紫苑に誓う   作:みーごれん

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凄く話が飛びます。何巻分飛ばしたか数えるのが怖いくらい飛びます。


思遣

「おかしいと思わないかい、ギン」

 

崩玉を屈服させ、現世で隊長格を蹂躙し、断崖で拘突を退けた藍染は今、尸魂界にある本物の重霊地―――空座町を悠々と歩いていた。

その彼が気になっていることが二つあった。

 

こういう言い方をすると藍染が何かを危惧しているようだが、実のところはそうではない。

具体的に言うなら、偶々食材を買いに来た店で今日の夕食を考えながらぼんやり冷蔵庫の中を思い出す、その程度の事だった。

 

一つは、現世での戦いにおいて、彼を憎んでいる筈の死神の一人、百目鬼薫が結局姿を現さなかったこと。

 

もう一つは―――

 

「おかしい?何がです」

 

藍染に最後まで付き添ってきた唯一人の男、市丸ギンが首を傾げた。相変わらず顔には口角が不自然に吊り上がった笑顔を貼り付けている。

 

「気付いているだろう?これだけ町を歩いているのに一人も人間を見掛けない。まるで、何者かが意図的に隠しているかのようだね。―――おや」

 

二筋ほど向こうに動く影が見えた。

 

「なんや、いてましたねぇ、人間。でも藍染隊長、気にすることあります?」

「ああ。あれはウルキオラの報告に居たよ。黒崎一護の仲間だね」

 

霊圧を少し解放してやると、その動きが止まった。呼吸するのも辛いらしい。

藍染はゆっくりとした足取りでそれに近づいた。

黒髪の少女はやっとのことのように顔を上げると、苦しそうに片膝をついて呻いた。

 

「あ…アンタ、一体…なん、なんだ、よっ!」

「君が知る必要は無い。黒崎一護の力を完璧に近づけるため、死んでもらうよ」

 

藍染が刀を振り下ろした先に、何者かが滑り込んだ。金属同士が耳障りな音を立てて互いの動きを止めた。

 

「間に合ったみたいね」

 

藍染の刀を受け止めたのは松本乱菊だった。

彼女は刀を弾くと、少女を反対側へ逃がした。

 

「ギン…いつまでこいつに従ってるつもり⁉」

 

乱菊はギンを睨みつけると、再び刀を構え直す。

ギンはいつもの笑みを消すと、その双眸を薄く開いた。

 

「いつまで?そら、()()()()()()()――――アンタ、()()?いつまで乱菊の()()しとるつもりなん?」

「振り、ですって?ギン、何を―――」

「乱菊は現世で重傷を負ったんよ。いくら治療を受けたかてこんな短時間でそんなピンピンしとるはずない」

「あちゃァ、現世ではそんなことになっていたのか」

 

その声はギンの真後ろから発せられた。彼が振り返ろうとした時には既に、彼の口の中に後ろの人物から液体を流し込まれていた。

 

「ここじゃァそういう情報が入って来ないからいけない。君もそう思うだろう?藍染」

 

ギンが崩れ落ちるように倒れた後ろからは、先程気に掛かっていた百目鬼薫が困ったような顔をして立っていた。いつの間にか乱菊の姿は消えている。

ギンの霊圧が揺れ、その口元からは大量の血が流れている。

 

「成程、人間の姿が見えなかったのは君の仕業か。松本乱菊も、もしかしたら先程の少女も君の作った幻影だったという事だね」

「その通り。―――良いのかい?放っておいたらギンが死んでしまうよ?」

「構わない。ここで果てるようなら、それまでだったという事だよ」

「そうか…可哀相に」

 

薫がしゃがんでギンの顔を撫でた途端、霊圧が消えた。

 

「ギン⁉」

 

遅れて、本物の乱菊が駆けてきた。ギンの言う通りまだ回復しきっていないらしく、見ていて危なげだ。彼女は藍染にも薫にも目をくれず、ギンを抱え起こした。

 

「乱菊、彼を町の外に。今の君では足手纏いだ」

「足手纏い?傲りが過ぎるぞ、百目鬼薫。過去に私を傷つけられたからといって、今もそうだなどとは――――」

 

振り返りざまに薫が刀を振り上げたのを藍染が認知した直後、彼の左肩が深く切り裂かれた。

 

 

 

 

 

 

 

薫は藍染に振り向きながら、振り向きざまに四ノ型、解脱(ゲダツ)を放った。粒子の振動に作用して物質間の結合を緩めるこの型は、虚夜宮の天蓋を破って侵入するとき――――ザエルアポロが被った砂はこの型で天蓋の結合が緩んでできたもの――――と、ザエルアポロの足を崩した時に使った。だがこれは薫と使われる側の霊圧同士の量によって威力が変わる。

今薫はこれを藍染の左腕を落とすつもりで撃ったのだが、肩を裂いただけに留まってしまった。それ程藍染の霊圧は桁違いだった。

 

……だからと言って、攻撃の手を休めるつもりは無いのだが。

 

「何だ?黙っていないで続きを言ってはどうだ?僕ァ黙れなど一言も言っていないよ」

「貴様…っ!」

 

藍染と共に瞬歩をしつつ刃を躱しながら薫は移動した。

乱菊がギンを抱えて行ってくれたのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

実を言うと、ギンは現在凄く元気なはずだ。

というのも、薫がギンに飲ませたのは喜助手製の()()()だからだ。

喜助曰く、”これを飲むと、数秒体中が痛んで大量に血を吐きますが、その後霊圧も回復しますし怪我も小さなものなら一発で治るっス!”との事らしい。何故そんな全く戦闘に使えないものを作ったのかは突っ込まなかった。

原理を訊くと、現零番隊、泉湯鬼こと麒麟寺(きりんじ)天示郎(てんじろう)の回復技術を飲み薬に転用したモノらしい。体内の不調な血液を入れかえ、治癒しているとかなんとか…尸魂界には浸かるだけで体が回復する湯まで作っているらしい。

ギンが今ピクリとも動かないのは、薫が顔を撫でた際に白伏を使ったせいだ。これでうまく彼を戦線から外せた。

 

―――ギン、君は死んではいけない。

 

 

 

 

 

 

この百年近く、薫は”昴”としてギンをかなり近くで見てきた。

ギンは正直で器用で、時々不器用な男だ。

胡散臭い顔をしながら何だかんだで言う事はやるし、嘘も殆ど吐かない。

大抵のことはそつ無くこなすし、手際も良い。

 

そんな彼が完全に心を見せないようにする相手が二人いた。

一人は藍染惣右介、もう一人は松本乱菊だ。

 

どんな者でも、意図的にでもなければ完全に相手に本心を見せないように接するなどできない。

だから彼の藍染への接し方を見て、彼は藍染に服従していないという事はすぐに分かった。

何か彼なりの目的や理由が有るのだろう、と。

そして乱菊と接し、また彼の乱菊への接し方を見て薫は戸惑った。

乱菊は明らかにギンに対して幼馴染として普通より一層親し気に彼と接しているのに対し、ギンは上辺ではそう接していても〈波枝垂〉に言わせれば”芯は冷めている”とのことだった。

 

乱菊との接触を極端に避けているわけでもないし、彼女との過去を考えると彼女に対し普通以上に心を開いて感情を露わにしても良いものを、と思った時、思い当る節があった。

 

薫はこの百年、特に花太郎との接触に細心の注意を払ってきた。

というのも、彼は数少ない薫たちの昔馴染みだ。従って、無意識のうちに出てしまう”薫”としての癖と”昴”としての仮面のズレを悟られてしまう可能性が有った。―――それに気付いたのは、あの事件の後藍染に”口調に薫の癖が出ている”と言われてからなのであるが。

故に、薫はいつも感情を切り離し、動揺せぬよう心を閉ざし、常に冷静を保つことで”昴”という姿を演じることに集中した。

一度だけ―――一護達が尸魂界に侵入してきた際、彼らから花太郎を引き離そうとして花太郎に〈瓢丸〉を使われた時―――は、取り乱してうっかり”そんなこと、()は望んじゃいない”と言いそうになったが…

 

 

彼も恐らくそうなのだ、と薫は思った。乱菊には、他の誰にも気付けないギンの動揺や変化が分かってしまうかもしれない。だから彼は”昔通りの自分”を演じるために心を閉ざした。

 

そして、それだけではないことがついさっき分かった。乱菊の幻影に対して彼はわずかではあるが感情を露わにした。怒り、焦燥、悲しみ――――それは、本物の乱菊に対する情の裏返しだ。彼はきっと、彼女を巻き込みたくなかったのだ。だからこそギンは彼女に何も話さず、心を明かさず、藍染から遠ざけた。

 

 

 

ならばギン、君は生きなければ。

藍染の企みは叶わない。このままいけばギンもタダでは済まないだろうが、戦闘中に殺害される事態にならなければ主犯でない以上極刑に処されることはない筈だ。もしもの時の手も打ってある。

万が一藍染が望みを叶えたとしてもギンは恐らくそう長く生かしてはもらえない可能性が高いのは、あっさり藍染が彼を見捨てたことからも分かる。

 

生きてさえいれば、いずれ乱菊と再び相見えることが叶うだろう。

それは、薫には最早叶わないことだ。

 

どんなに願っても、努力しても、昴自身に会い、語り、触れ合うことは出来ない。

 

ギンと薫は似ている。長きにわたり仲間を欺き、本心を晒さず、味方もいない…

二人の最大の違いは、大切なものが生きているかどうかという事だ。

 

(ギン、この程度の白伏ならば、一時間もせずに目が覚めるだろう。その頃には全てが決しているさ。焦ることはない。ゆっくり行こう。君の生きる時間はまだまだこれからだよ)

 

薫はそっと微笑むと、再び藍染に刀を振り上げた。

 

 




勢いがあるうちにと投稿したは良いものの、字数少ないですね。
まあ次話がきっととてもとても長くなるのでプラマイゼロです!


今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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