紫苑に誓う   作:みーごれん

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新年早々忙しいのは、嬉しいことなのか悲しいことなのか…
物議を醸すところであります。

今回も視点の移動多めです。

次回更新は二、三日空く可能性大です。
というより、更新速度が戻るので週に二、三話のペースになる可能性大です。
よろしくお願いします。


伝える

昨日の報告をしようと昴がルキアの牢に向かっていると、桃から呼び止められた。

 

「あっ、昴さん!藍染隊長が呼んでいらっしゃいましたよ」

「隊長が?分かった。この用事が終わったら行くよ。知らせてくれてありがと」

「いいえ!でも、時間がかかる用事なら先に行った方が良いかもしれませんよ?急ぎのようでしたから」

「すぐに済むさ。じゃあ、行ってくる」

 

隊長が用事?何かミスでもやらかしただろうか。なら、早く帰って訂正しないとな。

 

 

 

 

 

急いで六番隊舎前に来ると、牢の前で恋次に止められた。

 

「昴さん、おはようございます!実は、ルキアは面会謝絶になったんスよ」

「面会謝絶?何だそれは」

「そのまんまの意味です。俺も、こんな指示初めてで驚いてんスから」

「恋次も会えないのか?」

「いえ、俺と隊長、牢を管理してる三席の理吉、後は世話係の山田七席は会えますけど」

 

ふうん、と昴は怪訝そうに鼻を鳴らしたが、すぐに真剣な表情に戻った。

 

「なら、ルキアに‘‘どうか心安らかに‘‘と伝えておいてくれないか。私からだと必ず添えてほしい」

 

昴がそう言うと、恋次は僅かに顔を伏せた。

 

「……了解っス。すんません、折角来てもらったのに」

「いいや。君も損な役回りだな。幼馴染が、いや、大切な者が死にゆくというのに、指示に従うしかないなんて」

 

恋次は苦しそうに顔を歪めると、絞り出すように呟いた。

 

「……―――昴さんも、隊長も、何でそんな冷静でいられるんですか」

「君だって、(ハタ)から見れば冷静だ。――朽木隊長がどうかは知らないが、私は彼女が全てを受け入れていることを尊重したい、それだけだよ。冷静に見えているなら儲けもんだな」

「そういう…もんなんすかね」

 

俯いた彼の顔は既に副隊長のソレではなかった。全く、手のかかる後輩だ。

 

「周りを気にするなんて、恋次らしくもない。最後の最後は己に従え。じゃなきゃ一生後悔するぞ」

「何が言いたいんですか……?」

「何も?年寄りの助言というものだよ」

 

年寄りって年じゃないでしょ、と恋次は力なく笑った。まだ迷っているのだろう。だが、こればかりは他人が干渉することじゃない。

兎も角、恋次ならルキアにキッチリ伝えてくれるだろう。

 

恋次と別れた昴は、藍染隊長の待つ五番隊に引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

昴が引き返していくのを、恋次はただ見ていた。昴の用は済んでいるのだから、ただ見ていた、という表現はしっくりこないかもしれない。

正確に言うなら恋次は、自分ではルキアを助けるどころか昴をルキアに引き合わせることさえ(かな)わないということを痛感していた。

 

「‘‘どうか心安らかに‘‘……」

 

口に含める様に言ってみたその言葉は、言いようのない苦みとなって恋次の顔を顰めさせた。

 

やはり分からない。納得できない。

そう願う昴も、義妹の刑に関心も示さない朽木隊長も、ただ死を受け入れるルキアも、皆揃って恋次の理解の外だった。

 

(俺らしくもない、か)

 

恋次は迷いを誰にも悟られぬよう、深呼吸してから隊舎牢の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

そろそろか、とルキアが顔を上げると、その予想通りに隊舎牢入り口が音もなく開いた。

 

「よう、ルキア」

「よ、よう、恋次。まったく、貴様は毎日毎日飽きもせずここに顔を出して…副隊長というのはそんなに暇なものなのか?」

 

ルキアは、今日もやって来た幼馴染の顔を見てわざとらしくため息を吐いた。いつもの恋次ならすぐに乗ってくるこの挑発に珍しく今日は乗らず、要件を簡潔に述べた。

 

「昴さんからの伝言だ。‘‘どうか心安らかに‘‘だとよ。キッチリ伝えたぜ」

 

その瞬間、ルキアの目の前で火花が散った。恋次に動揺を悟られぬよう、固く瞼を閉じる。

昴のその言葉は、何も知らない者が聞けばただの別れの言葉だろう。先輩から死にゆく後輩への(はなむけ)の言葉。しかし、昴とルキアの間で交わされたソレは、そういう意味ではないことを彼女は知っていた。

 

(良かった―――一護‼生きていてくれて本当に良かった!)

 

ルキアの最後の憂いは取り除かれた(黒崎一護は生きていた)―――それがあの言葉の本当の意味。

ただ一言で、こうも救われる者もいるのだ。

 

(ありがとうございます、昴殿)

 

ルキアは目を閉じたまま、恋次が牢を出ていく音を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「橘です。失礼します」

 

五番隊に戻った昴は、その足で隊長の執務室までやって来た。戸を開くと桃は居らず、藍染のみがその椅子に座っていた。

 

「おはよう、橘君。少し遅かったね。何をしていたんだい?」

「おはようございます、藍染隊長。それほど急ぎだったとは思いませんで、ちょっと井戸端会議に興じてきたんですよ」

「六番隊でかい?」

 

これは驚いた。昴が六番隊に行っていたのはそれほど長い時間ではない。桃にもどこに行くかなど告げずにフラフラ行動していた昴の行動を知っていたとは。

偶々…な訳はないな。

 

「……ええ。というか隊長、単刀直入に言っていただけますか?私がこういう駆け引きを嫌っているのは御存知でしょう?」

「そうだね、では簡潔に言おう。君は休暇中に現世に行って何をしていたんだい?」

「何でそんなことまで知ってるんですか⁉現世にはプライベートって言葉があるんですよ?」

 

そこまでバレていたのか。どこまで伝わっているのかは知らないが、罰則でもあるのだろうか…嫌だな…

 

「小耳にはさんでね。それで、どうなんだい?」

「ささやかな息抜きですよ。暫く現世に行ってませんでしたから」

「それで通ると思うかい?」

「通していただきます」

 

下手に喋って罰が増えるよりは黙っていたほうが良い。試すような藍染の視線を真っすぐと見つめ返すこと数秒、二人の間には耐えがたい沈黙が流れた。

 

「―――ふう、まったく、君って子は…橘君、君は今自分が置かれている状況を分かっているかい」

「ええ。理解しているつもりです」

 

五番隊第四席であり、極囚・朽木ルキアの関係者――

 

「なら、あまり僕らを心配させるような行動は控えてくれないか。万が一君が罰則などを受けて抜けてしまったら、取り返しのつかない大穴が五番隊に空いてしまう」

 

昴は姿勢を正すと、大きな声で答えた。

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると、正直嬉しいです。しかし、私は自分が正しいと思ったことをこれからも貫きますよ。それこそ、隊長はよくご存じのはずでは?」

「…それもそうか。実に君らしい。でも、無理はしないでほしい。君はもう、君だけのものではないんだ」

「善処しますよ」

 

 

ニヤリと笑って昴は部屋を出た。

 

(罰則とかなくて良かった!)

 

胸を撫で下ろした昴に反省の色はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へェ!こりゃァ、絶景だなァ!」

 

彼が今いるのは中央四十六室――が、あった場所だ。

あった、という表現には勿論理由がある。彼の目の前にいる元中央四十六室は――全滅していた。

 

『それは死者に対して失礼なのではありませんか?死者は(いた)むべきものであって、辱めるものではありません』

 

「君は優しいねェ。良いんだよ。彼らには当然の報いだろうから。彼らのせいで一体何人が不当に裁かれてきたんだろうね?」

 

彼の言に、〈彼女〉は悲し気に目を閉じた。

 

『……我が主よ、わたくしの前では強がらなくても良いのですよ』

 

「強がっている?僕がかい?」

 

『はい。これは決して、貴方の無力が招いたことではございません』

 

凛とした声に一瞬目を大きく開いた彼は、諦めたように息を吐いた。

少しそれが震えていたのを、〈彼女〉は指摘しなかった。

 

血が乾ききっている。一日二日の殺害現場ではないのだろう。

それでもなおこの部屋に満ちている死の匂いに、未だに彼の心臓が強く脈打っている。

彼は静かに息を整えると、そっと目の前の円卓に触れた。

 

「この事態に誰も気づいていないということは、やはりこれら一連の犯行は…藍染一派に()るものか」

 

『ええ、そのようです。この事を、誰にもお伝えにならないおつもりですか?』

 

「あァ。彼らにはまだ泳いでもらう。それに、僕ァ死んだことになっているんだよ?話に行ったところで、ややこしいことになるに決まっている」

 

『それもそうですね』

 

互いに笑みを交わすと、彼は歩き出した。

 

 

 

「とうとう動き出した―――逃がしはしないよ、藍染」

 

 

 

 

 




ルビに漢字の入った言葉を使うと、読みにくいことこの上ないですね。
なるべく控えながら書いていきたいと思います。

今回も最後まで読んでくださってありがとうございました!

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