紫苑に誓う   作:みーごれん

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少し時間が行ったり来たりします。
原作を思い出しながらお読みください!
すみません!


分断

現世が破面に襲撃されたとの一報が入ってから暫くして、やっと通れた穿界門を織姫は駆けていた。

 

「護衛がたったの二人とは、尸魂界は移動中が最も襲撃されやすいことを知らんらしい」

 

聞き覚えのある声に織姫が振り返ろうとした瞬間、一緒に穿界門に入った隊士の体に穴が空いた。

 

「”双天帰盾”、私は拒絶するっ!」

 

咄嗟に〈舜桜〉と〈あやめ〉で彼の救護に当たる。後ろに現れた破面―――ウルキオラに斬りかかろうとするもう一人の隊士の方に彼の手が何かを放つ直前、反射的に彼女は詠唱した。

 

「”三点結盾”、私は拒絶する!」

 

 

 

 

『言霊とは、”思い”であり”願い”だ』

 

薫に教えられたことを織姫は思い出した。

 

『特に織姫の〈盾舜六花〉はそれが顕著に表れている。君が何を願うのか、何を求めているのかがはっきりしているほどに〈六花〉たちの力はより具体性を増すし、強力なものになる。だから織姫、短期間で力をつけたいなら、自分が求める結果を瞬時に特定して思い描けるようになる訓練すると良い』

 

 

 

(私は、この人が無事に生きて、家族の下に帰れるように守りたい!攻撃を防ぎきる力が欲しい‼)

 

明確な彼女の願いは今までにないほど強力な盾を張った。凄まじい衝撃と共に盾に大きなひびが入ったが、攻撃を完全に防ぎきった。

それを見た敵の表情が僅かに動いた。

 

「ほう、盾も張れるのか。軽く弾いただけとはいえ、俺の虚弾(バラ)を防ぐとは」

 

そう言って彼が再び構えた瞬間、織姫には分かってしまった。次の攻撃は自分の”願い”では届かない、と。

 

『破面との戦闘で生き残れる保証は出来かねます』

 

一週間前の薫の発言が思い出される。

織姫の耳は自身の”三天結盾”が砕ける音を捉え、彼女の瞳は自身が守り切れなかった死神が半身を抉り取られた姿を映しこんだ。

 

「藍染様がお前の能力を御所望だ。俺と共に来い。拒否すれば、お前の仲間を―――殺す」

 

彼の後ろで裂けた空間に映り込んでいたのは、苦戦を強いられ傷ついた仲間たちの姿だった―――

 

 

 

 

 

 

 

薫が瀞霊廷に入り穿界門が用意されている双極の丘に至ると、織姫が門に入って行くのが見えた。織姫を見送っていたらしい浮竹曰く、つい数時間前に現世が破面の襲撃を受け、こちらに来ていたルキアと、時間はズレてしまったが織姫が護衛二人と共に向こうに戻ったのだという。

 

「そんな事になっていたんですか…僕も急いで戻らねばなりませんね」

「頼んだよ。ああ、ちょっと待ってくれ、地獄蝶を用意させるから」

「要りませんよ。織姫は地獄蝶無しで通ったんでしょう?なら僕も同じ扱いに。拘流が止まってるなら似たようなモノですしね」

 

苦笑する浮竹に手を振って、薫は門の中に入った。

地獄蝶は尸魂界からの首輪っぽくて嫌だなんて、子供っぽい本心は勿論言わない。

 

暫く進んでいくと、よく見知ったオレンジ色の光が見えた。

 

(あれは、”双天帰盾”?何でこんなところで?)

 

近づいてみると、確かに双天帰盾らしい形が見えてきた。だが、詳細が見えるにつれて悠長に構えていられなくなった。

隊士が二人、その光の中に倒れている。もう怪我は大分治っているようだが、交流内の時間で数時間前にここに入ったはずの隊士が未だに回復中という事、そして術者の織姫本人がこの場にいないことが事態の深刻さを表していた。

 

「……〈舜桜〉、〈あやめ〉、何があった?織姫はどこにいる」

 

『『薫さん……』』

 

織姫に指導していたよしみで織姫の〈六花〉と薫はそこそこの顔見知りになっていた。だから、二人が気まずそうにしながら彼に何も話そうとしないのを見て薫は少なからずショックを受けた。だがそのせいで彼の表情筋が動くことはない。ここ百年で身に付いたポーカーフェイスに自分でも嫌気が差す。

内心の動きを落ち着けながら彼は囁いた。

 

「僕にも言えない何かがあった、って事か?ならせめて、織姫が無事かどうかだけでも教えてくれ」

 

『織姫さんは無傷だよ。心配してくれてありがとう』

 

「……………」

 

〈舜桜〉が慎重に言葉を選んだのが伝わった。薫の”大丈夫か”という質問に対して”無傷だ”という回答は、含みのある言い方だ。つまり織姫は怪我を負わされてはいないが大丈夫ではない状態にある。この場に彼女がいないことを考えると、連れ去られた?

いや、〈六花〉が活動できているなら、近くに彼女もいるはずだ。まだ追えるかもしれない。

 

織姫を”一ノ型・月夜見”の応用で探そうと薫が斬魄刀に手を掛けると、〈六花〉の二人が動揺した。

 

『薫さん、もうすぐこの二人の治療が終わるから、尸魂界に連れて行ってあげてくれないかな!』

 

「……分かった」

 

〈六花〉もまた、薫の斬魄刀のことを断片的に知っている。だから薫が織姫を探そうとしたのも分かったはずだ。それを止めさせ、かつ多くを語ろうとしないという事は、織姫は何者かに脅されてこの状況―――姿を隠して身を顰めねばならない状態―――になっているという事だ。下手に詮索すると織姫の立場が危うくなるかもしれない。

 

「心が屈しさえしなければ、君が真に屈したことにはならない。諦めるなよ。希望を捨てるな」

 

治療の終わった二人を抱えて、薫は誰にともなく呟いた。もしかしたら近くにいる同志に伝わることを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「治ってる…?」

 

昨日の破面の襲撃によって重傷を負っていたはずの一護は、ベットから落ちて目が覚めた後、自身の怪我が全快していることに驚いた。

すぐに霊圧を探ると、それは――――

 

「井上織姫だ。恐らくな」

 

いつの間にか空いていた窓から冬獅郎が言った。

 

「すぐに来い、黒崎。緊急事態だ」

 

 

 

 

 

 

冬獅郎に連れられて井上の部屋に行くと、既に日番谷先遣隊のメンバーが勢ぞろいしていた。

 

「何だよ、皆で井上の部屋に集まって…井上は何処だよ?」

「それは―――」 「霊波障害除去は」

「はい。何とか完了したようです」

 

ルキアが気まずそうにしているのを冬獅郎が遮って、部屋にあった尸魂界との通信機器が繋がった。

そこに出てきたのは浮竹十四郎だった。

 

「浮竹?総隊長じゃねえのか」

 

冬獅郎が不思議そうに訊いた。

 

『代わっていただいた』

「理由は」

『井上織姫がそちらに向かう穿界門に入るとき、護廷十三隊隊士の中で最後に見届けた隊長格が俺だからだ』

「「「「⁉」」」」

 

井上の部屋にいた全員が息を呑んだ。

浮竹が辛そうに瞼を閉じる。

 

『……その反応を見ると、やはり彼女はそちらには到着していないようだな』

「どういうことだよ、浮竹さん⁉井上は何処に消えたんだ?そっちで何か分かってんじゃねえのか⁉」

 

一護は思わず怒鳴った。動揺を抑えるなんてことが出来る状況じゃない。

 

『こちらの見解を言おう。穿界門を通過する際に彼女に付けた護衛の二人が生存して戻った。彼ら二人の話によれば、井上織姫は破面側に拉致、もしくは既に殺害されたものと思われる』

 

ルキアが浮竹に食い下がっているが、そのやり取りも一護の耳には入って来ない。井上が、死んだ?そんな、まさか…

 

『情報によれば、井上織姫は破面の襲撃を受け、破面と共に姿を消した』

「そんだけじゃねえか!一緒に消えただけで、証拠もねえのにそんな「黒崎、ちょっと落ち着け」―――っ、冬獅郎!」

 

一護を片腕で制した冬獅郎が一歩前に踏み出した。

 

「浮竹、さっきは随分と含みのある言い方をしたな?”護廷十三隊隊士の中で”最後に見たのがお前なら、さらにその後井上織姫を見た奴がいる、という事か」

『その可能性がある。…そちらに薫君はいるかい』

「いや、ここ一週間は姿さえ見てねえ」

 

一護は突然出てきた名に驚いたが、冬獅郎は薄々感づいていたらしく苦い顔になっている。

 

『断界内での時間に換算して話すぞ。実は、彼女が穿界門を通った数時間後、全く同じ門を彼が通って行ったんだ。彼が門に入るのを俺が確認した五分後、投げ出されるように門から護衛の二人の死神が出てきた。彼らは気を失っていたから、何者かによって運ばれてきたと見て良い。さらにその僅か三分後に穿界門が閉じ、百目鬼の霊圧が消失した』

「何が言いてえ」

『”百目鬼薫”は、本件の最重要参考人という事だ』

「そういうことです」

 

突然現れた声に、その場の全員が一斉に振り返った。そこには、伊勢七緒が眼鏡を片手で抑えながら立っていた。

 

『彼女には今から薫君の捜索に当たってもらう。伊勢副隊長、頼んだよ』

「はい。南の心臓 北の瞳 西の指先 東の踵 風持ちて集い 雨払いて散れ―――掴趾追雀!」

 

きびきびと彼女は描いた円陣に手を当てた。

同時にその円陣から光が滲みだし、漢数字が高速で現れては消えていく。

 

「二十五…六十…八十七…九十三…百十一…」

 

険しい顔のままの七緒が、突然顔を上げた。

 

「捕捉しました!縛道の六十一、六杖光牢!」

「うォッ⁉」

 

七緒が目の前に縛道を放つと、そこに人影が現れた。

それは、義骸に入った薫だった。

冬獅郎を含めた全員がそれを見て目を剥いた。こんなに近くに人がいるなど全く気が付かなかったからだ。

 

「百目鬼⁉テメエいつからそこにいやがった!」

「あァ~、冬獅郎が”浮竹?総隊長じゃねえのか”って言ったあたりからですかねェ」

「殆ど最初からじゃねえか!何でコソコソ隠れたりした」

「ややこしいことになると思ったので…まさかこの義骸に入った状態で捕捉されるとは思ってませんでした。成長したね、七緒」

 

そんな事ありません、と頬を赤らめる七緒に代わって、浮竹が声を出した。

 

『薫君、あの時何を見たんだ?』

「……僕が通った時には織姫の姿は既にありませんでした。二人の護衛が残ったままでは門が閉じられないので、放り出したまでのことです」

『なら何故、行方を眩まそうとしたんだ?』

「……………」

「ちょっと待ってくれ!」

 

緊迫した空気の中、一護は耐えきれずに叫んだ。

 

「井上は死んでねえ!昨日俺が負って誰にも治せなかった大怪我は今朝治ってたし、この手首に井上の霊圧が残ってんだ!あいつは生きてる!」

『それは残念じゃ』

 

浮竹の奥から総隊長の声がした。すぐに画面に浮竹と入れ替わりで総隊長が現れた。

 

「残念、だと?どういう意味だよ」

『お主らの話が本当なら、井上織姫は確かに生きておることになる。しかしそれは同時に、一つの裏切りを意味しておる』

「裏切り⁉そんな訳―――」

『もし拉致をされたなら、去り際にお主に会う余裕など有るまい!即ち、お主の傷を治して消えたという事は、井上織姫は自らの足で破面の下へ向かったという事じゃ』

「そうなると思ったから嫌だったんだ。七緒、六杖光牢(コレ)外してくれないか」

 

冷ややかにそう言った薫の目はもうこの議論の結論に興味は無いとでも言いたげだった。

 

『ならぬ。まだ話は終わっておらぬ』

「僕ァ護廷十三隊に所属してません。従って僕に貴方の話を最後まで聞く義務はない。違いますか」

『儂が総隊長という肩書だけだったらのう?じゃが今は、中央四十六室の権限もまた儂に下りてきておる。黙って聞いておれ』

 

まだ何か言いたげな薫を遮り、恋次が一護の肩に手を置いた。

 

「お話は分かりました、山本総隊長。それではこれより日番谷先遣隊が一、六番隊副隊長、阿散井恋次。反逆の徒、井上織姫の目を覚まさせるため虚圏(ウェコムンド)へ向かいます」

「恋次!」

 

ニヤリと恋次が一護にどや顔で返した。張り詰めた一護の気持ちも一時緩んだ。

しかし総隊長がそれを一喝した。

 

『ならぬ』

「「⁉」」

『破面側の戦闘準備が整っていると判明した以上、日番谷先遣隊全名は即時帰還し、尸魂界の守護に就いてもらう』

 

それを聞いて、一護の隣に立っていたルキアが力なく言った。

 

「それは井上を、見捨てろという事ですか…?」

『いかにも。一人の命と世界の全て。秤にかけるまでもない』

 

今度の彼女の目には、少しの憂いと確固とした決意が宿っていた。

 

「恐れながら総隊長殿、その命令には従いかねます」

『やはりな。そうなるやもしれぬと思い、手を打っておいて良かった』

 

総隊長が言い終わるや否や、部屋の後ろに穿界門が開いた。そこに立っていたのは、朽木白哉と更木剣八だった。

 

「隊長!」

「そういうわけだ。戻れ、お前ら」

「手向かうな。力ずくでも連れ戻せと命を受けている」

 

剣八と白哉が威圧的に構える。それに今は七緒も加わっているから、歯向かっても意味がないことは明白だった。恋次とルキアが肩を落とす。

一護はそれを見ると、うなだれながらも言葉を絞り出した。

 

「分かった。なら、尸魂界に力を貸してくれとは言わねえ。けど、せめて虚圏への入り方を教えてくれ。井上は俺たちの仲間だ。俺が一人で助けに行く」

 

一人決意を固めた一護に、薫が半ば呆れながら言った。

 

「馬鹿か、君は。僕も行くよ。尸魂界の守護なんて彼らに任せておくさ。それより、そんな状態で一人行ったって勝てるものも勝てないだろ?」

「薫さん…」

 

薫に”ありがとう”と一護が言おうとした瞬間、総隊長の杖がゴツン、と画面の向こうで大きな音を立てた。

 

『ならぬ!』

「なん、だと…」 「……………」

『お主らの力は、この戦いに必要じゃ。勝手な行動も、犬死にも許さぬ。百目鬼は一旦尸魂界に帰還。黒崎一護は別命あるまで待機せよ。以上じゃ』

 

一方的に通信が切られた。

 

再びうなだれた一護とは裏腹に、薫がポソリと呟く。

 

「反鬼そ「白伏!」…く、そッ…」

「詠唱破棄とはいえ、義骸に入った状態で私の六杖光牢を”反鬼相殺”で消そうとするとは…やはり流石です、薫さん」

 

反鬼相殺―――同質、同量、逆回転の鬼道をぶつけることで鬼道を消す技術―――を使って縛道から抜け出そうとしたことがバレて彼は七緒に白伏で昏倒させられた。

 

「行くぜ」

 

薫の体を脇に抱えた剣八はつまらなさそうにそう言うと、奥へと引き返していった。

 

「一護………すまぬ…」

 

ルキアが辛そうにそう言ったが、俯いていたせいで顔は一護から見えなかった。

 

 




ここら辺から少しずつ巻いていきます。
戦闘描写が少ない方向へ舵を切って進んでいきます!
ちっとも書けないんですから仕方ない…ことにしましょう。させて下さい。

ちなみに
織姫の言霊がどうのこうのと言うのは独自設定です。織姫の性格に合っている能力は思いや感情が力になりそうかなと思い書かせていただきました。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!

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