すみません。
本編とは全然関係ない過去のお話です。
見た目
薫&昴…小学四年生くらい
花太郎…小学二、三年生くらい
をイメージしてます。
いつものように花太郎は、昴と薫に会うために家を出た。今日は薫の屋敷に集合だったはずだ。
案の定屋敷に着くと二人の姿があった。
だが、何となく二人の表情が暗い。
「お早うございます、昴さん、薫さん!どうしたんですか?そんな暗い顔して」
「…清之介さんから聞いたよ。花の家の隣の田中さんが飼ってるタロウって、犬じゃなくて鳥だったんだな」
「………ふえ?」
深刻そうにそう言う薫の表情を見て、花太郎は動揺した。
「え、えええええええ⁉そそそ、そうだったんですか!!?」
さっきから昴は顔を伏せたままだ。小刻みに震えた肩に薫が片手を添えている。
「あァ。僕らも驚いたよ。絶対に柴犬だと思ってた」
「鳥って…どういう…?」
人差し指を上げた彼は、ゆっくりと言った。
「普段は隠しているらしいんだけど、いざとなると背から羽が生えてくるらしい。それはそれは白く美しい羽だそうだよ」
「じゃ、じゃあ、空も飛べるって事ですか⁉」
「そういうことにな「ぶっふぁっ!」…昴」
奇声を発しながらとうとう昴がしゃがんだ。
花太郎は慌てて昴の震えるもう一方の肩に手を添える。
「昴さん!大丈夫ですか?体調が悪いなら――」
「~~~クッ!だっ、だいじょぶなっ、わけ、ないだろッ!ブッ、アハハハッ!駄目だっ!も~無理!アハハハハハハ‼」
そう言うと昴は腹を抱えて笑い出した。
訳が分からず薫の方を縋る様に見ると、彼はにこやかに笑った。
「ふふッ!嘘だよ、花」
「…………ふえ?」
「清之介さんはそんなこと言ってないし、タロウも見たまんまだ。花が来てからのこと、全部嘘だよ」
「え」
尚も硬直した花太郎を見て、昴は一層腹を抱えた。
「ふっ、普通っ、気付く、だろ!あ、あれが、鳥っ?…クフッ!」
「花が知らないのに、清之介さんが知ってて僕らにしか伝えないなんてこと無いだろ?」
爆笑する昴と苦笑する薫、どっちもどっちで酷いが、それより花太郎は顔から火が出るほど恥ずかしかった。
いつものことながら、完全に二人に遊ばれた。
学習しない自分が情けない。
「ひ、酷いじゃないですか、嘘吐くなんて!あんまりですよう!」
「あはは!ごめんごめん。いやァ、今日は現世ではちょっとした行事があるらしいんだ。僕らもそれに
「行事ですか?」
「うん。“えいぷりるふーる”と言って、四月一日、つまり今日一日は嘘を吐いていいんだって」
「やーい、花、だーまさーれたー!」
「二人掛なんてズルいです!」
精一杯腕を上下に振って抗議したが焼け石に水だ。
昴はニヤニヤ笑って花太郎をからかってくる。
こうなれば…こっちがやり返すしかない!
「そ、ソウイエバ、昴さん!月風堂のおじさん、引退してお店を閉めるって知ってましたか⁉」
それに昴は一瞬口の端を引き攣らせた。
月風堂というのは昴たちが好きな和菓子屋だ。特にそこの店主が優しいヒトで、時々かりんとうをおまけしてくれたりする。
「…嘘だ。つい最近行ったけど、そんな事おじさん言ってなかったよ」
「ぅ、嘘じゃありません!」
「店仕舞いは六月末だって言ってたな」
「!」
薫が花太郎に同調した。
ごくごく自然に。
花太郎からしたら二人が動揺する内容を言ってみただけだったのだが――
「ええっ!本当に辞めちゃうんですか⁉」
「ウソ」
「………うぐぅ…」
結局騙されたのは花太郎だけで、二人は再びニヤニヤ笑った。
「花、無理に嘘吐こうとしなくて良いんだぞ?こういうの向いてないっていうのは良いことなんだからさァ」
「そーそー!正直すぎるのは心配だけどな~!」
「うう…じゃ、じゃあ…」
「“じゃあ”ッて言っちゃう花の素直さ、大好きだよ」
薫に言われて花太郎は思わず口を抑えた。
絶対褒められてない。
絶対!
結局その後、花太郎が昴と薫を騙そうとした回数が二十回。
その内十五回返り討ちに合い、残りの五回は返り討ちどころかどこがどう嘘として成立しないか解説までされた。
そろそろ言うことも無くなってきた――というより、最早よくもまあここまでバリエーションを出せたものだと自分で思うくらいになったところで、薫と昴が花太郎に向き直った。二人の笑顔は、今日一番純粋なもの…に見える。
「「花、誕生日おめでとう!!」」
「……………ふえ?」
いきなり言われて花太郎は思考が止まった。
今日あったことがあったことだけに次の言葉を警戒していたが、どうやら今度こそ嘘ではないらしい。
「四月一日だろ?おめでと、花!お互いまだまだ霊術院までは遠いけど、それまでもそれからも宜しく!花みたいに弄る相手がいないとつまんないからな!はい、月風堂のみたらし団子!」
昴はひょいッと笹を模した紙にくるまれたみたらし団子を花太郎に渡した。ふわりと甘い香りが鼻腔を刺激する。
道理で先程花太郎が月風堂の話題を出した時の昴が少し挙動不審だったわけだ。
「わあっ!ありがとうございます!折角ですから、一緒に食べましょう!」
「いいのか?それこそ折角なんだから自分で食べちゃえばいいのに」
「一緒に食べる方がおいしいじゃないですか!」
花太郎の言葉に珍しく照れた昴に代わって、今度は薫が包みを出した。
昴のとは打って変わって小さな木箱だ。
「僕からは、コレ」
「ありがとうございます!……何ですか、これ?」
蓋を開けると中には綿が敷き詰められており、木片のようなモノが真ん中に鎮座していた。
「香木って知ってるか?小さい特殊な木の欠片を燃やして香りを楽しむっていう遊びに使うらしい」
「香木、ですか?そういうものもあるんですね。今度兄さまに訊いてみます」
「花、騙されちゃ駄目だって。今日は特に、そういうもっともらしい事言う時の薫は信用できないんだから」
不敵に笑いながら昴が薫を睨むと、彼は澄ました顔で言った。
「……本当の贈り物は、後でな」
「やっぱり!こんな木の欠片が贈り物な訳ないよな!どっかで適当に拾って来たんだろ?ふふん、甘いね」
機嫌を良くした昴が団子を食べるための部屋へ歩き出した。
それを見ながら、薫がそっと花太郎に耳打ちする。
(実はそれ、本物なんだ)
(え、でも、昴さんは…)
今度は薫が不敵な笑みを浮かべた。
(昴に一杯食わしてやりたいだろ?あいつ嘘を吐くのァ下手だけど、吐かれたことにァ目敏いからスリル満点だ!バレないようにしてくれ!――あァ、香木ってのは精神を落ち着ける効果があるんだって。嘘吐くなら動揺を出さないようにしないと、百年経っても僕らを騙せないぞ!それ使ったら上手くいくかも…なんてな)
クツクツ笑いながら薫が昴に続いた。もしかしたら、昴に嘘を吐くこのゲーム自体が薫からのプレゼントなのかもしれないと花太郎は思った。
花太郎はその二つの後ろ姿を見ながら、二人にはまだまだ敵わないなあと、でも二人になら色々振り回されるのも悪くないと思いながら追いかけた。
花太郎、誕生日おめでとう!
唯それだけの為に書きました。
本編進めろよって話ですよね。すみません!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!