氷菓 ~もう一人の探偵~   作:たけぽん

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2. 優雅なる読書研究会の活動

 よく考えたら、古典部とは何をする部活なのだろう。里志いわく古典部の存在を知る上級生はいても、活動内容を知っている人は一人もいないらしい。あの人に聞けば分かるかもしれないけど、あの人が今どこにいるか分からないし、自分たちで答えを出すほうが何倍も楽しいだろう。その分、読書研究会は基本的に本を読み、文化祭で本紹介のための文集を作るという活動目的がある。まあ、あくまで研究会だからせいぜい30部くらいしか作らないらしいけど。

 古典部が復活し、読書研究会の部員が一人増えてから1カ月。放課後の僕は日ごとに古典部の部室である地学講義室と読書研究会の部室に顔を出していた。古典部に行けば千反田さん、ホータロー君、里志の誰かがいるので適当に雑談なんぞしながら時間をつぶす。まあホータロー君は基本的に会話に参加はしないのだけど、千反田さんの家の作物にクラシックを聞かせたらものすごく成長した話や、里志の実は川中島の戦いは歴史的にそこまで重要な戦じゃなったって話に驚かされたりしている。読書研究会の部室に行けば、平塚先輩と一緒に紅茶を飲みながら(この紅茶、平塚先輩が淹れてくれるんだけど、ものすごく美味しい)本を読んで、感想を言い合ったりしている。まあ、活動らしくはないけど活動しているのが読書研究会だ。今のところ、ふたつの部活は僕にとって『まあ楽しい』と言える。まあ、まだ一カ月だし、文化祭が近くなれば今以上に楽しくなるだろう。いくら『娯楽至上主義』と言っても、娯楽が無いから即死、なんてことはあるはずもない。それに、平穏な日々こそ真に楽しいと言える。

 そんなわけで、今日は読書研究会の部室にいるわけで、小雨の音をバックグラウンドミュージックに、読書している。

ふと気付くと本を読み始めてからもう30分も経過している。今呼んでいるのはたいして有名ではないけどそこそこに面白いと言われる恋愛小説だ。バラ色を目指しているから恋愛小説を読んでいるわけではない。なにせ僕は恋愛というものに楽しいというイメージが無いからだ。まあ、経験が無いからなんだけど。この本に関しては、表紙の絵がきれいだったから思わず手にとって買ってしまったわけだ。

 

「ふう……」

 

平塚先輩が読んでいた本を閉じ天を仰ぐ。どうやらこれは先輩の癖らしい。

 

「どうでしたか、その本は」

「うむ、まだシリーズの1冊目なんだがすぐに次が読みたくなるくらいに面白いな」

「へえ、そんなに」

 

平塚先輩は読書家であると同時に批評家の側面も持っている。つまらない本はかなり辛辣に評価する。そんな先輩が絶賛するのだから、相当面白かったのだろう。ぜひとも読んでみたい。

 

「おっと、もうこんな時間か。今日は家の用事で帰らなければいけないんだった」

「そうなんですか。じゃあ今日の活動はここまでですね」

「ああ、そうだ。夏目君。悪いがそこの本を図書室に返しておいてくれないか。期限が今日なんだ」

 

指さされた方を見ると、ハードカバーが5冊、文庫本が10冊積まれていた。これは、相当な量だな……。ホータロー君なら卒倒するだろう。

 

「そのかわり、今読み終わったこの本を貸してやろう」

 

それは、なかなかに良い条件だ。この本は先輩の私物のようだし、貸し出し期限も無い。これを読めるなら多少の苦労は苦にならない。

 

「わかりました。では先輩、帰り道気をつけてくださいね」

「ああ。それでは、戸締り頼んだぞ」

 

そう言って先輩は部室を後にする。

それからしばらくして、僕も部室を出る。もちろん本を抱え、なんとか右手を使い鍵をしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、龍之介じゃないか」

 

図書室へ行くと里志がカウンターに持たれながら出迎えてくる。里志の向かいには幼い顔の少女が座っていた、流石に平塚先輩よりは高校生に見える。あれ、でもあの人確か2年生だったような……。やめよう。平塚先輩が読心術なんて隠し持っていたらとんでもないことになる。日ごろの行いがかしこまった場での振る舞いにあらわれるように考えていることも態度に表れかねない。なにせ僕はポーカーフェイスが苦手なのだ。

 

「ふくちゃん、この人は?」

 

少女が尋ねる。ふくちゃんって誰の事だろうと思ったけど、里志のことか。福部だからふくちゃんね。

 

「彼は夏目龍之介。同じクラスで我が古典部が誇る名探偵の一人さ!」

 

少し誇張されているような気がするけど、里志の紹介は簡潔にまとめられている。

そして里志は今度は僕の方を見て、

 

「龍之介、こちらは伊原麻耶花。僕とホータローと同じ鏑矢中の出身で、図書委員と漫画研究会の所属だ」

「よろしく。えっと、夏目君」

 

伊原さんはそう言いつつも少し警戒しているようだ。まあ、初対面の異性に対しては普通の対応かな。

 

「よろしくね、伊原さん」

「ところで龍之介、その大量の本はなんだい?」

 

里志は僕のもつ本に気付く。そうだ、これ返しに来たんだった。

 

「読書研究会で借りてる本でさ、期限が今日までなんだって。伊原さんこれ、お願いできるかな」

 

伊原さんは本の量に驚いていたけど、返却を受理してくれた。

 

「ねえ、ふくちゃん。さっきの話、夏目君にも聞いてもらわない?彼、名探偵なんでしょ?」

「ん。そうだね」

 

何の話だろうか。僕が里志言うところの名探偵であることが関係しているらしいけど。

 

「実は、この図書室で二つの奇妙な出来事があってね。とりあえず最初は時空を超えた落し物の話から聞いてもらおうかな」

 

時空を超えるとはまた何ともファンタジックな話だな。一つ目でこれなら二つ目は次元断裂とかしちゃいそうだな。

 

「私が昨日図書当番を終えて、戸締りして帰ったの。そして今日来て扉を開けたら、これが落ちてたの」

 

伊原さんが見せてくれたのは。青いハンカチと、少し破損した丸い形の金属だった。なんだこれ、どっかで見たような……。

 

「里志、この金属はなんだっけ?」

 

すると里志は肩をすくめやれやれといった感じで制服のとある場所を指さした。

 

「ああ、校章か」

 

神高生は制服に校章を付けることを義務付けられており、入学式の日に配られていた。普段気にしないからすっかり忘れていた。

 

「それで、何が不思議なんだい?誰かが忘れていったのを今日発見しただけじゃないの?」

「それが違うの、昨日図書室を閉めるときに確認したし、何よりこれがおちていたのは入り口のドアのすぐ近くだったの」

 

確かに、伊原さんはもちろん、どんなに目が節穴な人だって入口の前に落ちているものに気付かないはずがない。図書室をでる以上、必ず目にするところにこれはあったのだから。

 

「やっぱり、誰かが忍び込んだのかなあ……?」

「いや、麻耶花は鍵をかけたんだろう?それなら鍵が無いとドアは開かないよ」

 

確かに、それは先月の密室事件で証明されている。

 

「つまり、ここに入ってこれを落とした生徒は何らかの方法で鍵を手に入れたってことか」

「どうだい龍之介?」

 

これは…これは非常に……

 

「これ、凄く楽しそうじゃないか!」

「よし来た!」

 

里志は指をパチンと鳴らす。

 

そして、伊原さんと里志、そして僕の推理が始まった。

確か図書室の鍵は図書委員が司書の先生に許可をもらって始めて手に入れることが出来るはずだ。つまり、この時点で図書委員以外の生徒は対象から外れる。もしくは図書委員を介して鍵を手に入れたのかもしれないが、そこまでして図書室に忍び込む意味がない。

 

「視点を変えよう。なぜ、その生徒、仮にxは時間外に図書室に入ったのか」

「忘れ物でもしたとか?」

「何言ってるのふくちゃん。昨日私が見た時忘れ物は無かったって言ったじゃない」

「おっと、そうだった」

 

つまりxには忘れ物意外に図書室に入る必要があったのだ。なんだろう……全然わからない。

 

「摩耶花、昨日は何か変わったことは無かったのかい?」

「うーん……そういえば昨日は新しい本を業者さんが持ってきたけど」

「業者さんかあ。でも神高卒業生でもなけりゃ校章なんておとさないだろうしねえ」

 

そもそも卒業生だったとして、校章なんてもちあるかないでしょうよ。

……ん?待てよ?

 

「龍之介、何か分かったね?」

「そうなの?夏目君!」

 

ああ、やっぱりすぐ顔に出ちゃうんだなあ。そういえば昔からババ抜きで勝ったことなかったっけ。

 

「うん。多分分かったよ。」

「説明願おうか、名探偵龍之介君」

 

里志が茶々を入れている間に考えを整理する。よし、大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

「まず、xは正攻法で、つまり正式な方法で鍵を手に入れたんだ」

「ほうほう」

「そして、図書室の鍵を開け、用事を済ませ、鍵を閉めて出た。その時に校章とハンカチを落とした」

「仮に正攻法で入ったとしてもその用事ってなんなの?生徒が図書室で密輸でもするって言うの?」

 

伊原さんは僕の推理に不満たらたらのようだ。それでも、僕は言葉を続ける。

 

「そもそもだよ、なんで僕らはxを生徒だと決めつけたんだろう?」

「それは、校章を落としたからじゃない。まさか卒業生が来たなんてバカなこといわないでしょうね」

 

そのバカなことを言った本人は音のならない口笛を吹いている。誤魔化し方が下手すぎるよ。

 

「そもそも学校の関係者なら卒業生じゃ無くても校章を持っててもおかしくないよね?つまり、xは生徒では無く、図書室の鍵を自由に使えて、昨日、業者の持ってきた本を確認しに来た人物ってことだよ。つまり……」

「……司書の先生だね!?」

「その通り」

 

里志はなるほどなるほどと感心していた。伊原さんは驚いた表情で僕を見ている。

 

「すごいね、夏目君。ホントに名探偵みたい」

「いや、問いかけが楽しそうだっただけさ」

 

いやあ本当に楽しかった。やっぱり里志は面白いネタを提供してくれるなあ。本当に感謝感謝だよ。

 

「そういえば、謎はもう一つあるんじゃなかった?」

「おっとそうだった。ではお聞き願おうか、もう一つの謎、それは……」

 

里志がそう言うのと同時に入口の扉が開かれた。図書室への来客のようだ。

 

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