紫苑に誓う   作:みーごれん

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潜入

日番谷先遣隊が尸魂界に半ば強制送還されたその日の夜、学校から帰った一護はそのまま浦原商店へと向かった。

 

「いらっしゃい。来る頃だと思ってましたよ、黒崎サン」

 

店先には、その店の店主、浦原喜助が待っていた。何となくそんな気はしていたから、一護は殆ど動じずに、しかし一応訊いてみた。

 

「どうしてそう思った」

「アタシなら知ってるかもしれない、そう思ったんでしょ?―――虚圏(ウェコムンド)に行く方法。御名答っス。用意、出来てますよ」

 

 

 

 

 

 

 

彼に連れられて地下勉強部屋まで下りると、彼は(おもむろ)に井上が藍染に狙われるのを避けるために戦線離脱させようとしていたこと、井上の気持ちを考えて後手に回ってしまったことを語った。

”自分の責任でもあるから、全面的に一護に協力する”とも。

 

「良いのかよ?尸魂界の命令に背くことになるぜ?」

「もともと色々と背いてここにいるもんで。今更っスよ」

 

飄々と喜助が答えてすぐ、頭上から懐かしい声が降ってきた。

 

「随分と辛気臭い顔をしてるな、黒崎」

「石田!お前何でここに」

 

相変わらず趣味の悪い白い服に眼鏡を掛けた石田雨竜が岩山の上に座っていた。

 

「決まってる。虚圏へ行くためだ」

「チャド!」

 

隣の岩影から、チャドこと茶渡泰虎も顔を出した。

そちらの方を向くと、後ろから更に声が聞こえた。

 

「二人とも、ちゃァんと浦原さんから話は聞いてる。付いてきてくれるなんて、友情だねェ?」

「なな、何を言ってるんですか!そんなんじゃありませんよ⁉」

 

石田が焦って否定しているが、まさか、本当に―――

 

「薫さん⁉え、アンタ何で今こんなところにいるんだよ!」

「失礼な奴だなァ?僕がここに居ちゃァ駄目か?」

 

心外だ、と腕組みして一護の後ろに立っていたのは薫だった。

 

「そういう意味じゃねえけど…薫さん確か、義骸ごと尸魂界に連行されてなかったか?」

「あァ、変わり身の術だよ、一護」

 

悪戯っぽく笑いながら説明し始めた薫によると、連行されていったのは彼の義骸と義魂丸だったらしい。あの場でわざと七緒に霊圧を捉えさせ、義骸の方を捕まえさせた。勿論薫は死神化して斬魄刀を振るい、あの時の会話は自身の声や動きを偽装して凌いでいた。連れていかれた後も、義魂丸には薫の癖を覚えこませてあるから時間稼ぎになるのだそうだ。元々あの義骸は完全に霊圧を遮断する喜助の()()()。義骸を脱がされない限りそうそう正体がバレることはないのだとか。

 

「何でわざわざそんな事…別に行方を眩ませたままでも良かったんじゃねえのか?」

「それを総隊長が放置するとは思えないからな。現に七緒まで送り込んできてたわけだし、手を打っておくに越したことはなかったってことだよ。これで暫くは僕ァ尸魂界から完全に独立して動けるって訳だ」

 

呑気に伸びをした薫を見て一護は力なく笑ったが、再び思いつめた表情になった。

 

「薫さんはともかく、石田とチャドは駄目だ!気持ちはありがてえけど、お前らの力じゃあ…」

「一護!」

 

チャドの左腕の霊圧が跳ね上がった。彼はそれを大きく一護の方に振りかぶる。

一護の方も〈斬月〉の巻き布を咄嗟に解いてそれを受けた。伝わってくる力に一護の表情が変わる。

 

「これでも、力が足りないか?俺たちを信じろ。一人で背負うな。そのための、仲間だ」

 

チャドの言葉を聞いて一護は気持ちを入れかえた。皆、この一か月を無為に過ごしてきたわけではないのだ。

 

「ハイハ~イ、準備は良いっスか?」

 

間の抜けた言い方だが、喜助は一護を見ると薄く笑った。

 

「ようやく出来たみたいっスね、準備」

 

一護の覚悟もやっと決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それでは、これから虚圏への道を開きますよお!ちょっと下がっててください」

 

一護達が下がったところよりも薫だけ五歩ほど下がった。それに気付いた一護が振り返る。

 

「え、薫さん、下がり過ぎじゃねえか?」

「いや、ここで良いんだ。僕ァ一緒に行かないからな」

 

薫がケロッと言ったのを聞いて、チャドと石田も揃って薫を振り返った。一護も、訳が分からないと動揺した。

 

「はあ⁉行かないって…」

「勿論留守番って訳じゃない。同じタイミングでは出発しないって意味だよ。浦原さんから僕に少しばかり話があるんだってさ」

「ややこしい言い方だな…」

 

二本の柱が壁に垂直に生えている。その片方に喜助は立つと、持っていた杖を片手でその柱と垂直に構えながら片膝を付けて(ひざまず)いた。

 

「さあて、それじゃあ―――我が右手に界境を繋ぐ石 我が左手に実存を縛る刃 黒髪の羊飼い 縛り首の椅子 叢雲(そううん)来たりて 我・(とき)を打つ」

 

喜助の詠唱が終わった途端、二本の柱を繋ぐように空間に亀裂が走った。繋がってすぐにそれは上下に開き、大きな穴となった。

穴が開いたのを確認すると、喜助は柱の上で立ち上がって薫たちの方を向いた。

 

「破面たちが行き来するこの穴は、名を”黒腔(ガルガンタ)”と言います。中に道は無く、霊子の乱気流が渦巻いています。霊子で足場を作って進んでください。暗がりに向かって進めば、虚圏に着くはずです」

「分かった。浦原さん、ウチの連中のこと頼んでいいか。俺のこと心配しないよう、上手いこと言っておいてほしいんだ」

 

一護が思い切ったように言った。喜助の方はというと、表情を動かさない。

 

「分かりました。お友達には?」

「アイツらには…帰ってから謝る」

「分かりました」

 

一護が穴の方に向き直ると、いつの間にか見物していたジン太や雨も彼らに声をかけた。

 

「ま、適当に頑張って来いよな」

「お気をつけて」

「ああ」

 

一護、石田、チャドは揃って眼前の黒い穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

一護達が黒腔へと消えて行った後、喜助は少し離れた岩山に視線を向けた。

 

「だ、そうですよ?そろそろ出てきたらどうっスか?」

「あの~、いつから気付いてたんスか?」

 

ひょっこりと顔を出したのは、一護達のクラスメートの浅野圭吾、児嶋水色、有沢竜貴だった。

 

「ここへ来る前からっス。貴方たちが黒崎サンを付けてきてるって知ってたから、店の鍵、開けっ放しにしといたんスよ。やれやれ、黒崎サンも甘いっスねえ?ちょっと冷たく当たったくらいで絆を断ち切ってきたつもりでいるんだから」

 

複雑そうな表情の三人に薫は歩み寄った。

 

「さァ三人とも、もう高校生が出歩いてていい時間じゃァないんだ。送って行くから帰りなさい」

 

薫への反応は三者三様だった。

 

「え、えええええぇぇぇ⁉百目鬼先生⁉え、それ一護と同じ服…どゆこと⁉」

「啓吾、アンタ授業中ずっと寝てたから知らなかったんでしょ。授業中にもポンポンこの格好になってたわよ」

「やっぱり、ちょっと変わってるな~とは思ってたけどそういう事だったんだね」

 

上から啓吾、竜貴、水色だ。竜貴は兎も角、水色にも勘付かれていたことに薫は驚いたが、それは顔に出さずに笑顔を作った。

 

「浅野君、爆睡でしたからねェ。結局最後まで授業を聞いてもらえたことが無くて残念でした」

「サーセンっしたあああ‼」

 

啓吾のスライディング土下座が完璧に決まったのを、水色は満面の笑みで、竜貴はため息交じりに、そして薫も苦笑しながら見下ろした。

 

 

 

 

 

 

啓吾たちを見送って薫が戻ると、喜助はまだ地下勉強部屋にいた。

黒腔も開きっぱなしになっている。

 

「まだ開いてるってことは、僕への用事はすぐに終わるって事ですか?もう一護達は虚圏についているのでは?」

「三十点ってところっスかね」

「えェ~…落第じゃァないですか」

 

黒腔は通行用の穴だったはず。中は霊子の乱気流だった筈だから、そこで何かをするとかは無い筈だ。拘突の様な存在が有るのなら喜助が一護達に注意しているだろう。

 

「では、更に誰かがここを通るという事ですか」

「具体的には誰が来ると思います?」

 

肯定、という事だろうか。織姫のために駆け付けられる戦力となると、人選は自然と限られてくる。

 

「一護たちに同行していない時点で鉄斎さんと夜一さんはここから離れることはないでしょうし、一心さんが娘二人を置いてわざわざ虚圏へ向かうとは思えない。となると、織姫を助けたがっている…ルキア?それに、恋次でしょうか」

「六十点っスね!後は行ってからのお楽しみって事で」

 

ニコニコと喜助は言いながら、柱から飛んで軽やかに着地すると薫の近くの石に腰を下ろした。

 

「実は百目鬼サン、アタシは貴方に一つ、嘘を吐いてました」

「はァ。一つ、ねェ?」

 

数えられるほどだったのかと皮肉を込めて薫は言ったが、喜助は帽子を深く被り直しただけだった。

 

「そっス。”お願い”その三は、もし藍染が尸魂界まで進攻した際、〈波枝垂〉の卍解を用いて流魂街の外れで止めをさす、とお伝えしてましたよね」

「えェ。そのために卍解の威力を上げる修行をここ数日続けていました。体の具合を鑑みながら」

「全部が、とは言わないんスけど、アレ、嘘なんです」

 

やけに勿体ぶることだ。心の中に暗雲が立ち込めていくのが分かる。

 

「百目鬼サン、貴方に本当にやってもらいたいのは―――――――――」

 

その声は、フェードアウトしながらも薫の耳に反復し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

ルキアと恋次が一護に入魂という名の拳骨をかました。

 

「必ず戻る!何故貴様はそれを待てぬ!何故貴様はそれを信じられぬ!我々は…仲間だろう、一護…!」

 

一護が呆然としているのを、ルキアは苛立たし気に、しかし僅かな哀しみを湛て見下ろした。

浦原の助けを借りて虚圏に乗り込んですぐ、一護達と合流できたルキアは、彼らに会うなり恋次と結託して置いて行かれた鬱憤を晴らした。

 

「ああ、そうだな…アリガトな、追ってきてくれて」

「当然だ!」

 

はにかみながら言った一護にルキアと恋次は胸を反って応えた。

空気が落ち着いたのを感じたのか、石田が徐に口を開いた。

 

「ところで朽木さん、君たち二人が来たってことは、百目鬼さんももうこっちに着いているのかい?”すぐに追いつく”と仰っていたから、そろそろかと思っていたんだけど…」

 

それを聞いて、ルキアと恋次は気まずそうに顔を見合わせた。

その様子に、石田が不審そうに首を傾げる。

 

「どうしたんだい?」

「いや、実は…まだ掛かるようなのだ」

 

ルキアと恋次が浦原商店の地下勉強部屋に辿り着いた時、薫は浦原に……掴みかかっていた。顔こそ見えなかったが、胸倉を掴んで言葉も発さず凄まじい殺気を放つ薫を見て二人は凍りついた。

 

『何も、絶対やれって言ってるわけじゃ無いっス。そうさせないよう、アタシらも全力を尽くします。でも万が一、その全てが届かなかったとき…()()()()()()()()()()にはこれしか無いんス』

『………少し、頭を冷やす時間をください』

 

ルキアたちの目にも留まらぬ速さで横を通り抜けていった薫に呆気に取られていると、先程の緊張など無かったかのような軽い調子で浦原は二人の方を向いた。

 

『これはこれは阿散井サン、朽木サン!思ったより早かったっスね』

「ああ…浦原、今のは…?」

『方針の違いってやつです。大丈夫、なんてこと無いっスよ』

「いや、それ以前に何で薫さんがここにいんだよ⁉」

 

呆然としていたルキアの後ろから恋次が突っ込んだ。そういえば、彼は伊勢副隊長と更木隊長に連行されていたことをルキアも思い出す。

 

『連れていかれたのはダミーっスよ。そろそろバレる頃っスかね?』

 

相変わらずニヤニヤとしながら彼はルキアたちから背を向けて向こうに空いている大きな穴の方へ向かった。

 

『お二人とも、ここに来たのは虚圏に行くためでしょう?なら、ぼさっとしてないでこっちに来て下さ~い!』

 

大げさに手を振る彼に結局殆ど何も聞けないまま、二人は黒腔へと飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後に音もなく現れた気配に振り返ることなく声を掛ける。

 

「腹、括れました?」

「……えェ。でも一つだけいいですか」

「何でしょう」

「最終兵器は僕じゃァない。違いますか?」

 

喜助は苦笑すると、帽子を取った。

 

「その通りっス。いつからお気づきに?」

「……………」

 

薫は無言のまま黒腔の方へ体を向け、その中に飛び込んでいった。

 

薫を吸い込んでいった穴の方へ、喜助は一人帽子を脱いだまま礼をした。

彼から預かった封筒がキチンと懐にあるのを確かめながら―――――

 

 

 




義魂丸は浦原喜助(スタッフ)裏ルートで(阿近さんに協力を得て)回収しました。

さあ、どんどんすっ飛ばしていきます!



今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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