陳寿著「呉書・徐盛伝」外伝補記―徐盛さんが頑張るそうですよ?― 作:八意 暮葉
「悲劇の将」、「無鉄砲」など……彼に寄せられる言葉は数多あったが……その中でも
菫色の髪をした少女の言葉はよく覚えている。
「彼は誰よりも漢を愛し、誰よりも漢を嘆いた男」
そう……少女は答えた。
それが……私と月様の初めての邂逅だった
随分と……懐かしい夢を観ていた気がする。
あれは……4年前だったか……月様は涼州刺史として赴任することになった。
そして、涼州に向かう道中、雍州陳倉で私と会った。
最初、私は彼女をバカにしていた。このような小娘が刺史など笑わせてくれるとも言った。
しかし、私は見誤っていた。彼女の内に眠る王の器を見ていなかったのだ。
そして、当時の彼女はまだ未熟ではあったが……大胆なことに私を自分の軍へと勧誘してきた。
私は……面白いものだと思い、彼女に付いて行った。
そして、いつしか惹かれ……この人以外に命を捧げるものはいないと思った。
「懐かしいものだな……」
「どないした、華雄?」
「いや、何でもないぞ霞。」
声をかけてきた痴女もとい張遼といつもと変わらない会話を交わした。
「今日は……ええ日和やな……ホンマ、お前が羨ましいわ」
「霞」
羨望の声をかけてくる彼女に私は静かに告げなければならなかった。
「私が負けたら……頼んだ。」
「……負けへんよ、華雄は。」
私の言葉に対して霞は真面目な調子で応えた。
「そうだな……それでは……またな」
私はそう、彼女に告げて静かに馬へと跨がり関の外へと出た。
外には徒士の波才が立っていた。
「遅かったな。」
「・・・・・・」
波才の言葉に私は得物を構えることで応えた。
「ふ・・・言葉で語るは無し・・・か。ならば、戦で語ろうか!」
波才のその言葉が合図だった。互いに弓から放たれた矢のごとく接近する。
普通ならば……徒士と騎馬であれば……騎馬の方が有利である。
しかし、それはあくまで普通の話であって……目の前の徒士の化け物には当てはまらない。
一合目から互いの得物が交錯する。
「ふ!腕を上げたか波才!!」
「何を言ってんだ……俺は元々徒士武者なんだよ!」
会話を交わすくらいに燃えてしまう……きっと、私の頬は三日月につり上がっているだろう。
嗚呼……こんなに楽しい一騎討ちは何時ぶりだろうか……
嗚呼……目の前の者が味方ならどれだけ心強いだろうか……
私はそんなことばかり考えてしまう。しかし、得物を奮う手は止めない。
十合、二十合、三十合……打ち合いは続く。どこまでも続いていく。
九十九合……百合!
100を越えてもまだ止められない……止まらない!
波才の顔を見ればこの一騎討ちを楽しむかのように笑っていた。
「楽しいな……華雄!」
「ああ、そうだな……波才!」
さらに……五十合は打ち合っただろうか……
「っ……!?」
手に痺れが走った。何故今になって!?
私は錯乱しかけた……だが、意地で痛みは顔に出さなかった。
痛いのは相手も同じはずだ……。
更に……二十合撃ち合い……私は金剛爆斧を手から落としてしまった。
波才の得物たる大斧が喉元に突き付けられる。
「勝負……ありだな。」
私は……一騎討ちに負けた。
だが……心はとても晴れやかなものだった。
華雄さん加入フラグ回収?
今回は華雄さんと波才の一騎討ち。
本来なら波才は祖茂の仇討ちの為に臨むのですが……やっぱりそこは武人。
強者との戦いに胸を踊らせ……いつしか本来の目的を忘れてしまいました。
そして、華雄さんもいつの間にか一騎討ちを楽しんでます。
さて、次回ですが……20話の後書きをしっかりと読んでいただけると幸いです。
それでは、次回までゆっくり待っててね!