紫苑に誓う   作:みーごれん

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物数寄のほね様、誤字報告ありがとうございました!


殺害と

「藍染隊長おおぉぉ―――ッ!」

 

瀞霊廷中に響き渡りそうな桃の声が響いてきた。昨晩すっぽかした業務を進めるため隊舎へ歩いていた昴は、思わず何事かと立ち止まった。

桃は感情表現が豊かな方だが、それは正の感情に大きく振れていた。しかし今の悲鳴は明らかに負の感情――絶望と哀しみが全面に表れていた。

 

(何があった⁉)

 

声のした方に走っていくと、斬魄刀まで解放してイヅルと桃が斬り合おうとしているところだった。

 

「桃!イヅル!馬鹿っ、やめろっ!」

 

昴の声は届かない。

刀同士が交わる直前、人影が二人の間に割り込むのが見えた。

 

「動くなよ、どっちも」

「日番谷君……」

「捕らえろ、二人ともだ」

 

「何があった⁉桃」

 

辿り着いた昴を冬獅郎が見た。

その目には、深い後悔の念が浮かんでいる。

 

「総隊長への報告は俺がする。そいつらは拘置だ。連れていけ。橘、お前は四番隊に連絡に行ってくれ」

「連絡?何の」

 

彼の視線が背後の建物に移る。昴もそれに続いた。

冬獅郎の翡翠色の瞳が映したのは、信じがたい景色だった。

 

「藍染……隊長……?」

 

昴の遥か頭上には、斬魄刀によって(ハリツケ)にされた血まみれの藍染惣右介の果てた姿があった。

 

「そ…うか…これを見て桃は取り乱したんだな。だが、何故イヅルに斬って掛かったんだ?」

「本当は市丸に刀を抜いたんだ。あの時、野郎‘‘大変なことになったな‘‘とかぬかしやがった。それに雛森が逆上したんだ。‘‘お前がやったのか‘‘、ってな。市丸を守るために吉良が雛森に食って掛かった。昨晩、俺があんな話をしたせいだ」

 

それで後悔していたのか。確かに、昨日の今日でこの有様なら桃が不安定になるのも頷ける。

ギンは少し離れた位置から冬獅郎に話しかけてきた。

 

「あんな話って何?日番谷隊長は雛森副隊長に何を吹き込んだん?」

「市丸…お前、雛森を殺そうとしたな?」

「はて、何のことやら?」

「今のうちに言っとくぞ。雛森に血ぃ流させたら――――俺がお前を殺す」

「そら怖い。悪い奴が近づかんよう、よう見張っとかなあきませんな」

 

隊長同士のにらみ合いだ。凄まじい殺気を間近で感じている昴の身にもなってほしいものだ。

このタイミングで巡回中の死神がわらわらやって来た。各々が藍染隊長の姿を見て呆然としている。

 

「君たち、藍染隊長を降ろして差し上げてくれ。日番谷隊長、もういいだろう?総隊長への報告を頼む」

「……分かった。後は任せていいか、橘」

「ええ」

 

もう一度冬獅郎はギンを睨むと、さっさと歩いて行った。

冬獅郎が見えなくなると、ギンはわざとらしくおどけて言った。

 

「えらい嫌われようやねえ。ボク、偶々通り掛かっただけやゆうのに」

「本当に貴方が殺したんですか?」

 

真っ直ぐ目を見て昴は問うてみた。ギンは普段開かない目を少しだけ開いたかと思うと、すぐ閉じて胡散臭い笑みを顔に貼り付けた。

 

「違うよ。というか、‘‘そうや‘‘、なんて言う奴居る思う?ホンマにそうやったらどうするん」

「違うんですね。良かったァ!人を疑うのは疲れるからなァ」

「…キミ、人の話聞いとった?」

「勿論。違うんでしょう?なら良いんだ。私は君を信じるよ」

 

それを聞くと、ギンは珍しく笑みを消した。だがまたすぐに、口角が吊り上がる。

 

「キミは――面白い子やね。調子狂うわ」

 

やれやれ、というように笑うギンは、いつもの笑顔より少し柔らかかったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

昴が地獄蝶を四番隊に送ると、四番隊副隊長の虎徹勇音が駆け付けた。

 

「橘四席、藍染隊長の御遺体、確かにお受け取りいたしました。卯の花隊長が只今受け入れ準備を進めて下さっています。我々が総力を挙げて検死させていただきます」

「宜しくお願いします」

「この度は、お悔やみ申し上げます」

 

彼女の目は同情に満ち満ちていた。藍染隊長は死去、副隊長である桃は一時ではあるが錯乱し拘置所。残された隊がどうなるのかは目に見えていた。

 

「お気遣い感謝します、虎徹副隊長。我々のことはお構いなく。隊長の死因究明及び犯人解明への研究、宜しくお願いします」

「勿論です」

 

 

騒ぎが一旦引いたため、後は総隊長に派遣された一番隊員たちに任せて昴は五番隊舎に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「昴さんっ!一体どういうことなんですかっ⁉」

 

昴は部屋に入るなり森田を筆頭に他の隊員達に質問攻めにされた。

余計な混乱を避けるため、藍染隊長の遺体を降ろした後に来た死神は許可なくあの場に入ることが禁じられていた。従って状況が分からず取り乱すのは仕方のないことだ。

 

「席官及び各班班長・副班長全員、集会所に集まってくれ。説明は纏めてそこでする」

 

 

 

 

 

昴はそこで、藍染隊長の遺体発見時の状況、雛森副隊長の捕縛時の状況、隊長の遺体は四番隊にあること、犯人及びその意図は不明であることを順に話した。

 

「以上がこれまでの概要だ。何か質問は?」

 

昴が話し終えると、森田が率先して質問してきた。

 

「これからの五番隊の対応はどうしていけばいいんでしょうか」

「良い質問だ。現在は旅禍騒ぎもあって混乱が広がり続けている。隊を纏めるためにも雛森副隊長は今日明日で釈放されるはずだ。だが、それまでは森田に隊長代理として五番隊の全権を握ってもらう。私と日下が副隊長代理だ。よって、我々三人が班長を務める一班から三班までは、副班長を中心に隊舎周辺の警護、他の担当を他班で行う。他には?」

「ちょっと待ってください!僕ではなく橘四席が全権を握るべきだと僕は思います!」

 

全員の視線が森田に集まる。

半ば予想していた状況に、昴は少し眉を寄せた。

 

「今一番状況を把握できているのは橘四席です。それに、緊急時の対応は僕より貴方の方が適格だ。先日の旅禍の侵入騒ぎで思い知ったんです」

「それは出来ないんだよ、森田三席。今回旅禍に私の顔見知りがいるようなんだ。それに、近日処刑予定の極囚朽木ルキアが私の友人であることは周知の事実だろう。私では公私混同しかねない。だから、本来は副隊長代理もすべきではないと思ったんだが、これは総隊長からのお達しでね。やってくれるか?」

「っ、わかりました!謹んでお受けいたします」

 

生真面目に一礼した彼を見て、一瞬張り詰めた空気も和らいだ。昴は視線を彼から外すと、他の隊員に向き直った。

 

「他には?」

「藍染隊長を殺害したのは、旅禍…なのでしょうか」

「言っただろう、‘‘犯人は分からない‘‘と。ただし、その可能性は否定できない。命の危険を感じたら無理をせず引くんだ。いいな?」

「はい!」

 

質問した彼は、言葉を続けようとして止めた。何を言おうとしたのかは容易に想像がつく。

それは、死神が―――護廷隊士が隊長を殺害した可能性。

今、隊士同士で探り合いをするべき時ではないとここにいる者は分かっている。だから誰もそれを追及したりはしない。流石は班や隊を纏める立場にある者達――皆優秀なのだ。

 

「他に質問はないな?なら、このことは君たちから自分の班員たちに伝えてほしい。だが、これほどの情報だ。万一の行き違いに備えて、説明は三班ずつ纏めて行ってくれ。必ず今私が述べたことを欠かさず伝えるように」

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

 

一班から三班までに説明を終えた昴、森田、日下は、ひとまず人のいなくなった集会所から出て隊首室に入った。隊長、副隊長の仕事に取り掛かるためだ。

 

「アホみたいな書類の量じゃないっすか…隊長方はいつもこんな仕事してんですか」

「そうだぞ、日下。君がいつもやってる量だって、実は桃がちょっと請け負ってくれてたんだぞ?」

「マジすか⁉今までで俺十分無理なんすけど⁉」

「ああ、でも、五席のミスの直しは殆ど四席がやってくださってますよね」

 

にこやかに森田が日下に圧力をかけている。かけられた本人は全くそれに気付いていないようだが…

 

「マジすか⁉サーセン!」

「森田、余計なこと言わんでいい。日下、書類は私と森田二人でやるから、君は各班の指示を任せる」

「戦力外通告みたいっすね」

 

昴が思わず、書類に関しては‘‘みたい‘‘じゃないと言おうとしたところで戸がノックされた音が聞こえた。こんな時にここに来る人物…誰だ?

どうぞ、と答えると、意外な人物が姿を見せた。

 

「冬獅郎!」

「日番谷隊長だ。結局一度しか呼んでねえし。まあいい。お前らの追加分の仕事、こっちに寄越せ」

 

ぶっきら棒な口調だが、昨晩の発言と桃を捕らえる指示を出したことに責任を感じているんだろう。そんなに気を回さなくても良いのに。

 

「まだ気にしてたのか?別にウチは大丈夫だ。今の状況じゃ、君のところだって他隊に気を遣ってる余裕は無いだろ?」

「そんなんじゃねえよ。俺はこう見えてお前らより優秀だからな。仕事は早く終われば誰がやろうが一緒だ」

「――橘四席、今日だけは甘えさせていただきましょう。下手に明日に残すと、出仕した雛森副隊長の負担が増えます。ですが、流石に全てをお願いするわけにはいきませんので、半分をお願いしてもよろしいですか?日番谷隊長」

「森田がそう決めたのなら私に異論は無い」 「ああ、任せておけ。また何かあったら連絡しろ」

 

こういう扱いは、やはり森田が一番だ。誰にも不快な思いをさせずに話を纏めることに長けている。彼もまたトップの器なのだ。

冬獅郎の願い出も、正直なところ大助かりだった。まだまだ混乱している隊を纏めながら通常業務に加えて現在の戦時体制の指示をこなすなど、三席以下には殆どといっていいほど無い経験だ。既に三人はいっぱいいっぱいだった。

 

「さて、取り掛かるか」

 

こうして五番隊の長い長い一日が始まったのだった。

 

 

 




尸魂界の死神って、毎日毎日一体何の書類を処理してるんでしょうか?
謎です。謎過ぎます。

次話は書類仕事終わってからのスタートです。
…普通はそうですね。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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