紫苑に誓う   作:みーごれん

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学名:Lavandula
科名:シソ科
大きさ:背丈20~100cm 横幅20~120cm




”私に答えて下さい”





ラベンダー

「開門‼」

 

 穿界門が開かれた。地獄蝶と共に一歩、馨と冬獅郎はその門へ足を踏み入れる。

 

「これが断界! これが拘流! これが地獄蝶! 本物を見られる日が来るなんて……!」

 

 感動している馨に、冬獅郎は冷ややかに言った。

 

「おい、立花。お前俺が一週間前言ったこと忘れてねえだろうな? 遊び気分なら置いていくぞ」

「わ、忘れてません! 大丈夫です!」

 

 慌てて冬獅郎に追いついた馨は気を引き締め直した。これからは未知の世界なのだ。気を張っておくに越したことはない。

 

「出口だ」

 

 唐突に表れた光に飛び込むと、河川敷に二人は降り立った。

 和やかな現世の風景に浮かれかけたのも束の間、すぐ近くに歪んだ気配がした。冬獅郎が背負った斬魄刀に手を掛ける。

 

「早速(ホロウ)が出やがったな。立花、まずは俺が手本を見せる。良く見とけ」

 

 冬獅郎がその気配の方を向くと、以前馨を襲ったようなバケモノ――虚がこちらに向かってきた。凄い勢いだ。

 

「蒼天に坐せ、〈氷輪丸〉!」

 

 冬獅郎は斬魄刀を解放するなり、氷の竜を作って打ち出した。本来は後ろから仮面を割るのだが、虚のスピードが速すぎたせいだろう。

 しかし虚はその竜に当たりながらも躱し、一直線に馨目掛けて突っ込んできた。凍結した腕の一部を強引に引っ張ったがためにそこから折れてしまっている。なのに、悲鳴すら上げない。

 

「何だと⁉」

 

 虚は普通、より霊的濃度の高い魂を求める傾向にある。現在、限定霊印によって制限されているとはいえ斬魄刀を解放して戦闘中の冬獅郎の霊圧が、戦闘外で霊圧を抑えている馨の霊圧を下回っている筈はない。にもかかわらず、虚は冬獅郎には目もくれないで馨に突進してきた。

 

(どうしよう⁉)

 

 今の馨は斬魄刀を構えてもいない。臨戦態勢ではないのだ。冬獅郎の方も、虚の予想外の行動に反応が遅れたせいで間に合いそうにない。

 次の瞬間、自分の視界が一気に真っ暗になった。

 

 

「な、なにこれ……もしかして僕ァ、死んじゃった、のか?」

 

『“死んじゃった?” まさか! アンタはいつまで経っても呑気なもんだね』

 

 声の方を振り返ると、自分にそっくりな、しかし自分と服も髪も白黒反転したような死神が立っていた。

 

「誰…?」

 

『あはは! ”誰”ときたもんだ! 参っちゃうよ。僕はアンタ、アンタは僕。強いていうなら、僕はアンタが落っことしていったモノの集合かな』

 

「よく分からないな。一つだけ分かるのは、僕は今すぐ刀を構えて虚を斬らなきゃいけないってことだ。早く戻らないと」

 

『ここは外とは時間も空間も隔絶されてる。心配しなくていい。しっかし、”虚を斬る”、ねえ? あの程度のモノ、わざわざ斬らなくたって()べちゃえばいいじゃないか』

 

 喰べる…? ああ、()()()()()()()()()()。何で今まで思いつかなかったんだろう。

 

『はあ……その顔、そんな発想忘れてたってこと? 参っちゃうね。仕方ない。今回だけ特別に、僕が力を貸してあげる。さ、僕の手をとって』

 

 やれやれ、という風に肩を竦めながら手を差し出す彼女の手に馨は手を伸ばした。その手と手が触れる寸前、馨の腕が誰かの手に捕まれた。この手は――――

 

 

 

 

 

 

「立花!」

 

 冬獅郎の声で意識が戻った馨は、無意識に伸ばしていた手をキッチリと伸ばした。

 

「縛道の六十一、六杖光牢!」

 

 一瞬虚の動きが止まった隙に、冬獅郎が後ろからその仮面を叩き割った。

 

「良い判断だ、立花。まさか虚があんな行動を取るとは……すまん、臨戦態勢を取っておくよう指示しなかった俺のミスだ」

 

 虚が昇華していくのを見つめながら冬獅郎が言った。

 

「いいえ。常に戦闘する心構えができていませんでした。申し訳ありません!」

「良い返事だ。それに、確かに中々良い手でしたよ、立花サン?」

 

 突然の声に馨が振り返ると、馨と冬獅郎から少し離れたところに緑色の羽織に縞模様の帽子、先の曲がった杖を持った男性が立っていた。

 

「ありがとうございます……? でもあれ、偶々(たまたま)なんです」

「偶々?」

「はい。師匠のことを思い出したら自然と縛道を使ってました」

「ほう? 走馬燈ってやつですか? アタシは見た事有りませんけど」

「走馬燈……にしては何か変でしたけど……あれって自分の過去が見えるようなものですよね? 今回僕が見たのは白黒反転した僕と――師匠の手だったんです。白昼夢でも見てたのかな」

 

 それを聞いた彼は、口元を隠すように扇子を開いた。

 

「……ほう、それはそれは、中々興味深いっスね。アタシ、ここいらで駄菓子屋を営みながら死神の方々のお手伝いをさせてもらってる浦原喜助といいます。以後お見知り置きを♪」

 

 自分に伸ばされた手に返すべきか躊躇していると、冬獅郎が助け舟を出した。

 

「その男は百目鬼の師匠みたいなもんだ。今回、ちょっとした協力を頼んでる。胡散臭い男だろうが、程々に信用して構わねえ」

「日番谷隊長、それはヒドイっスよ~! アタシの評価もうちょっと上がんないもんですかねぇ?」

「無理だな。百目鬼自身が言ってたんだ。アンタほど目的の為なら手段を択ばねえ奴は居ねえってな。信頼しすぎると痛い目見るのは明白だ」

 

 そこまで聞いて、馨は喜助の手を取った。

 

「僕ァ百目鬼薫の弟子の立花馨です。貴方が師匠の師匠なら、僕にとっても同じこと。宜しくお願いします」

「ええ、ええ。伺ってますよぉ! 改めまして宜しく、立花サン」

 

 

 

 

 

 

 

 浦原商店と書かれた看板をくぐり店の地下に潜ると、端が見えないほど広い空間が広がっていた。

 

「ひっ、ひっろォい! 凄い、現世にはこんなことをできる技術があるんですか⁉ 秘密基地みたいでカッコいい‼」

「いや~、立花サンはリアクションが素直で嬉しいっスね! 百目鬼サンも日番谷隊長も顔に出さないヒトなんで」

「お気に召さなくて悪かったな」

 

 一人興奮する馨と、それを見て面白がっている喜助、話を進めたい冬獅郎……はっきり言えば現在カオスだった。

 馨が落ち着いたところで、喜助は本題に切り出した。勿論、本音は隠してだ。

 

「今回日番谷隊長から協力を依頼されたのは、立花サン、貴女の健康状態を綿密に調べる為っス」

「健康状態? それくらい、四番隊でやればいいんじゃないですか」

「百目鬼サンの斬魄刀は特殊っスから。彼もその能力のせいで命を削られてたんスから、念には念を入れておきたいって事です」

 

 それを聞いて馨が青褪めている。冬獅郎の言う通り、彼女は薫に何も聞かされていないらしい。変に緊張されないよう、喜助は笑顔になった。

 

「そういうわけで、まず貴女にはこの転身体に斬魄刀を突き立てていただいて、その間に貴女自身の検査に入ります」

「何故斬魄刀を突き立てるんですか? それも何かの計測器とかなんですか」

 

 喜助はにっこりと笑った。彼女はそれを肯定と捉えたらしい。

 

「分かりました。これでいいですか?」

 

 深々と斬魄刀が刺さっているのを確認した喜助は、いそいそと彼女をその場から離した。

 彼女の状態を調べる、薫の斬魄刀は特殊、彼の健康に害をなしていた――それらは間違いなく事実だ。人を騙す時は、こういう真実を混ぜながら行うものだ。

 

 転身体の説明を喜助は明示していない。馨には悪いが、斬魄刀〈波枝垂〉と馨を引き離すにはこれが一番手っ取り早いと喜助は冬獅郎に提案した。

 

 そんなことだから、いつまで経っても冬獅郎から信用を勝ち取れていないわけなのだが……

 

 

 

 

 

 

 

『馨様! お待ちください‼』

 

「縛道の六十一、六杖光牢」 「縛道の六十三、鎖条鎖縛」

 

 馨を追おうとした彼女の斬魄刀は、無情にも隊長格の縛道によって動きを封じられてしまった。

 

『日番谷様……それにもうお一方いらっしゃいますね? これは……京楽様』

 

「大正解~! やっぱりバレちゃったねぇ。流石は薫クンの斬魄刀だ。今はもう、”元”だけどね」

 

 彼女が不快そうに京楽を見た。京楽は自分に張っていた曲光を解きながら、彼女に近づいて行く。

 

「いや~、美人さんだねえ!〈波枝垂〉チャン」

 

『お褒めに預かり光栄ですけれど、こうやって縛られていては不快なだけですわ。解いてくださいませんか』

 

「君が正直に色々と話してくれたらね。いやあ、でも案外あっさり君が自分の名前を認めてくれるなんて、驚いたよ」

 

 京楽は彼女を〈波枝垂〉と呼んだ。彼女はそれを否定せずに返してきている。これは、自分が馨に名を偽っていることを暗に認めたことになる。

 

『京楽様は搦め手がお得意の御様子ですから。下手に抵抗は致しません』

 

「それは助かるねえ! そんじゃぁ下手な前置きは無しでいこうか。薫クンは馨チャンの何を知ってたんだい?」

 

『……全てを』

 

「へえ、こりゃまた大きく出たね! 具体的には?」

 

『……………』

 

「だんまりかい? じゃあ、薫クンは何で君に〈氷華〉の名を騙らせているんだい」

 

『馨様に必要なことなのです。わたくしの力は大きすぎる。あの方が使ってはならないのです』

 

「確かに、君の力を扱うにはまだまだ馨チャンは未熟だ。でも何だか君の感じを見てると、ちょっと違うのかな?」

 

『……半分、とだけ申し上げておきます』

 

「成程? ところで薫クンは確かに亡くなったんだよね?」

 

『……もう、生きてはいらっしゃいません』

 

「ふうん……ねえ、〈波枝垂〉チャンさ、こっちが訊いといてなんなんだけど、何でこんなにあっさり話してくれたの?」

 

『わたくし自身、どうすれば良いのか分からなくなってしまっているからかもしれません。あの方のためにどうすればいいのか、分からないのです』

 

「そっか、こんなやり方をして悪かったね。日番谷隊長、もういいよ」

「分かった」

 

 彼女を縛っていた光が弾けた。彼女は少し乱れた着物を正し、凛と立っていた。その立ち居姿とは裏腹に、その表情は晴れないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備するからここで待っていろと喜助に言われて五分、辺りを見ていると、馨にはどれもこれも面白そうなものばかりだった。

 奥を覗くと、うっすら光る刀が置いてあった。よく見ると刃が付いていない。

 

「触らないで」

 

 馨はその声の鋭さに驚いて伸ばしていた手を引っ込めた。喜助はずかずかとその刀の前に移動すると、布をかけて隠してしまった。

 

「勝手に色々触っちゃあ駄目じゃないっスか。ここはアタシの城っスよ? 勝手に触り回られたら、命の保証は出来かねます。分かりましたね?」

「は、はい……すみません」

 

 そのまま案内された部屋に行くと、寝台が一つと様々な計器が置いてあった。

 寝台に寝かされ、色々と体に取り付けられていく。

 

「立花サン、これから一時間ほどお待ちいただくことになるんで、何かあったら呼んでください。なるべく動かないでいただきたいんで」

「分かりました」

 

 一時間もあるなら、と馨は瞳を閉じた。昨日は結局興奮して寝不足気味だったから、あっさりと意識が沈んでいく感覚があった。

 

 

 

 

 

 

 沈んだ先には、以前見た夢のように暗闇が広がっていた。

 以前と違うのは、すぐ目の前に二人も人物がいたという事だ。

 一人はついさっき自分に話しかけてきた馨のそっくりさん。もう一人は――――

 

「何で師匠がまたここに?」

 

 その声に、二人は同時に反応した。どうやら声も出せるし、向こうにも聞こえているようだ。

 

「さっき見た白昼夢の続きかな? なんか最近疲れてるのか、同じ夢ばかり見ているような……」

 

『呑気な事言ってないで、さっさとこの男を倒すのを手伝えよな。いつまで忘れたままでいるつもりだ、アンタは』

 

「忘れたまま? 何だよ、それ……というか、何で君は師匠と戦ってるんだ?」

 

 よく見ると、彼女はボロボロだ。師匠もまた怪我を負っているが、彼女に比べれば大したことはない。

 

『”何で?” 参っちゃうね。アンタがしっかりしないから、戦うなんて無様な真似をしなくちゃいけなくなってるんだろう? 自分が一体何なのか、さっさと思い出せよ。さもないと――ッ! しまっ――』

 

 彼女に六杖光牢が突き立てられた。動けない彼女に、師匠が容赦なく斬魄刀を振り下ろそうとした。驚いて、馨がそこに割って入る。

 間一髪、という所で師匠は刀を止めた。

 

「師匠! 何でこんなことを⁉ 何か御存知なら教えて下さい!」

 

 師匠はそれには答えず、一気に後ろに飛びのいた。彼が立っていた場所に蒼火墜が焦げ跡を残して爆散した。後ろでは彼の六杖光牢を力ずくで破った彼女が、息を切らして立っている。

 

『くそっ! 支配権を奪われるわけにはいかないんだっ! アンタがあの時僕の手を取っていればこんな面倒は無かったっていうのに……』

 

 彼女の声が、姿が、遠のいていく。

 

(待って! 僕ァ何を思い出せばいいんだ? 君は一体誰なんだ⁉)

 

 声はもう届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「浦原、入っても良いか」

「日番谷サン! どうぞ、お入りください」

「僕も失礼するよぉ!」

 

 冬獅郎が馨の斬魄刀を、京楽が転身体をもって戻ってきた。

 

「案外すぐに片がついたみたいっスね」

「そうだねえ。ヒントを沢山くれたって感じかな。喜助クンにも後で相談していいかい?」

「勿論! こっちも中々面白いことになってますよ」

 

 先程から計器が何かの結果を吐き出し続けている。数値の時もあれば波形の様なものもあり、素人が見ても良く分からなかった。

 

「例えばホラ、これを見て下さい」

 

 それは波形が描かれているものだったが、波の大小はバラバラで規則性が無い。冬獅郎と京楽からすれば何がどう凄いのかさっぱりだ。それは喜助も分かっているようで、説明を付け足していく。

 

「これは立花サンの霊紋っス。霊紋ってのは、霊的濃度の高い者が放つエネルギー変化のパターン、分かりやすく言うならお二方も普段感じていらっしゃるような霊圧の感触の特色を視覚的に表現したモノっス。霊圧で個人を特定できるのは、この霊紋があるせいなんですが、こんなパターンは初めて見ます」

「具体的にどう初めてなの?」

「そうですねえ、じゃ、こちらを比較してみてください」

 

 そうやって提示されたデータの方には、特徴的ではあるが波の綺麗な繰り返しが続いていた。

 

「これは一般的な霊紋です。繰り返す波形に個人差があるだけで、基本こんな風に比較的短い周期で繰り返すもんなんです。それが彼女には無い」

「周期性が無いとどうなの?」

「どう、といわれましても前例が有りませんので何とも言えませんが、これに似た現象は見たことがあります。それは――”虚化”っス」

「「⁉」」

 

 予想だにしていなかった単語で、二人は動揺した。

 

「これほど長い間霊紋がブレたのを見たことがありませんが、平子隊長たちの虚化でその波形が変化する際乱れてこんな風になることがあったんス。そして面白いことに――」

 

 喜助が資料をもう一枚引っ張ってきた。コレもまた波形が描かれているが、所々その曲線の色が紅くなっている。

 

「この紅い部分、コレ、虚の霊圧のパターンなんスよ」

「つまり、ほぼ馨チャンが虚化するのは確定って事かい?」

「そうとも言えないんス。虚化の際、死神と虚、二つの霊圧は時間が経過するごとに混ざり合って安定するもんなんですが、そういった兆候もない。ただ、さっき彼女言ってましたよね? ”自身と白黒反転した自分を夢で見た”と。これは、黒崎サンを含む僕の知る全ての虚化した死神が経験している事象と酷似してます」

「虚化してるかどうかを手早く確かめる方法はないか」

 

 冬獅郎は身を乗り出した。もしそれが本当なら、スペシャリストといる間に対処しておきたい、という意図だ。

 

「有るには有るっスけど、立花サンの同意の下やらないとダメなんですが、いいですかね?」

「ああ。背に腹は代えられねえ」

 

 

 

 

 

 

「虚化、ですか?」

 

 目が覚めた馨に、喜助らは彼女の虚化の可能性を出してきた。それを調べたいが、同意がいる方法らしい。

 

「ハイ! 言いにくいんですが、もし貴女が虚化していたりその最中だった場合に、軽く虚に体を乗っ取られる反応を示すようなものです。勿論その場合も貴女の安全は保障します」

「ソレ、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 冬獅郎は心配そうだが、それしか方法が無いなら仕方がない。

 

「分かりました。調べていただけますか」

「そう来なくちゃ! 了解っス! 鉄斎サ~ン」

「御意」

 

 喜助の後ろに立っていた三つ編みに眼鏡でガタイのいい男性が、少し馨から離れて胡坐をかいて座った。

 喜助の方は馨の顔の前に掌を向けた。何かつぶやいているが、よく聞こえない。

 そこまで思ったところで、馨の意識は飛んだ。

 

 

 

 力なく倒れた馨を地面に寝かせた喜助は、すぐさま彼女から離れた。

 鉄斎の隣に行くと、彼は詠唱を始めた。

 

「鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し―――縛道の七十五、五柱鉄貫‼」

 

 空中から現れた五本の石柱が馨の五体を封じた瞬間、彼女の霊圧が跳ね上がった。

 その上昇率は、虚化とは思えない程急激なものだ。

 しかし彼女の顔面には――虚の仮面が形成されていた。

 

(これで虚化しているのはほぼ確定っスね……――っ⁉)

 

 次の瞬間、信じられない事が起こった。形成されつつあった仮面が急に割れて消えたかと思うと、全く別の模様、別の形の仮面が出現したのだ。それも、一度や二度ではなかった。

 

「ア、 アアアアアアア!!!」

 

 五柱鉄貫から逃れようとする彼女の悲鳴が聞こえるが、喜助にはそれどころではなかった。既に七つ目の仮面だ。一体幾つ変化す――

 

「喜助クン、これっていつまでやるんだい⁉」

 

 京楽の声で我に返った喜助は、急いで虚を眠らせる詠唱を唱えた。

 それが終わると同時に馨は再び力なく横たわる。冬獅郎も京楽も、彼女に目を向けがたいという表情だ。

 

「浦原、虚化ってのはあんなにコロコロ仮面が変わるもんなのか」

「いいえ。虚化する度に少しずつということは有っても、一回であそこまで急激に変化するなんて有り得ません」

「じゃあ、今のは一体何だったんだい?」

「分かりません。彼女に何が起きているのか……」

 

 静まり返った中、先程まであれ程絶叫していた馨の安らかな寝息がやけに大きく聞こえていた―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸騒ぎがして、彼は過去の研究資料を漁っていた。

 山積みになった紙の束からやっとのことで分厚い束を抜き出す。

 最早見飽きたこの表紙は、思い返せば既に三ヶ月以上見てすらいなかった。

 カサリ、と乾いた音を立てながら彼はページを繰っていった。

 

(確証はない。しかし、この仮説が正しいとすると……)

 

 冷や汗が頬を伝う。そう低くない筈の気温でこうも身体が冷えるのは、いつぶりだろうか?

 

「百目鬼サン、まさか貴方―――――」

 

 思わず零れた言葉を、その部屋の闇は吸い込んで溶かしてしまった。

 

 

 

 

 




自分で書いていて、分かりにくいのを痛感しています。
「え、ちょっとココよく分かんない」ってところがありましたら教えて下さい。出来る限り直します……

次回はもっとややこしいことになります……
申し訳ないです。

ちなみに、途中に出てきた”刃の付いていない刀”は死神代行消失篇のアレです。出してみたかっただけなのでお気になさらず読み飛ばしてください。

お目汚し失礼しました。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
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