紫苑に誓う   作:みーごれん

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時間が飛びます。
今回もですが、これから少しずつ時間を飛ばしながら本編に入って行きます!
‘‘本編沿いの予定‘‘と書きながら本編にすら中々入れていなかったので、少し肩の荷が下りた様に感じます。


第二幕 見えぬ刃は其の喉元に
日常に


昴が五番隊に移ってから、早六十年。

もう昴は古参と呼べるほど五番隊に馴染んでいた。

海燕から、‘‘まだ戻らないのか?‘‘みたいなことを何度も言われたが、ここではもう昴は四席という責任ある立場になっていたし、可愛い後輩も沢山できた。十三番隊での日々は、今では六十年前と全く同じとはいかないだろう。今更帰ったところで、変に周りに気を遣わせたくないということもあり、結局五番隊で日々を送っていた。

 

 

「おはよう、橘君」

「おはようございます、藍染()()。今日もイケメンですね」

「ははは!そんな事を面と向かって言ってくれるのは君くらいだよ。ところで、あの件、考えてくれたかい?」

「ああ、三席昇格の件ですか?言ったじゃないですか、お断りしますって。古参の人間は大人しく後輩に席を譲っときます」

 

二十年程前、藍染副隊長は卍解を修得し藍染隊長になった。それに伴い三席だった市丸ギンは五番隊副隊長の座に就いた。その時から既に昴は四席であり、当時も昇進を断ったため五席だった者が三席に繰り上がった。

そして今回、今日から一か月後に現副隊長が三番隊隊長として移動することになったのだった。

 

「勿体無いね。僕は君になら副隊長だって任せられると思っているんだが」

「御冗談を。市丸副隊長の後釜なんて、私はごめんです」

 

昴が心底嫌そうに頭と手を横に振ると、藍染は肩をすくめた。

 

「それなら仕方ないね。なら、誰がいいと思う?」

「副隊長には現三席の門脇でしょう。新三席は、そうですね、森田とかどうですか?」

「六席のかい?実力的には、五席の日下(くさか)君じゃないかな」

「森田は人当たりが良くて後輩の面倒見がいいです。実力も、鬼道と歩法なら日下の上ですよ。副隊長が抜けた今、後進育成が得意な人間がその位置にいた方が何かと都合がいいと思いまして」

「成程、一理ある。参考にさせてもらうよ」

 

藍染が時計を確認する。今日は霊術院の視察の日らしい。

 

「市丸副隊長とは最後の視察ですか。目を光らせて、良い人材に唾つけといてくださいね」

「何だか橘君が言うと、僕らが悪事を働きに行ってるみたいじゃないか」

「そうでしょうとも。貴方の笑顔見たさに入隊した女性死神が何人いることか。皆良い子たちですけど。ま、市丸副隊長が一緒に行くならそういう類の希望者は減るか…」

「何や君、直属の上司に対してえらい口のききかたやねぇ」

 

いきなり後ろから市丸ギンの声がした。え、いつ部屋に入ってきたのこの人。扉閉まってたよね?

 

「おはようございます、ギンくん副隊長。毎度毎度気配消して入ってこないでもらえますか?そういうことばっかやってるから、いつも折り目正しい私もそういう言い方になっちゃうんです」

「何やもう、突っ込みどころ満載やな。キミ、ボクがここのナンバーツーやってこと忘れてへん?」

「日頃の行いですよ、副隊長殿。それよりお二人とも、良いんですか?そろそろ行かないと遅刻しますよ?」

「それはいけない。ギン、行こうか」

「はい、藍染隊長。ほなな、昴ちゃん」

「行ってらっしゃい」

 

今では、七十年近く死神をやっている古参の昴のことをちゃん付けで呼ぶのは京楽隊長くらいだ。ギンも、普段は橘四席と呼んでいるのにさっきは仕返しのつもりかそう呼んできた。あの子、こっちの方が年上って分かってる?

 

 

 

 

 

兎も角今日も仕事が多い。五番隊の上位席官のメンバーが入れ替わるのだから当然といえば当然なのだが、こう椅子に座りどおしだと肩ばかり凝って面白くもなんともない。何か面白いこと無いかなーと手だけ動かして仕事をしていると、廊下から扉を叩く音がした。どうぞ~、と促すと、眼鏡を掛け後ろに結い上げた髪をびしっと決めた女性死神が入ってきた。

 

「失礼します。日下五席はいらっしゃいますか」

「七緒ちゃん!おっひさ~!日下は今いないよ。どうしたの?」

 

七緒は昴しかいないのに少し驚いたようだったが、すぐにちょっと困ったような微笑みを浮かべながら書類を指した。

 

「お久しぶりです、昴さん。実は、先日日下五席から八番隊に回ってきた書類に不備が目立ちまして…再提出していただきたいのです」

「あぁ、またやっちゃったか…それって緊急?」

 

余談だが、薫が三席に日下という死神を推さなかった理由はこれもあった。事務が苦手なのだ。字は汚いしすぐに間違えてしまう。今までも、昴は何度となくその尻拭いをしてきていた。三席ともなるとそれなりに重要な書類も回ってくるだろう。それを一々訂正していたら、こちらの身が持たない。というか、訂正できる内容ではないとき、ただでさえ多い上二人の仕事を増やしたくないというのもある。

 

「えぇ。今日中に必要なのですが、彼はいつお戻りになりますか?」

「実は彼、今日非番なんだよね。私が今直すよ。貸してくれる?」

「すみません。うちの隊長がもうちょっと仕事が早かったら、昨日の内にお願いできたんですが…」

 

申し訳なさそうな七緒を見て昴は噴き出した。

 

「あはははっ!悪いのはうちの日下の方だって!しかし、その口ぶりだと、あのヒゲはまた仕事をサボって七緒ちゃんに手間かけさせてるみたいだねェ。三席ともなると大変だ!今度遊びに行ったときはどうしてくれよう?」

「ふふふっ!楽しみにしてます」

 

七緒は去年、三席に昇格した。剣術を碌にやってないくせにと陰口を叩く者もいたが、七緒の努力を見てから言ってほしいものだ。彼女の力は、十分その席次に相応しいものだ。特に鬼道は、六十年前の比ではない。

昴がさっさと書類を訂正し終えると、七緒は目を通してから胸を撫で下ろした。

 

「助かりました。それにしても、この量の修正箇所をよくこれだけ早く直せますね」

「席官ってのは基本事務仕事だからね~!慣れだよ、慣れ」

「それでも早いですよ。戦闘技術も高いし、やっぱり次の副隊長は昴さんですか?」

「違うよ~。あんな激務、私には無理無理。よくもまあ今の隊長格はあんな量の書類を毎日捌けるもんだ」

 

昴が眉を寄せると、七緒が首を横に捻った。

 

「でもそれって、新しい副隊長に大変な仕事を押し付けてるってことなんじゃないですか…?」

「…そうとも言う」

 

 

 

二人でひとしきり笑い終わると、また扉が開いた。

 

「失礼しま~す!日下います?昨日の十番隊の書類なんですけどぉ~」

 

十番隊副隊長の松本乱菊だ。鮮やかなオレンジ色の髪に灰色の瞳をしており、首に巻いたバンダナが彼女の細い首を一層引き立たせている。体のラインも綺麗で、大人の女性、という感じだ。七緒は彼女とよく飲みに行っているらしいが、昴は顔を知っているくらいで話したことは無い。…いや、今それは大した問題ではない。

昴と七緒は目を合わせると、二人揃って眉を寄せてため息を吐いた。

 

 

日下、今度もう一回、仕事の確認をしようか。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です!藍染隊長。お怪我は…無いようですね」

 

元気そうな藍染の様子を見て、昴は胸を撫で下ろした。

昨夜、現世へ実習に行っていた霊術院生一行が巨大虚(ヒュージホロウ)の軍勢に襲われるという事件が起こった。上回生も付いていたが、それらの虚は霊圧を隠す能力を有していたらしく発見が遅れたらしい。何とも信じがたい話だが、そのせいで見張りを含む七名の学生が命を落とした。

兎も角、救援要請を受けて一早く駆け付けたのが藍染隊長と市丸副隊長だった。異形の虚ということだったが、全く問題なかったようだ。

 

「ああ。霊圧を消すなんて能力は今まで聞いたことが無かったけど、虚の実力自体は大したことは無い、普通の巨大虚だったよ」

「隊長にとっては大したことなくても、学生にはきつかったでしょうに。それにしても、よく犠牲者が七名で済みましたね」

 

見張り六名は全滅していたと聞いた。後の一名も一回生を引率していた上回生だったそうだ。これはつまり、実習に来ていた一回生数十人はほぼ無傷だったということだ。見張りを全滅させるような虚を相手に、ほぼ無力な数十人を護り切った二人の上回生は、相当腕が立つらしい。

 

「ふふ、実はそうなんだ。面白い子たちを見つけてね。一回生でありながら巨大虚に立ち向かったんだよ。僅かな時間とはいえ、彼らの足止めが無ければ死傷者はもっと増えていただろうね」

「え⁉時間を稼いだのは上回生じゃないんですか?」

「彼らも戦おうとしたところに僕らが応援で辿り着いてね。引率していたリーダーは檜佐木修兵君というそうだよ。彼もかなり優秀らしいけれど、僕はさっき言っていた、阿散井恋次君、吉良イヅル君、雛森桃君にうちの隊に来てほしいね」

「隊長にそこまで言わせる子たちなら、他の隊とも取り合いになるでしょうね。そういう勇敢な子たちが、今後の護廷十三隊を支えていくんでしょう」

 

藍染隊長はにこりと笑った。眼鏡が反射して、目までは見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝床で彼はいつも深く深く思考する。

もう藍染の後手に回ったりしない。恐らく奴は、今のこの状況を把握していない。これは好機だ。いずれ奴は行動を起こす。

 

 

―――――――――――その兆候を見逃すな

 

 

―――――――――――何を兆候とすればいい

 

 

―――――――――――奴の目的は、手段は何だ

 

 

彼の思考は、止まることなく巡り続ける――――――――――

 

 

 

 




この章のクライマックスを思い浮かべてこの話を書き始めました。
そのため、恐らくこの章が一番長くなるだろうなと思ってます。

前書きにも書いた通り、ここから原作メンバーが増えていくことになります。
楽しんでいただけますように!

最後になりましたが、今回も読んでくださってありがとうございました!
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