグ系野球漫画みたいなやつである。

 因みに若竹君とはトラの苗字である。

 

「というか、途中で打たれた球捕るのに二メートルくらいジャンプしてませんでしたか……?」

「トラさん最大三メートルくらいはジャンプできるよ」

「あの……本当に人間ですか?」

「……たーみねーたー」

「いや、トラさんあれでも人間だから」

 

 ちょっと普通の人間とは言えないけど、それでも一応分類的には人類のはずである。

 まあちょっと……というか大分外れてはいるけれど、超能力者なんてのもいるのだ、ちょっと人間辞めてるくらい運動ができる人間だってきっといるのだろう……ということにしておきたい。

 

「そう言えば二人とも、お昼は?」

 

 携帯(スマホ)で時計を確認すれば午後十二時半。

 お昼にはちょうど良い時間である。

 

「ゆーくんと三人で食べようってまどかちゃんと話してましたから、まだですよ」

「ん」

「え、なにこれ?」

 

 マナの言葉に、まどかがすっと手を差し出し……握られていたのは五千円札が一枚。

 いきなり何だと思わず首を傾げたボクにマナが苦笑しながら補足説明する。

 

「ゆーくんのお母さんが外で食べるなら、ってくれたんですよ」

「母さん……相変わらずまどかとマナに甘いなあ」

「……ん?」

 

 息子のことは割と放置している癖に、まどかとマナにはやったら構いたがる困った母親である。

 まあ別に嫌われているとかそういうわけではないし、困った時にはちゃんと相談に乗ってくれるし手助けもしてくれる良い母親なのだが、息子より娘が欲しかったのとね、と口癖のようにボクに言うのは止めて欲しい。

 ついでにまどかとマナに「本当に娘にならない?」とか聞くのも止めて欲しい、割と本気で。

 二人とも本気にしていないというか言葉の裏に隠された意味が分かっていないので首を傾げるだけだが、何を言いたいのか思考を読めるボクとしては顔が引きつって仕方ないのだ。

 

「ま、まあそれはさておき……お小遣いもらったならどっか食べていく?」

「……どっちでも」

「私もどっちでも良いですよ? ゆーくんがご飯作ってくれるならそれはそれで全然ありですし」

「んー……今から帰って作るとなるとちょっと時間遅くなるしなあ」

 

 別に帰っても良いのだがその場合、一時過ぎることになる。そこからさらに調理していて、となると。

 

「母さん今日は仕事だっけ?」

「ですです……昼前に出かけていきましたよ」

「何か作ってた?」

「何も……ゆーくんに、お願いする、って」

 

 投げっぱなしかよ、と思わず呟きそうになるが、そのための五千円札か、とすぐに思い直す。

 こうなるとやはりどこかで食べて帰るのが良さそうかな、と考えて。

 

「どこで食べていこうか……予算五千円で三人ならけっこう高いのも行けるけど」

 

 別に全部使う必要も無いが、どうせ残ったら返すのなら使いたくなるのが心情というものだ。

 幸い学校からの帰り道に駅前を通るし、その辺で適当な店を見繕うのも良いだろう。

 まあまどかはそんなに食べないので良いとして、問題はマナだ。

 

「マナが満足できる量となると……定食屋? お替り自由な感じの」

「あ、私帰ったらまた食べるんで別に軽くでも良いですよ?」

「お昼食べて……帰ってまだ食べるの?」

「でないと夜までもたないんですよ」

 

 凄い食欲である、我が幼馴染ながら。

 

「それで良く太らないね?」

「んー……あんまりお肉つかないんですよね私。運動してるのもありますけど……って、え? まどかちゃん、どうかしました?」

「……んー」

「え、あの、そんな風に見つめられても」

 

 無表情ながら、珍しく拗ねているとはっきりと分かる雰囲気を醸し出しながらまどかがマナを見つめる。

 本当に珍しいこともあるものだ、と思う。基本的に無表情なのもあるが、感情本当にある? って思うくらい表に出ないし。

 まあ心を見れば……というかまどかの場合聴けば見た目よりもずっと多感であるのは分かるのだが。

 

「まどか、体重とか気にしてたんだ?」

「……ん」

「え、まどかちゃんが?!」

「マナ、さすがにその言い方は失礼だと思うよ」

 

 気持ちは分かるが。

 

「ん-……」

「あ、ご、ごめんなさい、まどかちゃん。謝ります、謝りますからそんな顔しないでください」

 

 そんな顔と言っても別に顔は本当に無表情なのだが。

 何故こんなにも感情が伝わってくるのだろう。本当に雰囲気としか言いようが無い。

 因みにさっきから心の中でダース〇イダーのテーマが流れているのが無駄に壮大過ぎて本気で笑いそうになるので止めて欲しい。

 

「まどかはむしろもっと食べて大きくならないと」

 

 さすがに十六にもなって小学生の時と身長誤差レベルでしか変わっていないのは成長しなさすぎである。

 そんなことを告げたボクに、まどかがこちらをじっと見つめ。

 

「……ぶふっ」

 

 途端に心の中でやる気の無いほうのテーマに変化して思わず噴き出したボクをまどかとマナが目を丸くして見つめる。

「な、何でも無い、何でも無いヨ?」

「語尾がおかしくなってますよ?」

「……ゆーくん?」

 

 何やってんだこいつ、みたいな目で二人が見てくるが、まどかのそれは反則だと声高に主張したい、まあ言わないのだが。

 そんな風に戯れながら歩いているとやがて駅にたどり着き。

 人の密集した駅の中をまどかとマナとはぐれないように纏まって抜けていき。

 

「それで、結局どうしよう?」

 

 いざ着てみたはいいものの、未だにどこに行くかは決まらず駅前で立ち往生する。

 ぐるりと見渡せばそれなりに飲食店もちらほらと目に付くのだが。

 

「ん」

「ん? どうしたの、まどか」

「あれ」

 

 ふとその時、くいくいとまどかに袖を引かれ、振り返ればどこかの店を指さすまどかの姿。

 指さす方向を見やり。

 

「ファミレスかあ」

「あ、セットメニューでドリンクバー無料って書いてありますよ」

「ランチ……安い」

「ですです、さっすがまどかちゃんです」

「んじゃ、あそこでいいかな?」

 

 もう決まったようなものだったが、一応二人の了承を取り、駅の真向かいにあるファミレスへと入る。

 すぐに店員がやってきて四人掛けの席へと案内され。

 

「旦那さん、旦那さん。はい、あーん」

「奥さん、それはさすがにちょっと恥ずかしいかな?」

「良いじゃないですか、私こういうのちょっと憧れですよ?」

「う、うーん……じゃあ、あ、あー……あ……」

 

 反対側の席で、凄まじいバカップルっぷりを発揮するすごく見覚えのある()()がいた。

 

「何やってるんですか、()()()()

 

 思わず呟いたボクは悪く無いと思う。

 

 

 * * *

 

 

 東雲八雲先輩と東雲梓先輩。

 うちの学校の三年生だ。

 恐らくうちの学校で最も有名な二人であろう。

 

 去年の文化祭で行われたジョークイベント『校内ベストカップル総選挙』で問答無用の一位に選ばれた二人であり。

 

 ()()()()()()正真正銘の()()である。

 

 よくまあ両親許したなとか思ったり、高校卒業してからのほうが、とか思うのが常識なのかもしれないが、この二人の場合学校に結婚の報告をしたら担任の先生に「え、まだ結婚してなかったの?」と言われたという伝説を持ち、クラスメートからも「ああ、ようやくか」「今更だよね?」「何か変わった?」「ようやく?」「まあおめでとう……?」と生ぬるい祝福を受けたという結婚する前から事実上夫婦だったため学校での認識はほぼ「うんまあ、知ってた」で統一されている。

 両親側も積極的に賛同して、二人が独り立ちするまで経済的にも援助する方向で話がまとまっているらしい。

 

 というか結婚する前から互いの呼び名が「旦那さん」と「奥さん」だったのでボクも一年の頃はてっきりすでに結婚しているのだと思っていた。

 二年になって結婚しました、と言われて「あれ? 重婚ですか?」と思わず言ってしまったのはボクのせいではないと思いたい。

 

「そうですか、三人ともお昼ご飯を取りに来たのですね」

 何だかんだと同席することになったのだが、ここに来た経緯を話すと梓先輩がくったく無く笑う。

「先輩たちも珍しくここで食べてるんですね」

「ん」

 マナが目を丸くしながら呟いた一言にまどかが同調するように頷く。

「珍しい……かな?」

 八雲先輩が首を傾げながら呟く。

「イメージですけど、ほら、梓先輩の手料理でも食べてるイメージが」

 

 因みに学校のお昼はいつも二人で梓先輩の手作り弁当……否、愛妻弁同である。

 昼休みに教室で余りにも甘ったるい光景を生み出すので先輩たちのクラスではブラックコーヒーが常設されているという噂である……というか前に見た時、教室の片隅に置かれたクーラーボックスに普通にぎっしりと缶珈琲が詰まっていた。あれ誰が買っているのだろう?

 良く教師が許したなと思うが、その教師がちょくちょく愛飲しているらしい。

 

「まだ同棲はしていないんでしたっけ?」

「まあ学生の内はね……大事な奥さんだし、責任取れるようになるまではそういうのはしないって決めてる」

「まあ、旦那さんったら……大事な、なんて……」

 ぽっ、という音が聞こえてきそうなくらいに頬を染めて目を潤ませながら八雲先輩を見つめる梓先輩。まあこの夫婦空間はいつものことなので放置しておくとして。

「そういやマナは?」

「……どりんくばー」

 心の中で何故か三分〇ッキングのBGMを流しているまどかの端的な言葉にいつの間にか消えたマナを視線を探し。

 

「……何やってんのあれ」

「……みっくす?」

 

 コップに色々なジュースを少しずつ混ぜながら怪しい笑みを浮かべる幼馴染の少女に、思わず嘆息した。

 




* レンの解説コーナー *


「レンの解説コーナーでやがります、ありがたく聞きやがれってんですよ愚図ども。あ? レンが誰か? そんなことはどうでもいいんですよ。なんでそんなことレンがお前らに教えてやらねえといけねえんですか。知りたきゃ更新待ちやがってんです。とにかく、このコーナーでは本編で語られないような、語るまでも無いようなものをつらつらとレンがお前ら愚図のために解説してやるコーナーでやがりますから、心して聞いていきやがれってんです」


>>地域

「都会と呼べるほど開発は進んでおらず、かと言って田舎と言うほど人は少なくはない、人口十万弱の街でやがります。駅が通っていて、二つ隣の駅まで行けば新幹線も乗れるってんですよ。その駅を中心に街が広がっていやがりますから、必然的に駅に近いほど店なんかも増えていきやがります。とは言え、最近は駅から遠くにショッピングモールもできやがりましたしそっちで買い物する人も増えてやがります」

>>学校

「生徒数五、六百程度の公立高校でやがりますよ。学食も購買も無いとかしけてやがりますね、ぺっ。まあすぐ目の前にコンビニがありやがりますから、昼休憩に食いっぱぐれることはねえみてえですが……あん? 金が無い? 飢えて死ね。周辺では一番の進学校でやがりますね、まあ他がスポーツ重視だったり、文化部重視だったりで勉強に力を入れてる学校なんて大してねえただのお山の大将でやがりますが。全国的に見ればまあ普通の学校、としか言いようがねえでやがります……没個性がっ」

>>部活

「本編でも語られやがってみてえに野球部が一番盛んでやがります。大会で結果も出してやがりますし、人員も一番多いみてえでやがりますから、部費なんかも高いらしいですね……ま、どうでもいいんですけど。他の部活はあんまりぱっとしねえみてえです。まあ言って公立高校なんてそんなもんじゃねえですか? 因みに野球部のマジ練習についていけねー雑魚どもが群がって野球同好会作ってるみてえですが……ま、負け犬どもなんざどうでもいいでやがりますね」




「ま、今回はこの程度にしといてやがりましょう。もっと聞きたい? うるせえ死ね。レンは忙しいでやがりますよ、てめえら愚図どものためにこれ以上の時間を裂いてやるなんざまっぴらごめんでやがります、それじゃあ、さようなら、でやがりますよ」




…………。


……………………。


………………………………。




因みにレンちゃん二章で出てくるよ。
なんで今出てくるのかって?
俺が書きたかった(
多分、俺が今まで書いてきた中で一番個性強いぞ(色々な意味で

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