毎回、作者は自分の語彙力の無さに絶望してます。
他の皆さんはどうやって題名を付けていらっしゃるのか…
爪の垢を煎じて飲みたいです。
廊下を歩いていると、昴は後ろから声を掛けられた。
「おっす!橘、久しぶり!元気でやってっか~?」
「お久しぶりです、海燕副隊長。何か御用ですか?」
「ったく、用がなきゃ話しかけちゃいけねーのかよ?ま、いいや。お前、最近ウチに来てないだろ。浮竹隊長や都が寂しがってるぞ。そろそろ隊の業務も落ち着いたんだろ?」
市丸副隊長が三番隊隊長になってから早半年が経っていた。一時期は人事の入れ替わりで慌しかった五番隊も、今では海燕の言った通り落ち着いている。ちなみに、副隊長と三席は昴の言ったとおりになっていた。
「えェ、まあ。相変わらず
「あいつ、まだ
やれやれ、と海燕が肩を竦める。日下の仕事に訂正箇所が多いのは結構有名な話だ。ここまで有名になっておきながら当の本人は全く気にする様子が無いのはある意味日下の長所だ。
「さあ、どうでしょうね。日下は何だかんだで五番隊に馴染んでますし、本人も気に入ってるみたいです…戦闘が嫌いというわけではないですけどね」
「そんなもんか?」
「そんなもんですよ。ああ、十三番隊に遊びに行く件、了解しました。近日中に伺いますよ」
昴の答えに海燕はニカッと歯を見せながら笑った。
「ああ、ありがとな。ただ、ウチに寄ってほしいってのはそれだけじゃねえんだ」
「?何です?」
そう聞くと、海燕は可笑しそうに顎のあたりに手を当てた。
「ウチの新隊員の朽木が始解に成功したんだがな、そいつの斬魄刀が――氷雪系なんだよ!お前も氷雪系だろ?扱い方とか戦い方とか、色々教えてやってほしいんだ」
朽木、と聞いて、昴はすぐにそれが朽木ルキアという人物だったことに思い当たった。
普通は他隊の新入隊員の名前などを一々覚えたりはしない。だがそれは、
朽木ルキア―――流魂街の出身ながら真央霊術院に入学し、在学中に正一位の貴族、朽木家に引き取られた少女。霊術院を卒業することなく護廷隊に迎えられた彼女は、良くも悪くも格好の噂の種になっていた。しかし、海燕に彼女の入隊の話を聞いたのが半年程前だったはず。剣術などは並みだと噂で聞いていたが、もう始解ができるとは、中々非凡な人物なのだろうか?
「いいですよ。何なら今日会いに行きましょう」
「今日⁉え、でもさっきは近日中にって…」
「鍛錬したいのなら話は別!できるときにやっておかないと後悔しそうですから」
「あ、ああ。お前が良いなら良いんだけどよ。じゃあ、終業時間に隊舎で待ってる」
「ええ。了解しました」
昴はいつも通り、パタパタと廊下を走った末に勢いよく襖を開けた。
「たのも~~~~!」
「おお、橘!随分久しぶりだな。元気にしてたか?」
十三番隊に常設されている浮竹隊長用の病室に入りながら昴が声を掛けると、カラカラと笑う隊長といきなりの大きな音にビクッと体を浮かせた見知らぬ死神が座っていた。
「お久しぶりです、浮竹隊長!隊長に比べたら、風邪ひいてたって健康優良児ですよ!隊長こそ、会うたびに顔が青くなってますけどお薬ちゃんと飲んでんですか?」
「なっ、き、貴様っ!隊長に失礼であろう!」
昴や浮竹にはいつも通りの軽口だったのだが、彼女にはそうでなかったらしい。本来は肩の下あたりまであるだろう真っ黒な髪は肩の上で外向きに跳ねている。大きく黒い瞳は、真っ直ぐに昴を見据えていた。もしかして、彼女が―――
「ははは!良いんだ、朽木。彼女はいつもこの調子だから。薬を飲み忘れたのは本当だったしな」
「いつも?一体そこの無礼者は何者なのですか?私がここに来てから半年ほど経ちますが、まだ会ったことがありません」
「しまったな~!稽古をつける前から嫌われちゃったかな?」
昴がそう言うと、ルキアは動きを止めてもう一度こちらを見た。ギギギ…と音がしそうな動きだ。
「稽古…?ということはまさか、貴女は五番隊の橘四席…?」
「はっはっは~!その通りだよ、朽木ルキア君!」
サーッと青褪めたルキアは、床に頭を擦りつけそうなほどに平伏した。
「申し訳ありませんでした!いえ、その、私以外の死神は皆様先輩ですのでこういう態度は元々駄目なのですが、席官の様な高位の方にまであのような態度をとってしまって…本当にすみませんでした!」
「いやいやいやいや、私にとってあれは挨拶みたいなもんだけど、君にとっては違ったんでしょ?上司を侮辱されたと思ったら先輩だろうが何だろうが関係なく怒れるというのは真面目な証拠だよ。君はきっといい死神になる。そのままで良いんだよ」
「そんな事…」
「ああ、でも、カッとなってすぐに思ったことを言っちゃうのは改めた方がいいかもね」
諭すように昴が言うと、浮竹が吹きだした。
「橘、君がそれを言うのかい?」
「どういう意味ですか?浮竹隊長!」
次の瞬間、不服そうにしていた昴の後頭部が思いっきり叩かれた。
「いっっ
痛がっているのは叩いた海燕の方だ。昴を叩いたらしい手を痛そうに擦っている。
「海燕副隊長、利き手で叩くなんて、貴方実は馬鹿なんですか?明日の業務に差し支えたらどうするんですか?というか何で人の頭を叩くんですか?」
「お前が騒いでるからだろうがっ~~~~!こンの毒舌石頭がっ!」
「はいはい、石頭で悪かったですね~。伊達にあいつと頭のど突き合いしてませんでしたから。海燕副隊長の入り込む余地なんて無いんですよ」
「こいつっ!」
「…くッ!」
く?声を出したルキアの方を向くと、彼女は必死に笑いを堪えていた。
「ふっ、普段はしっかり者の海燕殿も、そんな風になることがあるんですね!」
「おい朽木、何か変な勘違いをしてないか?」
「海燕副隊長、彼女は普段どんな貴方を見ているんですか?ちょっと後輩に格好つけすぎなのでは?」
「橘!お前は黙ってろ!」
海燕の怒声は結局、浮竹の病室で今日一番響いた声となった。
「ところで昴殿、先ほど仰っていた‘‘頭をど突き合っていたあいつ‘‘、とはどなたなのですか?」
笑いが収まったルキアは、開口一番こう言った。
途端に浮竹と海燕の顔色が変わったのにルキアは気付いたが、それに気づいていないかのように昴はざっくりと話してくれた。
名は百目鬼薫ということ、以前は副鬼道長だったこと、そして、ある事件がきっかけで亡くなってしまったこと。
「故人だったのですか…思い出させてしまい、申し訳ありません」
「良いんだよ~!
昴はそう軽く言っているが、この三人はきっとその百目鬼なる人物と親睦が深かったのだろう。もうこれ以上触れないほうが良い、とルキアは思った。人が本当は何を思っているかなど、分かる者はいない。そう思ってまず思い浮かんだのは、自分を引き取ると言って朽木家に連れてきた義兄の後ろ姿だった。
(兄と呼ぶようにと言っておきながら、私のことを見てはくださらない。私には分からない…
ルキアは顔を伏せると、口を堅く結んだ。
「と、ところで橘!今日は朽木の斬魄刀の扱いについて、助言をしに来たんだろ?」
沈黙に耐えかねたように海燕が言った。
「えェ。ここではなんですし、外で見せてもらっても?」
「勿論です。よろしくお願いします」
外に出たルキアは、斬魄刀を引き抜くと横向きに構え、それを回転させながら呟いた。
「―――舞え、〈
途端にルキアの斬魄刀が白く染まり、
「おお~~‼何て美しい斬魄刀だ…」
昴が息を呑んでいるのが聞こえる。ルキアは深呼吸すると、最近海燕との修行中に完成した技を昴に放って見せた。
「
「え?ちょ」
昴は氷結領域が上に伸びるのを見て取ると、瞬歩で横に退散した。流石は四席、判断速度と反応速度が一般隊士の比ではない。誰もいなくなった地面から空へ貫くように氷柱が伸びたかと思うと、砕けて消えた。
「これが私の技、月白で「馬鹿かっ⁉」!」
ゴチンッ、という自分の頭が殴られる音と共に、ルキアの目に火花が散った。訳が分からず顔を上げると、昴がちょっと困ったような顔で立っていた。
「いきなりあんなえげつない技使うなよ!普通の隊士は構えてもいない状態であれを躱すのは無理だぞ⁉何考えてる⁉」
「す…すみません…昴殿が全く動かれないので、もういいのかと…」
「はァ、ルキアよ…刀を抜いていない相手に斬りかかっちゃ駄目でしょ」
「すみません…」
すると今度は海燕が食いついてきた。
「おーおー橘。後輩を容赦なく殴るとは流石だな?てかお前、斬魄刀解放するならさっさとしろよ。あんま朽木を苛めんな」
「それはどうもありがとうございますぅ。解放は…したくなくなりました。別に苛めてないですし」
「何故ですか⁉私が無礼をまた働いてしまったからでしょうか」
ルキアが焦って詰め寄ると、バツが悪そうに昴がぽつりと言った。
「だって、ルキアの斬魄刀、すっごい綺麗だった」
「え…あ、ありがとうございます」
「だからヤダ」
「ガキかオメーは!いいから解放しろって!」
海燕に説得され、昴が渋々解放する。
「
それを見て、ルキアは何故昴がああ言ったのかを理解した。昴の斬魄刀は、始解してもほとんど姿の変わらないものだったのだ。刃が少し大きくなった以外には変化を認められない。
「行くぞ、ルキア」
「はいっ」
昴がルキアに接近し、互いに刀を打ち合う。が、元々剣術が得意ではないルキアはすぐに押されだした。恐らく、昴はかなり加減してうっているのに――だ。
結局、ルキアに斬魄刀の能力を使う余裕はなく、昴は剣術だけでルキアの体力を奪い切った。――と、思っていた。
「ルキア、君、私が斬魄刀の能力をずっと使っていたの、分かってたかい?」
「え?いいえ…そんな風には見えませんでしたけど…」
眉を八の字にしてふうっと一息吐くと、昴はルキアの斬魄刀を指さした。
「ルキア、これ、触ってごらん?」
「刀身をですか?はい…ッ⁉冷たい⁉」
「私の斬魄刀の能力は、斬ったモノの温度を自由に下げるというものなんだよ。さっきの斬り合いで、その刀身から刀を握った手、腕を伝って君の体自体を冷やし、体力を一気に奪っていた」
「全然、気づきませんでした…」
「今回の君の問題点は大きく分けて二つだ。何かわかる?」
「…斬撃がまだまだで、全然余裕がなかったことと、斬魄刀の能力を活用できなかったこと、でしょうか?」
ルキアが尋ねると、昴はゆっくりと首を振った。
「それは、大きなひとくくり。君が今持っている技の‘‘月白‘‘は、自分が凍結領域から離脱し、かつ相手をそこに留めなければならない。それなりに剣術ができるようになるのは必須だろうし、もっと汎用性のある技を考えていかねばね。つまりこれらは、君の技術的な問題だ。そして、もう一つは――思考力」
「思考力ですか?」
「ああ。まあこれは、私がもうちょっと加減すべきだったんだけど、相手の意図と能力は何かを見極めることが必要だ」
斬魄刀には、大きく分けて二種類ある。直接攻撃系と鬼道系だ。直接攻撃系は、その名の通り攻撃に特化した斬魄刀だ。形状の変化が大きく、それ自体の殺傷能力が高い。対して鬼道系は、見た目の変化が乏しいが、特殊な能力が付与される。ルキアと昴の斬魄刀は勿論後者で、特に氷雪系と呼ばれている。
「相手の攻め口が分かれば、その崩し方も分かるってこと。今、ルキアは何も考えずに私の剣を受けていたけど、鬼道系っぽい私が突っ込んできた時点で、疑問を持っておくべきだったね」
「それは、私にはまだ早いのではありませんか」
「ここまで高度なものはね。でも、死神が戦う相手は基本虚だ。相手の攻撃を無策に受けていると、いずれ君の仲間か、君自身が死ぬことになることもある。思考と観察を止めない、これは今後絶対必要だよ」
その通りだ。虚はこちらに構うことなく命を狙ってくる。今までルキアが大した怪我も追わずにやってこられたのは
「はい」
「今そう深刻に考えることは無いよ!これを心得ているだけで自ずと生存率は上がる。君ならやっていけるさ」
「……はい」
深刻そうに黙り込んでしまったルキアを見て、昴は焦った。
(こんなに脅すつもりじゃなかったのに…どうしよう――そうだ!)
「ルキア、折角だから、良いものを見せてあげよう!」
「良いもの…ですか?」
「ああ!―――
そう言うと昴は斬魄刀を横薙ぎに振るった。空を刀がなぞった端から、大粒の雪がフワフワと生まれては舞ってゆく。
「
今度は斬魄刀を逆さに持ち、地面に突き刺した。刺さった部分から徐々に冷気が立ち上る面積が増えていく。
これらはそれぞれ、空気と地面を凍らせることで発動する技だ。
僅かな風に雪が幾度となく舞い上がる。
草に、木に、石に、霜が降りてゆく。
傾いてきた日の光を浴びて、それらが宝石のようにキラキラと輝いた。
「綺麗……」
「ふふん!そうだろう!これは本来、この雪に触れた者をそこからどんどん凍らせて動きを封じたり、地面に降り立った者を凍った地面に張り付けてじわじわ凍らせていくって技なんだけど、こういう使い方もできるって最近知ってね。ルキアも、こういうのを遊びでやってみても面白いと思うぞ!」
「ありがとうございます…ええい!落ち込んでばかりもいられません!もっと精進します!」
「おお!適度に息抜きを入れながらな。この景色も、遊び中に見つけたし」
ガハハ、と豪快に昴が笑っていると、見ていた海燕が呆れ顔でため息を吐いた。
「確かに綺麗だが、内容えげつねえよ…完全に拷問使用じゃねえか」
「あ、海燕副隊長。まだいたんですか」
「橘お前、後で隊舎裏に来い!」
海燕の怒鳴り声で、雪の動きが僅かに乱れた。
しかしそれらは重力など感じていないかのように、昴が斬魄刀を封じるまで踊り続けていた。
後で本当に隊舎裏に連れてこられた昴は海燕から、ルキアは
(兄弟の仲が悪いと聞いていたのは、デマだったのかな。ルキア本人も良い子だったし、噂はあまり当てにならない)
帰り道、昴はそう思いながら、後輩の今後の成長に胸を躍らせていた。
話の流れの関係で、ルキアの始解が凄い早いことになりました。
しまった…物語全体の流れに問題は無い筈です!
そして今、作者は非常に焦っています。
うかうかしていると、あの事件が今年最後又は来年最初の投稿になってしまうかもしれないのです……
それは重い…重すぎます。
巻いていくか、足踏みするかはもう少し考えます。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!