紫苑に誓う   作:みーごれん

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今回は視点がいつもより多めに変わります。
段落の前半でメインになっているキャラクターが、その段落の主な主語です。
分かりにくくてすみません…

正月早々これ程沢山の方に読んでいただける幸せを噛み締めつつ、これからも書いていこうと思います。
宜しくお願いします!


現世へ

「今日は、宜しくお願いします」

 

昴は、ぺこりと目の前にいる人物―――山田清之介に頭を下げた。

ここは、花太郎の実家だ。

 

貴族の中には、趣味の範疇で自宅に小規模な穿界門(せんかいもん)を持っているところがある。そして、山田家はその中の1つだった。

 

「構わないよ。僕はこの後仕事があるから、好きに使ってくれていい。しかし、君が現世に行ってみたいと言い出すなんて珍しいね」

 

そうなのだ。昴は以前、現世での任務中に盛大にミスをやらかして先輩に大迷惑をかけたことがあり、以来現世に行くのを敬遠していた節がある。が、今回はそうも言っていられない。

 

「少し気分を変えてみようと思いまして。それでは遠慮なく使わせていただきます」

 

瀞霊廷にある穿界門―――現世と尸魂界(ソウル・ソサエティ)を行き来するための公式な門―――を使うには、正式に書類を出す必要がある上に一か月も待たされる。それに、四席が現世に行くとなるとそれなりの理由が必要な上、昴は今回の事件の囚人、ルキアの関係者だ。どんなに理由をこじつけても、許可が下りるとは思えなかった。

それで今回は、休暇だけ取ってここに厄介になったのである。

 

「それではいくよ。〈開錠〉」

 

門が開く。きびきびとした足取りで、昴は現世へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが空座町…平和そうな町だな」

 

昴が降り立ってすぐ出てきた感想だ。人々の戯れる河原や森、商業施設が充実し、ほとんどの人が身の危険など想像すらせずとも生きていける町――

良いところだ。ここなら、また遊びに来てみたいと多くの者が思うだろう。

 

「さてと、【高校】はどっちだ?」

 

ルキアの話だと、黒崎一護は空座第一高等学校一年三組、長身で目つきの悪く、オレンジの髪をしている――らしい。

オレンジか…恋次以来の派手な色だ。それだけで十分見つけられるだろう。

 

―――そう思っていたが、甘かった。現世には、派手な頭の人間がわんさかいた。目つきが悪くて長身、というのも結構いて、結局【高校】を地道に探すことにした。本人がいなくとも、その関係者から零れる話を聞けば安否くらいわかるだろう。

 

…そう、本人がいなくとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一年三組、一年三組……ここか!」

 

やっと見つけたその表示に辿り着くまでには、昴に涙ぐましい苦労があったのだが、ここでは伏せておく。兎も角、早朝にこの街に着いていたはずなのに、もう昼を少し回った後になっていた。

 

ところで、現世でも、人に教育を施す機関が存在するそうだ。【学校】、という名のソレは子供の成長に合わせて名前が変わる。他まで一々調べていないが、この時間にここにいる【学生】なる者たちは座って勉学に励む決まりらしい。

 

「どうせ殆どの者には見えないんだ。入ってみるか」

 

【教室】の中に四つほど他よりも大きな霊圧を感じるが、見えたら見えたで直接黒崎一護について聞けばいい。楽観的に考えながら、昴は偶々空いていた扉から中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

石田雨竜は内心焦っていた。

今教室の外にあるのは間違いなく死神の霊圧だ。一瞬立ち止まって、中に入ってくるのが分かる。

 

(何が目的だ…?)

 

もし、尸魂界に先日の二人が(とど)めを刺しそこなったことがバレていて、自分と黒崎の止めを刺しに来ていたとしたらここでは対応できない。幸い黒崎は今日はまだ学校に来てはいないようだが…

 

「なんだ、オレンジ色の髪の奴なんていないじゃないか」

 

教室の前の方に座っている石田にしか聞こえないような声で、入ってきた死神は言った。

 

(狙いは黒崎だけのようだが、下手なことはしない方が…っ⁉)

 

死神は真っ直ぐ黒崎の座席の前に行くと。何かを探るような動作をしている。

今の黒崎は霊圧で辿れないはず―――本当に?なら、あの死神は何をやっている?

 

石田が思わず振り返ると、死神と目が合った。にこりとこちらへ笑みを浮かべると、

 

(後で聞きたいことがある)

 

と口だけを動かして彼に伝えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

昴が教室に入ると、ほとんどの人間が黒髪、ぽつぽつと茶髪はいるが、そこまで派手な人間はいなかった。

 

「なんだ、オレンジ色の髪の奴なんていないじゃないか」

 

さっき感じた大きめな霊圧は…目の前にいる色白眼鏡君、肌黒のっぽ君、黒髪短髪スポーツっ子ちゃん、茶髪居眠り君の四人だ。居眠り君、爆睡してるな…勉強しろ!

兎も角、彼は来ていないらしい。彼の机はどれだ?三つほど空きがあるな。

残存霊圧を探ってみると、二つは知らない霊圧だが、一つはつい最近会った――ルキアのものだ。残りのどっちが黒崎一護のものなのかはすぐにわかる。霊圧の量が半端じゃない。残存霊圧でこうなのだ、白哉に魄睡(はくすい)――霊圧の発生源――を破壊される前はどれ程だったのか…

 

机の前に行ってみる。霊圧で辿ろうにも、生きていたとしても彼にはもう死神の力どころか霊圧も無い。

 

(やはり、誰かに話を聞いた方が早いか)

 

そう思って部屋を見回すと、色白眼鏡君と目が合った。

 

(後で聞きたいことがある)

 

そう口で伝えると、彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒崎一護はどこにいる?」

 

部屋を出て、人目に付かないところで向かい合うと、昴から口を開いた。生死の確認はあえてしない。恐らく彼は生きている。でなければ、【教室】内の空気がこれ程軽いはずがないからだ。決して多くはないが死傷者の有る死神ですら、仲間が死ねば辛いなんてもんじゃない。平和に暮らす彼らなら、その感情にはもっと不慣れなはずだ。

 

「……黒崎は死んだよ。君ら死神が殺したじゃないか」

「へェ、死神の存在を知っているのか!珍しいね。見えるだけでも相当なのに。ま、君の話は今は良い。これは一つ、君に助言だが、嘘を吐く時は視線と声音に注意することだ。その程度の嘘で私を(あざむ)くのは無理だ」

 

不愉快そうに彼は眉を寄せたが、すぐにすました顔で返してきた。

 

「なら、僕からも一つ、助言をしておこう。人にものを頼むときは、相応に礼を尽くすべきじゃないか?」

「礼を尽くせば教えてくれるのか?」

「さあ、どうかな」

「ふむ、なら、そちらで隠れている彼に訊いてみようかな」

 

振り返って後ろにある木を見る。話を始めた時からそこにいるのは分かっていた。さっきの肌黒のっぽ君だ。

 

「茶渡君!」

 

色白眼鏡君が、彼の名を呼んでから‘‘しまった‘‘と口を塞いだ。彼、うっかりしたところがあるようだな。目が合った時といい、嘘を吐いたときといい、彼の素直さがにじみ出ている。

 

()()()、黒崎一護の場所を知らないか?」

「……」

 

彼の沈黙は、意外な人物によって唐突に終わった。

 

「よお、チャド!何してんだ?こんなところで」

 

茶渡君の後ろから現れたのは、長身で目つきの悪く、オレンジの髪をした―――黒崎一護だった。

 

「馬鹿!黒崎!全力で引き返せ!」

 

色白眼鏡君が叫び終わるより早く、昴が黒崎一護の喉元に刃を当てる。

昴には一瞬の躊躇があったが、その場の誰も対応できなかった。

 

「あ?石田てめえ、いくら何でも出合頭にそれはねえだろ!」

 

(成程……ルキア、やはり君はまだ囚われているんだな)

 

昴が向ける切っ先には、海燕副隊長の面差しを宿したかのような少年が(あや)しく映り込んだ。

 

死神の力を失ってでも、刑罰が重くなってでも、ルキアは彼を救おうとした…

大なり小なり、海燕の一件が影響していたことは確かだろう。

そこまで考えて、昴は自嘲した。

 

(ヒトのこと、言えるかねェ?)

 

吊り上がりかけた唇に力を込めて、昴は目の前の人物に集中した。

にしてもこの反応…やはり、力は全て失ってしまっているようだ。昴のことが見えているなら、この状況で非武装の人間はこんな悠長にできない。余程の阿呆(アホウ)なら話は別だが。

 

五体満足、心肺機能も正常、何の異常も見られない健康体だ。しかし……

 

「本当に、失ってしまったんだな…霊圧も―――ルキアが託した力も」

 

昴が思わずこぼしたその言葉に、‘‘石田‘‘が僅かに反応した。

昴は刀を鞘に納めると黒崎一護の胸に片手を置き、

 

「生きろよ」

 

ルキアの分まで、という言葉を飲み込んで呟いた。

 

 

瞬歩でその場を離れると穿界門を開いて山田邸に戻った。

そして清之介に礼を言って隊舎にある自室に戻った。

 

その間のことを昴はあまり覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、石田!聞いてんのかよ⁉」

 

去っていった死神を呆然と見ていたチャドと石田は、一護の声で我に返った。

 

「あ、ああ。そろそろ教室に戻ろう、茶渡君」

「てめぇ、完全に俺のこと無視しやがったな…?」

「一護、落ち着け。戻らないと、次の授業に間に合わない」

「…くそっ」

「ところで一護、しばらく休んでいたが、何かあったのか?」

「ああ、何でもねえよ。ただ…明日から十日ほど出かけるかもしれねえ」

 

 

 

 

三人で走りながら、石田は一人考えていた。

 

(変な死神だった。ああいうのもいるのか)

 

あの死神は、‘‘ルキアが託した‘‘力を失った黒崎に落胆していた。

朽木さんを連れ戻しに来た二人の死神の口調から察するに、死神の力は‘‘奪われる‘‘ものであり、それは尸魂界では重罪にあたる許されない行為。‘‘奪う‘‘でも‘‘与える‘‘でも、‘‘貸す‘‘でもなく、‘‘託す‘‘という言葉を使った彼女は、一体何者だったのか。

 

(名前くらい、聞いておいて良かったのかもしれない。あの様子だと、力になって貰えたかもしれなかった)

 

一護が浦原商店で何かやろうとしていることに感づいていた石田は、彼女が消えた空をもう一度振り返った。そこにはもう、人影の名残すらも残ってはいなかった。

 

 

 




ややこしかったので、原作主人公のクラスメート、本匠千鶴の頭が派手な色であることはカットしました。
一応書かせていただきました。

正月ボケをする暇さえ与えてくれない現実を前に、袖が濡れるのを禁じ得ません。
というわけで現実逃避シリーズ第三弾です。
原作主人公が出てくるのが待ちきれませんでした!
日程がちょっとズレてますかね…?ま、まあ、思ったより一護の怪我が酷くて寝込んでいたという事でお願いします!


今回も最後まで読んでくださってありがとうございました!
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