ホータロー君の資料は、いつだったかの学校誌、『神山高校50年の歩み』のコピーだった。なるほど、公的記録から調べてきたのか。資料に目を通して見る。
『
○4月、英田タスク校長による学業重視宣言
○6月30日、放課後に「文化祭を考える会」
□10月13~17日、文化祭
□11月15~18日、2年生修学旅行
○12月2日、交通事故多発による全校への注意喚起
………………………………………………
』
これ、なにを要約するんだろうか。ホータロー君の方を見ると途方に暮れていた。別にいい加減にこれを持ってきたわけじゃないだろうけど、これ単体だとあまり意味がないのも確かだしね。
するとホータロー君は顔を上げ、
「すまん。トイレ借りてもいいか」
と千反田さんに尋ねた。
「ええ、構いませんよ。お手洗いは真っすぐ行ってつきあたりです」
ホータロー君は立ちあがり、床の間を後にする。その時彼が今までの資料をポケットに忍ばせたのを僕は見逃さなかった。
ホータロー君が出て行ってしばらくしてから、僕は適当な理由をつけてその後を追った。
千反田さんの言葉通り、真っすぐ行ってつきあたりにトイレはあった。
扉をノックし、声を掛ける。
「ホータロー君」
「なんだ夏目、もう少しかかるから後にしてくれないか」
とぼけ方が下手だなあ。僕が言えたことじゃないけど。
「僕も仮説を用意して無くてさ。どうだい二人でまとめを考えないかい」
ちょっと間をおいてから、ホータロー君が出てきた。
「そうだな。お前の助力が得られるならありがたい」
そして、僕たちは考え始めた。
***
「悪いが仮説を用意してくるのを忘れていた。だから俺たちの番は終わりにして、まとめに入らないか」
床の間に戻った僕たちを見て、里志は意地の悪い笑みを浮かべた。
「二人とも、何か思いついたね」
「多分ね。大体の説明はつくんじゃないかな」
「やっぱり、お二人なら出来ると信じてました」
う、うん。それはありがたいね。
「聞かせてください」
「そうだね、ぜひ聞こうじゃないか」
「期待してるわよ」
ホータロー君がたじろいでいるので、とりあえず僕が口火を切ることにした。
「そうだね。わかりやすく5w1hで説明するよ。いつ、どこで、だれが、なぜ、どのように、なにを……だったね」
みんなの視線が僕に向く。
「まず『いつ』。33年前だね。問題は6月か10月かだけど、ここは『氷菓』と『団結と祝砲』両方を信じて、事件は6月、退学は10月と考えよう」
伊原さんが不満そうな顔をする。確かに、矛盾していると言ったのは僕だしね。
すると、ホータロー君が話を続けてくれた。
「次に、『どこで』。これは分かり切っているが、神山高校でだ。で、『誰が』これも分かっているが関谷純だ」
「補足すると、全校生徒も事件の主役の一端だろうね」
『神高月報』にはそう書いてあったしね。
「『何故』。全校生徒の起こしたことだから、相手は教師陣ということになる。その理由は自主性が損なわれたからだ。で、事件の原因は文化祭だ」
みんなの顔に疑問符がうかぶ。まあ確かに、ぱっと見ただけじゃそこまで考えないよね。
僕は補足する。
「ホータロー君の資料を見てみて。『文化祭を考える会』ってのがあるだろう?」
「これ?でも、今はやってないけど当時は恒例行事だったかもしれないじゃないか」
里志の疑問ももっともだ。だから僕は説明を続けた。
「この頭のマーク。丸と四角があるでしょ?」
「そっか!四角が恒例行事で丸がその年だけにあったことでしょ!」
「多分ね。なんで33年前に限ってそんなものが開かれたのか。それは生徒たちが要求したから。つまり、この話し合いの後、10月に文化祭が開かれたんだ。そして、重要な手掛かりが『氷菓』に書いてあるんだ」
その場所に、ホータロー君が線を引く。
「ここだ。この一年で、先輩は英雄から伝説になった。文化祭は今年も5日間盛大に行われる。文化祭が行われるなんてのは最初からわかっているのに、不自然だと思わないか?つまりこれは『5日間』ってのが英雄の戦果だったってことさ」
「そして、その前の項目には校長の学業重視宣言が記載されてるよね。つまり、この宣言の一環として、文化祭の縮小があった。だからこそ生徒たちはたちあがったんだ。そして、
『どのように』とは果敢なる実行主義。最後に何を『非暴力不服従』を貫いたらしいし、ボイコットとかかな。あとは俗に言うデモ行進とか。その運動によって、学校側は文化祭縮小を断念した。でも、その代表として『関谷純』は退学になった」
そして、最後にホータロー君が付け加える。
「事件と退学の時期のずれについては、騒動の中心人物をすぐに退学にすると騒動が肥大化する可能性があった。夏目の資料によれば関谷純には仲のいい友人もいたようだしな。だから、退学が熱狂がおさまってからになった」
説明を終え、僕たちはため息をついた。こんなに長々としゃべったのは随分久しぶりだ。
「いや、お見事だよ、二人とも」
「凄い、凄いです二人とも!たったこれだけの資料でここまで……。最初にお二人にお願いしたのは間違ってませんでした!」
「まあ、凄いんじゃない」
どうやら、みんな納得してくれたようだ。
「みなさん、質問はありますか?」
質問はなかった。千反田さんが締めに入る。
「では、今の話を軸に文集を作っていきましょう。詳しくは、また後日に。それでは、お疲れさまでした」
そして僕たちは帰路に就いた。
僕は、ふと思った。
でも、なんで千反田さんは泣いたんだろうか。