科名:ショウガ科
大きさ:背丈30~100cm以上 横幅30~60cm
“あなたの姿に酔い痴れる”
クルクマ
昨日、正午頃
場所は瀞霊廷より南・
ここを守護していた
「あちゃァ、忙しいタイミングで来てしまいましたか」
驚くほど澄んだその声は、そんな中でもよく通った。
聞き覚えのある声に、其の人影の周りに居た死神が動きを止める。
「あァ、もし、此処の門番はどなたですか?」
首を傾げているらしいその人物は笠を被っているせいで顔が見えない。
一番近くに居た死神が警戒を切らさぬまま斬魄刀に手を掛ける。
「……あれ? どの方なんですか? 困ったなァ、師匠には門番に渡せと言われたけど、他の死神の方に渡しても良いものなのかな?」
「貴様、何者だ⁉ 笠を脱いで名を名乗れ!」
斬魄刀を構えた目の前の死神を見つめていたその人物は、暫くしてやっと両手をポンと打って理解したように頷いた。
「これは申し訳ありません。礼儀知らずなことをしてしまいました。普段は笠など被らないものですから」
そう言って傘を脱いだ人物の顔を見て、その死神は――というかその場に居た死神たちは、何処でその声を聞いたのかを思い出した。
「あなたは……」
「この書状を門番の方にお渡し願えますでしょうか?」
その書状はすぐに瀞霊廷に通され、翌日、護廷十三隊で隊首会が招集された――
「忙しい中、よくぞ皆集まってくれた。今回の案件は異例中の異例につき、各隊隊長に集まってもらった」
護廷十三隊総隊長、山本重国は全隊長が揃った隊首会の場で重々しく言葉を紡いでいた。詳しい事態を聞かされていない浮竹十四郎は、偶々調子のいい体を連れてここに参じた。
今回隊長各位が呼びだされたのは、”特例入隊”が有ったからだと聞かされている。
護廷十三隊に入隊するためには、鬼道衆や隠密鬼道といった組織から赴任してくるか、入隊試験を突破して入隊するかのどちらかしか基本的にはない。勿論、例外もある。
例えば現十一番隊隊長・更木剣八は先代”剣八”を倒したその戦闘能力を評価されて入隊を許された。”護廷十三隊に有益であるだろう人物を招く”、その制度が”特例入隊”である。
勿論こんな入隊の仕方をしてくるものは非常に稀だ。それこそ何十年に一度という頻度だ。だからこそそうやって招かれた隊士がいる場合は各隊長がその人物を見極め、自隊に引き入れるかどうかを判断する場が設けられる。
「各々既に聞いておろうが、今回集まってもらったのは”特例入隊”を認めたからじゃ」
しかし、と浮竹は違和感に気付いた。確かにこれは珍しい案件だが、”異例中の異例”と総隊長に言わしめる程の事ではないはずだ。では、異例なのはその隊士か――?
「長たらしい前置きは無しにしようかの。入りなさい」
隊首室の扉がゆっくりと開かれる。
「失礼します‼‼」
凛とした声が室内に響いた。同時に、室内にいたほぼ全員が目を剝いた。
―――その姿、声は、嘗て護廷隊士だった橘昴そのヒトだった。
「薫クン⁉ 生きてたなら連絡してくれても良かったんじゃない?」
ここで彼女を昴だと思う者はいない。彼女が百年前に故人になっているのは周知の事実だったし、彼女の幼馴染――百目鬼薫がその後百年彼女に成りすましていたのを半年前に彼自身が暴露したからだ。従って、五か月も音沙汰の無かった彼が、以前の冗談として昴に変身しているのだと皆が思った。
それ程までに、彼女は昴に酷似していた。
「か……かおるくん⁉ どなたか存じ上げませんが、貴方は
「……へ? 山じい、どういうコト?」
彼女が齎した予想外の反応で、面々に動揺が走る。
総隊長はそれに一喝して場を正した。
「春水、余計な口を挟むな。特例入隊隊員、名を名乗ってくれるかの?」
そう言われて彼女は背筋を伸ばすと、さらにはきはきとした声で名乗った。
「はい! 僕ァ立花馨と申します。百目鬼薫の弟子であります!」
「弟子……⁉ 君はどこの出身だい?」
「分かりません。記憶を失っていたところを百目鬼師匠に拾っていただいたもので。この名もその時に授かりました」
訳が分からない。薫の弟子だという彼女は何故これほどまでに昴に酷似しているのか。いや、もしかしたら似ていたからこそ薫は弟子に迎えたのかもしれない。しかし今は、それ以上に重要な質問をせねばならない。
浮竹は息を整えると、一歩前に出た。
「立花、と言ったね。薫君は今何処にいるんだ?」
「……何処にも。つい先日亡くなりました。形見に、これを遺していかれました」
そう言って彼女は腰に差してあった刀を抜いた。それは紛れもなく〈波枝垂〉――薫の斬魄刀だった。
「確かに、これは彼の斬魄刀だ……」
「然り。そして立花、お主は既に始解を扱えるそうじゃのう? ここで少し、見せてはくれまいか」
「はい!」
応えた彼女は、浮竹から返された斬魄刀を構え直した。
「
彼女が斬魄刀で空を斬ると、そこから氷の――いや、どちらかと言うと雪の粒が出現した。それはいくつも揺れるように舞い上がり、蛍の様に浮かんでいった。
室内の空気もまた氷ついていた。その理由を知らない彼女は斬魄刀を仕舞うに仕舞えず戸惑っている風で、視線を泳がせながら斬魄刀の持ち手を小さく撫でている。混乱が広がりきる前に総隊長が杖で床を一つ突いた。鈍い音と共に立花という少女が肩を小さく跳ねさせる。
「……相分かった。立花、斬魄刀を仕舞いなさい。これからお主の入隊する隊の審議に掛かる。暫く退室して待っていなさい。――長次郎」
「御意」
総隊長の隣で待機していた佐々木部長次郎が立ち上がり、彼女を外へと連れて行った。扉が閉まり足音が聞こえなくなると、我慢できずに浮竹は声を上げた。
「元柳斎先生! 彼女は一体何者なんです⁉」
「ちょい待ちぃ。何でアンタそない慌てとんのや。確かに相当の実力者やゆうことは分かりようが、隊長が揃いも揃って動揺しすぎなんちゃいますか」
口を挟んだのは平子信子――百年前の虚化で尸魂界から追放されていたが、藍染の一件が明るみに出、また解決したことで復職した現五番隊隊長――だった。三番隊、九番隊も同様にこの状況に付いていけていないらしい。
「平子隊長、君は百年前、百目鬼薫という死神がある隊士に成りすますことで消息を絶っていたという話は聞いているだろう?」
「百目鬼? ああ、藍染倒す一歩手前まで行った死神ですやろ? 聞いてますけど」
「彼が成りすましていたのが橘昴という死神で、さっきの立花と声も顔もそっくりなんだ。だから先程、それを知っていた俺たちは彼が再び冗談か何かでその姿をして来たのだと思った」
「他人の空似もここまでいくと笑い話やな。隊長五人以上動揺させるモノなんてそない有れへん」
「問題はそこなのじゃ」
総隊長が重々しく言い放った。
「まず、あの者は百目鬼の弟子じゃという事。次に、その姿形が橘に酷似しておること。最後に、あの者の振るった斬魄刀が〈氷華〉だったこと。お主らの意見を聴きたい」
「百目鬼の弟子やったり他人にそっくりやったりで隊士が驚くんは分かりますけど、馨ちゃんの斬魄刀が〈氷華〉や、いうことに何の問題があるんです?」
「彼女の持っていた斬魄刀――あれは確かに薫君のものだった。そして、彼の斬魄刀の名は〈波枝垂〉と言うんだ。〈氷華〉じゃない。〈氷華〉は橘昴の斬魄刀の名なんだ」
浮竹が補足すると、真子は目を剝いた。
「なんやそれ⁉ せやったら、あの斬魄刀は本当の名ぁをあの子に教えとらへんだけやなく、使用者にそっくりな死んだ死神と一緒の斬魄刀の名ぁ呼ばしとんのんかいな⁉」
「そういう事になる」
「山じい、こりゃあ明らかに薫クンが何か知ってたんじゃないの?」
真子達が話に付いてきたのを確認すると、総隊長は京楽の問いに答える様に懐から封書を取り出した。
「これは、立花が入隊を願い出るときに提出してきたものじゃ。紹介状と称して厳封してあった。百目鬼からのものとみて間違いないことは確認済みじゃ。浮竹隊長、皆に読み上げてくれるかの」
「はい。
――護廷十三隊総隊長及び隊長の皆さま、御無沙汰しております。
皆々様ご機嫌麗しく過ごされていることを願います。
前置きはこれで失礼させていただきます。
あの戦いの後、私は立花馨という少女とこの五か月の間過ごしておりました。
そしてこの度、彼女は護廷十三隊への入隊を希望しております。
斬拳走鬼に始まる死神の基本は私から彼女に全て叩き込んであります。
霊術院の指導は不要と存じます。
対して、彼女は死神足らんとするために必要なこと以外は殆ど何も知りません。
誠に勝手ながら彼女を預かっていただきたく、こうして筆を執った次第です。
私、百目鬼薫は護廷十三隊に対し、彼女に”特例入隊”を認めて下さるよう嘆願させて頂きます。
贔屓目が多分に在ることは承知しておりますが、彼女の実力は上位席官に勝るとも劣らぬものと存じます。”特例入隊”を得るに足るものと思います。
この手紙が開封されているという事は、私は最早この世から消えているという事、つまり残された彼女は一人になってしまうという事です。
どうか慈悲のあるご判断をお願いいたします。
百目鬼薫――――
以上です」
「それを薫クンが? 随分と急ぎ足で含みのある言い回しだねえ。”
京楽が感想を言った直後、我慢ならないといった風に涅マユリが声を荒げた。
「そんなことはどうでも良いんだヨ! あの男が何を知っていようが、もう死んでしまっているんだろう? 彼女は我が十二番隊が引き受けて調べ尽くしてあげるヨ」
「そうはいかないねえ。彼女は霊圧だけ見るなら三席を降らない実力が有るように見受けられたし、薫クンに彼女を預けられたんだよ? 色々と安全なところに配属してあげなきゃダメなんじゃない? ボクの八番隊とかさ」
「どういう意味だネ⁉ 今私を侮辱したかネ⁉」
「待ってくれ! 彼女を入隊させるなら、十三番隊も受け入れたい!」
マユリと京楽に浮竹が割って行ったところで、総隊長が一喝する。
「静かにせい! 今問うておるのは何処に入隊させるかではない。彼の者にどう対処すべきかである!」
静まり返った室内に、卯ノ花烈の嗜めるような声が通った。
「そう仰いましても総隊長、現状では些か情報が足りなさすぎます。ただの記憶喪失でしたらわたくしたち四番隊にも何かと試すことは出来ましょうが、そういう案件でない可能性が高いのではありませんか。百目鬼さんが寄越した方なら不穏分子となることはないでしょうし、隊を決定して暫く様子を見てみるのが得策だと思います」
「お主の論は良く分かった。他に意見の有る者は
そう言われて、先ほどの三人が手を挙げた。
「まず涅隊長、申してみよ」
「彼女のことを調べるならウチに入隊させるべきですヨ。余計な手間が省けますし、私も自由な発想で検査出来れば汲み取れる情報量も増えますしネ」
「その検査ってのが信用ならないんだよねぇ。貴方一体何回使用不可の薬物を使って厳重注意を受けてる? 馨チャンをそんな危険なところへはやれないなぁ」
失敬な、と怒るマユリに対して京楽はあくまで挑戦的な姿勢を崩さない。
「ボクの八番隊は薫クンが通ってて彼らの事情に理解がある隊員が多いし、副隊長の七緒チャンも薫クンと昴チャン双方と交流が有ったから彼女に有益だと思うよ」
「総隊長、私にも発言の許可を」
「許可する」
総隊長から許可を得て、浮竹も彼女を入隊させるべく発言する。
「十三番隊もまた、あの二人と関りが深かった隊です。特に橘昴は我が隊の隊員でした。彼女のことを知るヒントが有る筈です」
「ちょい待ちぃ」
入ってきたのは真子だ。
「十二番隊もどうか、思うが、八番隊と十三番隊、ほんで五番隊に最初に配属するんは止めた方がええ」
「何故!」
「決まっとるやろ? 馨ちゃんはなぁんも知らんのやぞ? せやのに自分以外は自分のそっくりさんのことを通して自分を見てくる。特に、百目鬼やその橘って死神と親睦深かった隊なんて、無意識にそう見てまう死神がそうでもない隊の何倍も居るねんぞ? 初っ端からそんなん、いくら鍛錬してたかて堪えるやろ」
「しかし「浮竹、ここは真子クンに一理あるよ」――京楽!」
「その論でいくなら、四番隊も辞退した方がよろしいですね」
まだ反論しようとしていた浮竹は、卯ノ花の笑顔に制されて口を噤んだ。
「ウチで面倒見るぜ」
声の主は日番谷冬獅郎――十番隊隊長だった。
十二番隊に決まりかかっていた空気を壊されて、露骨に不機嫌になったマユリが突っかかる。
「フン! 君のところの副隊長は”元”橘昴と友人関係にあったのではなかったのかネ? キミも付き合いがあったのでは?」
「確かに松本は友人だったがそれ程長い付き合いじゃない。俺だって、他の隊長格程度の緩い付き合いしかなかった。ある程度関係者なくらいが丁度良いんじゃないか?」
「他に意見は有るかのう? ――無い様なら、これより決を採る!」
「立花馨、入室せよ!」
「はい!」
馨が部屋の中央に立った。無意識のうちに背筋が伸びるような空気の中で、彼女は存外ゆったりと構えている。
「お主には、十番隊に入隊してもらう。護廷十三隊でのことは今後、そこの日番谷冬獅郎十番隊隊長に訊くがよい。何か今のうちにここで訊いておきたいことは有るかの?」
「ふふッ! ――有りません。何かあれば日番谷隊長に伺わせていただきます。総隊長、有難く拝命させて頂きます」
彼女が頭を下げることでこの会はお開きとなった。
冬獅郎と馨は最後に部屋を出ると、互いに向き合って立った。
「そういうわけで、俺がこれからお前の直属の上司になる。隊内での役職はお前の実力を見てからだな。改めて、日番谷冬獅郎だ。宜しく」
「立花馨です。宜しくお願いします」
何故か嬉しそうな馨に、冬獅郎は眉を顰めた。
「何をにやけてる」
「いえ、師匠のお話に伺っていた通りの方だなと思って嬉しくて」
「百目鬼が? どういう説明したのかも気になるが、お前は一体どこまで聞いてるんだ?」
馨は一瞬考える素振りを見せて言った。
「どこまで、と仰いましても……霊術院という所で習うことは修得済みの筈です」
「そういう意味じゃねえ。百目鬼の過去や人間関係、最近の出来事について何を知ってるかって話だ」
「……師匠はそういうことは一切教えて下さいませんでした。唯一人、貴方を除いては。”お前の上司になる男だろうから”と仰って」
悲しそうに言う馨の最後の言を聞いて冬獅郎の背筋は冷えた。
「――百目鬼は確かに俺がお前の上司になるって言ったのか?」
「はい。師匠の関係者を伺った最初で最後の機会でしたからよく覚えています」
相変わらず癪な男だ、と冬獅郎は思った。
つまり百目鬼は今までの隊首会の流れを読んでいたという事だ。掌の上で踊らされていたと分かって気分を害さない者はない。馨にピンポイントで自分を紹介している時点で、恐らくソレも分かった上での事なのだろう。本当に一々癇に障る。
「……そうか。まあいい。隊舎に帰るついでに色々と紹介する。付いてこい」
「はい!」
馨を連れながら、冬獅郎はざっと建物などの位置を彼女に紹介した。
「そんでここが十番隊正門だ。今日からここがお前の寝床になる。――日番谷だ! 門を開けろ!」
「日番谷隊長! お帰りなさいませ! ――開門!」
冬獅郎たちを隊員が遠巻きに見ている。各々思う所は有るだろうが、今は構っている暇はない。
執務室の前に着くと、彼は勢いよく扉を開けた。
「帰ったぞ! 松本は居るか」
「あ、隊長! お帰んなさい。”特例入隊”のコ、どうでした?」
「ウチに配属されることになった。立花馨だ。実力を見たいから、お前模擬戦してやってくれ」
「了解で~す! その分アタシの仕事やってくださいね」
いつもの調子で仕事を冬獅郎に押し付けてきた乱菊は、冬獅郎の後ろにいる馨を見て目を見開いた。
「昴――?」
「初めまして! ……貴女も”昴”という方をご存知なんですか? 先ほどは師匠の名前で呼ばれたんですけど、僕の顔ってそんなに誰かに似てますか? 僕と師匠はそんなに似ていないと思っていたんですけど……」
”どゆこと?”という風に首を傾げて乱菊が冬獅郎の方を向いた。
「細かいことは後で説明する。取り敢えず仕事が滞る前に立花の実力を見る」
「改めまして、十番隊副隊長、松本乱菊よ。よろしくね」
「立花馨です! 宜しくお願いします」
お互いに斬魄刀を抜いて構える。新入隊員の顔見せもかねて、広場で二人は向かい合った。
「行くわよ!」
乱菊は上段に構えながら刃を振り下ろした。そこそこのスピードだったが、馨はうまく身体をずらし、乱菊の刃を流すように刀を交えた。
金属同士が派手に擦れる音がするが、この分なら馨に殆どダメージは無いだろう。乱菊はそれに動じず、降ろし切った刀を今度は馨の方に横薙ぎに振るった。
馨は再び刀でそれを上方に流しながら低く回し蹴りを入れてきた。瞬歩で乱菊がそれを躱したが、馨も同時に瞬歩を使って距離を詰めてきた。
(速い!)
「破道の一、衝!」
乱菊の鬼道を馨が斬魄刀で弾くタイミングで間合いを取りなおす。
「やるじゃない! 隊長、斬魄刀も解放するんですよね?」
「ああ」
冬獅郎の返事を聞くと、乱菊は刀の柄に近い刃に手を添えた。先端に向かって手で撫でながら、解号を唱える。
「唸れ、〈灰猫〉! ほら、アンタも解放なさい!」
「――凍つくせ、〈氷華〉」
その声に、一瞬乱菊は思考が止まった。これではまるで、本当に昴と戦っているかのようだ。
刹那にそこまで考えて、彼女はそれを頭から追い出した。
〈灰猫〉を、馨を囲むように動かす。
「蛍華!」
馨が空を斬ったところから淡雪の様なものが一気に生じた。それは〈灰猫〉に触れた途端、凍って動きを封じていく。
「〈灰猫〉、戻りなさい!」
封じられていない〈灰猫〉を戻そうとした乱菊の一瞬の隙を馨は見逃さなかった。
「縛道の一、塞」
乱菊の手が刹那強制的に後ろに組まされ、封じられた。その間に瞬歩で乱菊の前に現れた馨は、静かに乱菊の首元に刃を突き付けた。
「そこまで。ご苦労だった、松本、立花」
冬獅郎が武装を解いた二人に歩み寄ると、観戦していた隊員たちの方へ向き直った。
「こいつがウチの新入隊員の立花馨だ! 不慣れなことも多いだろうから、色々と気に掛けてやってくれ。以上だ、邪魔して悪かったな。通常業務に戻ってくれ」
わらわらと隊員たちが戻っていく。冬獅郎は二人に向き直った。
「立花、お前の実力は分かった。三日後、三席が除隊することになっている。お前にはその代わりに入ってもらおうと思う。いけるか」
「はい! 精一杯務めさせていただきます!」
「松本、お前はコイツに仕事の仕方を教えてやってくれ。その代わり、今日は定時で上がって良いぞ」
「はい。ところで隊長……」
松本が何か言い掛けたのを、冬獅郎は制した。
「分かってる。三日後、関係者を集めて話をする場を設ける予定だ。それまでは業務に集中しろ」
「はい……」
無垢な表情なまま首を傾げた馨を見て、乱菊はらしくもなく目を逸らした。
特例入隊のくだりは独自設定です。
転校生が来たよ! みたいなノリです。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
2018/5/12 書式変更しました。