紫苑に誓う   作:みーごれん

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最近、投稿の度にお気に入りの数の増減が大きくてビビりな作者のメンタルをガンガン削っていきます。
昴のようなアイアンハートが欲しい今日この頃です。


負傷

喜助との約束を取付けられた翌朝

 

薫が教室に入ろうとすると何やらその前が騒がしい。

どうやら隣の二組の平子元隊ち…平子君のことで三組の子たちと言い合っているらしい。お笑いの話で彼と織姫が仲良くなったとかで浅野啓吾と揉めている。どうやら平子が井上に抱きついたとかなんとか…

 

薫が注意しようとすると、教室から一護が出てきた。顔が蒼白になっている。

一護は平子の胸倉を掴むと、平子を引っ張っていってしまった。

 

「え、何?どうしちゃったの、一護の奴…あそこであんなブチ切れるような熱血っ子だったっけ?」

「一護…?」

 

本匠千鶴と啓吾が戸惑っている。それはそうだ。あれ程切迫した表情の一護はきっと彼らにとっても初めてだろう。自らの闇に――内なる虚にその身を脅かされ続けている一護の心中を察することなど、同じ経験をしている者にしかできない。

それは薫も同じことだ。歯痒いことだが、手を貸さないのは喜助との誓約でもある。ある意味それが今は助かった。下手に話を聞いても何かをもたらせる訳ではないのだ。

 

「薫さん」

 

気付くと、織姫とチャドが薫の近くに来ていた。周りの生徒に聞こえないような声で織姫が囁いた。

 

「黒崎君から何か聞いていませんか?」

「いいや、僕ァ何も。ということは、君たちもか…」

「はい。でも、聞いても黒崎君は答えてくれないと思うんです。何もないからって」

 

そうだろう、と薫も思った。一か月もない期間しか接していなくとも、一護の為人(ヒトトナリ)は良く分かる。彼は優しいのだ。他の人間が傷つくのを極端に嫌がるから、自分のことで誰かを思い悩ませたりしたくないということだろう。その秘密主義が逆に周りを傷つけているとも知らずに。

 

「一護らしいけどね。辛いだろうが、こればかりは待つしかないんだ」

「……はい」

 

織姫とチャドは俯いた。彼らは本当に何も知らないのだ。もどかしい気持ちで薫の胸が痛んだが、それに蓋をして声を張る。

 

「さァ、皆教室に入って!そろそろチャイムが鳴ってしまいますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、有沢、今日はもう上がりだぞ?」

「先に上がって!あたし、ちょっと走り込みしてくるわ」

 

放課後、有沢竜貴は部活を終えると、ランニングに移るのが日課だ。

来年こそは空手のインターハイで優勝を勝ち取るために、日々これ鍛錬と続けている。

 

「相変わらず、気合入ってんな~」

「お疲れ!また明日」

 

走り出そうとして、ある人物――教育実習生の百目鬼薫が目に入った。思わず歩みを止める。

彼は昨日、授業中に()()()()。正確に彼女が感じたままに言うなら、他の皆に見えない何かになった。まるで、魂が身体から抜けてしまったみたいに。

一方の彼は何もなかったかのように授業を続けているのに、彼の本体の様な感じのするもう一方は黒い着物を着ていた。すぐに教室を出て行ってしまったからよく分からなかったが、あの服は一護が時々着ているものに似ている気がした。

 

「こんにちは、有沢さん。何か僕の顔に付いていますか?」

 

いつの間にか彼の顔を凝視してしまっていたようだ。

 

「え⁉いえ、なんでもないです」

「そうですか?なら良いんです。ところで、これからランニングですか?精が出ますね」

 

にこにこしながらそう言う薫には何の悪意も感じられない。昨日のことが夢だったかのようだ。

 

「ええ、まあ。ちょっと林の方まで」

「結構な距離ですね…頑張って」

 

そう彼は言うと、ひらひらと手を振った。礼を言ってまた竜貴は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

視線に気づいて薫がそちらを向くと、それは有沢竜貴――一護達の友人――だった。彼女は相当霊力があるらしい。過去に一度、”昴”としてここに来た時にも外からでも識別できるほどだった。もしかしたら死神も見えているかもしれない。

 

「こんにちは、有沢さん。何か僕の顔に付いてますか?」

 

あまりにも彼女が見つめてくるので、意地悪をしてしまった。動揺しているところを見ると、やはり彼女には薫の本当の姿も見られているらしいというのが分かった。これから彼女はランニングに行くらしい。仕事もこれで終わりだし、ちょっと彼女を観察してみよう。

……これは決してストーカーとかじゃない。

 

 

 

 

 

 

(森林公園か…良いところだ)

 

結局、薫は竜貴についてきた。勿論内緒でだ。バレたらバレたで、竜貴の話を聞いて来たくなったとか言い訳をしてしまえばいい。

そんなことを考えていると、巨大な霊圧が二つ、()()()()()

 

(あれは―――破面(アランカル)⁉)

 

昨日のモノとは全く別物の霊圧だ。量も密度も別種と言っていい。

すぐさま喜助に連絡を取る。

 

「浦原さん。森林公園で破面に出くわしました。数は二、昨日のとは別格に強い。まだこちらには気付いていません」

『分かりました。百目鬼サン、貴方は手を出さないでください。良いですね』

「―――義骸を着ていても?」

『‼』

 

喜助が驚いたのが通信機越しにも分かる。この義骸は彼の手製で、霊圧を漏らさない特殊仕様だ。薫の情報が漏れることは無い。

 

『そんなことしたら、死ぬっスよ』

 

ただし、義骸に入っていると斬魄刀を使うことは出来ないし、鬼道も瞬歩も精度や威力が格段に落ちる。直接霊圧を感じているのだ。薫だって、そんな状態で真面に闘って(かな)う相手でないことはわかる。

 

「物はやりようですよ。それに、ここを他のメンバーに任せたら犠牲者が増えるだけだ。違いますか?」

『……分かりました。ただし、ギリギリまで出ては駄目です。アタシらも急いで向かいますから、無理はしないでください』

 

その瞬間、破面の一体が周囲の魂を吸引し始めた。魂の弱い人々がどんどん吸い込まれていく。

 

「~~~~ッ‼」

『百目鬼サン!ここは抑えて!』

 

止めようと飛び出しそうになる体を押さえつける。今は、駄目だ。頭に血が上っていて勝てる程相手は甘くない。

 

「ぶはあ~!まじい」

「当り前だ。そんな薄い魂、旨いわけがないだろう?」

「だってこいつらが、俺たちの姿をジロジロ見やがるからよう」

 

破面の二体がそんな会話をしている。一方は痩せ型で両目から筋の様なものが伸びていて、頭の左側に仮面の一部が残っている。もう一方は大男で、色々とガサツそうだ。顎のあたりに仮面が着いている。

二人は竜貴が生き残っているのに気付いた。

 

(しまった!彼女がここにいたのを失念していた!)

 

一瞬迷って飛び出すのが遅れたが、竜貴に手をかけようとした大男の蹴りを受け止めたのはチャドだった。

しかし、彼では敵わないと悟ったのだろう。チャドは織姫に竜貴を移動するように指示すると、一人で向かって行った。

 

「浦原さん」

『……分かりました。必ず持ちこたえてください』

 

 

 

 

 

 

茶渡が倒れた。織姫が〈三天結盾(さんてんけっしゅん)〉を張って敵から彼を庇おうとすると、何かが彼女たちの間に滑り込んだのが辛うじて見えた。

 

「双蓮蒼火墜」

 

次の瞬間、敵の目から火柱が上がる。あれは…鬼道?

織姫の前に降り立ったのは、薫だった。

 

「か「織姫、怪我は無いかい?」え、あっ、はい!」

 

彼はこちらを振り返ることなく織姫に尋ねた。

 

「それは良かった。すまないが、チャドを少しでも遠くで手当てしてやってくれないか?君の細腕で運ぶのは大変だろうが、今は手伝ってやれない」

「……分かりました」

 

こうもハッキリと戦力外通告を受けるのは、そうと分かっていても辛いものだ。薫の口調は一切織姫の助力を求めていなかった。

そんな彼女の気配を察したのか、幾分優くなった声音で薫は再び囁いた。

 

「織姫、チャドは今一刻を争う状況だ。僕の回道より余程君の方が彼を救える。分かるね?」

 

それを聞いて、織姫は自分を恥じた。薫が言ったことはここに来る前、茶渡にも言われていたことだ。それでも彼が倒されたことで冷静になれていなかった。

 

(私には、私に出来ることを!)

 

「はい!」

 

その瞳に、もう迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあああああ!痛てえ!痛てえぞクソがああ!」

 

先程目に双蓮蒼火墜を食らわせた破面(アランカル)が喚いている。結構元気じゃないか。

 

「残念!頭もかち割ってやったと思ったんだけど、相方に救われたねェ」

 

薫が双蓮蒼火墜を放つ瞬間、大きい方の破面が不自然に下がるのが見えた。もう一人の破面が彼を引っ張ったのだろう。だが、右目はいただいた。

小さい方の破面は顔色を変えることなく、抑揚の余りない声で薫に答えた。

 

「別に俺はこいつの相方じゃない。しかしこれ程の威力の鬼道を放つとは、貴様何者だ」

「僕ァ通りすがりの一般人Bだよ。そうだなァ、便宜上‘名無しの権兵衛‘とでも呼んでくれ給え。君は何と呼ぼうかな?太郎?次郎?」

「名乗るつもりがないならそう言えばいいものを。俺はウルキオラ・シファー。どうせ普通の人間ではないのだろうが、貴様は今回の任務には関係なさそうだ。興味もない」

 

そう二人が言い合っていると、さっきから喚いていたもう一体の破面が大降りに薫に殴りかかってきた。振り下ろされた拳を最小限の動きでよけ、腕に絡みつき、関節に力を籠める。

 

「てんめぇ、このっ!ゴミのくせに!離せっ!ウルキオラ、こいつも磨り潰して良いんだろ?じゃねえと気が済まねえ!」

「好きにしろ」

「おォ、怖い怖い!」

 

腕が振られた勢いを利用して、破面の関節に一気に圧を掛ける。ゴギン、と鈍い響きがしたかと思うと、不自然な方向に彼の腕が曲がった。

 

「クソがああああああ‼」

 

彼の目も腕も再生していない。上位の虚は超速再生という修復作用があると聞くが、彼にはそれを使えないらしい。表皮は固いが関節技は有効。鬼道も、目のように弱い部分なら有効のようだ。

 

「あはは!その怪我でよくこれだけ動けるものだねェ。感心するよ、三郎君?」

「ヤミー・リヤルゴだっ!テメェ、絶対(ぜって)ぇぐっちゃぐちゃにして殺してやる!」

「駄目駄目、君じゃァ足りないよ」

 

薫はヤミーに冷ややかに笑いかけた。彼はすぐ頭に血が上る質らしい。純粋な力勝負なら今の薫に勝ち目はなかったから、煽れば煽るほど薫に有利になるのなら容赦はしない。

 

「君程度じゃァ僕にかすり傷だって負わせられない。体力の無駄遣いだよ」

「試してやろうかぁ!」

 

ヤミーが腰に差した刀を抜いた。きちんと構えもせずにそれを振り下ろしてくる。どう捌こうかと薫は構えて、それを解いた。

 

ガキイィィン!

 

派手に金属がぶつかり合う音がした。

一護が斬魄刀でヤミーの刀を正面から受け止めたのだ。

 

「丸腰の奴相手に刀を振り降ろすんじゃねえよ。ってか、薫さんも何で死神化しねえんだ?」

「義魂丸が手元に無かったんだ。仕方ないだろう?」

 

薫がお手上げ、という風に肩を竦める素振りを見せると、一護は露骨にため息を吐いた。

 

「いや、駄目だろ…それより、チャドの腕をやったのはこいつか」

「あァ。ここら一帯の魂魄を無理やり吸収したのも、ね」

「分かった。容赦は要らねえってことだな」

 

一護はそう言うと、卍解して迷うことなくヤミーの腕を切り落とした。

義骸とはいえ、薫の目では追いきれないほどのスピードだった。それに、あの表皮を苦も無く切り裂くとは…腕を上げたようだ。

 

「薫、と言ったか」

 

ウルキオラが薫の方を向いた。薫としてはあまり相対したくない相手だったが、仕方ない。心中を悟られないよう笑顔を張り付ける。

 

「だったらどうだって言うんだ?」

「あれは黒崎一護だろう。今回の抹殺対象だな。貴様が百目鬼薫なら、観察対象か。ヤミーの無駄な行動が思わぬところで役に立ったな」

「へェ、随分と物騒な任務だな。藍染は元気でやっているかい?」

 

薫の言葉にウルキオラは一瞬反応したが、すぐにそれは消えた。

 

「貴様に話すことは何もない。無理して戦うなという指令だったが――」

 

そこまで聞いて、背筋に冷たい感じが走って薫は反射的に後ろに飛びのいた。しかし、既に遅かったようだ。義骸はこういうのが困る。霊魂の時と違い身体能力を人間に合わせてあるから、いつも通りの感覚で体を動かしたのでは動きが小さくなりすぎる。

ボキッと何本か肋骨が折れる嫌な音が耳に響く。呼吸がし辛い。肺に骨が刺さりかかっているようだ。

 

「消しておくに越したことはない」

 

危うく薫の胸に穴が開くところだった。骨が折れただけで済んだことに感謝しなくては。

さっきのはウルキオラが凄まじいスピードで薫に手刀で突きを入れてきたせいだったらしい。

胸のあたりを抑えて片膝をつくと、一護がヤミーに殴り飛ばされるのが見えた。

同時に織姫が一護に向かって駆け寄ろうとする。

 

「黒崎君!」

「待て、織姫!君じゃっ、ゴホッ」 「来るな、井上!」

 

織姫が一護に駆け寄ろうとして、ヤミーに殴り飛ばされる。そのままヤミーは一護を殴り続けた。

 

「何してる!一護、反撃しないか!――くそっ、雷吼…」

「貴様の相手は俺だ」

「ッ!」

 

ウルキオラの手刀が首筋を翳める。腰の刀を抜く気はないらしい。

急に動きが悪くなった一護を助けに行く余裕は薫に無かった。ウルキオラが先程のように傍観を貫いていれば可能だったが…

 

こんな状況でも、いや、こんな状況だからこそ薫は笑った。

 

「何が可笑しい?」

「ふふッ!いやァ、だってさ、ウルキオラ。君は結構冷静な(タチ)なんだろうが、僕が藍染のことを口にした途端こんなに熱心に戦闘しちゃって…余程彼は良くないみたいだね」

 

バチンッ!

 

鈍い音がして、薫は殴り飛ばされた。口の中に広がっていく鉄の味が、殴られて切れた口の傷に依るものか先程の骨がどこかに刺さって出たものなのかも分からない。

やはり人間のスペックで闘うのは分が悪い。

 

もう少し。もう少しだ。

よくよく知った二つの霊圧がすぐ近くまで来ている。

 

「挑発のつもりか?死神化するつもりもないくせによく喋ることだ。今の貴様では俺に勝てるわけもないものを」

 

薫の胸倉を掴み、持ち上げてウルキオラが言った。向こうではヤミーが一護に振りかぶっている。止めをさすつもりなのだろうが――――

 

 

「遅かったじゃァないですか?」

 

 

ヤミーの拳は喜助の斬魄刀、〈紅姫〉に阻まれた。”血霞(ちがすみ)の盾”は傷一つ着くことはなく仕舞われた。

喜助と夜一が応援に来てくれたのだ。

 

「どぉもぉ!遅くなっちゃってスイマセーン!黒崎サン、百目鬼サン」

「なんだあ?次から次へと邪魔くせえ連中だぜ」

 

喜助もヤミーも余裕があるが、その質はまるで違う。喜助は相手の力量を見定めたうえで挑発的に構えているが、ヤミーの方は端から相手を見下している。

 

「割って入るってことは、てめえらから殺してくれって意味でいいんだよなあ?」

「ソイツ、固いです!気を付けて!」

 

腕を振り上げながら叫ぶヤミーに、同じく素手で応戦しようとする夜一を見て薫は叫んだ。その意味を彼女は正しく受け取ってくれたようだ。

夜一はヤミーの腕を掴むと軽々と放り投げた。喜助から何かを受け取ると、次の瞬間には振りかぶったヤミーの頭上に姿を現した。

 

瞬閧(しゅんこう)‼」

 

高密度に練り編まれた霊圧が彼女の手足を包んだ。それによる白打はヤミーに相当なダメージを与え、彼は倒れた。

 

(お見事!僕もこうだらしないところを見せっぱなしにするわけにもいかないかな?)

 

「”消しておくに越したことはない”だったか?見くびられたものだねェ。――――蒼火墜」

 

薫は細く絞った蒼火墜をウルキオラの太股のあたりに放った。蒼火墜でも、こう放てばそこそこの威力になるはずだ。

案の定、貫通まではせずとも足の肉を抉ることは出来たらしい。一瞬僅かに緩んだ手を振りほどいてウルキオラの胸のあたりに足を置き瞬歩で離れる。

 

織姫と夜一のいる位置まで薫は下がった。心配そうに織姫を介抱していた夜一は、薫の姿を見ると打って変って意地悪そうに笑った。

 

「ボロボロじゃのう、薫?」

「何か織姫の時と態度違わないですか?僕も結構重傷なんですけど」

「軽口を叩く余裕のあるやつに優しさも介抱も必要あるまい?お主は喜助と同じで殺しても死なん生き物じゃからのう」

 

失礼な、と薫が言おうとした時、ヤミーが立ち上がるのが見えた。夜一が眉を寄せる。

 

「往生際の悪い奴じゃな」

 

ヤミーはそのまま口を開くと、そこに高エネルギーの球体が出現した。

 

虚閃(セロ)か!」

 

高速で放たれたそれを三人とも避けることができず、直撃したかに見えた。

 

「あっはっはっはあ!ざまあ見やがれ!粉々だぜ。俺の虚閃をこの距離で躱せるわけ――⁉何だ、てめえ。どうやって俺の虚閃を…」

 

粉塵から姿を現した喜助が無傷でそこに立っているのを見たヤミーは、何が起きたか全く理解できないらしい。眼前の地面の亀裂を見て分からないものか?こんな裂け方をしているということは、彼の虚閃と同等の威力のものがぶつかり、相殺し合ったことの証左に他ならない。

 

「試してみますか?啼け、〈紅姫〉」

 

喜助が放った剃刀紅姫は、ウルキオラに()()()弾かれた。

直後、ヤミーは腹部にウルキオラの手刀を食らった。

 

「何しやがる!」

「馬鹿が。頭に血を上げ過ぎだ、ヤミー。こいつらは浦原喜助と四楓院夜一だ。お前のレベルじゃそのままでは勝てん。引くぞ」

 

彼が指で軽く空を叩くと、空間が軋んで穴が開いた。

 

「逃げる気か」

 

夜一が食って掛かると、ウルキオラは薄く笑って振り返った。

 

「らしくない挑発だな。貴様ら二人掛で――いや、そこの死神が義骸を脱げば三人がかりか?――ともかくその戦力で死にぞこないのゴミ共を守りながら俺と戦って、どちらに分があるか分からないわけじゃあるまい。さしあたっての任務は終えた。藍染様には報告しておく。‘‘貴方が目を付けた死神もどきは、殺すに足りぬゴミでした‘‘と」

 

閉じた穴が塞がった後も、暫くはだれも身動ぎすらできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうっスか?百目鬼サン!」

 

浦原商店に戻ってきた薫ら一行は、チャド、織姫、一護、最後に薫の治療を終えてひとまず落ち着いていた。

 

「良くはありませんが、織姫たちに比べれば軽いものです。明日の学校も行けるでしょう」

 

普通にしていても護廷十三隊の隊士なら戦闘で肋骨の二本や三本折った経験が無いものはいないだろう。今回薫は二本の骨折と二本にひびが入った怪我だったが、彼からすればあれだけ不利な条件下でこの程度で済んだのは幸いと言えた。

ちょっと一息、と言って隣でガツガツ間食を平らげていた夜一が入ってきた。

 

「しかし、お手柄じゃぞ、薫。お主の忠告のお蔭で儂は瞬閧状態で戦えたから、手足を傷めんで済んだ」

「いいえ。あァ、関節技も効くみたいです。眼球も比較的(やわ)い」

「あ奴の目を潰したのはお主か!あんな攻撃を義骸の状態で食らわせるとは、無茶をしたのう?」

 

そう言うと彼女はカラカラと笑った。

 

「本当ですよ。何度義魂丸を使おうとしたことか…」

「こういうのはこれっきりにしてくださいね?今回貴方がその程度の怪我で済んだのは偶々なんスから」

「……善処します」

 

喜助が嗜めるが、薫は後悔も反省もしていない。あそこはやはり、出て行かねば損害は今よりずっと大きかっただろう。だが、幸運だったことは認めざるを得ない。

 

「ところで喜助。あ奴らの外皮の霊圧硬度は儂やお主の予想を遥かに上回っとる様じゃ。それこそ、儂が瞬閧を使わねばならん程にのう。手強いぞ」

 

険しい顔で沈黙する二人を、薫は同様に黙って見ているしかなかった。

 




破面編は嫌が応にも戦闘させられそうで困ります。(バトル漫画で何を言っているんでしょうね…)
戦闘描写は出来ないんです。
すみません。

そして折角主人公が絡んだのに損害はあまり変わっていないという…
ここで派手に変えすぎると影響が大きすぎるせいもありますが、もっと冒険しても良かったかもしれないと思ったりします。


まあ、こっちはこっちで頑張って適度に戦闘を避けるルートで行く予定です。
えいえいおー!
少しずつ物語のペースも上げていきたいです。
…できればですが。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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