氷菓 ~もう一人の探偵~   作:たけぽん

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8. 千反田邸への道

 

 

 

夏休みに入った7月末、僕は家の近くのバス停に向かっていた。

なぜ、バスに乗ろうとしているかというと、千反田さんの家に行くためだ。

……失礼。省きすぎたね。

ちゃんと説明すると、ことは一週間前に遡る。古典部文集『氷菓』を手に入れ、関谷純の影を見つけたものの、創刊号が見つからなかったあの日。ホータロー君は創刊号がないならそこまで面倒見切れんぞなどと言っていたが、千反田さんに対してその主張は意味を成さなかった。僕はというと、乗り掛かった船を降りるなんてのは『娯楽至上主義』に反するので、なんとかホータロー君を説得した。

 結果、ホータロー君は、千反田さんを言いくるめ、里志と伊原さんにも協力を要請することを提案した。千反田さんは、「パイナップルサンド」の時は他人に話すことを嫌がっていたように見えたけど、その案にあっさり乗ってきた。どういう心境の変化だろうか。

 その翌日、古典部緊急総会が招集された。里志と伊原さんは快く引き受けてきた。僕たちとは大違いだ。そして、関谷純について調べて、それを文集のネタにするという形で、古典部の方針は決まり、一週間後、つまり今日、千反田さん家で検討会を行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、僕は千反田さんの家へ行くためにバスに乗ろうとしている。ホータロー君と里志は自転車で行くようだが、あいにく僕は自転車を持っていない。歩いて行くには、千反田邸は遠すぎるということで、僕はバスを選んだ。 

 

 バス停に到着すると、見知った人物がバスを待っていた。僕は後ろから彼女に話しかけた。

 

「やあ、伊原さん」

 

驚いたのか、伊原さんはびくっとしてから振り向いた。悪いことしちゃったな。

 

「ああ、夏目君か。びっくりさせないでよ」

「ごめんごめん」

 

そういえば、伊原さんと二人で会うなんてのは学校でも一度も無かった気がする。

里志に悪い気がするけど、偶発的に会ってしまったのだから仕方ない。

 しばらくしてやってきたバスに僕らは乗り込んだ。

 

「夏目君、資料は準備できた?」

「うん。まあ一応ね」

「そっか。じゃあ仮説の方も期待できそうね」

 

仮説?そういえばそんな話もあったっけか。資料集めに夢中で忘れてた。なんて言ったら伊原さんに何言われるか分かったもんじゃない。僕はなるべく無表情を心がけて、適当に答えた。

 

 

 

 

「ねえ、夏目君」

 

しばらくの沈黙の後、伊原さんは僕に話しかけてきた。

 

「夏目君は、自分の事どう思う?」

「どういう意味かな」

「ほら、夏目君と、それから折木も今までいくつか謎解きしてきたじゃない?でも二人ともそれを自慢したり、驕ることも無いじゃない?それってどうしてなのかなって」

 

そんなこと考えたことも無かったけど、伊原さんは心から疑問に思っているようだ。

 

「そうだね……。確かに僕は他の人より閃きというか、発想力が優れていると思うことはあるよ。でも、それだけさ。誰だって得意なことの一つや二つあるだろう?だから、僕は謎解きが得意だと思うけど、それを自慢しようとは思わない」

「へえ。達観してるんだね」

「そうかな?ホータロー君も似たようなこと考えてると思うけど」

 

すると伊原さんは首をぶんぶんと振り否定してきた。

 

「折木は全然違う。あいつは謎を解くたび『これは運が良かっただけだ』しか言わないの。私は全然わからなかったのに。ほんとむかつくわ」

 

なるほど。確かにそれはとらえ方にとってはひどい話だ。

例えば、ある運動部に補欠がいたとして、彼はレギュラーになるために必死に努力するだろう。それこそ身を削る思いで。なのに、レギュラーで試合で活躍し、MVPにまで選ばれた人物がいたとして、その人物が「成功の秘訣はなんですか」という問いに対し、「運が良かっただけです」なんて答えたら、それは補欠にはあまりに辛辣に響くだろう。

つまり、ホータロー君は自分の能力を自覚していない。それは、僕流に言うと「楽しさ」を捨てている。まあ、そういう意味でも今回の検討会は重要なものになるだろうね。

 

 

 

 

***

 

 

 

バスを降り、そこからしばらく歩くと、大きな門が見えてきた。

 

「これはすごいな……」

「ほんとにね……」

 

僕らはしばらくポカーンと門を見ていたが、我に返り、門をくぐった。

インターホンを鳴らすと使用人……ではなく千反田さんが出迎えてくれた。

 

 

「お待ちしていました」

「こんにちは。里志とホータロー君は?」

「まだですね、そろそろ来るとは思いますけど」

 

自転車とバスならそんなもんか。僕らは十畳くらいある広い部屋に案内された。いや、本当に広いんだこれが。とても落ち着かない。

 

「適当に座ってください」

 

その言葉に従い、伊原さんは座布団に座り、鞄から資料を取り出し、机に並べていた。僕はその向かいに座り、資料の確認を始めた。

 

 

それからしばらくして、ホータロー君と里志がやってきた。

 

「遅かったわね」

「遅れてはいない」

 

いやあ、この二人のやり取りはいつ見てもギスギスしてるね。

 

ホータロー君は僕の左隣に座り、里志は上座に座った。最後に千反田さんがホスト席に座る。

全員が席に着いたので、千反田さんは一呼吸してから一言。

 

「始めましょうか、検討会」

 

その言葉に全員が誰にともなく礼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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