紫苑に誓う   作:みーごれん

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至らぬことが多いと思いますが、温かい目で見守ってください。


序幕

「ど~もぉ!二番隊第三席、浦原喜助っす!以後お見知り置きを~!」

「初めまして。僕ァ鬼道衆所属の百目鬼(どうめき)(かおる)です。」

 

浦原喜助という男に対して百目鬼薫が最初に感じたのは、軽薄さだった。大鬼道長の握菱鉄裁に連れられて初めて会ったのだが、正直あまり好感は持てなかった。

だが、喜助と話す内、彼を知っていく内、それが浅薄な感性だったことを薫は思い知った。思考の深さ、判断力、知識量など、どれもこれもが彼には刺激的だった。

 

 

 

二人が会話しているのを少し離れたところで握菱鉄裁と四楓院夜一が見ていた。

 

「百目鬼は、護廷隊でいうなら四席を下らぬ実力者なのです」

「ほう、大したもんじゃ。しかしまた、なんで喜助に会わせたかったんじゃ?それこそ、あ奴はとうに隊長クラスなんじゃぞ?ただ話をさせているだけということは、戦闘経験を積ませるためでは無いんじゃろ?」

 

そう夜一に聞かれた鉄斎は、一瞬迷ってから話すことに決めた。

 

「…実は、私には彼の実力を測りかねるのです。何事も本気でやっているような、常に手を抜いているような、まるで「喜助のようじゃと?」…はい。あの様子を見る限り、浦原殿には到底及んでいないようですが…」

「お主はいつまでも甘いのう。それなら喜助と模擬戦でもさせればよかろうに」

「彼は、何故だかは分かりませんが他人に、というよりは私に実力を知られたくないようなのです」

「ほう?」

 

にやり、といつもの悪戯顔を浮かべた夜一を見て、鉄裁がしまった、と思ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい喜助!其処の百目鬼と模擬戦をやらんか?」

「えぇ~⁉嫌っスよ~!というか無理っス!ボク任務明けなんスよ⁉」

「いいからやらんか!隊長命令じゃぞ?」

「ンな殺生な~!」

 

上官と部下の会話とは思えない、と薫はその会話を聞いていた。同時に、まずい流れになったと思った。このままじゃァこの人と模擬戦をする羽目になる。明らかに浦原の方が上手だ。この人が手を抜いてくれたとしても、こちらはそうはいかなくなる。

 

「僕の方からもお断りさせてください。浦原殿の方が圧勝するに決まってるじゃァないですか」

「何じゃ、お主、喜助に負けるのが怖いのか?ん?それにこれは上司の命令じゃぞ?」

「怖いですよ。誰だって負け戦は嫌です。それに、四楓院隊長は直属の上司じゃありませんから、従う理由がありません。というか、やってみないかという聞き方は質問であって命令じゃありません」

 

夜一の煽りを無視して正論を投げてみる。当人たちが嫌だと言ってるんだ。大鬼道長が止めてくれる…

 

「どうじゃ、鉄裁?」

「……やってくれますかな?」

 

…と思ってたんだが、甘かった。そうだ、これは“夜一の頼み”なのだ。鉄裁が断れるはずもない。彼は夜一に恩があるという話を聞いた覚えがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀞霊廷から出て戦闘のできそうな平野に出た。非番の日に上位席官が廷内でこういう模擬戦をするには許可がいるらしい。

 

「寸止めすること、斬魄刀の開放を含め、あらゆる手段を用いて戦うこと。ルールなんてそんなもんでいいじゃろ。全力でやるんじゃぞ?」

「色んな意味でボクにゃ無理じゃないっスか⁉少なくともボクの斬魄刀は寸止めできるようなもンじゃないっス」

「僕もです。斬魄刀の開放は無しにしませんか?」

 

文句を言う喜助と薫に、夜一は貸す耳を持たなかった。

 

「いいからさっさとせんか!」

「「ハイッ」」

 

 

 

 

 

浦原喜助は、ニヤリと笑いながらこちらを見ている夜一を見て、こっそりため息を吐いた。

 

(いつもながら唐突っスねぇ、夜一さんは。これはつまり、百目鬼さんの実力を見たいっていうのが半分、暇つぶしが半分っスかね?何にせよ、百目鬼さんには気の毒なことだ。どうやら彼は自分の実力がさらされるのを嫌がってるみたいなんスけど…)

 

「起きろ、〈紅姫〉」

(ま、今の夜一さんに何を言っても無駄っス。やるしか無いっスね)

 

喜助が斬魄刀を開放して薫に向き直ると、彼は何かボソボソと呟いた。かと思えば彼の刀の形が変化した。呟いたのは解号と斬魄刀の名前だったようだ。

 

(こちらに聞こえない程小さな声で呟いたのは、機嫌が悪いからか聞かれると不利になるからか…多分後者っスね。彼は若いが、そこまで子供の思考をするようには見えなかった。---そこまで隠されちゃうと、気になるっスよねぇ?)

 

「啼け、〈紅姫〉」

 

高エネルギーの真っ赤な球体が紅姫から飛び出す。

 

「防いでくれ」

 

そう言いながら薫が剣を振るうと同時に爆発が起きて薫の姿を見失う。

 

(あれを一撃で止めるとは…しかし、何も見えなかったっス。ボクの目にも留まらぬ速さで動く何かか、そもそも見えない何かか。分かるまで遠距離を保ちつつ探りを入れていく方が安全っスね)

 

と思いながら、喜助が爆発で舞い上がった砂埃を避けるため風上に移動しようとすると、

 

「ッッ⁉」

 

何かが頬を翳める感覚がした。咄嗟に避けたため薄皮が切れるくらいで済んだが、切れ味はいいらしい。

 

「やってくれたっスね!」

 

彼は不敵に笑うと、次の攻撃に身構えた。

 

 

 

 

 

 

 

(…相手も煙で姿が見えてないはずなんスけどね)

 

あれから10分、喜助は動くに動けずにいた。煙が晴れそうになると爆発が起き、砂煙が舞い上がる。風上に移動して煙から抜けようとすれば、的確に頬を何かが翳めていく。爆発があった場所に行っても、既にそこに薫はいない。互いに霊圧は極限まで消している。少なくとも、戦闘しながら気づけるレベルではないほどに。

(一体何で攻撃してきてるんだか…頬が切れる瞬間風を感じたんで、何かが通ったのは確実なんスけど。…風を感じた?あの時、何か違和感があったような…)

 

ひゅ、という微かな音とともに彼に攻撃が及ぶ。

 

(成程、やはり。そういうことなら)

 

喜助は、霊圧を消したまま霊圧知覚を全開にした。十時の方向に慎重に細められた霊圧を発見する。一般隊士のみならず、下位席官なら気づけないほどだ。

 

(今度はこっちから仕掛けるっス!)

 

「‼」

 

薫の驚いた顔が砂煙の中でも見える程に接近して白打戦に持ち込む。さすが、よく鍛錬しているようだが、毎日のように夜一と鍛錬している喜助からしたらまだまだだ。足を払い、腕を掴んで組み伏せようとした、が…

 

「⁉」

 

喜助の手が薫の手をすり抜けた。掴み損ねたわけではなく、文字通り通り抜けた。喜助の腕が薫の腕に何の抵抗もなく入ってしまったのだ。バランスを崩したところに真横からの突きの気配がした。咄嗟のことだったため見ることもせず、反射だけでそれを払い、今度こそ薫を組み伏せた。

 

(ボクが反射に頼ることになるとは…いやはや、末恐ろしい)

 

思わずにじみ出た笑いを、彼は空いている片手で覆った。

 

 

 

 

 

 

 

「…お願いがあるんですが」

 

解放された薫は開口一番にそう言った。大量に巻き上げられた砂が少しずつではあるが晴れていく。

 

「条件があるっス」

「まだ何も言ってませんよ?」

「分かりきった事っスよ。夜一さんたちへの口止めでしょう?ただ、個人的にその斬魄刀に興味があるっス。最後のあれは、ボクには教えてもいいって思ってくれたから見せてくれたんスよね?だったら、遠慮なく教えてほしいっス。」

 

喜助がそう言うと、流石とでも言うように薫がほう、と息を吐いた。

 

「…僕の斬魄刀の名は〈―――〉というんです。」

「なぁるほど!道理で獲物も見えないし手がすり抜けるわけだ」

「理解が早すぎて怖いんですが」

 

そういう割に彼の表情は柔らかい。物の数十分で喜助の頭脳がどれほどのものかを察している。いや、正確に言うなら、彼は喜助の頭脳が道理の通じるものでない事を理解している。

 

「まぁまぁ、そう言わず!ところで、ボクの位置はどうやって特定したんスか?まさか、霊圧知覚だなんて言わないっスよね?」

「僕の斬魄刀の能力は、操作というよりは掌握なんです」

「納得っス」

 

要点を抑えて簡潔に話す薫もまた聡明だ。彼の斬魄刀の能力も相まって、喜助は彼に興味を持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙が晴れると、相当ご立腹の夜一が仁王立ちで待っていた。

 

「久しぶりじゃのう、喜助?」

「お久しぶりです、夜一さん!ボクがいない間に何かあったっスか?」

 

彼の飄々とした返しに夜一はがっくりと肩を落とすと、わなわなと震え始めた。

 

「何っっっにも無かったわ!煙ばかりたてよって!こちらからではなぁんにも見えんかったわ!これでつまらん報告なぞしたら、過労で倒れるまで任務付けにしてやる!」

「煙で見えなかったのはお相子っスよ~!」

 

喜助の方は相変わらず軽く受け流しているが、夜一はそれが更にお気に召さなかったらしい。薫からでも彼女の額に青筋が浮かんでいるのが見えた。

 

「何じゃお主、負けたのか?ん?言うてみい!」

「勝ったっスよ⁉キッチリカッチリ勝ちました」

「当り前じゃ!どう勝ったのか聞いとるんじゃ!」

 

夜一が腹立たし気に片足だけ地団太を踏んだ。

めっこり凹んだ地面を見て、薫は胃が縮む思いだった。

 

 

 

 

 

喜助の話を聞き終わると、夜一が顔を薫に向けて、“この通りか?”というふうに目配せしてきた。薫は大体合っていると頷いて喜助を見ると、喜助の方は夜一に見えないように薫に頷いていた。後は任せろ、ということだろう。

 

「して、結局その見えない刃の正体は何じゃったんじゃ?」

「風っスよ」

「風?」

「えぇ。物質というのは、一定以上の速度を超えるとどんなものでも刃になるんス。それは空気も同じ。非常に狭い範囲で強い風が吹いたら、それは刃に等しい力を持つっス。彼の斬魄刀は風を操る能力だったんスよ。こういう類の攻撃は、相手が近ければ近いほど自身にも危険が及ぶ。だから白打戦に持ち込んだんス」

 

顎に手を当てながら聞いていた夜一は、僅かに首を傾げた。

 

「しかし、それではおかしくはないか?風を操れるというなら、お主が風上に行こうが関係あるまい?姿を隠し続けたいなら、風を使って煙で相手を取り囲んでしまえばよかろう?」

「普通はそうっス。攻撃を与え続ける方がタネがばれるリスクが高い。でも夜一さん、せっかく風上に出たのに急に煙が自分の方に動き出したら、風上が風下になったら、そしてそれが2、3度起きたら、誰だって彼の斬魄刀の能力に気付くんじゃないっスか?そうじゃなかったからこそ、アタシはギリギリまで気づけなかったわけで」

 

腕組みしていた夜一は、煮え切らないような表情のままだった。

 

「そういうもんかの。して、お主はどうして気づいたんじゃ?」

「煙っスよ。何か速さのあるものが通ったら、煙はそれに巻き込まれて動くっス。でも攻撃を受けたとき、必要最小限の範囲でしか煙は動いていなかった。遠距離攻撃していたなら、煙の乱れはあんなもんじゃ済まない。能力を隠すための状況が、逆に能力を暴くヒントになっちゃってたんスよ」

「成程のう。天晴(アッパレ)じゃ、薫!」

「そこは『喜助』じゃないんスか⁉」

 

喜助の叫びは、夜一の豪快な笑いにスルーされてしまった。

 

 

 

 

 

 

夜一からの疑問はそれ以上出なかった。当たり前だ。喜助がそれを意図して説明を省略した。風を操ることができる、それは紛れもない事実だ。だが…

 

(本当に面白い子だ。)

 

こういう子らが後進として育っているなら、楽しみも増える―――

 

 

 

 

 

 

 

それ以降、喜助のもとに薫が月に数度通うようになったのは、その場にいた四人と、後から参加するようになった(たちばな)(すばる)だけが知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――初めての模擬戦から十数年の後、浦原喜助に尸魂界追放の判決が下った―――

 

 

 




読んでくださってありがとうございました!
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