氷菓 ~もう一人の探偵~   作:たけぽん

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14.古典部集合

 

 

 

ログナンバー00209

 

あ・た・し♪:なるほどね。でもごめんねー。

名前を入れてください:いえ、そういう事情なら仕方がないです

あ・た・し♪:流石に私も距離と時間は動かせないもんねー。

名前を入れてください:他に、そういうことができる人に心当たりはありませんか

あ・た・し♪:うーん。

あ・た・し♪:使い方によっちゃ使えるのが二人いるわ。

あ・た・し♪:でも、片方はあんたでも使いこなせるかわからないけど♪

 

 

 

 

***

 

天は人の上に人を作らず、人の下に人を造らずという。とはいってもこれには続きがあって、生まれた時は平等だけどその後に差ができるのは学問に励んだか否からしい。だがしかし、天の造りし人間の中にはそんな前提を覆すゲームの言葉で言えばチート級の才能をもって生まれる者もいる。そういうところでは、福沢諭吉のこの名文を否定する気持ちもわからなくはないよ。

夏休みのある日、学校への道のりで、僕はホータロー君と里志とそんな話をしていた。

 

「龍之介の言うとおり、ホータローはちょいとばかし卑屈がすぎるね。とはいっても僕にも天賦の才は無さそうだ。大器晩成って言葉はこういう時に大切になってくるもんだね」

「俺が卑屈ってのは誠に遺憾だが、まあ天才は天才で普通の生活を得られんことを考慮すれそこまででもないのかもな」

「ホータローに普通の生活がおくれるかな?」

 

ホータロー君は意味がわからないという様子だ。里志も意地が悪いなあ。

 

「僕は福部里志に才能が無いのは知ってるけど、折木奉太郎までがそうなのか、そして夏目龍之介がそうなのかは保留したいな」

 

自分に才能が無いって思うのはちと早計だけど、まあ僕とホータロー君が全くの普通人かというと僕はそうは思わない。そう言う意味では里志の言葉は的を射ている。

が、ホータロー君はそれを里志ジョーク、いや福部リアンジョーク(進化しました)として受け取るべきか迷っているようだ。

 

「俺からすればデータベースを自称しているお前が自分を普通人だと言い張るのも保留したいところだな」

「いやいやホータロー。確かに僕の興味は幅広いけどそんなもの極めたってクイズ王にすらなれやしないよ。ただ手広いだけじゃね」

 

そうかな?まあでも本人が言うんだからそれでもいいかな。

 

「大体、俺たちが普通人じゃないってのはどこから導き出したアンサーなんだ」

 

里志はやれやれといった感じで神山高校を指差す。

 

「校舎がどうかしたか?」

「いや、里志が指差してるのは地学講義室だよ。要は『氷菓』の時のことでしょ?」

「その通り。『氷菓』事件の二人の推理を見てしまった以上、二人の評価は保留だよ」

 

氷菓だけに?なんていったらこの場にブリザードが吹きそうだからやめておこう。というか、あれは里志的には事件だったのか。

 

「あの事件を解決したのは二人だろ?」

「べつに解決ってほどじゃない。ただの運だ」

 

運。それはあくまでホータロー君の自己評価だと思うけどね。

 

「まあでも、実際僕とホータロー君の貢献は大きかったんじゃないかな?ほら、運も実力の内っていうじゃん」

「ナイスだね龍之介。ところで今何時だろう」

 

そう言って里志は手に持っていたきんちゃく袋から時計を取り出す。いつも持ち歩いているようだけど、いったいその袋には何が入っているんだろう。

 

「げ、十時か。ちょっと急ごうよ。千反田さんはともかく摩耶花は遅刻に厳しそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで暑い中長い階段を上り、僕たちは特別棟の四階へ来ていた。古典部の部室は読書研究会の逆端に位置する。ハンカチで汗を拭って部室へ入る。

 

「遅い!」

 

里志の予想は的中した。教室のどまんなかで伊原さんが仁王立ちしていた。

そりゃあ午前十時集合だったのに遅れてきたわけだから、過ちにたいして厳しい伊原さんが怒るのも無理はない。

 

「ふくちゃん、何か理由があるの?」

「自転車が使えなくて……」

「そんなの前からわかってたでしょ!」

 

ちょうど今、駐輪場は整備中だからね。

 

「大体夏目君。あなたがいながらなんで遅刻するの!」

 

あ、こっちに矛先が向いた。実を言うと朝方送られてきた手紙を読んでいたら出発が遅れてしまったわけで非は僕にある。ここは謝っておこう。

 

「ごめんなさい。伊原さん」

「摩耶花、龍之介もこう言ってるし……」

「ふくちゃんも同罪でしょ、原稿も全然だし」

 

里志はそれでも苦しい抗弁を試みる。

 

「い、いや、ホータローだって遅刻してるじゃないか」

 

伊原さんはホータロー君に視線を向けたがそれも一瞬。すぐに里志の方に向き直る。

 

「折木は、どっちかというとどうでもいいし」

 

ホータロー君ェ……。

ところで、僕たち古典部は5人で構成されているわけで、あと一人、部長の千反田さんの姿が見えない。

 

「ひどい、ダブルスタンダードだ」

「何言ってるの、そんなことないって」

 

このはげしく無意味なやり取りに言葉を挟むのは気がひけるけど、とりあえず確認はしないと。

 

「伊原さん。千反田さんがいないけど」

「そうなの、ちーちゃんまだ来て無くて。心配ね」

 

まさかのトリプルスタンダードだった。

そのすぐ後。噂をすればなんとやら、ドアが開き、千反田さんが入ってきた。

時計の針は既に十時半。千反田さんは深々と頭を下げる。

 

「遅れてすみません」

 

それにしても、千反田さんが遅刻とはね。伊原さんがそれを疑問に思ったのか、千反田さんに尋ねた。

 

「どうしたのちーちゃん。なにかあったの?」

「ええ、少し話し合いが長くなりまして」

 

ホータロー君が何の話し合いだ、と言わんばかりに口を開こうとするが、その前に千反田さんは続けた。

 

「何の話し合いかはまたあとで話します」

「そうか、ならいい」

 

あんまり納得しているようには見えないけど。

そもそも、なんで古典部が集まったかというと、それはほかでもない文集『氷菓』のデザイン、つまりはフォントや紙質についての話し合いのためだ。

それに関しては漫研所属の伊原さんが、カタログやネット記事を集めて予算内でどう収めるかのプランをいくつか提示し、僕たちがその中から選ぶことになっている。

 

「これが予算内で一番良い紙なんだ。特にこれはインクの乗りがね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

編集会議は一時間くらいで終わり、印刷所への注文を伊原さんが後でするという。伊原さんにおんぶにだっこで申し訳ない。

そういうわけで僕らは昼食をとることにした。僕は今朝作った弁当を取り出す。今日は卵焼きが上手く出来たんだよね。いや、弁当を作っていたのは遅刻とは関係ないんだ。あの手紙が悪いんだ。

 

「ところで皆さん、これから予定はありますか」

 

おもむろに千反田さんが聞いてくる。

伊原さんとホータロー君は首を横にふる。里志は少し考え込んだが、首を振る。手芸部とかと迷ったのかな。

 

「夏目さんはどうですか?」

「うん。僕も特に予定はないよ」

 

 

 

 

 

 

「それなら、試写会に行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

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