陳寿著「呉書・徐盛伝」外伝補記―徐盛さんが頑張るそうですよ?―   作:八意 暮葉

32 / 32
お久しぶりです。
多分、まだ精神的な病み気が60年位続きそうな八意と名乗っていた凡愚です。

年単位で投稿してなかったから自分の作風も忘れ、新たなものになっていると思います。
それでもよろしければまた、これからお願いします。




待っていたであろう人たちの期待を裏切った私に待ってる人が居るとは思えませんが。


3章 江東の暴風雨
財貨蓄え、兵を養う


母ー孫文台が戦没してから7年が経った。

私が成長を遂げるまでに祭や蒼は袁術軍で私に変わって目醒しい活躍を遂げてくれた。

だが、彼女たち…旧孫堅軍が活躍する度に一部を除いた袁術軍の主な将校たちは眉を潜め、文官たちは私に大きな力を与えてしまうとし、解体の声を大にしていた。

 

袁術は文官たちの前では孫堅軍を解体し、それぞれの軍に小分けに編入することに賛成していたが裏では母との友情とも言えた同盟のことがあったため実行に移そうとすると良心が咎めているような顔をしていた。

今の袁術は軍と今は亡き友人の間に板挟みになって苦しんでいる。

客将としては彼女を助けるべきなのだろうが孫堅文台の娘としては助けることは気が進まなかった。

 

この年まで、後見人として私を育ててくれた義理はあるがあくまでも仇敵の上司なのだ。

そのような相手を助けようものなら世間は不義として私を糾弾するかもしれないし、母が報われない気がする。

 

「はぁ…。」

 

私は長江のほとりでも一際高い断崖の上で膝を抱え込み人知れず溜め息を吐いた。

 

「こんなときに冥琳がいてくれたらいい方法でも言ってくれるのかしら…。」

「雪蓮、こんな所で何してるんだ?」

 

何気なく独り言を零すと後ろから声がして慌てて振り返った。声に関しては聞き覚えがあったのだが、あれから7年も経っているのだから確証が持てなかった。

 

「燈…。」

「久しぶりだな。

ここにくるお前を見かけて懐かしい気持ちに駆られてやってきたが…昔に比べて暗くなったな。」

「…私は昔と変わってないわよ。変わったのは貴方の方じゃないかしら?」

「全く…そういった強情さは親顔負けだな。」

「母様の話は関係ないでしょう?」

「…あの人のことは残念だったな。」

「母様の話は止めて!!」

 

母様の話を切り出そうとする燈の言葉を遮るように大声を上げた。

死に目にも立ち会えなかったからこそ、母様がどこかで生きていると未だに信じている。

燈の言葉はそんな甘い幻想を打ち砕くものであり、最も私が聞きたくない言葉なのだ。

 

「あの人はいつだって輝いていた。日輪のごとく眩しかった。

だが、お前はどうだ。孫伯符!月のように他者の光が無ければ輝けないのか?

違うだろう!?お前は嵐のように傍若無人であり、夜天においても輝きを失うことのない火のような存在だったはずだ!」

「止めて、止めてちょうだい………」

 

私は私の心など構わず話す燈の言葉を聞きたくなかった。

聞いてしまえば今まで抑えこんでいた雪蓮が出てしまい、長い間袁術軍で培ってきた孫策伯符という存在が崩れてしまう。

 

「お前は、母親の死で立ち止まるような存在じゃないだろう。

あの日、賀家に乗り込んで俺を散々掻き回した雪蓮は偽物だったのか?」

「五月蠅い…。」

「あの日、俺に情熱を教え、胸をときめかせたのも偽りだったのか?」

「五月蠅い、五月蠅い…」

「答えろ、雪蓮。お前は何者だ」

「五月蠅いのよ!知ったように口を聞いて!私だって母様が死んだのは悲しい!!

でも、死に目にすら立ち会うことが出来なかった!

軍を動揺させないように纏め上げることが精一杯で遺体を確認することが出来なかった

だから…生きてることを夢見たって良いじゃない…。

玉璽のように奇跡が起きるかもしれないじゃない…。」

 

私は目から球粒の涙を溢した。

心の奥に蓋をしていた感情が堰を切って溢れ出してくる。

いくら拭っても次から次へと溢れていく

 

「私は火なんかではないの…。

人の子でしかないから、いつだって明るくなんて振る舞えはしないわ。」

「遅すぎる。分かってたのなら素直に吐き出せってもんだ。」

「そんなの無理に決まってるでしょう!

私はあくまでも孫家の頭領の娘だったのよ!?

頭領の娘なのだから気丈に振る舞わないといけないじゃない!」

「はははは、それもそうだな」

「何よ、笑うなんて酷いじゃない!」

「いや、悪い悪い。ようやく…いつもの調子に戻ってくれたと思ってな。」

「あっ…。」

 

指摘されてから気がついたが、いつの間にか冥琳としているような言い合いになっていた。

そこにはここに来た時にあった孫策伯符など無く、雪蓮としての私がいた。

 

「さて、と…何をしてたのかは知らないが…お前はお前の信じる道を進めば良いんじゃないかな?」

 

燈が突然そんなことを言った。

きっと時間なのだろう。

 

「お前の母親と袁術は懇意にしていた。

そして、袁術はお前の愛した場所を守り続けて、今も独りで戦ってる。

儒教にある礼など孫呉には関係のないことだ。」

 

確かにそうだ。

江東に身を起こし、江東と共に生きてきた孫家にとって中央の奨励する教典など意味を殆どなさない。

 

「黄巾も若人も流人も人は皆、掛け替えのない財貨だ。

官位よりも財貨を蓄えることを旨とする孫呉にとっては…分かるな?」

「言われなくとも分かってるわよ。」

 

相手が仇敵の上司であろうと、本人に罪は存在しない。

それに美羽は1種のカリスマも持っている。

 

私怨で柵に囚われてしまっていたが…彼女は私の恩人だ。

それは変えようのない事実である。

それならば私が取るべき道は決まっている。

 

「俺はそろそろ会稽に戻るとするよ。」

「分かったわ。私が会稽を手に入れるまできちんと生きてるのよ?」

「酷いな。俺は孫家に使えて将軍になるのだから会稽を手に入れても死なねぇよ。

だが…それよりも早くお前が死ぬんじゃないぞ?」

「燈も酷いわね。これから私は袁術から玉璽を使って軍を取り返して旗揚げしてやるわ

そこから3年以内に江東の大半を平らげるわ。」

「それなら期待せずに待ってるとするよ。」

 

燈は言いたいことを言い終えてから馬上の人となった。

私もそろそろ城に戻るとしよう。

さすがの張勲が相手だと分が悪いから皆と相談しなければならない…。

 

だが、成功すれば孫呉復活の第一歩目となる。

1000人の兵と碧、蒼、祭の古参の猛将が揃えば尚良しだ。

 

 

まだ皮算用にしか過ぎない夢に私の胸は高く躍った。




今回から(多分)3章目、本編の三国志で言えば孫策19歳の時の旗揚げの話からの始まりです。

この話を投稿するまでに実際、週3本のレポートを消化したり、単位を1つ落としたりといろいろありましたが…これからゆるりと復活すると思うのでまたろくろ首よりも首を長くして待たせるかもしれませんが宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。