でも、結果オーライですね。
出だしから重い…
言い訳ですね。
夜中にチェックしてくださった方、ありがとうございます&すみません。
P.S.
羽柴光秀様、誤字報告ありがとうございました!
「遅くなってすみません。あのォ、どうしたんですか」
声の主を見て海燕は、今自分が夢を見ているのだという事を知った。
心配そうに声をかけていたのは、今は亡き薫だった。
「実は、今日隊員が一名亡くなったの」
応えた都が辛そうだ。
そうか、これはいつだったか、海燕が目を掛けていた隊員が亡くなった時の記憶だ。
昴の昇進祝い以降、薫、昴、海燕、都の四人はちょくちょく飲みに行くようになった。毎度、無礼講・割り勘・二次会無しという、何ともさっぱりした集まりではあったが、激務をこなした後のささやかな憩いの時間として各々楽しんでいた。
「そうだったんですか…なら、今日はやめておきますか?」
「いや、飲もう!あいつだって、こんなしんみりされっ放しは嫌だろ!」
海燕はそう言うと、既に頼んであった酒を煽った。
さっきから一言も話さない昴の顔は、蒼白だった。薫が驚いて思わず声をかけている。
「昴?お前、そんな真っ青で…」
「薫………わ、私のせいで「違ぇよ」…副隊長」
「あれは誰のせいでもねえ。ただあいつの運が悪かっただけだ。気にすんなっつってんだろ」
俯いた昴は唇を噛み締めている。昴が気にするのも無理はないが、どうやったってあの状況でアイツは助からなかった。
「どんな最後だったんですか」
席に着きながら薫が訊いてきた。
真っ直ぐに海燕を見つめてくる薫に、同じように視線を返す。
「堂々としたもんだったぜ。自分が致命傷を負ったのを悟って、最後まで部下の心配ばっかしてやがった。泣き喚く奴だって多いってのに…俺も誇りを守ってあんな風に最後を迎えてえな」
薫が目を丸くした。そんなに驚くような発言だっただろうか?
「そう?私は貴方に静かに看取られて逝きたいわ。最後に誇りがどうこう言える自信が無いもの」
都がポソリと言った。海燕には少し意外だったから、場違いにも照れた。もっとも、都が死神としての誇りを失って最後を迎えるようには思えなかったが。
「僕も最後は眠るように死にたいですね。苦しいのとかはあまり経験したくないです」
「お前、この流れでよくそんな事言えるな…まあお前らしいっちゃらしいけどよ」
呆れ顔で薫に返す。護廷隊士ならこんなことを言ったら平手を食らいそうだが、鬼道衆はそこまで厳しくはないと聞いたことがある。薫のような考え方のものも多いのだろう。
「私は――」
やっと昴が口を開いた。タイミングがタイミングなだけに、覚悟を宿した瞳は海燕の背筋をゾクリと震わせるような凄味があった。
「私は、大事な誰かを―――出来ることなら自分が一番愛した人を護って死にたいです」
三人は沈黙した。まさか昴からこんな爆弾発言が飛び出すとは思っていなかった。
沈黙した薫に、昴は不思議そうに問いかけた。
「なんだよ、薫?そんな珍しいモノでも見るような顔して」
「いや、お前って結構ロマンチストだったんだなと思って」
「なんだそれ?馬鹿にしてる?」
「まさか。お前に庇われる奴は幸せ者だな」
そこで彼は目を覚ました。
(皮肉なもんだよな)
海燕はその短い髪を片手でぐしゃりと握った。
橘が一番大事に思ってる奴なんて、百目鬼しかいないに決まってる。…本人が気付いてたかどうかは知らねえけど。
それを、庇うどころか自分で斬ることになるなんて、カミサマってやつがいるならあんまり惨すぎやしねえか?
百目鬼にしたってそうだ。刀で斬られて死ぬってのは口で言うほど簡単じゃない。
痛かったろう、苦しかったろう、辛かったろう。
長生きなんてするもんじゃねえな。後輩を見送るのは、いつだって俺みたいなやつだ。
ふと愛する妻を思い出して彼は思い直した。
自分が死んだら、都は誰に看取られて死ぬっていうんだ?
バチィンッ
海燕は自らの頬を両手で叩いた。
きっと派手に紅葉が咲いているだろう。
何故かざわつく胸を押さえながら身支度を済ませると、遠くから派手な足音が聞こえてきた。これは――――
「海燕副隊長おおおお!おはようございま―――「朝っぱらからうるせえんだよ!」ぽげえっ!」
四席の小椿仙太郎を蹴り飛ばしながら海燕は廊下に出た。すぐ隣には、彼といつも一緒に行動している同席の虎徹清音が、仙太郎の姿を見て爆笑していた。
「んで、こんな時間から何の用だ?」
「はっ!十三番隊に、偵察任務が与えられました!」
「テメエ、清音!全部言うんじゃねえぞ!至急偵察隊を編成せよとのお達しであります!」
「こンのっ!アタシが先に副隊長に訊かれたでしょうが!」
「だったら俺は―――」
「あーもー、どっちでもいいからサッサと言えよ」
げんなりして海燕が言うと、二人は声を揃えて言った。
「「先日から問題になっていた、巣を作って活動していながらその姿を見た者のいない
「真似してんじゃねえ!」 「真似てんのはそっちでしょうが!」
ドクン
心臓が大きく跳ねた。
(何なんだよ…確かに気味の悪い話だが、厄介な虚なら今までだって飽きるくらい斬って来たじゃねえか)
その胸騒ぎの意味を知るのは、すぐ後――――――
昴が十三番隊に書類を届けに来ると、よく見知った二人を見つけて思わず駆け寄った。
「海燕副隊長、都三席、お久しぶりです」
「おう!」
「ええ。お久しぶり、昴ちゃん!朽木さんのこと、いつもありがとうね」
「いいえ。私も彼女が日に日に成長しているのは見てて楽しいんですよ」
先程から気になっていたのだが、何だか今日は隊が騒がしい。
「…?何だか騒がしいですね。何かあったんですか?」
「ああ。これから巣を作って活動しているタイプの虚の偵察隊が出発するんだ」
「!それって、前々から別の隊の隊士が何名も犠牲になってる虚ですか?」
「ええ。だから今度は、私が小隊を連れて偵察に行ってくるの」
「都さんが…?ならまァ、心配ないですね!今回も真っ二つにしてやってください!」
そう昴が言うと、都は笑顔を作った。
「そんなに心配しないでも大丈夫よ!今回は偵察だけなんだから。もう、朽木さんといい貴女といい、信用無いのかしら、私?」
そんなに心配そうな顔だっただろうか?不安なのは都も海燕も同じはずなのに、情けない。
「そんなことないですよ!ルキアも私も、大切な人間がいなくなるかもしれないのが怖いだけです。ルキアはその痛みを知らないから怖いし、私はそれを知っているから怖い。だから、‘‘杞憂だっただろ、馬鹿やろー!‘‘ってきっと無事に帰ってきてくださいね」
「ふふふ!分かったわ。そのセリフを言うのは私ではないけれどね」
都はそう言うと、海燕に目配せをした。
「おう!ついでに、今度こそお前の頭の方が痛みを感じるように殴ってやるよ」
「そのおまけはいりません」
この約束が果たされることは、
十三番隊への書類を届け終わると、今日の業務が終わった昴は八番隊に向かった。今日は七緒と鍛錬をする約束、所謂本読みの日なのだ。何だかさっきから落ち着かなかった昴には、丁度いい気晴らしだった。
「失礼しま――」
「隊長!サボらないでちゃんと仕事やってください!今日は昴さんと鍛錬の日なんです!早く切り上げたいのにっ!」
いきなり七緒の怒号が響いてきた。
「あぁ、昴ちゃん!やっほー!」
七緒に怒られているのに全く反省していない京楽は、昴の顔を見ると呑気にそう言った。
「…失礼します。まだ仕事は終わってないみたいだね」
「すみません、昴さん…お待ちいただいてもいいですか?」
申し訳なさそうに七緒が眼鏡を掛けなおした。気にするな、と昴は手を振った。
「勿論!今日はもう後に予定も無いし。私に手伝えることなら手伝うよ」
「わぁ~い!ありがとう、昴ちゃん!君はやっぱり良い子だね~!」
「貴方はちょっと黙っててください、アゴヒゲ隊長!私なんかよりずっといい子の七緒ちゃんに迷惑かけないで‼」
「ひどいっ!何だかいつも以上に昴ちゃんの言葉に棘がない?」
ただでさえ余裕がない昴は、いつも以上に辛辣な物言いになってしまった。
「…昴さん、何かあったんですか?」
心配そうに七緒が尋ねる。京楽も、おどけた態度とは裏腹に真剣そうな表情だ。
「…いつもよくしてもらってる十三番隊の先輩が危険な任務に出たんだけど、ちょっと胸騒ぎがしちゃって。心配かけてごめんね、七緒ちゃん」
「いいえ!その気持ちはよく分かりますから…」
七緒もまた、敬愛していた先輩―――確か、矢胴丸リサという名の副隊長を失っていたのを思い出した。最初に彼女と本読みを行っていたのは彼女だと聞いたことがある。
「昴ちゃんくらい古参と呼ばれる様な面子でもそういうこともあるさ。ただ、久しぶりだったからビックリしちゃっただけだよ、きっと。
京楽隊長に言われて、昴は腰を下ろした。そのまま気が緩んだのか、浅い眠りについた。
「――――――ん!す――るさ――!すばるさん!起きてください、昴さん!」
ふと意識が戻り、辺りを見回す。ここ、どこだっけ?
「七緒ちゃん…?あれ、私寝ちゃってたのか。ごめん、今何時…?」
「昴さんっ!十三番隊の偵察隊がっ…ぜ、全滅したとのことです…」
顔を真っ青にした七緒など久しぶりだ――などといっている余裕は昴にはもうない。目を見開くと、伝えてくれた七緒に礼も言わずに八番隊を飛び出し、十三番隊へと向かった。
偵察隊全滅の情報が護廷隊の他の十二隊に伝える準備がやっと整った時点で、十三番隊ではすでに次の行動――その虚の討伐――を行うため、浮竹、海燕、そしてルキアが動いていた。
つまり、昴が十三番隊にたどり着いた時点で―――
「海燕……副隊長………‼」
―――全ては
魂の抜けてしまったようなルキアと、魂の本当に抜けかけている海燕を見て、昴は何が起こったのかを理解した。いや、本当に全てを知ったわけではないが、そのルキアの姿は、まさしく過去の自分の姿と重なった。
(ルキアが彼を斬った――――?)
止まりそうな頭を必死で動かそうと首を振る。
その時、ルキアが昴どころか隊舎まで通り過ぎて進んでいることに気が付いた。
「ルキア?おい、ルキアっ!そっちは隊舎じゃない!どこに行くつもりだっ」
「かいえん、どの、を…かえさ…なきゃ…」
ルキアは海燕を、生きているうちに家に帰そうとしていた。彼には妹と弟が一人ずついたはず。家の場所が最近変わったと言っていた。
「橘っ…ごほっ!」
「浮竹隊長!何があったんですか⁉」
「詳しいことは後日話す。それより朽木は…?」
「海燕副隊長を家に帰すそうです」
「…そうか」
浮竹隊長は意味深な顔で俯いた。
「私も行きます」
昴がそう言うと、弾かれたように彼は顔を上げた。
「⁉」
「このままじゃ、海燕副隊長は家に着く前に亡くなってしまいます。ですから、私も連れていきます」
「――――分かった。なら、後日説明に伺うと先方に伝えておいてくれっ…!ッごほっ!」
「了解です。ですから隊長は休んでください」
駆けつけてきた四席の小椿仙太郎と虎徹清音に浮竹隊長を任せて、昴はルキアに駆け寄った。ルキアは海燕を落とさないようにしっかりと抱えている。昴の声に反応しなかったため、仕方なくルキアごと抱えて彼の家へ瞬歩で向かった。
海燕の家の前でルキアたちを離すと、その物音で誰かが飛び出してきた。あの面差しは、彼の弟だろうか?
「え……?にぃ、ちゃん…?」
妹を呼ばねばと門まで瞬歩で行った瞬間、門が開いた。
「あ?何だアンタら?……え…?兄貴ッ!」
彼女が妹だったようだ。海燕に駆け寄っていく。
「すま…ない、くちき。…あ…りが…とう」
遠くて、この一言しか聞こえなかったが、確かに海燕はそう言っていた。海燕が息を引き取ると、弟は泣き伏していたが妹は昴の方へ向かって歩いてきた。
「これはどういうことか、キッチリ説明してもらえるんだろうなぁ?」
至極当然の要求だ。だが、それに答えうる情報を昴は持っていなかった。
「後日、ご説明に上がらせていただきます。この度は、お悔や――」
「どういう意味だ、そりゃぁ⁉」
「…状況の説明ができる者が今いないのです。私とて、理由が知りたいっ…!」
そう伝えると、彼女は静かに言った。
「なら、兄貴を置いてもう帰ってくれ。おれらで葬式に出す」
「わかりました」
やっとのことでルキアを海燕から離すと、ルキアを抱えて隊舎へ戻った。
「もうしわけありません、かいえんどのっ…」
ルキアは、昴に抱えられながら何度も何度もそう言っていた。それは、海燕からあんなに心のこもった声で感謝されていた者の発言ではなかった。
後日、浮竹隊長から全ての話を聞いた。
都を含む偵察隊を喰った虚を、浮竹、海燕、ルキアで討伐に行ったこと。
戦闘により、海燕がその虚と霊体同士で融合してしまったこと。
結局海燕と虚を分離できず、襲われかけたルキアが逆に
未だに信じられない。あんなにちゃんと、動いて、話して、笑って、慰めて…
しかし、心の奥底では分かっていたはずだ。そういうものの方が脆いのだということを。
身に染みていたからか、涙は出なかった。
隊長の部屋を出てしばらくすると、ルキアが酷い顔で歩いていた。
「ルキア、おォ~い」
「すばるどの…?お久しぶりです。あれ、今日は、鍛錬って終業後ですよね?」
「うん。でも、今日は無しにしよう。その代わり、ちょっとこれから付き合ってくれる?」
「え、でも仕事が」
「良いから良いから」
五番隊の道場を貸し切って、二人で真ん中に座った。他の隊士に見られたり聞かれたりしたくない時はこうすると良い。声の届く範囲に人がいないのが一目でわかるからだ。
「ルキア、私ね、死神を殺したことがあるんだよ」
「えっ…」
「あいつとは一緒に霊術院に入って、一緒に出たんだ。所属は分かれちゃったけど、それでもそこそこよく一緒にいた。よくある幼馴染だった」
「それって、もしかして、以前仰っていた…?」
ルキアがそう言うと、昴は力なく笑った。
「あいつは、私が殺したんだよ」
「……」
それから昴は、資料の通りに話した。あの事件で薫は錯乱して、自分が斬った、と。
「浮竹隊長から聞いたよ。ルキアが海燕副隊長を斬った理由。君一人のせいじゃない。君が抱え込むことじゃない。今はまだ、何も考えられないだろうが、それでいいんだ。それが普通だ。今はゆっくり、その心の傷を癒すんだ。いいね?」
ルキアは俯いたまま、肯定も否定もしなかった。失礼します、と一言言って道場を去っていった。
彼女の顔は見えなかったが、彼女がいた場所には、水滴が二つ落ちていた。
今朝、大好きな他の方の投稿作品を読み返していたら、「あれ?なんか描写似てる」となって真っ青になりました。
故意ではないです!
でもすみません!
他にもあったらどうしよう…
ただ、わざとではないという事だけは言わせてください。
きっと、印象深くて無意識のうちにそう表現しちゃってるだけなんです!
バタバタしてしまいましたが、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!