紫苑に誓う   作:みーごれん

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土日だからか、昨晩の投稿の反応が沢山あって嬉しい限りです!
ここからまた、暫くは日常パートです。

今回と次回は短めです。
くっつけるには内容的に微妙でした…

烏山緋色様、訂正のご指摘、ありがとうございました!

他にも何かありましたら教えて下さい。



囚われて

「あ」

「おお!」

「やあ」

 

上から、昴、浮竹、藍染である。浮竹と藍染が立ち話をしていたところに昴が通りかかった構図である。

 

「こんにちは浮竹隊長。お久しぶりです、藍染副隊長。お二人が一緒なんて、ちょっと珍しいですね」

「お久しぶり、橘君。まあ、僕たちに限った話ではないけどね。隊長格は自隊にいずっぱりのことが多いから」

「そうそう。俺と京楽みたいに、頻繁に交流してる方が珍しッ…!ゴホッゴホッ…」

 

浮竹の咳に、普通なら心配するところで昴はスンと目を細めた。

勿論そこに笑みなど無い。

 

「…浮竹隊長、本日のお薬は?」

「実は、飲み忘れちゃってね」

「はァ、飲み忘れるのいい加減にしてくださいっていつも言ってるじゃァないですか!」

 

昴と浮竹が会話―――殆ど説教だが―――しているのをにこやかに聞いていた藍染が、最後の昴の発言を聞いて、ふと真面目な顔に戻った。

 

「橘君…その話し方は…?」

「話し方?何か私変なこと言いましたか?」

「自覚がないのかい?…君の話し方が百目鬼君にそっくりになっているんだよ」

「え…」

 

唇に手を当てた昴の顔の血の気が引いていくのが、浮竹からでもわかった。

 

「藍染副隊長、その話は今はよさないかい」

「浮竹隊長、しかし、彼女はいつまでも止まっているべきじゃないと思いませんか?()()あの事件から半年です。囚われ過ぎると、これから彼女は生きていけなくなる」

()()、半年だ。家族のように育った者を喪った悲しみは、そうそう消えるものじゃない」

「しかし―――」

「浮竹隊長は気付いていらしたんですね」

 

二人が振り返ると、吹けば飛んでしまいそうなほど弱弱しく昴が立っていた。浮竹は、藍染の方が正しいかもしれない、と思った。今の彼女は、事件から五日経ってから会った時よりも衰弱して見えた。

 

「分かっているんです。忘れなきゃ、進まなきゃって。でも、ふとした瞬間にあいつの声が聞こえてくるんです。思い出すんです。あんなことを話した、あんなことをした、あんなことを考えた、って…」

「橘……」

 

浮竹が掛ける言葉に迷っていると、隣の藍染が先に口を開いた。

 

「橘君、今、五番隊は十二席に空きが一つあるんだ。今の君の席次と実力には劣ってしまうが、どうかな、ウチの隊に来る気はないかい?」

「⁉」 「藍染副隊長⁉何を言っているんだ」

 

藍染の言葉に驚いたのは浮竹だけではなかったようだ。昴もまた目を見開いている。

 

「浮竹隊長、彼女には…橘君には、気分を入れかえて考えられる、新しい環境が必要だと僕は思うんです。この十三番隊は、橘君にとって良くも悪くも百目鬼君との思い出で溢れている。今の彼女には、ここは気持ちを追い立てられるだけなのではないでしょうか」

「それも一理あるかもしれないが、しかし…」

 

浮竹が言葉に詰まると、藍染が昴に向き直った。

 

「橘君、どうかな?また戻りたくなったら、十三番隊に戻っても構わない。でも今、君が十三番隊にいるのが辛いとほんの少しでも思っているなら、僕の隊に来てみないかい?」

「……そんなこと、考えてみたこともなかったです。でも、確かに、そういう気持ちが無いとは言えません。短い期間になってしまうかもしれないですが、お世話になってもいいですか?」

「ああ。当然だよ!君が早く立ち直れるなら、それに越したことは無いからね。勿論、五番隊の居心地がいいから、と長居してくれても構わない。君が自由に決めることだよ」

「ありがとうございます!」

 

藍染と昴の会話を横で聞いていた浮竹は、昴がいなくなって寂しい気持ちと、彼女にトラウマから立ち直ってほしいという親心で呆然としていた。

 

「浮竹隊長!」

「え、あ、ああ、何だ、橘?」

「勝手に決めてすみません!きちんと今やらなきゃいけない仕事はやっていきます!ですから、私が五番隊に異動するのを許してください!」

 

その時浮竹は、久しぶりに昴に会ったような錯覚を覚えた。

 

「ああ…いいとも!橘が行ってしまうのは悲しいが、そういうことならしかたない。惣右介君の言う通り、それは君が決めることだよ。でも、戻りたくなったらいつでも言うんだぞ!」

「はい!ありがとうございます」

 

勢いよく頭を下げた昴を見て、浮竹は目頭が熱くなるのを禁じ得なかった。

力んで変な顔になっていたのだろう。藍染が浮竹の顔を見て困ったように笑ったのを恥じながら、浮竹は羽織の裾で目を擦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浮竹から聞いたよぉ、昴ちゃん!五番隊に異動するんだって?」

「ええ。そうなんです。今までよりここに近くなりますね」

「そうだねぇ。良かったね、七緒ちゃん!」

「はい!」

 

五番隊に異動することを決めてから数日後、昴は八番隊の七緒の本読みに来ていた。といっても、薫の代わりというほどの物ではなく、一緒に鍛錬し、一緒に勉強する時間になっていた。昴も、一応薫と同時に入学し、二年で一緒に霊術院を卒業していたから、優秀なことは優秀なのだ。ただ、そうは見えないだけで。得意と苦手が両極端、ということが原因なのだが、鬼道以外は七緒に教えるのに足りていた。

 

あの事件の後、流石に一か月は無理だったが、その後から昴は七緒に癒されにこうして来ている。七緒の方も最初はどう接すればいいのか戸惑っていたようだが、昴の方がいつも通り話してくるのを見て今では普通に接してくれている。

 

八番隊と言えば、以前計画していた鬼道衆との合同演習はあの事件のせいで流れてしまった。京楽と浮竹は最後までそれに反対してくれたらしいが、事件の犯人が犯人なだけに総隊長に両断されてしまったらしい。

 

加えて、立て続けに起きてしまった鬼道衆の不祥事を重く見た四十六室は鬼道衆を百年の間護廷十三隊の傘下の部隊として位置付けることを決定した。期間を限定したのは元が独立した組織だったことへの配慮だろうが、百年後はなあなあで傘下であることが継続されるだろうことは目に見えていた。

 

「今日は鬼道の鍛錬をしましょう!昴さん」

「了解だよ~、七緒ちゃん!じゃあ、今日は私が教えて貰う番だね」

「恐れ入ります!といっても、いつも感覚的にしか伝えられなくてすみません…薫さんだったら、もっと的確に教えてくださったと思います…」

「あいつが~?ないない。あいつ、私に教えるとすぐに叩いてくんだよ?‘‘何でこうできないんだー‘‘ってさ。七緒ちゃんに教えてあげてた時、そんなに優しくできるなら私にもやれ~、って思ったくらいだよ。七緒ちゃんが教えてくれる方がずっと分かりやすいし!」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ふふ、ここに薫さんがいたら、それこそ昴さんのことを叩いちゃいそうですね」

 

‘‘ここにいたら‘‘…七緒にとっては何気ない一言だろうが、昴の胸はズキリと痛んだ。いかんいかん、ネガティブいかん!七緒にまた心配されてしまう。

 

「それはどうかな~?あいつのへなちょこ突きなんて、私なら華麗に躱して拳骨を叩き込む!」

 

昴が仮想薫の突きを躱して殴る真似をすると、七緒は声を挙げて笑った。

 

(明後日から五番隊…切り替えるぞ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、全ての業務を終えると、浮竹、海燕、都に呼び出された。

 

「橘は明日から五番隊か…しっかりな!」

「そうだぞ!向こうに迷惑ばっかかけて返品されても、受け取ってやんねーからな!」

「もう、隊長のはそういう意味じゃないでしょう?昴ちゃん、何か他の人に相談し辛いことが合ったら、いつでも相談に乗るからね」

 

ちょっと心配そうな浮竹、海燕に、穏やかな笑みの都。これから会えなくなるわけではないが、少し遠くなってしまうのは、ちょっと悲しい。

 

「ありがとうございます、浮竹隊長、都さん。これからも励みます!」

「おい、俺にも何かねえのか⁉」

「私が返品されたときは慰めてくださいね」

「根に持ちやがった!悪かったよ!お前に喧嘩売るのはこりごりだ」

 

やいやい騒ぐ海燕を見て、都がにっこりと笑った。ああ、海燕副隊長、後でこってり絞られるな…ま、自業自得か。

 

 

 

 

明日は異動だからと帰ろうとすると、少し宴をしようと言われた。思えば、暫く酒を口にしていない。明日への不安を少し和らげたい気持ちもあって、参加させてもらった。いつの間にか京楽も参加していたが、仕事は終えていたらしかったので放っておいた。

 

 

 

 

翌朝、昴が遅刻ギリギリになったのは、昴を飲みに飲ませた海燕と京楽のせいだった。勿論、海燕には都から、京楽には浮竹から、それぞれ制裁が下されたのは言うまでもない。

 

 

 




第一幕閉幕です。
やっとここまで来たというべきか、まだここだというべきか………

作者の拙い文章にお付き合いいただきありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

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