なん…だと…
久しぶりに床で寝るという経験をしたせいで節々が痛い一日を過ごしました。
子供じゃないんだから…
反省です。
「腕~がぴょぉ~んと鳴く」
「いでででで!お前マジでいい加減にしろ!」
破面がチャドを襲おうとしていたのを止めた一護は、ルキアの義魂丸にその破面と戦うのを阻まれていた。というか腕に締め技が決まって激痛で動けずにいた。先ほどからルキアが戦いに臨んでいるが、心配だ……
「何をしておるのだ、たわけ共」
驚いて一護が顔を上げると、ルキアが呆れ顔で立っていた。掠り傷一つ負っていないようだ。一護はルキアの実力は殆ど全くと言っていいほど見たことが無かったから、破面をこうも短時間で下して彼女が帰ってきたことに驚いた。
「何だ?ディ・ロイの奴、やられちまったのかよ?」
「「⁉」」
二人が声のした方を振り返ると、男が一人、空中に佇んでいた。水色の髪と鋭い眼光、腹部には虚の穴が空いている。その右側の顎の部分には、破面であることを示す仮面が張り付いていた。
ただ立っているだけはずなのに、彼の凄まじい霊圧に一護もルキアも目を剥いた。
(こいつもさっきの奴と同じ破面⁉霊圧のレベルが違い過ぎる!)
「どっちだ?」
彼が地上に降り立った。
「強えのはどっちだって訊いてんだよ」
我に戻ったルキアが叫んだ。
「まずい!一護、一旦退くぞ!――――っく…そっ」
ルキアの腹に彼の手が突き刺さった。一護の目では追い切れなかった。
「やっぱ、こっちじゃねえか」
「ルキア!」
ルキアの腹から手を抜くと、彼はゆっくりと一護の方を向いた。
ルキアの身体が崩れ落ちる様に地面に横たわる。
「お前確か、ヤミーにボコボコにやられてた奴だよな。ったく、ちったぁやれるんだろうな?百目鬼薫と戦う前の肩慣らしくらいにはなってくれよ」
「!――てめえ、薫さんに何の用だ⁉」
「何の用?決まってんだろうが」
彼は獰猛な笑みを浮かべると、一気に一護との距離を詰めてきた。
咄嗟に距離を取り直す。
「その百目鬼って奴はあの藍染をボロ雑巾みたいになるまで追い詰めたやつなんだぞ?ソイツを倒せば俺は藍染より上ってことだ。違うか?俺はウルキオラみてえに
その眼は既に一護を映していない。
『相手をよく観察することだ、一護』
自分に向かってくる鋭い突きを咄嗟に躱しながら、一護は以前の薫の言葉を思い出した。
一護の斬魄刀、〈斬月〉の戦い方には主に二種類ある。一つは普通の斬撃を相手に加えること。もう一つはその固有の技、月牙天衝によって、距離を問わず超高密度の霊圧による斬撃を飛ばすこと。
一護は基本前者の戦い方をしている。その方が自身の身体能力を生かせるし、遠距離にいる標的に月牙天衝を当てるというのが難しいと感じていたからだ。
これに対して薫は風で作った刃による遠距離攻撃を主に使っていた。相手が多い時、一護なら大きな月牙を放って纏めて倒すところを、薫は一体一体的確に風の刃で貫いていった。
『君の月牙は無駄が多いねェ』
薫曰く、一護の月牙は良くも悪くも力ずくなのだそうだ。相手が食らいさえすれば、普通の虚ならばその増幅された霊圧に押し負けて消えるが、その食らう度合いがまちまちなのだ。本来の月牙の威力の平均三割程度しか伝えられていないらしい。力の伝達がうまくいけば過去には恋次や白哉をも倒すことができたというのに、勿体ないと言われた。
「ンなこと言ったって、相手だって動くんだぜ?狙ってもそう毎度毎度当たんねえよ」
そう言ってからはたと気付いた。薫はどうやってあれ程の確度で動き回る虚に遠距離攻撃を当てているのだろうか?
『そうだなァ――一護、虚はどこからの攻撃に反応しにくいと思う?』
「どこから?そういやぁ…ルキアは後ろから仮面に一撃入れて倒すのがセオリーだって言ってたな」
『ふふッ!実は、一概にそうとは言えないんだ。虚ってのは仮面を始終着けているだろう?だから非常に視界が狭い。その分、見えない範囲へ常に警戒しているんだ。後ろ上方からの攻撃っていうのは人間や死神にも通じる攻撃方法だから虚にも通じることは通じるが、もっと確度を上げられる位置がある』
「その流れだと、正面か?でも、そんな実感無えけどな…」
頭を掻きながらそう言った一護に、薫は首を横に振って応えた。
『惜しいな。答えは、視界にギリギリ入る範囲だ。正面から攻撃しても、一護の言う通り視覚情報だけで躱される。死角では、反射で捉えられる。しかしその境界は、視覚情報がある分警戒が緩んでいる。しかも、当人が思っている以上にこの範囲は見えていないんだよ。違和感を覚えたときにはもう攻撃が加わっているくらいにね』
「でもそれは、動く相手のその位置を的確に狙える場合だろ?俺が聞きたいのは――」
『分かってる。でも一護、知らなかっただろう?』
そう言われて気付いた。今まで数多くの虚を斬ってきたが、そのようなことには微塵も気付かなかった。
『”なくて七癖”と言うだろう?それぞれの虚にはそれぞれの癖がある。攻撃直後に右に飛ぶとか、咄嗟に躱す時には上に逃げるとか様々有るが、それを見極められれば二撃目、三撃目の動き方は自ずと分かる。狙い目はそこだ。いかに相手を見、手の内を探り、どの手札を使わせるか―――戦いの主導権を如何に握るかで勝敗は決する。勿論これは虚以外にも通じることだ。相手の動きが分かれば、どう狙って攻撃するかは攻撃する側の技量の問題だけ。それに関しては大丈夫だろう』
「何か、浦原さんの話に似てんな」
一護がそう言うと、薫は驚いたようだ。
『浦原さんが?何の話を?』
「最大攻撃回数を見極めろって話だったかな。相手が連続で攻撃してくる最大回数を見極めろ、って教わったことがあったんだ。結局恋次との戦いでしか実践できなかったけどな」
『成程…どちらにせよ、相手をよく観察することだ、一護。特に、相手の気が緩んでるときは好機だぞ。油断は反応速度を鈍らせるし、癖も出しやすいんだ』
ただし、と薫が言葉を継いだ。
『相手の手札を晒させすぎるのはリスクが高いことも忘れるなよ。奥の手ってのは相手が強いほどに一発逆転される可能性が高くなる。どこまでで勝負を決めるか、ちゃんと見極めろ』
(そうだな、薫さん。今は好機だ。相手は強いが、勝てない相手じゃない)
一護は刀を握り直した。正面に片手で〈斬月〉を持ち、持っている腕にもう片方の手を添える。
「卍、解―――〈天鎖斬月〉」
圧されていた位置から踏み込んで、刀を上段の構えに持ち直す。
「月牙、天衝―――‼」
放った月牙は細く束ねられ、確実に殆ど全てのエネルギーが相手を捉えた。
しかしその色は――真っ黒だった。
『よお、一護。面白そうなことやってんじゃねえか』
その声は、その笑みは――
『俺に、代われよ』
「隊長、恋次!限定解除、下りたわよ!」
冬獅郎と恋次にそう伝えた松本乱菊は、自分を踏みつけようとしてきた破面の蹴りを片手で受け止めながら、自身の胸元にある限定霊印を露わにした。
「限定解除―――!」
限定霊印とは、隊長格の死神が現世の霊魂に余計な影響を与えぬようにその霊圧を制限するためのものだ。その制限率は最大80パーセント―――制限後の霊圧は元の五分の一にもなる。現れた破面たちに対して限定解除を行って、その制限を解くまでせねばならぬほどに戦況は逼迫していた。
破面が殴りかかってくるが、霊圧の制限が無くなった彼女にはその動きが緩慢に見えた。
「遅いっての」
斬魄刀で軽く受け止めると、破面は相当驚いたらしい。乱菊は余裕をもって対応する。
「アンタたち、最初ここに来た時、凄い速さで移動してきたじゃない?あれくらいで来なさいよ。あれ、なんて技?」
破面の方はあれに相当自信があったらしい。ニヤリと笑うと、乱菊の後ろに回り込んで言った。
「
「あっそう」
乱菊は瞬歩で逆にその背後に回り込みながら、肩から背に掛けてを切り裂いた。
「私達のは瞬歩って言うのよ」
止めをさすため、乱菊は斬魄刀の鍔に近い刃の上に手を添えた。刃の先端に向かって手で刀を素早くなぞりながら唱える。
「唸れ、〈は―――〉」 「六杖光牢、鎖条鎖縛」
乱菊に六筋の光が突き刺さり、動きが止められた。同時に破面にも光の縄が巻き付けられ、動きを封じられている。
「誰⁉詠唱破棄で今の私の動きを止めるなんて―――⁉」
そんな事、隊長格でしか不可能だ。咄嗟に隊長の方をなんとか見上げると、彼は今まさに彼が相対していた破面を氷漬けにしたところだった。鬼道を放った様子もない。
「やっぱり無傷ってのは無理があるよなァ」
不意に後ろから声がした。六杖光牢のせいで振り向けないが、この声は――
「貴様…百目鬼薫⁉」
破面の方が声を上げた。やはりこれは薫のせいだったらしい。
「あちゃァ、君たちみたいなのにまで僕の顔がバレてしまっているのか。参ったね」
全然参っているようには聞こえない声で薫が返す。やっと乱菊にも薫の顔が見える位置に来たが、薫は乱菊を通り過ぎて破面の方に近づいた。
「ちょっと、薫さん!何でこんなことを!」
「こんなこと?どういう意味です」
「何で
薫は首だけ乱菊の方を向くと、にこりと笑った。
「止めをさされては困るからです」
そう言うと、薫は破面の正面に立った。
「な、何をするつもりだ⁉」
破面の動揺が乱菊にも伝わってくる。あの様子だと、全く動くことができないのだろう。
「ふふッ!落ち着いて。僕はただのお使いだから特に君をどうこうしようってわけじゃァない。用があるのは浦原さんだよ。大丈夫、浦原さんは
薫は破面の顔の前に掌を近づけると、白伏で昏倒させた。
ドスンと大きな音がして、破面は倒れた。
「何のつもりだ?百目鬼」
警戒を孕んだ声で冬獅郎が空から下りながら言った。まだ辛うじて卍解状態を維持している。
「何って、これは検体にするんですよ。僕らはあまりに彼らのことを知らない。本当はあっちのバケモノの方が良いんでしょうけど、義骸に入ったままでは死にに行くようなものですから」
そう言って薫は視線でそのバケモノの方を指した。確かに、とんでもない霊圧が暴れているのが分かる。戦っているのは一護だろう。
「……そうか。もう目的を果たしたなら、松本の縛道を解けよ」
「冬獅郎こそ、卍解を解かないんですか?」
冬獅郎の眼光がきつくなる。彼の卍解ももう限界に近いはずだ。対して薫は義骸に入っているとはいえ万全の状態。万が一戦闘になっても、分があるのは薫だ。そう思わせるような雰囲気だった。
「テメエ、俺らの戦闘中どこに居やがった?」
「曲光を張ってここに。戦いは始終見てました」
「何で加勢しなかった!」
冬獅郎の怒声が響く。あっさりと自主的に戦闘に関与しなかったことを認めた薫は、尚も飄々としている。
「僕が加わってたら破面を両方とも消しちゃってたかもしれませんでしたから」
薫の言葉には何の傲りも虚勢もなく、ただ事実を言っているという感じだった。
冬獅郎が言い返そうとして、卍解が砕けた。同時に先程の戦闘で追ったらしい大怪我がぶり返す。
「隊長!」
気付くと、自分に掛かっていた六杖光牢が解けていた。すぐさま駆け寄って容体を確かめる。酷い怪我だ。
「織姫!ちょっと来て!お願い!」
乱菊の訴えに応じて織姫が上がってきた頃には、薫と破面の影も形もなくなっていた。
「オラオラオラァ!サッサと反撃しろよ死神ィ!さっきの一撃はマグレかあ?」
一護は今思うように体を動かせずにいた。先ほど破面の至近距離で範囲を絞って威力を上げた月牙天衝を放ったのだが、そのせいで一護に内在する虚が目を覚ましたようだ。一護の魂を乗っ取ろうと虚が邪魔してくる。そのせいで、一護は殆ど無抵抗に破面に殴られていた。
(クソッ……折角相当な傷を相手に負わせられたってのに…)
一護の月牙は、破面の右肩から左の腰辺りまでを深く切り裂いた。しかしそのせいで破面の油断は吹き飛び、先ほどから全力で一護に向かってくる。
(最初の一撃で勝負を決めておくべきだった。黒い月牙が出た瞬間ビビっちまった俺のミスだ)
あそこで集中を切らさなければ、という気持ちが破面の方にも伝わったらしい。神経を逆なでされた彼は苛立たし気に顔を歪めた。
「チッ…気に入らねえなあ。何だよその目はよォ?そんな状態でまだ俺に勝てると思ってんのか、ああ⁉」
「縛道の四、這縄」
意識が飛ぶ直前、知った声がして我に返る。気が付くと、一護は薫の腕の中で俵巻きになっていた。目の端で、さっきの破面が薫の縛道で縛られているのが見える。
「この馬鹿。戦場で気を失うな!」
「か、おる…さん……」
力なく一護が言うと、薫はため息を吐いた。
「自分で立てるか?あの縛道じゃすぐに千切られる」
薫はそう言いながら一護を降ろした。その言葉通りに破面は薫の鬼道を引き千切った。一護は頷くと、自身の斬魄刀を杖のようにして立った。
「一護、巻き込まない自信は無い。動けるうちにここから出来るだけ離れるんだ。いいな」
そう言い残すと、薫は破面に向かって行った。
薫が音もなく空中に立つと、その正面に破面が立った。
「お前、百目鬼薫だな?会いたかったぜ!」
「僕は全く。君に興味ないんだ、すまない」
薫はそう言うと、破面から繰り出された突きを受け流した。お互い腰に刀を下げてはいるが、抜こうとはしなかった。
薫の義骸はさっき義魂丸に、生け捕りにした破面と一緒に預けてきた。ざっと見て回った戦況も既に喜助に連絡したし、この戦闘は了承済みだ。
「テメエ、その斬魄刀は飾りか?さっさと抜けよ」
「君の方こそ。この程度の白打じゃ僕に勝てないよ?」
物体の運動というものは通常、常に一定ということはあり得ない。初動は遅く、其処から加速なり更に減速なりするものだ。つまり初動さえ捉えられれば攻撃を読むことは容易い。それは途中で方向を変えるときも同じ事で、その瞬間の減速時に運動を解析すれば次の動きは分かる。
そして薫は特に力の流れを読むことに長けていた。というより、それが見えていなければ〈波枝垂〉を使いこなすことなど到底できない。そういうわけで、さっきからただ繰り出されるだけの破面の突きや蹴りを、薫は全くダメージを負うことなく捌き続けていた。
うまい事攻撃が決まらないことに破面は相当頭にきているらしい。”この程度じゃ”という薫の言葉に目の端を釣り上げる。同時に、戦闘に対する集中力が一瞬乱れた。
目敏くそれを察知した薫は、その瞬間に出された突きを強引に掴んで自身の方へ引いた。
いきなり勢いが付いて崩れた破面の態勢が僅かに揺らぐ間に、突き出していた手と反対側の肩を後ろに、踏み込みとは反対側の足を薫側に、それぞれ押し、また足で蹴って破面の上半身を回転させる。
互いに霊子を固めて作っていた地面に彼が倒れこむタイミングで薫が喉を狙うと、顔の横から何かが迫ってくるのを感じた。喉への突きを止めてそれを躱すと、凄まじいスピードで破面の蹴りが薫の頭があった場所を通過した。
この体制でよくも蹴りを出せるものだ。
その勢いのまま再び体を回転させて立ち上がった破面は次の攻撃をせず刀に手をかけた。
「……そこまで言うんなら見せてやるよ。俺の
ゆっくりと刀を抜く破面を見ながら、薫もまた斬魄刀に手をかけた。
張り詰めた空気を切ったのは、破面でも薫でも、ましてや一護でもなかった。
「刀を納めろ、グリムジョー」
「!…東仙…何でテメエがここに居んだよ」
東仙要―――藍染と共に尸魂界を裏切り、
「何故か、だと?分からないのか、本当に。独断での現世への進行、五体もの破面の無断動員及びその敗死―――全て命令違反だ。分かるだろう、藍染様はお怒りだ。帰るぞ」
彼の後ろには
足早に去ろうとした東仙の背に、薫は努めて軽い調子で声を掛けた。
「なァんだ、帰ってしまうのか?存外つまらない男だな、東仙。久々の戦場なのに戦いもせず引っ込むなんて」
それを聞くなり東仙は勢いよく振り返りながら抜刀しかけて、止めた。
「百目鬼貴様っ!――くっ、今は貴様の相手をしている暇はない」
「ふゥん?なら、藍染に宜しく伝えておいてくれ。”傷が痛むようなら、言ってくれればいつでも止めをさしてその苦痛から解放してやる”ってね」
薫の挑発に東仙は凄まじい殺気を放ったが、後ろを向くとツカツカと帰っていった。
舌打ちしながらそれに続こうとした破面の背にも同じようにしてみる。
「破面の君も、東仙に従うなんて肝の小さい男だ。でかいのは態度と霊圧だけだなァ」
こっちは相当効いたらしい。勢いよく薫を振り返ると、一気に言ってきた。
「うっせぇ!俺の名を忘れんじゃねえぞ。そして、二度と聞かねえことを祈れ。グリムジョー・ジャガージャック――テメエがこの名を次に聞く時は、最初から全力全開で俺がテメエを叩き潰す‼」
黒腔が閉じきってから、薫は地上に降り立った。思いのほか近くに一護は立っていた。あんな言い方をすれば逃げるどころか追ってくるのは分かってはいたが。
「薫さん…一人にさせてくれねえか」
一護はか細くそう言うと、薫とは反対方向に歩き出した。薫もあえてそれを追おうとはせず、浦原商店に引き返していった。
店の前では薫の義魂丸が捕らえた破面を抱えたままあたふたしていた。どうやら
お久しぶりです。
忙しい一週間がやっと終わりました。
しかしこれはまだ序の口だという事実…
うん。頑張ろう。
ちなみに虚の攻撃が決まりやすいところがどこかとかの件は独自解釈です。
読み流してください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!