氷菓 ~もう一人の探偵~   作:たけぽん

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22. 革命前夜

翌朝、空はからっと晴れ渡り道行く人々は半袖半ズボンがデフォルトになっているが、それでもなお暑さは襲ってくる。僕も本当なら半袖で半ズボンでいたいところだが、神高の教師陣は何を血迷ったか文化祭準備期間は制服で登校することを義務付けている。いくら夏服でも暑いものは暑いよね。

何故僕がそんな事を考えながら学校へ向かっているかというと、発端は昨日の夜のホータロー君からの電話だった。なんでも、入須先輩からあのビデオテープを受け取り少し考えたいというのだ。タイムリミットは今日の1時。省エネ主義者折木ホータローが急にやる気になった理由は容易に想像できるけど、僕も彼に話すことがあったから断りはしなかった。

 

「あれ、龍之介」

 

世間は狭いもので、振り向くと里志がいた。僕と同じく夏服に身をつつみ、マウンテンバイクに乗っている。

 

「龍之介も学校かい?」

「そういう里志は……あ、今日は数学の補習だったね」

 

その言葉に里志はげんなりする。補習がいやならちゃんと勉強すればいいのに……っと、僕も人の事を言えるほどの成績じゃないんだった。こういうのは伊原さんに任せた方がいいね。

 

「龍之介の用事を当ててみようか、ずばりビデオの件だろ」

 

里志はエスパーだったっけ、それとも心理士?

僕が不思議そうにしていると里志は笑いながら種明かしをしてくれた。

 

「さっきホータローにあってね。入須先輩からの勅命だって言ってたよ。その道を進んで行ったら龍之介にあった。これはもしかしたらと思ってね」

 

なるほど、ホントに世間は狭いね。それにしても里志の話だとホータロー君は遥か後ろを歩いているのか。ちょっと早く家を出すぎたかな。

 

「里志も補習が無ければ一緒に考えれたのにね」

 

すると里志は少し影のある表情をした。今までに見たことのない里志の表情だ。

 

「時間があっても、僕はたいした事はできないだろうさ。言ったろ?データベースは結論を出せないんだ」

 

そんな里志の言葉に僕は何も言えなかった。それを察したのか、いつもの表情に戻った里志はハンドルにひっかけてある巾着から一冊のノートを取り出した。

 

「まあ、一応、これを僕だと思って頑張ってくれよ」

 

ぱらぱらとめくるとそれはビデオについての分析や見取り図が記されていた。昨日はもうこれ以上はやってられないと言っていたけど、里志なりに考えてくれていたようだ。

 

「ありがとう。使わせてもらうよ」

「……なんだか昨日までと違うね、龍之介」

「そうかい?」

「そうだよ。だって今の龍之介はまるでこれから思いっきりいたずらを仕掛けてやろうって感じの子どもみたいな顔してるよ」

 

その言葉に僕はあえて答えなかった。そんなことをしなくても里志にはすぐに分かるだろう。なにせ僕は……ってこれはもういいか。

 

 

***

 

部室でホータロー君を待っていると、先にやってきたのは伊原さんだった。どうやら漫画研究会で用事があったようで、その後の図書当番との合間に来たようだ。せっかくなので伊原さんにも手伝ってもらおうと思ったが、肝心のビデオをもったホータロー君が来ないんじゃ話にならない。

 

待つこと10分。ホータロー君はやってきた。

 

「遅いわよ折木。もうあと10分で図書当番始まっちゃうじゃない!」

「お前が待ってるなんて知る由もないんだからしかたないだろ」

「夏目君も待ってたわよ。それも私より長く」

「それは……すまん」

「いいよ別に。伊原さんたちと違って僕は今日一日暇だからさ」

 

ホータロー君は鞄からビデオを取り出しビデオデッキにセットする。というか、そんなものがこの部室にあったなんて知らなかった。その間伊原さんはぶつくさ文句を言っていたが、「あと5分だけ」と言ってテレビの方に視線を向ける。

 

最初は再生されたビデオを飛ばし飛ばしに流し見る。全編見ていると伊原さんの時間が無くなっちゃうからね。

 

そしてビデオはクライマックス、海藤先輩の死体が発見されるシーンへと移る。やっぱりこの小道具の腕は見事なもんだ。

 

「そう言えば千反田はどうした?」

「ちーちゃんは……二日酔い……」

「そ、そうか……」

 

それは、レアケースだね……。

 

「まあ、でもさ」

 

 

気を取り直すように伊原さんが椅子の背もたれにもたれる。

 

「このビデオ、話しそのものより映像としての出来が悪いわよね」

「それってどういうことだい?」

「これがそれなりの演出とカメラワークで撮られてればもっと興味を引くものになってると思うの」

「なるほどな、確かに普段見るような映画はもっと良質な映像だった気もする」

 

ホータロー君が納得して頷いていると、伊原さんは立ちあがった。

 

「それじゃあ、私もういかなきゃ。本当ならもっと手伝いたいんだけど、あんたが急に言い出すからよ、折木」

「いつまで根に持ってるんだお前は」

「でも……ごめんね二人とも」

 

極まり悪そうに言う伊原さんに手を振りながら見送る。

 

 

 

「さて、夏目。そろそろ本題に入るぞ」

 

ホータロー君は不敵に笑った。僕もそれに答えるように笑う。

 

「「さあ、革命の始まりだ」」

 

 

 

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