いつ起きても良いなんて、ダメ人間になってしまいそうです。
ま、作者にそこまで劇的に生活習慣を変える勇気は無いわけなのですが。
休み明けが怖いので……
少し前、恋次が十一番隊の六席になった。
桃とイヅルが既に副隊長になっていることを考えるとやや遅い出世ではあるが、確実に成長する後輩を昴は微笑ましく思っていた。
そして現在、昴は十一番隊舎前に来ていた。
勿論暇だからではない。
十一番隊は隊の方針というか雰囲気というかが荒々しい。すぐ喧嘩を吹っ掛けてくるだとか、態度が悪いだとか、顔が怖いだとか、挙げればきりのないほどそういう輩が多いのが現状だ。
そしてそういう所へわざわざ書類を届けに行きたがる隊員はいない。
五番隊もその例外ではなく、先程確認したら十一番隊に届けなければならない未処理の書類が何十枚も出てきた。
仕方がないから昴が全て終わらせ、持ってきたというわけだ。
元々担当の係がいることにはいるのだが…
「五番隊第四席、橘昴です。書類をお届けに上がりましたァ!」
……待てど暮らせど返事が無い。不審に思って門扉を押すと、簡単に開いた。
昴は十一番隊の副隊長、草鹿やちると仲が良かったが、隊舎で会った事は無かった。元々一つ所に留まっていない彼女とその隊長の更木剣八を捕まえるのは至難の業だからだ。わざわざ会いに行くより、余程普通に生活していたほうが遭遇率が高かった。
だから昴は、初めて来た十一番隊舎の状態に戸惑った。
(おいおい……幾ら自分たちの腕に自信があるからって、不用心にも程が有るだろう…)
中に入っても誰もいない。普通は門番の一人でも置いておくところなのだが、そういう常識が通じない所らしい。
一々動じていても仕方がないので、隊舎へ向かって歩き出した。
ここは、隊舎よりも道場の方が門に近いらしい。昴が少し歩いたところで先程まで一切無かった気配がそこで膨れ上がった。野次や罵倒が多いのは今更だ。
通り過ぎようとして、後ろから声をかけられた。懐かしい後輩の声だ。
「昴さん!どうしたんスか、こんなところで」
僅かに息を上げて顔を上気させた恋次が、道場の扉から半身を出した。
「お使いだよ。書類が溜まっててね。今から執務室に届けに行くんだ」
「そうなんスか。昴さんが来たのって初めてな感じがします」
「初めてだよ。そもそも十一番隊向けの書類自体殆ど無いからな。あの隊長が書類仕事を真面目にやるとは思えないし」
「はは…あ、じゃあ案内しますよ!ここの間取り、五番隊とはちょっと違うんで」
昴が返事をする間もなく、恋次はもっていた木刀を仕舞いに行き、手ぬぐいを首に巻いて戻って来た。彼に促されて歩き始めた。
「悪いな。良かったのか?修練中だったんだろ?」
「良いんスよ。丁度区切りがついたところでしたし」
汗をぬぐいながら彼は言った。その時に見えた腕や首周りを見て、昴は素直に感心した。
「相当鍛錬しているようだな。二十年前とは体躯が全然違う。身長も大分伸びたし。あァ、言うのが遅れたな。恋次、六席就任おめでとう!」
矢継ぎ早なその言葉に彼ははにかんで目を逸らしながら、もごもごと‘‘どもっス‘‘みたいなことを言った。
「ええっと、昴さん!俺、書類持ちますよ!結構重さありますよね、ソレ」
「いいって。忘れたのか?昔、私が君を片手で投げ飛ばしたって事」
それを聞いて渋い顔になった恋次は、不満そうに言った。
「いつの話ですか…今はそう簡単に投げられたりしませんよ」
「違いない!筋肉は重いからなァ。そろそろ身体能力も追いつかれているころだし、二重の意味で無理そうだな」
昴が言い終わった直後、歩いていた廊下の扉が荒々しく開いて、ヒトが飛んできた。
幅の広い廊下ではあったが、真横からの飛来物に恋次は硬直している。
こんな時でも昴は存外冷静だった。
前後どちらかに躱す――――――却下、恋次にぶつかる。
受け止める――――――――――却下、今は手の中に書類がある。
蹴って反対方向に押し戻す―――却下、流石に可哀相。
(じゃァ折衷案で)
隣にいた恋次の膝の裏を蹴って体勢を崩す。仰け反った恋次は其の軌道上に居なくなった。
軸足はそのままに、恋次を再び軽く蹴って反対廻りに回転しながら、飛んでくる隊士に足の速度を合わせて近づける。そのまま彼の襟を昴は足袋の切れ目、足の親指と人差し指で器用に掴む。軸足で踏ん張りながら、回転方向に隊士が直進していたエネルギーを逃がし、二回転ほどしてから止まった。
足の力を抜くと、襟でぶら下げられていた隊士が地面に落ちた。といっても、昴が片足を上げているくらいの高さだから大した距離ではない。
「い
「私が訊きたいよ。十一番隊では日常的にヒトが吹っ飛んでくるもんなのか?」
恋次が訊きたかったのはそこではないのだが、昴はそれに気付かずにさっきの隊士が飛んできた部屋の中を覗こうと上げていた足を降ろした。
辛うじて目の端で捉えていた状況を繋いで、恋次は自身の身体能力が昴に全然及んでいないことを悟った。
「オイコラァ!まだ話は終わってねえぞ⁉」
部屋の中から怒声が響く。ズカズカと廊下に出てきたのは、所謂ハゲと呼ばれるやつだった。
昴はため息を吐きながら、目を怒らせた彼に声をかけた。
「さっき吹っ飛んできた彼はそこで伸びてますよ」
「ああん?この程度で伸びるたあ情けねえ!それでも十一番隊かよ?」
「一角さん!」
恋次が驚いて声を上げた。
「……何が有ったんスか?」
「ソイツが俺のことをハゲとか言いやがったんだぞ⁉違えっつってんだろうが!俺は剃ってんだよ!」
「別に毛根が死んでようが死んでまいがツルツルなことに変わりはないでしょうに。ムキになればなるほど言われるのが分からないんですかね?」
「あははは!だよね~!すーちん分かってるぅ~!」
思わず昴が言った言葉に空気が凍りつくよりも早く、
「やちるちゃん!お久しぶり!」
「うん!久しぶり!すーちんって全然こっち来てくんないよね~?」
「悪いね。担当が違うものだから」
「いーよ!でも、いつでも遊びに来ていいからね!」
昴とやちるが呑気に会話していると、踏まれていた隊員がいきなり起き上がった。
「文字通りヒトの上で会話すんじゃねぇ!」
「きゃははは!マキマキが怒った~!」
「マキマキ?このちょび髭が?」
可愛らしい愛称に反して、彼は目付きも悪いしちょび髭だ。
明らかにやちるしか呼んでいないだろう渾名だ。
「
「あァ、それで‘‘マキマキ‘‘か。納得」
「納得すんな!てかさらっと混じってるアンタはナニモンだ?十一番隊じゃねえな?」
本人は凄んでいるつもりなのだろうが、‘‘マキマキ‘‘なんて可愛い名前とやっていることのギャップが昴には笑えてきた。
「ブフッ……いや、五番隊所属橘昴四席だ。――ッくっ、よろしく」
「よ…四席⁉」
マキマキは真っ青になっているが、一角は興味深そうに昴の方を向いた。
「ほお、あの百目鬼のツレでちょくちょく副隊長が話してた奴か。恋次を
その言葉に、周りには気付かれないほど微かに昴は肩を揺らした。
「――――――お会いした事ありましたっけ?」
「いや、ねえよ。オレが話に聞いてただけだ」
「そう、ですよね!良かった」
「良くねえよ!さっきはよくも俺をコケにしてくれたなあ?」
一角が指をゴキゴキ言わせ始めたのを見て、恋次は慌てたように言った。
「昴さん!今日の用事は書類を渡す事っスよね?サッサと行って終わらせてしまいましょう」
「そうだな。―――一角、といいましたか?
軽く頭を下げた昴は、恋次と一緒に小走りになって執務室へ向かった。
「………なァ、恋次」
「何スか?」
「
「いや、どういう思い付きかよく分かりませんけど、それ絶対一角さんに言わないでくださいね」
「うん」
結局執務室に隊長は居らず、形ばかりの机の上に書類を置いて戻って来た。
その中に一枚だけ六番隊用のものが混じっていたため、ついでに昴は六番隊に向かった。
「五番隊の橘です。書類をお届けに上がりました」
「入れ」
失礼します、と執務室に入ると副隊長の席に書類一枚置いていない。そういえば六番隊は今副隊長が空席だったと昴は思い出した。
「朽木隊長殿、この書類のハンコをお願いします。本来は副隊長にお願いするモノなんですけどね」
少し調子が軽いのは、昴が朽木隊長―――もとい朽木白哉とそこそこ古い付き合いだからだ。かつて四楓院夜一とも関わり合いが有ったから、自然な流れで紹介された。
「構わぬ。しかしこの字、まさか日下が全て手掛けたわけではあるまいな」
「勿論彼が全部やってますよ?一通り確認はしたので記入漏れは無い筈です」
「全く…このような字は見るに堪えぬ。そなたも分かっていてやっているな?」
「どうでしょうね?まァ、日下の成長の為ですよ。彼、一番隊と六番隊の書類を作るときは特に血眼になって作業をしてくれるので訂正が少ないんです」
やれやれ、とため息を吐いた彼を見て、昴は白哉も落ち着いたものだと思った。
夜一に連れられて朽木家に遊びに行かせてもらった時は、白哉がすぐに煽られるのを他人事のように見物して面白がったものだが、今はすっかり落ち着いて能面みたいな表情になった。だが、流石に副隊長の分の仕事も行っているのは大変なようだ。終わった仕事よりも残っている仕事の方が多い。
「お疲れのようですね。副隊長はいつお決めになるんです?」
「副隊長になれる器などそうそう居らぬ。私一人でも問題ない」
ハンコを押しながらさらりと言放った白哉の台詞の直後、よく知った声が聞こえた気がした。
『俺はいつか、目標の人を超える…隊長になりたいのですが、鍛錬はどのようにしていけばいいでしょうか!』
真っ赤な髪に目つきの悪い後輩を思い出して昴はクスリと笑った。
…これくらいのお節介は許されるだろう。
「十一番隊第六席、阿散井恋次はどうです」
「……十一番隊に知り合いは居らぬゆえどのような人物か分からぬが、その男は副隊長の器か?」
「いいえ」
昴の答えに、十一番隊と聞いて不審そうな顔をしていた白哉は少しだけ目を見開いた。
「今はまだ、ですけどね。彼は不器用で気が短いから失敗も多いが、生真面目で努力家です。人を惹きつける魅力もある。それに戦闘の実力もありますよ」
「そこまで言うのなら調べよう。時に橘昴、そなた、ルキアの修行に手を貸しているそうだな」
突然話題が変わったが、彼の方からしたらこちらの方が振りたい話題だったのだろう。書類の手が止まっている。
「えェ。始解も修得していますし、呑み込みが早いので実力もかなりついています。私としてはもっと実戦経験を積んでほしいんですが、
「………………あの程度で‘‘かなりの実力‘‘か」
殆ど表情筋を動かさないが、彼の心境が複雑に変化していることは察せた。伊達に何十年も知り合いをやっていない。
「貴方を基準にしたら隊長の面々以外誰も紹介できなくなるでしょう…
「……分かっている。だからこそ浮竹の提案を聞いたのだ」
浮竹の提案なるものが何かは知らなかったが、何か彼女に実践的な辞令が下ることを白哉が認めたのだという事は分かった。
「なら良いんです。では、失礼します。あァ、それと―――――」
返してもらった書類を抱えて扉を半分開いたところで、昴は白哉に振り返った。
「‘‘彼女を庇護下から放つ‘‘っていうのは戦闘だけでなく、恋愛に関してもですよ?」
その瞬間の白哉の表情を、爆笑ネタとして昴は墓まで持っていこうと決めた。
そして、時は巡っていく――――――
「これをもって、十一番隊第六席、阿散井恋次を、六番隊副隊長に任ずるものとする―――おめでとう!阿散井君!」
「おう!ああ、いや、
「現世への駐在任務、ですか?」
「そう!一か月の短期間だけど、‘‘空座町‘‘から半径一霊里の土地にいる魂魄の管理が今回の朽木さんの任務」
「お前の実力なら、そう難しい任務じゃない。気をつけてな」
「浮竹隊長!はい!」
あァ、お前なら、血を吸ったこの手を躊躇なく握るのだろう
今はそんな上等なものを受ける資格は無い
でも、きっと、やり遂げてみせる
お前にこの手を差し出せるよう、枷を外してみせるよ
斯くて、刃は振り下ろされる―――――――――――
次話から本編&3000字前後が増えます。
キリが良いので、これを今年最後の話にさせていただきます。
来年の投稿はいつからにしようか…
年始は忙しいので、少し遅れそうです。すみません。
冬期休暇が終わると、投稿ペースが落ちそうです。
バタバタと話が進みましたが、次からも相変わらずだと思います…
言うだけ言ってという感じになってしまいましたが、今後ともよろしくお願いいたします!
皆様、良いお年をお迎えください!