紫苑に誓う   作:みーごれん

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久々に起きてるうちに連続で投稿しました。
じれったかったので…
そのせいでやるべきことに手が付きません。


向かう

「あれ、昴さんまだいたんすか」

 

入ってくるなり日下が間抜けな声で言った。

それもそのはず、執務室に昴の姿を見たからだ。

 

「君ってやつは…出合頭にそれは無いだろ?私だって動きたいのは山々なんだが、こんな早くから動くほど彼らは馬鹿じゃないってことだよ」

 

よくよく考えれば分かることだ。ルキアの処刑まで後二時間半。今は動くには早すぎる。

 

「まあ、何かあったときにすぐに対応できるようにはしてるさ。だから日下、こんなタイミングで無いとは思うが、私への来客があっても通すなよ?」

 

え、と日下の顔が強張った。

 

「いや、だってまさかまだいるとは思ってなくて」

 

もごもご言っている日下を押しのけて、一人の死神が―――伊勢七緒が入ってきた。

 

「今のは一体どういうお話でしょうか、昴さん」

「今日の隊の配置の話だよ、七緒ちゃん。それより、こんな忙しい時期にここに一体何の用かな?」

「昴さんの様子を見に来たんです。朽木さんの処刑は、貴女にとって最大の関心事でしょうから。心配して来てみれば、悪い方の予想が当たりましたね。今の嘘には、少し無理がありますよ」

 

刹那、七緒が手のひらを昴に向けた。何をするのか分からず、一瞬反応が遅れてしまった。

 

(この距離で⁉だが食らったら最悪処刑に間に合わなくなる!)

 

「―――、――」

 

その声は、発した本人にしか聞こえることはなかった。

 

昴が回避行動に移ろうとした直後、無情にもそれは放たれた。

 

「遅い!」

 

―――――白伏

一時的に相手を昏倒させるための鬼道だ。普通は超至近距離で発せられるために、昴は油断してしまっていた。少し離れた位置から放たれたため、霊力が分散して通常以上に効果の継続時間が短くなるはずだが、そのまま昴の霊力を封じて牢に放り込まれでもしたら、ルキアを助けに行く余裕がなくなってしまう。

 

「後はボクらに任せて、ちょぉっと寝ててね」

 

七緒の奥に、もう一人の影が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

ズダァン‼と派手な音を立てて倒れた昴を見ても、森田と日下は動けなかった。普通なら助け起こしに行くべき場面だったのだが、七緒の後ろに新たな人物―――京楽春水が立っているのを見て、立ち尽くしてしまっていた。

 

「流石に、昴ちゃんに動かれちゃうとこちらも動くに動けなくなっちゃうからねえ。恨んでも良いよ。でも、この処刑を止めるのは僕らだ。七緒ちゃん、宜しくね」

「はい」

 

そう言うと、七緒は穿点――強力な麻酔薬――を昴に嗅がせた。一時的だった白伏での昏睡も、これでかなりの間継続するだろう。

我に戻った日下が、思わず叫んだ。

 

「どういう事すか…え、京楽隊長が、処刑を止める…?」

「悪いね、日下クン。詳しいことは言えないな~。でも、勿論山爺には内緒で頼むよ?じゃあ、昴ちゃんの介抱宜しくねぇ~」

 

 

 

 

五番隊の執務室を出た七緒は、やや不安そうに口を開いた。

 

「昴さんも処刑を妨害するおつもりだったのなら、協力していただけば宜しかったのでは?」

「昴ちゃんが副隊長だったらそれも考えたけど、処刑の場に立ち会う身分じゃない者がいるのを山爺は嫌うし、警戒されちゃうからね~。用心に越したことは無いってことだよ。抵抗されたら僕も出るつもりだったけど、昴ちゃんは逃げる道を選んだ。やっぱりあの子は優しいね」

 

京楽の目が細められる。その甘さへのある種の軽蔑と慈しみを浮かべた京楽の表情に、七緒は顔を伏せた。

 

「……確かに、白打戦に持ち込まれれば私が負けていました。昴さんの方は、攻撃するなど思いもよらない、という感じでしたが。本当は昴さんが自身の手で朽木さんを助けたかったでしょうに」

「そうだねえ。でも、これも確実に処刑を止めるためだよ。ここまでやったからには、絶対に成功させなきゃね。後は浮竹がどれだけの速さでアレを仕上げられるか……」

 

今までにないほど張り詰めた空気を纏った春水を見て、七緒も気を引き締めた。本番はこれからなのだから。

 

ルキアの処刑まで、後二時間―――――

 

 

 

 

 

 

「昴さん、昴さんっ!起きてください!昴さん!」

 

部屋に残された森田と日下は、必死に昴を起こそうとしていた。

 

「駄目みたいっす。何か…何か解毒薬みたいなもんは無いんすか⁉」

「少なくともここには無いです。有るとしたら四番隊か…しかし、この状況を僕たちは彼らに説明できない。つまり、協力を仰げません」

「四番隊になら一人いるじゃないっすか!昴さんに協力してくれそうなヒト!確か、名前は……山口花朗さん?」

 

一瞬、森田は知らない人物だと思ったが、四番隊で昴の関係者と言ったら一人しかいなかった。

 

「―――山田花太郎七席ですか!確かに彼なら、何とかできるかもしれません」

 

花太郎は、森田や日下と顔見知りだ。というのも、花太郎が昴に会いに来る時、大抵昴は外出している。そのため、花太郎に時間があるときはちょっと待っていようと粘っている間に二人と雑談をすることが間々あった。喋っている時間は日下の方が長いはずなのだが、名前をまだ憶えられていなかったようだ。

 

その時、部屋の扉が開き、巡回中だった隊員が動揺しながら入ってきた。

 

「森田三席!大変です!旅禍が脱走しました‼」

「何だと⁉いつ、どうやって?」

 

その隊員の話によると、つい先ほど救護詰め所に更木十一番隊隊長他五名が乱入し、囚われていた旅禍三名を強奪し逃走したとのことだった。

 

(何てことだ!もう彼らは動き出した。救護詰め所は今大混乱に陥っていることだろう。山田七席が無事ならいいが…まさか、更木隊長が出てくるとは思わなかった)

 

「それでは――――っ⁉」

 

森田が言いかけた瞬間、巨大な霊圧が消失した。つい先ほどまで、とんでもない大きさの霊圧が二つ、衝突していた。恐らく一つは朽木六番隊隊長、もう一つは…阿散井同隊副隊長か?彼がこんな大きな霊圧が発せられる人物だったとは。

だが、この瞬間、阿散井副隊長と思われる霊圧が突然消失した。この消え方は――――

 

「死ん、じゃったんすか?恋次は……」

 

森田はぎりぎりまで霊圧知覚を全開にすると、そこに微かな反応があった。

 

「いえ、辛うじてまだ生きているようです。しかし、このままでは…」

「何とかならないんすか⁉」

 

恋次が五番隊に入っていた時、最も多く彼を指導したのは勿論昴なのだが、その次に彼と接していたのは日下だった。日下は書類仕事に疎い分、後輩の鍛錬に付き合うことが多かったのだ。攻撃的に相手を攻める戦い方恋次とが似ていたこともある。ともかく、日下は恋次を特に可愛がっており、このまま森田が止めても日下が恋次のことで頭が一杯になるのは目に見えていた。

 

「日下五席、彼のところに行ってください」

「良いんすか」

「ええ。行ってどうなるということでもありませんが、行かずに後悔しているあなたを見るのは嫌ですから。幸いまだ処刑まで一時間半あります。何とかそれまでに四番隊まで行って山田七席を呼んできてください。僕はここで指揮を執らねばなりませんから」

 

こくり、と頷くと、日下は瞬歩で部屋から恋次の霊圧が消えた地点へと向かった。半分会話に付いて行けないさっきの隊員は、昴が横たわっているのを見ると悲鳴を上げた。

 

「た、橘四席⁉どうなさったんですか!」

「あ…ああ、今仮眠を取っている最中なんだよ。ここの所激務続きだったからね。君も、報告ありがとう。持ち場に戻ってくれ」

「はい!森田三席も休んでくださいね」

 

ありがとう、と返しながら、そうも言っていられないと森田はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「日下五席…まだなんですか⁉」

 

森田は苛立たし気に呟いた。処刑まで後50分を切っている。極囚が磔になるのが執行10分前。そこまで行ってしまうと、最早磔架ごと壊さねば朽木ルキアを奪還できない。ここから双極までの距離を考えると、後5分以内に昴の目を覚まさせねば間に合わない所まで来ていた。

 

(僕が直接救護詰め所に行っていたほうが…いや、今日は寧ろいつも以上に混乱が大きく、結局動くに動けなかっただろう)

 

旅禍の脱走を幇助した更木剣八他四名は、七番隊及び九番隊の隊長、副隊長に捕捉された。そこで、更木剣八、班目一角、綾瀬川弓親の三名が足止めをし旅禍を他二名、草鹿やちる、荒巻真木造が逃走を援助し、今もまだ捕捉されていない。彼らの拘束も混乱の元凶の一つだが、一番の原因は更木剣八、東仙要、狛村左陣という、三人の隊長格の戦闘だ。東仙隊長は卍解まで行っている。先ほどそれも解けたようだが、霊圧の感触から考えて勝ったのは更木隊長の方のようだ。

 

(あの厳格な東仙隊長が廷内で卍解とは…更木隊長はそれほど強いということなのか)

 

そう森田が思った瞬間、今度は狛村隊長の霊圧が跳ね上がった。

 

(まさか、卍解⁉日下五席が遅いのは、これに巻き込まれたせいだったりするのか⁉)

 

そこまで森田が思ったところで勢いよく扉が開いた。そこには、花太郎を連れてきた日下の姿があった。

 

「遅いじゃないですか!」

「サーセン‼まさか花太郎さんが瞬歩出来ないと思ってなくて…戻ってくるのに倍以上時間喰いました!」

「そんなことより、昴さんはどこですか⁉」

 

花太郎が割り込んできた。早速彼女を任せて、森田は日下にこれまでの経緯を聞いた。すると、案外早い段階で花太郎と出くわしていたらしい。

 

「恋次が倒されたのを見たあいつの部下の理吉とかって奴が花太郎さんに助けを求めたんだそうっす。俺が向こうに着いた時に丁度花太郎さんが着いて、恋次の治療をしてくれたんすけど、途中で卯の花隊長が来てくれて、恋次を預けてこっちに花太郎さんに来てもらったってわけっす」

 

日下が話し終わると、今度は花太郎が複雑そうな面持ちになっていることに二人は気付いた。

 

「どうしました、山田七席?…やはり間に合いませんか」

「いえ、多分昴さんはもう目を覚まします」

 

そう花太郎が言った直後、昴が重そうな瞼を持ち上げた。

刹那、彼女は周りを見回し、自分の状況を思い出した風だった。

 

「花、今はいつだ⁉」

「処刑まで後45分を切ったところです!昴さん、急いでください」

 

それを聞くと、昴は跳ね起きて窓枠につかまり、振り返って一言呟いた後瞬歩でその姿が見えなくなった。

 

 

「皆、すまない。世話を掛けた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答える間もなく消えた昴の影に立ち尽くしながら、三人はもう何も自分にできることは無いのだと悟った。

 

「そこは‘‘ありがとう‘‘で良いんすよ」

 

日下が一言呟いた声が、部屋を通り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

そんな中、花太郎は一人不安を拭い切れずにいた。

 

(日下さんのお話が本当なら、伊勢副隊長がこんなギリギリに昴さんを目覚めさせるような量の穿点を盛っていたということだ。でも、話を聞く限り彼らは昴さんを巻き込まないように眠らせていたはず。そんな中途半端な調整をするだろうか…?必要な服用量は霊圧に比例する。とするなら、伊勢副隊長は昴さんの霊圧を読み違えていた…?)

 

そんなはずはない、と花太郎は一人首を振った。花太郎は昴から、七緒とは稽古をしてきていることを聞かされていた。それも、ここ十年や二十年の話ではない。もう百年になるのではなかっただろうか。そんな人が、昴の霊圧を読み違えるなんてことがあるのだろうか?

 

(伊勢副隊長と昴さんに余程の実力差が無ければそんなことは起こりえない。でももし、そうだったとしたら?)

 

「昴さん、貴女は一体――――」

 

花太郎の呟きが、後の二人に聞こえることは無かった。

 

 

 




今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました!

思ったより森田の心情が沢山出てきて作者には驚きです。
チョイ役のつもりだったのですが、書きやすくて…
今後の出演予定は殆どありませんが…

いよいよ次回は処刑場へ!
お待たせしました!

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