紫苑に誓う   作:みーごれん

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(恋次の傷跡…あれに残っていたのは相当濃い霊圧だった。まるで、霊圧で傷ができたのかと思うほどに)

 

目的の場所に向かいながら昴は考えていた。

副隊長が倒されたということで、戦時特例が発令され本格的に隊長格が戦場に駆り出される。その前に彼らを見つけなければ。それに、花太郎をその場から離さなければ。いつ巻き添えを食うか分かったモノじゃない。ルキアの刑が予想以上に重かったように、花太郎にも何らかの影響が出てくるかもしれない。

 

(あれ程の力がある相手のようだな、黒崎一護という男は。さてさて、彼は生き残っていける奴かどうか…)

 

今昴がいるのは地下だ。

瀞霊廷の地下には、水路を伴った地下通路が張り巡らされている。今は補給経路に使ったり、掃除したりしている四番隊だけがここの地理と、もっと言うなら存在を把握しているため、身を顰めるにはうってつけの場所だ。

以前、ここだと色々とショートカット出来て楽だと花太郎が言っていたのを思い出す。案の定彼の霊圧を感じた。

 

(一、二、三人だな。見張りも無しとは不用心なことだ)

 

昴はそっと斬魄刀を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チャド達はルキアの居場所を知らねえ。俺が行かねえと――」

「一護さん、駄目ですってば。ほら、まだ治ってないんです。そんな体で出て行ったら、今度こそ本当に死んでしまいますよ?一護さん!」

 

ゴッ!

 

一護は、花太郎の説得を無視して無理に動こうとして殴られた。どうやら、岩鷲にやられたようだ。

 

「ふんっ!この程度でぶっ倒れる奴のどこが大丈夫なんだよ。治るまで大人しく寝てろ、ボケっ」

 

(岩鷲、てめぇ…)

 

意識を手放しかけた刹那、妙な悪寒がして意識が手元に戻ってくる。

一護は踏ん張ると、体勢を立て直した。

 

「何だよ?この寒気……」

「一護さん、どうしたんですか?ここは地下ですから年中一定の気温になってるんで、寒いなんて…え?」

 

花太郎の顔色が変わる。岩鷲もそれに気付いたようだ。

 

「何だよ、花。心当たりでもあんのか?スゲー寒くなってきてんだが」

「一護さん、岩鷲さん!すぐにここからはな「もう遅いよ、花」―――…昴さんっ!」

 

一護と岩鷲もつられて声の方を見る。人がいたなんて全く気が付かなかった。

パキン、と何かがひび割れるような音が隣の川から聞こえてきたが、そちらに目を向ける余裕は無い。

 

「てめぇ、何者(ナニモン)だ?」

 

一護がその場を動こうとすると、花太郎が今までに無く鋭い声で言った。

 

「一護さん、動かないで‼」

「花太郎?どうしたんだよ、急に!」

「もう僕らは彼女の術中なんです。一歩でも動けば氷漬けにされてしまう…いえ、動かなくても、彼女の意思次第でそうなります」

 

花太郎の尋常ではない冷や汗を見て、これはただ事ではないと一護は理解した。

 

「これは、彼女の斬魄刀、〈氷華〉の技の一つ、‘‘雪月華(せつげっか)‘‘――凍結した地面に対象が足を踏み入れたが最後、そこから対象をも氷漬けにしてしまうんです。もう、僕らが立っている場所以外は彼女の凍結領域です」

「そんなん有りかよ……ってか、その彼女って誰なんだよ⁉」

 

暗闇の方から手が伸びてくる。顔はまだこちらからは見えないが、確かに女性だというのは分かる。

動揺しながらも花太郎の説明で合点がいった。先程の音は凍った川面がひび割れる音だったのだ。

 

「花、戻るぞ。伊江村三席が探していたよ。今ならまだ、迷っていたと言えば誰も疑わない」

「昴さん、何で斬魄刀を解放してるんですか?上位席官の廷内での解放は厳罰が下りますよ」

「恋次が()()()()に斬られたせいで戦時特例が発令されたんだよ。花の斬魄刀みたいな例外じゃなくても、今は解放できるんだ」

 

くっ、と苦し気に息を吐いた花太郎が、視線を‘‘彼女‘‘からそらさずに僅かに一護の方に顔を向けた。

 

「彼女は、橘昴。五番隊の第四席です」

「四席?ってことは恋次より弱いのか?」

「面白い質問だね」

 

会話に入ってきた女性死神の顔がとうとう見えた。それを見て一番驚いたのは、なんと岩鷲だった。

 

「アンタは、兄貴を殺した死神の片割れ…!」

 

殺した、という言葉に引っかかったのだろう。その死神は、岩鷲の方を向いた。

 

「兄貴?君の兄の名は何と言うんだ?」

「…志波海燕!俺が知る最強で最高な唯一の死神だった男だ!今でもはっきりと思い出せるぜ。兄貴を担いできた二人の死神の顔をなぁ。アンタだろ?そのうちの一人は!」

 

それを聞いて彼女は零れそうなほど目を見開くと、そうか…と呟いた。

 

「君がこんなところに来るなんて、運命の悪戯(イタズラ)ってやつなのか?でも、そんな者にはご退場していただかないとな。大丈夫、殺しはしないよ。そんなことをしたら、海燕副隊長とルキアが悲しむもんな?」

 

それを聞いて、今度は一護が反応した。

歯を食いしばり、思い切り彼女を睨みつける。

 

「アンタ、ルキアの知り合いか?」

「そう殺気を出すなよ。そんなボロボロの体ではでは本気は出せまい?」

「本気なんて出さなくても、四席のアンタなら倒せるぜ?なにせ恋次は」

 

威圧も含めて自慢げに一護が言おうとすると、彼女が不敵に笑いながらそれを遮った。

 

「君が倒したんだろう?知っているさ。凄まじい霊圧が彼の傷跡に残っていたからな。でも、恋次を倒すのにそれだけ満身創痍になるなら、私を倒すのなんて土台無理な話だよ、黒崎一護」

「何で俺の名前知ってんだ…⁉てか、どういう意味だよ⁉」

 

もったいぶるように彼女がゆっくりと近づいてくる。あと一歩で一護の斬魄刀――〈斬月〉が届く、というところで彼女は止まった。

 

「私は現世で君を見たことがあるんだよ。私はあんなに近くにいたのに、君は気付かなかった。君は霊圧を失っていたからね。どうやって力を取り戻したかには興味があるが、今はそんなことを聞いている時間は無い。最後の君の質問に簡潔に答えるなら、私は恋次よりも強い、それだけだ」

「なん…だと……?」

()()彼と手合わせしているが、彼は私に勝ったことがないってことだよ。この三十年程で一度も、ね」

 

あの恋次が一回も勝ったことのない相手、だと?状況は最悪だ。だったら、イチかバチか――

足に力を籠め、一気に加速する。花太郎の話が正しいなら、地面に足が凍りつくより早く動いて勝負をつける!

 

「実に最悪な一手だよ、黒崎一護」

 

咄嗟に〈斬月〉で体を庇うと、鋭い金属音がして思いっきり後ろに吹っ飛ばされた。

思わず視線が足元に向かう。マズイ、足が地面に着い――

 

「余所見とは余裕があって結構なことだ」

 

一護の体が‘く‘の字どころか‘つ‘の字に曲がる。着地前に腹を殴り飛ばされた。この細腕でよくもと思えるほど怪力だ。激痛が走るが、意識は飛ばない。

 

「ッ」

「一護!」 「一護さん!」

 

岩鷲と花太郎の声が聞こえるが、返すこともできない。空中にいる間に、張り手二発と拳骨が入ったが、加減して打たれたがために鈍い痛みだけが後を引いている。

 

「全く、いくら怪我人でも、こんな戦闘の素人に恋次は負けたのか。(しご)きなおさないといけないな?」

 

地面に着いた地点から、一護の体が冷えていく。

 

(このままじゃ、まずい)

 

もがこうにも、既に凍り付いてしまった体を引き剥がす余力はもう一護には残っていない。

 

「花、もう一度言う。帰るぞ。今ならまだ間に合う。この二人は私が責任を持って流魂街に出そう。嫌だとごねるなら、この二人は護廷隊に突き出す。生きては帰れないだろうな」

「昴さん…何でそんなことを⁉昴さんはルキアさんの処刑について何とも思わないんですか⁉」

 

花太郎の訴えに、彼女は表情を変えないまま首を横に振った。

 

「理不尽だと思うさ。だが、ルキアはもう腹を括った。これ以上我々が騒ぐのは、彼女の心労を増やすだけの無駄な行為なんだよ」

「そんなの分からないじゃないですか!」

「分かるさ。ルキアは最後の憂いを取り除くために私に黒崎一護が生きているかを確認してきてほしいと頼んだんだから」

 

「そうやって兄貴も見殺しにしたのか」

 

押し黙っていた岩鷲は口を開いた。

 

「いいや。でも、あの時海燕副隊長が望んで亡くなったことは事実だよ」

「ふざけんな!兄貴はそんな自殺志願者じゃねえ!〈志波式射花戦段・旋遍ば――〉」

 

岩鷲が大量の花火を投げようとしたところで、昴が斬魄刀で岩鷲の両手を少しずつ斬った。途端、岩鷲の腕が凍って動かなくなった。〈氷華〉の能力は斬りつけたものの温度を自由に下げる能力。斬られるだけで一巻の終わりだという事を伝え忘れていたことを花太郎は思い出した。低い悲鳴を上げて岩鷲が崩れ落ちる。

 

「岩鷲さん!―――やめて、やめてください!」

「帰る気になったか?花」

 

岩鷲、一護をそれぞれ見た花太郎は、首を横に振って、自身の斬魄刀を引き抜いた。

それを見ていた一護と岩鷲は、ただただ驚いた。今まで見てきた、花太郎の意志の弱そうな迷いを孕んだ瞳は消え、そこには覚悟を決めた強い光が宿っていた。死ぬ覚悟ではない。昴を倒す、という覚悟だ。

 

「満たせ、〈瓢丸(ひさごまる)〉」

 

その目を見て驚いたのは二人だけではなかった。昴もまた、長い付き合いである幼馴染がこんな目を出来るなど露ほども知らなかった。どんな時も甘くて、優しいのが花太郎だった。

 

「その斬魄刀で二人を治して、また戦わせるのか?逆立ちしたって彼らじゃ私には勝てないよ?花自身が戦おうにも、その斬魄刀で攻撃ができないのも知っている」

 

花太郎の斬魄刀は、刀を当てた対象の傷を吸い取り治すという能力を有している。治すたびに刀身にあるゲージが赤く染まっていき、溜まりきるとそれを一気に放出することができるが、それ以降は暫く攻撃力がゼロ状態になってしまう。怪我人を治すという特性上、花太郎は上位席官ながら常時斬魄刀の携帯と解放が許可されていた。もしもの時の回復用だ。

 

「違いますよ。―――一護さん、岩鷲さん、僕がお二人を治しても、手を出さないでくださいね」

 

そう花太郎が言うと、一護の方に一歩、二歩と花太郎が進みだした。足が凍結する度、〈瓢丸〉で回復している。その様子を、昴はただ黙って見ていた。

 

「花太郎、お前…」

「一護さん!良かった、まだ意識があったんですね。僕じゃ抱えられませんでしたから」

 

そう言って一護を治すと、今度は岩鷲の方を治した。

そして、一歩、また一歩と昴の方へ向かっていく。まだゲージは溜まりきっていない。

 

 

 

 

昴の前に花太郎が辿り着くと、その刀を昴の胸に当てた。途端、ゲージが一気に上がっていく。

 

(―――――心の傷を治しているのか⁉)

 

昴は自身の胸がこころなしか軽くなったように感じた。花太郎はやはり、どこまでも甘く、優しい。目には見えない、回道では治せない傷を負った昴のことをずっと考えてきてくれていたのだろう。だが、昴はこれを望んでいなかった。

 

(この痛みは、自分で生涯背負っていくと決めたものだ!いくら花でも、土足で踏み込んでくるなど許さない‼)

 

「いい加減にしろ、花!そんな事、ぼ――」

「動かないでください」

 

昴は、〈瓢丸〉のゲージが満タンになっていることに気が付いた。それを花太郎は昴の喉元に当てている。ゼロ距離から解放されれば、いくら昴でも無傷では済まない。

 

「‘‘雪月華‘‘を解いてください。そして、僕たちをもう追わないで」

「花、本当に分かっているのか?今ルキアを助けようとするのは、例え死神だろうが最悪その場で斬り捨てられても文句が言えない事なんだぞ⁉そしてこの戦力差だ。勝ち目なんてない。私を一人にしないでくれ!」

「ずるい言い方ですね、昴さん。すみません、これはもう僕が決めたことなんです」

 

にこりと昴に笑いかけたその目は、ルキアのものと同じだった。いや、正確には、花太郎のものは何が何でも助けるという覚悟を決めた目だった。ルキアの覚悟を受け入れた昴は、この覚悟もまた受け入れざるをえなかった。

 

「このッ…大馬鹿野郎が……そんなことそんな目で言われたら、何も言えなくなるじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昴が斬魄刀を封じると、花太郎は安心したように一息ついて、彼も刀を納めた。

 

「分かったよ、花。私はもう君たちを追わない。勝手に行って、勝手に死んじまっても、なァんとも思ってやらんぞ」

「ありがとうございます、昴さん。絶対死んだりしませんから。一人にしたりしませんから」

 

 

 

それに昴は答えず、奥の方へと引き返していった。暗くて三人からは表情が見えなかった。

 

((スゲェ…))

 

花太郎の評価が一護と岩鷲の中で相当上がったのは間違いなかった。

気が緩んだ途端、一護は精神的な疲労が一気に体に流れ込み、意識を失った。

 

 

 




・独自設定(設定したからと言って再度使用するとは限りませんので、悪しからず)

1、花太郎の斬魄刀は怪我人が居るときはいつでも解放許可が出ている。

折角の能力なんだから、本編でもっと出てきても良かったのにと思います。
一応帯刀はせず、四番隊がいつも背負ってる救護カバンみたいなものに斬魄刀を入れているイメージです。
この設定が無いと、今回あまりにも花太郎たちが不利だったので…

2、花太郎の斬魄刀が治せるのは、彼が‘‘傷‘‘と認識したモノ

アニメオリジナルストーリーに、虚化しかかった魂魄の胸の傷を花太郎が斬魄刀で無理やり治していたのを見て考えました。独自解釈の気が強い設定です。


・ちなみに、昴が恋次と時々手合わせをしているだのなんだのというのはハッタリです。
恋次が十一番隊に行ってからは彼と昴が会うこと自体珍しい状態だったので…
移籍前に手合わせしてから昴の勝ち逃げが続いているので、殆ど嘘は言ってないんですが。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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